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2021年1月22日 (金)

【海外学術情報】 第62回アメリカ馬臨床獣医師学会(AAEP)

はじめに

AAEPは、馬に関する調査研究や臨床教育、最新の医療機器や飼料などの展示も行われる学会です。2016年はフロリダのオーランドで12月3~7日に開催され、世界各国から約2,300人の馬臨床獣医師が参加しました(図1)。日本からは、私の他にも数名の日高で顔なじみの臨床獣医師さん達が参加しました。今回はこの学会の中から興味を持った演題について3つ紹介したいと思います。

 

  • 大腿骨内側顆のX線異常所見の発生とその変化について

北米では11月の当歳セリに向けて、離乳直後の時期にX線スクリーニング検査が行われるのが一般的で、その結果をもって売却方針や治療方針が決められています。その後も、当歳・1歳・2歳とセリに出る度にレポジトリー資料用のX線検査が何度か行われます。Dr. Spike-Pierce(Rood and Riddle Equine Hospital)は、そのX線資料を解析し、離乳後の当歳馬の約5.3%(76/1,444頭)の大腿骨内側顆にすでにX線異常所見が認められることを報告しました。このことから本疾病の発生時期も他の部位に発生する骨嚢胞や離断性骨軟骨症と同様に、成長盛んな離乳前後であることが分かります。さらに、異常所見の経過を解析したところ、その約6割は1歳セリまでに良化していました。一方で、関節面に1.5㎝以上のX線透過像を有する場合やシスト像の所見を有する場合は、改善しない割合が高くなりました。骨嚢胞を有する場合、運動制限は有効な対処法の1つであり、当歳馬のX線スクリーニング検査は、所見の早期発見・早期治療に有用であると考えられます。また、大腿骨内側顆の軟骨下骨嚢胞はセリでの馬の価格を下げる要因となってしまいますが、僅かなX線所見(図2)の場合は良化することも多く、競走パフォーマンス下げる要因では無いことも強調していました。

 

  • ヘパリン投与による馬ヘルペス脊髄脳症(EHM)の発症防御

EHMは、馬ヘルペスウィルス1型(EHV-1)感染による重篤な症状の1つです。EHV-1感染症は馬鼻肺炎とも呼ばれ、生産地では若馬の呼吸器病や妊娠馬の流産・死産を引き起こすことから、気を付けなくてはならない病気です。講演では最近発表されたトピック論文としてDr. Walter J.(Zurich大学)の研究が紹介されました。EHV-1感染では2峰性の発熱が起こることが知られていますが、最初の発熱(38℃以上)が認められた時点で抗凝血薬であるヘパリン製剤(25,000単位・1日2回)を3日間投与することで、非投与群に比べて発熱期間およびEHMの発症が有意に抑えられたというものです。また、非投与群の発症馬の中には流産の発生が6頭含まれていましたが、投与群の中に流産の発生馬はいませんでした。EHMの発症は、ウイルスが感染する際に脳や脊髄の血管に血栓による障害が起こることで発症することが知られています。ヘパリンは血栓の発生を抑えるとともにウイルスの細胞への侵入を抑制する作用も考えられていますが、まだ発症防御メカニズムの詳細に関しては解明されていません。現在、EHV-1による妊娠後期の流産予防にはワクチン接種や消毒の徹底が有効とされていますが、発症の拡散防止にヘパリンによる治療も有効となれば素晴らしい発見です。今後の更なる研究が期待されます。

 

  • リハビリテーション管理における関節可動領域の改善処置

リハビリテーションの目標は、健全な機能をなるべく短期間の内に元の状態に戻すことです。馬でも腱靭帯炎や骨折や関節疾患により長期間運動を制限されることで関節可動域が減少してしまう場合があります。Dr. Adair S.(Tennessee大学)は、超音波やレーザー治療、加温や冷却療法、スイミングプールやウォータートレッドミルなどを使用したリハビリテーション管理を紹介する中で、慢性期におけるプログラムとして横木(おうぼく)障害の利用について紹介していました。横木を馬が跨ぐことにより、関節の可動域を広げることが可能になるだけでなく、末梢神経を介した運動感覚機能も改善されるというものです。横木の高さや配置を変えることで関節の可動域を調節することも可能になります。この横木を利用した運動は、健常な中期・後期の育成馬にも応用可能であると思われます。普段の飼養管理や調教の一部にアレンジして取り入れてみるのも良いと思いました。

 

最後に

海外の学会に参加することで、最新の様々な情報を得ることができます。一方で、近年は日高発の調査研究や獣医診療技術が紹介される機会も増えてきていると実感します。海外の研究成果や飼養管理技術を学び、応用可能なものを導入していくことはもちろん有用ですが、今後は日高発の研究成果を海外の国際学会の場で積極的に発信していくことが日本の馬産業が世界で同等に関わり続けていく上でとても大切なことと思われます。今後も日高育成牧場で行う調査研究へのご理解とご協力を宜しくお願い申し上げます。

 

1_4 (図1)AAEPメイン会場での講演の様子

 

2_4 (図2)大腿骨内側顆の関節面に認められる僅かなX線透過像

当歳の離乳時期に発生することが多いが、1歳時までに良化するものが多い。

 

3_3 (図3)横木を跨ぐ様子

横木などの障害を利用することで関節の可動範囲を広げることができる。

生産育成研究室

研究役 佐藤文夫

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