« 当歳馬の種子骨骨折について | メイン | 育成馬における飛節の検査所見と競走期パフォーマンス »

2019年4月 1日 (月)

コンフォメーションとパフォーマンス

No.60 (2012年8月1日号)

 「コンフォメーション(conformation)」とは、馬の外貌から判別することができる骨格構造、身体パーツの長さ、大きさ、形状やバランスのことをいい、「相馬」とほぼ同義語といえます。コンフォメーションがよい、すなわち力学的に無駄がない骨格構造をしている馬は、理論上、速く走ることが可能です。コンフォメーションの良い馬は、人が騎乗した場合も無理な緊張がかからず、馬自身がバランスを保ちやすいことから、コンフォメーションが悪い馬よりも乗りやすいといわれています。また、コンフォメーションが良い馬は、運動器疾患の発症も少ないと考えられます。したがって、せり市場では誰もがコンフォメーションの良い馬を理想として求めています。一方、コンフォメーションに欠点のない馬が競走成績も素晴らしいか?というと必ずしもそうとはいえません。サラブレッドは、血統、気性、敏捷性など、コンフォメーションのみでは判断しにくい要素も競馬での能力発揮に大きく関わっています。極端な言い方をすると、肢がまっすぐで凡庸な馬がいいのか、欠点があっても走る馬がいいのかというと、後者が正しいといわざるを得ないのが、結果がすべてである競走馬です。
 しかし、馬を評価するためにはコンフォメーションの知識は必要です。また、コンフォメーションの異常は、特定の疾病の発症しやすさと関連もあるといわれていますが、その詳細については明らかではありません。今回はJRAがこれまで1歳市場購買検査時に実施してきた四肢のコンフォメーション調査の成績(現在も継続して調査中)を中心に基礎知識を紹介いたします。

コンフォメーション調査
 2009~10年に開催されたサラブレッド1歳市場(セレクトセール、セレクションセール、サマーセール)の上場馬のうち、1,984頭を対象として18項目にわたるコンフォメーションについて、グレードの高さ(グレードが高いほうが正常から逸脱している)を調査しました。調査項目を表1に示します。なお、軽度のグレードについては、多くが競走馬として問題ないことがわかっているため抽出せず、グレードの高いもののみを抽出しました。なお、グレードの高い項目が複数認められた馬については、よりグレードの高い項目を採用しました。1項目以上のグレードが高い馬については、市場取引成績、2歳時の競走パフォーマンス(成績および運動器疾患の発生状況)との関連を調べました。
 調査の結果を表2に示します。検査頭数の7.5%にあたる149頭(抽出馬)が、コンフォメーショングレードが高い馬として抽出されました。なかでも、オフセットニー(図1、43頭 2.17%)および凹膝(図2、29頭 1.46% )などの前肢に関する異常が多く観察されました。

1_5 図1 オフセットニー

2_6 図2 凹膝        

イギリスとアイルランドにおける1歳市場の上場馬を対象とした調査においては、外向、内向および起繋が高い発生率(30.1%,19.4 %および18.7%)を示し、アメリカの調査では、前肢の腕節および球節に限定すると、オフセットニー(66~68%)や腕節の外向(46~56%)の発生率が高いことが報告されています。今回の調査と比較して、他国の報告は高い値を示していますが、これは、我々が実施した調査においては、コンフォメーショングレードが高い馬のみを抽出する手法を採用していることが要因です。たとえば、クラブフットの発症率は当歳馬の実態調査で報告されている16%と比較すると、1歳馬を対象とした本調査での0.2%は著しく低い値になっていますが、調査方法の相違に加え、発症後の装蹄療法の効果が背景にあるものと考えられます。

調査結果
 抽出馬と対照馬について、セリ市場における売却率および平均売却価格を比較検討したところ、抽出馬の売却率(43.6%)および平均売却価格(8,939,538円)は、対照群の売却率(54.3%)および平均売却価格(10,467,220円)に比べて統計的に有意に低いことがわかりました。つまり、市場において、コンフォメーショングレードの高さは売却率や売却価格に影響を及ぼしているものといえます。
 競走年齢に達した検査対象馬937頭(抽出馬149頭、対照馬788頭)のうち、604頭(抽出馬51頭、対照馬553頭)が競走馬として中央競馬に登録され、466頭が中央競馬の競走に出走しました。中央競馬に競走馬登録された604頭について、2歳時の競走成績(出走率、初出走までの日数、勝ち上がり率、入着率、平均勝利回数、平均出走回数、平均獲得賞金)を調査したところ、抽出馬と対照馬との間に統計的な差は認められませんでした。なお、3歳以降についての成績については現在調査中です。
 中央競馬への登録率を比較した場合、対照馬(553/788、70.2%)に対し、抽出馬は(51/149、34.2%)は低値を示しました。この要因として、購買関係者による低評価、もしくは中央競馬への出走が困難となる疾患の発症などが考えられますが、本調査においては、その原因を特定することができていません。
 中央競馬に在籍した604頭の馬について、運動器疾患の発症歴を調査したところ、抽出馬においては、35.3%にあたる18頭に、対照馬においては、29.8%にあたる165頭に、骨折、骨膜炎および屈腱炎等の運動器疾患の発症が確認されました。しかし、今回の調査においては、各項目と発症した運動器疾患との間に統計的な差は認められませんでした。
 今後も継続して調査しデータ数を増やすとともに、コンフォメーション異常と疾病発症の関連について調査をしていく予定です。その関連を明らかにすることによって、疾病発症のリスクを軽減した飼養・調教管理技術の向上に寄与できるのではと期待しています。

表 1 おもなコンフォメーション

表2 各コンフォメーションと2歳時の競走パフォーマンス table12.xlsxをダウンロード

(日高育成牧場 業務課長 石丸 睦樹)

コメント

この記事へのコメントは終了しました。