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2019年7月24日 (水)

育成馬における歯の管理

No.90(2013年11月15日号)

 秋が深まってきた今日この頃ですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。多くの育成牧場同様、日高育成牧場では騎乗馴致が始まっており、早い組では隊列を組んで集団で駈歩調教を行っています。さて、JRA日高育成牧場では騎乗馴致を始める前に歯の処置を行っています。歯の状態によってハミ受けや飼い食いへ影響することがあるため、近年馬の歯に対する注目が集まってきております。そこで今回は育成馬における歯の処置についてご紹介したいと思います。

斜歯と狼歯の処置
 育成馬における歯の処置は主に斜歯の整形と狼歯(ろうし、やせば)の抜歯です。斜歯というのは上の歯の外側と下の歯の内側にできる尖った部分のことで、草食動物特有の上顎と下顎の幅が違うことが原因です(図1)。その尖った部分を鑢で削って整形します(図2)。多くの馬において、奥の頬の内側の粘膜には斜歯による傷が認められますので、上顎の外側の奥の部分は確実に削ることが重要です。馬の歯列は上から見ると、奥側が少し内側に入っているものもあり、真っ直ぐな歯鑢(しろ)では届かない場合があります(図3)。このような場合には先の少し曲がった歯鑢を用いることで、内側に入った部分を削ることができます(図4)。また、臼歯列の一番手前に位置する第2前臼歯はハミの収まりを良くするために先端を丸くしてやります。これをビットシート(図5)と呼びます。

1_2 図1 口の中を正面から見た模式図(赤丸で示す斜歯を整形する必要がある)

2 図2 開口器と歯鑢を用いて歯を削る

3 図3 先端が真っ直ぐな歯鑢(奥の歯の表面にヤスリ部分が届かない)

4 図4 先端が曲がった歯鑢(奥の歯の表面にヤスリ部分が届く)

5 図5 ビットシート(臼歯の最前列を丸く整形する)

 狼歯は進化の過程で退化した歯で、ちょうどハミが収まるところに生えてきます(図6)。痛みを伴い、口向きが悪くなる原因になることがあるので抜く必要があります。抜歯をする際は鎮静剤を用います。狼歯には根の太いものや曲がったもの、横に向いて生えているもの、先端が出てきていないものなど様々なバリエーションがありますが、先端が半円形や円形の道具(図7)を用いて、比較的容易に抜歯することができます。先端が出てきておらず、粘膜が盛り上がって見える埋没狼歯(blind wolf teeth)(図8)と呼ばれるものは、見落としがちである上にハミへの影響が大きいとされているため、注意深く触ってチェックする必要があります。狼歯を抜歯した直後は、馬が痛みや違和を感じることがあるため、基本的には休馬の前日に抜歯をするようにしています。

6 図6 上顎の臼歯最前列に認められる狼歯

7 図7 狼歯を抜く道具

8 図8 埋没狼歯(ハミがあたると痛い)

日常の歯の管理
 若い馬の歯はある程度年齢を重ねた馬の歯に比べると非常にやわらかく、その分擦り減るスピードも速いため、尖りも出てきやすいと言えます。また、生え変わりが起こる2歳の夏~5歳もトラブルが発生しやすい時期ですので、育成期~競走期にかけては最低でも6ヶ月毎の処置が必要です。
 歯は外からは見えないので、蹄の管理や跛行や疝痛等の疾病などはっきりと見た目にわかるものに比べると、普段の管理では意識することが少なく、処置が後回しにされがちです。しかし、歯が悪いことで、ハミ受けや飼い食いが悪くなるだけではなく、二次的に跛行や疝痛等を引き起こすこともあるので、馬本来のパフォーマンスを発揮し、価値を損なわないようにするためにはしっかりと処置をする必要があります。本記事が少しでもみなさんの歯に対する意識を高めることができれば幸いです。

(日高育成牧場 業務課 中井 健司)

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