JRA育成馬を活用した人材養成
No.68 (2012年12月1日号)
JRAでは「強い馬づくり」すなわち、内国産馬の資質向上や生産・育成牧場の飼養管理技術向上に貢献することを目的に、育成業務を行っています。
われわれは購買したJRA育成馬および生産したJRAホームブレッドを活用して育成研究・技術開発を行なっています。また、そこで得られた成果はブリーズアップセール売却後の競走パフォーマンスにおいて検証した後、講習会やDVDなどの出版物を通して広く競馬サークルに普及・啓発することとしています。
また、「強い馬づくりは人づくりから」とよく言われるように、「人材養成」も重要な育成業務のひとつです。
われわれはJRA育成馬を活用して騎乗技術者、牧場従業員、獣医師等、広く生産・育成および競馬に携わる優秀な人材をサークル内に供給することができるよう、様々な取組みを行なっています。今回は、育成期のステージごとにJRA育成馬を活用して実施している内容について紹介いたします。
初期~中期育成のステージ
■JBBA生産育成技術者研修生
JBBA日本軽種馬協会では、競走馬の生産・育成関連の仕事に就業するための基礎となる知識、技術の習得を目的として、静内種馬場内にある研修所で馬学全般、騎乗訓練や馴致調教などの研修を行っています。JRAでは、「繁殖牝馬の管理実習」、「分娩見学」、「当歳馬の管理実習および離乳実習」、「育成馬の騎乗馴致見学」等の実習や見学を支援しています。研修生は、馬を生産育成する上で重要な節目に合わせて来場し、JRA生産馬およびホームブレッドを活用して実習体験するとともに、子馬の発育やその時々の飼養管理法について専門的な知識を学びます。
■日高育成牧場サマースクール
日本の大学は、欧米に比べて産業動物の臨床実習をするための環境や施設が整っていないのが現状です。しかしながら、全国の学生の中には、馬に関する実践的な教育を受講したいと考えている人や、実習などを通じて馬と触れ合ってみたいという学生は大勢います。日高育成牧場ではこのような獣医畜産系の大学生を対象に、10日間程度の研修期間を2クール設けています。繁殖牝馬および当歳馬の引き馬や手入れなどの実践技術の習得をはじめ、さまざまな検査や調査に立ち会うことにより、馬の繁殖学、栄養学、画像診断技術などを学びます。また、馬をさらによく知っていただく目的で、繋養乗馬を活用した体験乗馬も実施しています。
(写真1)サマースクールでは引き馬も学ぶ
後期育成のステージ
■BTC育成調教技術者研修
(財)軽種馬育成調教センター(BTC)が実施している育成調教技術者養成研修では、「軽種馬の生産・育成に関する体系的な実用技術および知識の習得を目的」に1年間の研修を行っています。前半の6カ月で基礎的な騎乗技術を身に付けた研修生は、JRA育成馬のブレーキングが始まる9月から、2班ずつにわけて3週間ずつ育成馬の馴致ロットごとに参加します。そこでは、JRA職員が指導する「JRA育成牧場管理指針」に沿った実際の育成馬の馴致を学びます。また、当場に繋養する若い乗馬も実習馬として活用し、ドライビングなどの騎乗馴致技術の基礎を習得しています。
また、年が明けて1月から4月までは、JRA育成馬に騎乗し、実践的な育成場の騎乗技術を身につけていきます。JRA職員は生徒が騎乗することが出来る躾のできた馬を調教するとともに、生徒とともに騎乗し、就職先の牧場でしっかりと乗ることができるよう、厳しく指導を行ないます。最終的には4月初旬に行われる育成馬展示会においてスピード調教を行い、自身の研修成果のアピールを行います。生徒が騎乗した馬の中からはエイシンオスマン号やモンストール号などの重賞勝利馬も輩出しており、生徒達の自信と励みにもなっています。
(写真2)ブレーキングを学ぶBTC生徒
■競馬学校騎手課程生徒
育成調教が進んだ2月には、競馬学校騎手課程2年生が約1週間滞在し研修を行っています。昔のようにトレセンで若馬に乗る機会が減少している生徒にとって、JRA育成馬に騎乗することは馬の調教方法や騎乗を学ぶ貴重な機会となります。彼らは、若馬の柔らかさや反応の速さに驚きながらも、すばやく馬の状態に適応しながら騎乗することができます。
また、4月中旬にはブリーズアップセールに向けて中山競馬場に滞在する1週間、セールに上場する馬の調教や管理を学ぶための研修を行います。JRAブリーズアップセールでは、各生徒がそれぞれ5鞍騎乗し、多くの馬主や調教師の見守る中、彼らの技術を披露しアピールする良いチャンスともなっています。同時に彼らの騎乗技術が馬の売却状況に影響をおよぼすので、プレッシャーを感じながら騎乗するトレーニングにもなっているようです。
(写真3)ブリーズアップセールで騎乗する騎手課程生徒
このように、生産、あるいは購買したJRA育成馬は、競走馬として売却されるまで、様々な人材を養成するために活用されています。JRA育成馬に携わった研修生たちが、生産・育成界そして競馬サークルで活躍されることを期待しています。
(日高育成牧場 業務課長 石丸 睦樹)
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