« 良い馬は良い放牧地から | メイン | 馬の感染症と消毒について »

2019年2月 1日 (金)

草地土壌と牧草分析のすすめ

No.38 (2011年8月15日号)

 1番牧草の収穫も終わり、2番牧草や草地更新の準備、暑さや放牧圧により疲弊した放牧地の維持管理などが気になる季節になりました。前回の記事では、アメリカの草地コンサルタントであるロジャー・アルマン先生の講演内容を紹介しましたが、今回はBTCで行なっている牧草と草地土壌の分析事業における成績をもとに、適切な草地管理を施すために必要な土と草の成分に関する話題を紹介いたします。

土壌の性質を知る
 日高山脈の西側に位置する日高地区には、海洋下で堆積した土壌が隆起した洪積土、河川により浸食・堆積した沖積土、過去に堆積した火山灰に由来する火山性土、湿地帯由来の泥炭土など多種多様な土壌が分布しています。なかでも、火山性土は日高管内草地面積の70%、黒ボク土は同じく58%を占めています。しかし、同じ火山性土に属する土壌であっても、日高中~東部地区に多く分布する黒ボク土と日高西部~胆振地区に多く分布する粗粒火山性土ではその性質も異なります(表1)。馬に適した牧草を生産するための施肥管理を行う前に、まず草地の土台となっている土壌の性質を知る必要があります。

1_3

優先すべき土壌改良のポイント
 前回の記事でも紹介したとおり、馬に適した草地は「バランスのとれた栄養の供給地」であって、単に「効率的な体重増加を可能にする」ところであってはなりません。このことを突きつめると、ミネラルバランスがとれた嗜好性の良い牧草を供給する草地こそ馬に適した草地といえます。こうした牧草生産を目的とした草地土壌の改良において、根による土壌中ミネラルの活発な吸収を実現するために、土壌酸度(pH)を6.5前後(先週紹介したアルマン先生は6.2~6.8を奨めている)とすることがまず重要です。酸性土壌を適正なpHに矯正するためには石灰資材を施用しますが、土壌の種類や成分によって施用量が異なることがあるので、定期的な土壌成分検査とそれに基づいた施肥診断が奨められます。これによって、土壌改良の効果も確認することができます。
 日高の草地土壌pHは、図1に示すとおり、5未満から7程度まで広く分布しています。ミネラルバランスが良好な牧草生産のために、まずは土壌pHを適正に維持することが重要です。

2_3 図1 放牧地土壌pHの度数分布(1996年~2010年に分析された4318点の土壌サンプル分析成績より:縦軸はサンプル度数)

放牧草のミネラルバランス
 運動量とともに、放牧草採食量が増加する昼夜放牧の実施率が近年増加しているようです。放牧草のミネラルバランスがアンバランスなものであればあるほど、昼夜放牧によって摂取するミネラルが不適切なものとなってしまいます。ミネラルバランスの重要な指標のひとつに、カルシウム・リン比(牧草中にカルシウムがリンの何倍含まれているかを示す値:イネ科牧草の目標値は1.3程度だが、馬の飼料全体ではカルシウムはリンの1.5~2倍程度必要)があります。この値は、草種や草地管理方法にも影響を受けますが、季節によっても大きく変動することが示されています。1998年から2009年に分析された1200点以上の放牧草のカルシウム・リン比を採材月ごとに平均して比較すると、5月から6月にかけて大きく上昇しますが、最大値でようやく1.5に達している程度です(図2)。こうした変動の様子は、個々の放牧地で異なるので、それぞれの放牧地の特性を把握し、厩舎内でカルシウムの補給に心がけるなど飼養管理に反映させる必要があります。

3_3 図2 放牧草のカルシウム・リン比(Ca/P)の季節変動

ケンタッキーブルーグラス主体の放牧地
 ケンタッキーブルーグラスは地下茎で増殖し地表にマット層を形成するため、蹄傷にもよく耐え馬の肢蹄にも優しい放牧地向きの草種です。一方、初期生育が緩慢で、根が定着し放牧利用できるまで掃除刈りの回数を多く必要とするなど造成には手間のかかる草種でもあります。また、施肥管理においては、日高地区で一般的なチモシーに比べ施肥量を多く必要とします。とくに窒素は植生を決定する重要な成分で、チモシー主体の放牧地で推奨される肥料中の窒素:リン酸:カリの標準年間施用量(kg/10a)が6:5:5であるのに対し、ケンタッキーブルーグラスでは10:8:8となります。これらを、年間3~4回に分けて、春は少な目に、暑さや放牧圧で疲弊する夏以降には重点的に施すことがよいとされています。より適切な施肥とするためには、土壌分析に基づいた施肥設計が望まれます。

輸入牧草の栄養価
 放牧地面積を拡大するために採草地を放牧地として利用する場合や採草地を持たない育成場では輸入牧草等に頼らざるを得ないケースも見受けられます。しかし、色合いや嗜好性が良いからといって、ミネラルバランスも良好であるとは限りません。輸入牧草の栄養価について調査した成績(表2)によると、チモシー乾草では、日高地区生産のものに比べタンパク質で低く、カルシウムなどのミネラル含有率は同程度であり、必ずしも輸入チモシー乾草のミネラルバランスなどの栄養価は高くないといえます。一方、輸入アルファルファ乾草は、タンパク質やカルシウムが高いマメ科牧草の特質をよく示し、銅や亜鉛もチモシー乾草より明らかに高いことが確認されています。したがって、牧草を含めた飼料中のミネラルバランスの改善には輸入アルファルファ乾草の利用は有効であると考えられます。なお、輸入牧草には様々な等級が設定されていますが、これらと栄養価との関連は明確ではありませんでした。

4_3
 皆さんも、良い土、良い草から丈夫で強い馬をつくるために、土壌と牧草の成分分析を活用されてはいかがでしょう。BTCで実施している分析事業については、BTC日高事業所あるいは農業改良普及センターにお問い合わせください。

(日高育成牧場 専門役  頃末憲治)
(現馬事部 生産育成対策室 主査  土屋 武)

コメント

この記事へのコメントは終了しました。