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2019年3月29日 (金)

当歳馬の種子骨骨折について

No.59 (2012年7月15日号)

 出産から種付けにいたる繁殖に関わる仕事もひと段落したかと思えば、乾草収穫や1歳馬のせりが始まり、あわただしいイベントが続く時期となりました。今回は、日高育成牧場の生産馬(以下ホームブレッド)を使って調査している「当歳馬の近位種子骨骨折の発症に関する調査」の概要について紹介いたします。

当歳馬の近位種子骨発症状況
 日高育成牧場では、生産馬を活用して、発育に伴う各所見の変化が競走期でのパフォーマンスに及ぼす影響等について調査しています。そのなかで、クラブフット等のDOD(発育期整形外科的疾患)の原因を調査するため、X線による肢軸の定期検査を行っていたところ(写真1)、生後4週齢前後の子馬に、しばしば臨床症状を伴わずに前肢の近位種子骨の骨折が発症していることを発見しました。そこで、子馬におけるこのような近位種子骨々折の発症状況について明らかにするため、飼養環境の異なる複数の生産牧場における本疾患の発症率およびその治癒経過について調査しました。また、ホームブレッドについては、発症時期を特定するため、X線検査の結果を詳細に分析しました。
 まず、日高育成牧場および日高管内の4件の生産牧場の当歳馬42頭を対象として、両前肢の近位種子骨のX線検査を実施し、骨折の発症率、発症部位および発症時期について解析しました。骨折を発症していた馬については、治癒を確認するまで追跡調査を実施しました。次に、ホームブレッド8頭については、両前肢のX線肢軸検査を生後1日目から4週齢までは毎週、その後は隔週実施し、近位種子骨々折の発症時期について検討しました。

1_4 写真1 当歳馬のレントゲン撮影風景

種子骨骨折の発症率と特徴
 調査の結果、近位種子骨々折の発症は35.7%の当歳馬(15/42)に認められました。全てApical型と呼ばれる尖端部の骨折でした(写真2)。骨折の発症部位については、左右差は認められませんでした。また、近位種子骨は内側と外側に2つありますが、外側の種子骨に発症が多い傾向がありました。しかし、統計学的な有意差は認められませんでした。
/ 世界的に見ても、当歳馬の近位種子骨々折に関する過去の報告は非常に少なく、5週齢までの子馬に臨床症状を伴わない近位種子骨々折が高率に発症していることが今回の調査で初めて明らかとなりました。また、今回の調査では、全てApical型と呼ばれる尖端部の骨折でした。成馬においてもApical型の骨折が最も多く、繋靱帯脚から過剰な負荷を受けることによって骨の上部に障害が生じることが原因とされています。我々は別の調査で、生後5ヶ月までの子馬の腱および靱帯は成馬とは異なるバランスであることを見出しました。現在のところ、この子馬特有の腱および靱帯のバランスが種子骨尖端部のみに力がかかりやすい状態なのではないかと考えています。

2_5 写真2 5週齢の子馬に認められた近位種子骨骨折(左:正面から、右:横から、丸印が骨折部位)

発症と放牧地との関連
 牧場別の発症率は、0%(0/6)から71.4%(5/7)と大きく異なっていました(表1)。興味深いことに、放牧地が「傾斜地」の牧場では発症がありませんでした。また、発症時期については、発症馬の約8割は5週齢までに骨折が確認されました。ホームブレッドの骨折発症馬3頭についてX線検査の結果の詳細な解析を行ったところ、骨折は3~4週齢で発症していました。
 牧場ごとに発症率が大きく異なっており、特に放牧地が「傾斜地」の牧場では発症がなかったこと、また、ホームブレッド3頭の骨折発症時期は、広い放牧地への放牧を開始した時期と重なっており、この時期、母馬に追随して走り回っている様子が観察されたことから、子馬の近位種子骨々折の発症には、子馬の走り回る行動が要因となっていると考えられました。今後は、特に3ヶ月齢未満の新生子馬の放牧管理をどのようにするのがベストかを検討していきたいと思います。

3_4表1 牧場別の発症率

予後
 ほとんどの症例は骨折の発症を確認してから4週間後の追跡調査で骨折線の消失を確認できました。しかし、運動制限を実施していない場合は治癒が遅れる傾向があり、種子骨辺縁の粗造感が残存する例や、別の部位で骨折を発症する例も認められました。
 今回の調査では、全ての症例で骨折の癒合が確認でき予後は良かったと言えますが、疼痛による負重の変化も考えられるため、今後は、クラブフットなど他のDODとの関連について検討したいと思います。

まとめと今後の展開
 5週齢までの幼駒に臨床症状を伴わない尖端型の近位種子骨々折が高率に発症していることが今回初めて明らかになりました。広い放牧地で母馬に追随して走ることが発症要因のひとつとして考えられました。今後は、今回の調査で認められた骨折がなぜこのように高率に発症しているのか、成馬の病態と異なっているのかどうか、などを調べるため、さらに詳細な検査を実施するとともに、今回調査しなかった後肢についてもデータを集めていく予定です。

(日高育成牧場業務課 診療防疫係長 遠藤祥郎)

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