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2019年11月20日 (水)

冬期の昼夜放牧

No.114(2014年12月1日号)

 近年、生産地では昼夜放牧の有用性が注目されるようになり、夏期の昼夜放牧については多くの牧場で取り入れられるようになってきました(図1)。しかし、冬期の昼夜放牧に関しては、まだ一部の牧場での実施に限られ、その効果についてもよく分かっていないが現状です。本稿では、若馬における冬期の昼夜放牧の応用性について考えてみたいと思います。

1_7 図1 JRA育成馬の入厩時「昼夜放牧」に関するアンケートより
夏期における若馬の昼夜放牧は年々増加している様子が窺える


運動の量と質
 放牧に伴う自発的な運動は筋肉や骨、心肺機能の発育・発達にとって重要な役割を果たすことが知られています。しかし、北海道の馬産地である日高地方では、12月から翌年4月の最低気温は氷点下となり、放牧地は氷と雪で覆われます(図2)。そのため、昼夜放牧(10:00~翌8:00)を継続した馬達の放牧地における移動距離は、気温の低下とともに減少する様子がみられます(図3)。一方、昼放牧(8:00~15:00)に変更した馬達の1日の平均移動距離は5km程度となり、昼夜放牧の馬達の平均移動距離8kmと比較して少ないものの、単位時間当たりの運動量は昼間放牧の馬達が平均0.8kmのところ、昼夜放牧を継続している馬達の運動量は平均0.4kmとなり、昼間放牧の馬たちの方が活発な運動を行っていることが分かっています。

2_6 図2 北海道の生産地の放牧地は、冬期の間、雪と氷に覆われる

3_6 図3 当歳子馬の昼夜(22時間)放牧における移動距離と気温、日長時間との関係


 冬期の放牧地においては、寒さに耐えてじっとしている馬の姿を見かけます。ただ放牧を継続するだけでは、運動の質を確保できないのかも知れません。現在、我々は、「昼夜放牧にウォーキングマシーンによる運動負荷を加えることで健全な成長を促すことが可能か」について検討しているところです(図4)。

4_5 図4 運動の量と質の確保のためのウォーキングマシーンの活用

昼夜放牧のメリットとデメリット
 昼夜放牧のメリットは、馬が放牧地で過ごす時間が増えることです。放牧地で群れを作って行動し、厳しい冬期の環境に順応する様子は馬本来の自然な姿に近く、狭い馬房で多くの時間を過ごすよりも肉体的にも精神的にもタフで健康な成長が期待されます。また、人的なメリットとして、馬房滞在時間の短縮による寝藁代や人件費の経費削減なども考えられます。実際に、寝藁の交換は1週に一度程度で良くなるため、その使用量は1/7程度となり、空いた時間を馬の馴致や放牧地の管理に充てることが可能となります。
 一方でデメリットも幾つか考えられます。放牧地に滞在する時間が多く、特に夜間は目が行き届かないため、事故やケガを起こす可能性が増加します。また、1日1度は馬房に収牧し、飼付を行い、個体のチェックをする必要がありますが、短い馬房の滞在時間では1度に栄養要求量を十分摂取させることができないため、放牧地で飼付けするなどの飼料給与方法の工夫が必要になります。また、放牧地で給餌する場合は、各個体が摂取する量を管理しづらいなどの難点があります。さらに、広い放牧地(2ha以上)の確保や牧柵の整備、いつでも自由に飲める水飲み場(図5)、雨風を防げるシェルターや壁などの設置も必要かもしれません。特に、厳冬期に昼夜放牧を実施する場合には、脱水症状に陥らないために水飲み場の確保は必須となります。また、放牧地は牧草の摂取や踏圧により疲弊し荒廃するため、草地の管理は重要な課題となります。

5_3 図5 冬期の放牧地に設置した凍らない水飲み場

最後に
 冬期の昼夜放牧の実施に関しては、まだ試行錯誤の段階です。実施にあたっては、夏期からの昼夜放牧に対する馴致が必要なことは言うまでもありません。馬も人も無理をせず少しずつできることから行うことがポイントかもしれません。日高地方は、世界でも類を見ない寒冷地の馬産地です。昼夜放牧を始めとした新しい技術を上手に取り入れながら、世界に通ずる強い馬づくりを目指して行きたいものです。

(日高育成牧場 生産育成研究室 研究役 佐藤文夫)

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