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2019年1月18日 (金)

当歳馬の昼夜放牧に向けて

No.33 (2011年6月1日号)

 1年で最も忙しい出産および交配シーズンも終盤にさしかかり、一息つく間もなく1番牧草の収穫時期を迎えようとしています。5月に入ると雨が降っても気温が極端に下がることもなく、この時期から昼夜放牧を開始する方々も多いのではないでしょうか?昼放牧から昼夜放牧へと飼養管理方法を変化させることは、馬の健康状態や成長に大きな影響を与えます。特に、成長期にある当歳馬にとって、この変化は大きな意味を持ちます。今号では当歳馬の放牧管理、特に昼夜放牧実施にあたってのポイントについて紹介します。

昼夜放牧実施のポイント
 放牧の目的としては、主に「体力の養成」「栄養供給」「群れへの順応」が挙げられます。

 「体力」といっても様々な指標がありますが、「骨」や「屈腱線維」に関しては、放牧群と非放牧群との比較による調査において、放牧群の方が強化されるという結果が示すように、放牧によって馬を鍛えること、つまり「体力を養成」させるという効果があります。当歳時の自由運動、つまり仲間と遊びながら、走り回り、飛び跳ねるなどの適度な運動負荷は、骨や腱・靭帯に刺激が加わり、それらの組織を成長させ、競走馬として不可欠な筋骨格系を発達させる効果が期待されます。
 「放牧地」と聞いて真っ先に想像されるのは、馬の主食である「青草」の摂取による「栄養供給の場所」ではないでしょうか?良質の放牧地には、適切な発育に欠くことのできない栄養およびミネラルバランスを満たしている牧草が生育しています。昼夜放牧開始後は1日の大半を放牧地で過ごすために、良質の青草を摂取することは、草食動物である馬にとって、何よりも重要であることはいうまでもありません。
 「群れへの順応」も競走馬として非常に重要な要素になります。高い走能力を有していても、レース中に馬群の中で受けるストレスによって十分にその能力を発揮できないことも少なくありません。この群れへの順応は、多頭数での放牧によって養成が期待されます。

1_4 放牧の目的は「体力養成」「栄養供給」「群れへの順応」である。


昼夜放牧の利点
 昼放牧のみでは、朝から夕方まで長くても10~12時間程度の放牧時間にとどまります。一方、昼夜放牧を実施することによって、放牧時間を22時間にまで延長することが可能となります。シェルターのような避難小屋のある放牧地では、24時間放牧も可能になります。また、大きな木は雨を避けることができ、さらに日陰を生みだすために、シェルターの代わりになります。昼夜放牧は馬にとって自然に近い状態でもあり、昼放牧よりも青草を十分に摂取することができ、さらに移動距離を約2倍に増加させることができるため(図1)、非常に有用です。
 このように、昼夜放牧は前述の放牧の目的を最大限に満たすことができます。昼夜放牧された馬は、十分な運動と栄養価の高い青草を摂取することによって、競走馬として不可欠な基礎体力が養成されます。

2_3 図1.昼放牧と昼夜放牧における当歳馬の移動距離の比較


昼夜放牧の実施に際しての注意点
 放牧前の子馬の検温は体調を把握する上で重要であり、体調によっては放牧を控える必要があります。体調に異常を認めない場合には、夏期の多少の雨は気にすることなく、昼夜放牧が可能です。夜間放牧に慣れていない馬だけで放牧すると、野生動物や、車などの人工的な音によって馬が驚き、ケガの原因となることも少なくありません。そのようなトラブルを避けるためにも、親子の昼夜放牧を実施する場合には、母馬はそれ以前に夜間放牧を経験し、十分に落ち着いている必要があります。昼夜放牧に必要な放牧地の広さは、親子1組に対して1ヘクタールとされています。気候に関しては、雨よりも夏期の炎天下での放牧に気を付けなければなりません。特に、日陰のない放牧地では、日中の炎天下の放牧は控えたほうが良いでしょう。また、アブなどの吸血昆虫の発生時にも馬へのストレスは大きいので注意が必要です。
 日高地方においては、1年間のうち7~8ヶ月間は、効果的な昼夜放牧が可能であると考えられます。放牧地が雪で覆われる厳冬期には、放牧地での移動距離は大幅に減少するために、「体力の養成」という意味での放牧はあまり意味がないものとなってしまいます。そのために、冬期に十分量の常歩を課すには、ウォーキングマシンの利用が有効な方法となります。


当歳馬はいつから昼夜放牧を開始するべきか?
 心身ともに充実した競走馬をつくるために、肉体的および精神的に「鍛える」という言葉をよく耳にします。昼夜放牧を行う目的も「労力および経費の削減」と同じくらい「馬を鍛える」ためと考えられています。一方、出生直後は非常に虚弱な当歳馬をいつから昼夜放牧を開始し、鍛えるべきかという疑問も残っています。
 子馬は2~3ヶ月齢までは、十分量の免疫を産生することはできないために、成馬と比べて十分な抵抗力を有していません。また、2ヶ月齢未満では、大きな放牧地での長時間放牧によってDOD発症の可能性が高くなるという報告もあります。これは、骨の発達は胎子期にあたる出生3ヶ月前から盛んであるのに対して、筋肉の発達は生後2ヶ月齢以降から盛んになるという報告(図2)に裏付けられます。また、我々の調査でも、成馬では屈腱よりも小さな繋靭帯が、6ヶ月齢ごろまでは屈腱が未発達なため繋靭帯の方が大きく、特に3ヶ月齢までの子馬にこの傾向が顕著であるという結果が得られたことから、筋肉の発達が盛んになる前の2~3ヶ月齢までの子馬は、体重こそ軽いものの骨や靭帯にかかる負担は成馬以上であることも一因と考えられます。つまり、この時期は肉体的に未成熟と捉えるべきなのかもしれません。また、1~3ヶ月齢時には繋が起ちやすく、さらにクラブフットが発症しやすいということも、これらの骨、筋肉、腱および靭帯の発達のバランスと関連があるのかもしれません。

3図2.骨と筋肉の発達の盛んな時期は異なる

 一方、放牧地での移動距離という観点から見ると、図1に示すように昼放牧と昼夜放牧との違いはあるものの、3ヶ月齢以降に移動距離が増加していることが分かります。
以上のことから2~3ヶ月齢までの子馬は、成馬と比べて十分な抵抗力および体力を有していないために、早くても1.5ヶ月齢が過ぎた頃から、子馬の状態によっては3ヶ月齢以降に昼夜放牧を開始した方が良い場合もあります。

 今後も、「強い馬づくり」に役立つように、さらなる調査・研究を行っていきたいと思っています。

(日高育成牧場 専門役 頃末憲治)

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