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2019年4月 3日 (水)

育成馬における飛節の検査所見と競走期パフォーマンス

No.61 (2012年8月15日号)

 馬の成長期には様々な問題が発生することがあります。その中でも運動器に発生するものをDOD(Developmental Orthopedic Disease:発育期整形外科的疾患)と呼ばれており、流通を妨げる可能性があるとともに、競走馬としての将来を懸念させる要因になっています。その中でも今回は飛節に発生するものについて紹介したいと思います。

飛節に発生する異常所見
 最も一般的に見られるのはOCDと呼ばれるもので、「離断性骨軟骨症」ともいいます。生産者の方なら獣医師などから聞いたことがあるかもしれません。骨の先端の近くには、成長板(骨端線)というところに沿って存在する軟骨の層があり、骨が成長する際には、その軟骨が骨に置き換わっていきます。これが正常に発達せず軟骨として骨の外に残ってしまう状態のことをOCDといいます。OCD以外にも様々な所見が見られ、いずれもセリ前のレポジトリー検査などで発見されることが多いようです。これらは生産者の方の頭を悩ませるひとつになっているばかりではなく、購買者にとっても競走馬としての将来をどう判断したらよいのか悩むところではないでしょうか。

発生部位
 飛節の異常所見はレントゲン検査によって見つけることができます。発生部位に関する報告(Kaneら.2003)によると、最も多くの発生が認められるのは脛骨中間稜のOCDで検査対象馬の4.4%に認め、距骨内側滑車のOCDが4.2%、距骨内側滑車遠位のOCDが1.7%、距骨外側滑車のOCDが1.4%、足根骨の虚脱が1.2%、脛骨内顆のOCDが0.5%と続きます(写真1,2)。

1_6 図1 飛節を構成する骨(骨標本の正面より)

2_7 図2 右脛骨中間稜のOCD

臨床症状
 レントゲンで飛節に異常所見を認めた馬によく認められる臨床症状は、飛節の腫脹(いわゆる飛節軟腫、写真3)で、腫脹の程度により歩様の違和が認められることがあります。発生部位によって違いはありますが、跛行を呈することはまれなようです。

3_5 図3 飛節軟腫の外貌

OCDが見つかったら?
 特に臨床症状がないなら、ほとんどの場合無処置でも問題ないと考えられています。飛節軟腫などの症状が現れた場合は関節鏡を用いた摘出手術を行う場合もありますし、内科療法で改善することもあります。Beardら.1994の報告では、摘出手術を行っても出走率には影響ないとされていますが、症状の程度や発見された時期、セリに出す馬か否かなどさまざまな要因があるため、どちらを選択するかは判断が難しいところかもしれません。

競走パフォーマンスとの関係
 飛節に異常所見を認めた馬(所見保有馬)の競走馬としての成績はどうなのかは気になるところです。Kaneら.2003の報告では、飛節に異常所見を認めた馬(所見保有馬)の出走率、入着率、獲得賞金は、異常所見がない馬と比べて差がなかったとされています。
 JRAでは、レポジトリーに関する知識を販売者・購買者・主催者の3者が共有し、市場における取引を活性化するために、ホームブレッドやJRA育成馬を活用して、これまで1歳馬の四肢X線所見、上気道内視鏡所見と競走パフォーマンスの関連を調査してきました。その一環として、飛節の所見保有馬についても調査を行っております。現在のところ5世代のデータを蓄積している段階で、412頭中、所見保有馬が36頭いました。36頭のうち、OCD摘出手術を受けていたものや、飛節軟腫の症状を示したものはいましたが、跛行を示したものはなく、調教に支障をきたすことはありませんでした。トレーニングセンター入厩後の追跡調査においても、問題になっている馬はいませんでした。5世代の内、4世代について、3歳5月までの獲得賞金を調査したところ、所見保有馬と所見を認めなかった馬とでは差は見られませんでした。
 この研究に関しては、まだ調査を継続しているところです。新しい知見が得られましたら、また皆さんにお知らせしたいと思います。

(日高育成牧場 業務課 中井健司)

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