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2019年8月 7日 (水)

Dr.Whiteによる生産者向け講習会

No.96(2014年3月1日号)

 昨年11月29日金曜日、静内エクリプスホテルにおいて疝痛の講演会が行われました。講師であるホワイト先生(写真1)は馬の疝痛の権威であり、40年前に出版された著著「馬の急性腹症」は今でも世界中の馬獣医師にとってバイブルとされています。当日は予想をはるかに上回る376名もの参加者が来場し、駐車場は大混雑、用意していた席が足りず、追加で用意するほどの大盛況でした(写真2)。この講習会は日本軽種馬協会が主催、日本ウマ科学会馬臨床獣医師ワーキンググループの共催として毎年同時期に開催されているもので、一昨年はダイソン先生による跛行診断、その前年はレブランク先生による繁殖管理と、海外の著名な方々を招聘し、生産者向けに講演いただいています。今回はこの講習会の内容について簡単にご紹介させていただきます。

1_5 写真1 講演に招いたホワイト先生

2_4 写真2 予想をはるかに上回る参加者が来場した講演会

疝痛に関する疫学情報
 まずは疝痛に関するさまざまな統計情報が紹介されました。そもそも、疝痛とは身近な疾病でありながら、死亡原因の28%も占める重要な疾患です(バージニア大学による報告)。現場ではひとくくりに「疝痛」でまとめられがちですが、実際にはさまざまなタイプに分けることが出来ます。これらの実態について膨大なデータを元に解説されました。発症率は1年間で100頭あたり4~10頭であり、発症が10頭以上の牧場は飼養管理に問題があることが示唆されます。疝痛の85%が一過性の単純疝痛であり、手術が必要な馬は2%程度です。疝痛の危険因子として「濃厚飼料の多給や不適切な給与」「厩舎飼育(非放牧環境)」「乾草や飼料の急激な変化」などが挙げられます(図1)。このことから、放牧せずに濃厚飼料が給与されている厩舎飼養は馬にとって不自然な状況であるということを改めて認識させられました。また、馬にとって給餌内容を変化させることが思いのほか消化管ストレスを与えており、疝痛に至らなくても採食量の低下、吸収率の低下といった気づきにくい影響も及ぼしているかもしれないということでした。

3_3図1

牧場現場における適切な管理
 牧場現場において対処できる予防策として「飼料の変更には10~14日以上かける」「気候の変わる時期は管理方法を変えない」「出来るだけ放牧する」「寄生虫を抑えるため、定期的な糞便検査をする」「リスクの高い馬には特に気をつける」などが提案されました。いずれも一手間かかることで、現場では「分かっているけど・・・」という基本的なことです。しかしながら、疝痛の発症を抑えるためには馬という動物を理解し、その消化生理に基づいた飼養管理が重要だと再認識させられました。
もちろん、「競走馬」「経済動物」であるため100%自然な飼養管理はできませんが、そのことに甘んじて「競走馬だから仕方ない」と思わずにより良い飼養管理を工夫したいものです。

獣医師向けの講習会
 翌日には日本軽種馬協会の研修センターにて、獣医師を対象とした講義、意見交換がなされました。疝痛、開腹手術についてはなかなか科学的な研究がされにくい分野ではあり、そのため獣医師によって解釈が異なる場合もあります。しかしながら、膨大な経験を踏まえたホワイト先生の言葉には重みがあり、これは獣医師個々人の理解を深めただけではなく、組織を越えて生産地の獣医師の間で共通認識を得ることができたことは大きな収穫だと思われました。

(日高育成牧場 生産育成研究室 村瀬晴崇)


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