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2021年1月25日 (月)

ケンタッキーの馬産

私はJRAの海外生産育成調教実践研修の研修生として2015年6月から2017年2月までの1年9ヶ月間米国ケンタッキー州およびフロリダ州でサラブレッド競走馬のマネジメントを学んできました。誌面をお借りしてその内容をご紹介したいと思います。まず今回は米国ケンタッキー州での馬産についてお話します。

 

・最大の馬産地ケンタッキー

米国では毎年約2万頭のサラブレッドが生産されていますが、中でもケンタッキー州は最大の馬産地であり、約12,000頭が生産されています。この地にはライムストーンと呼ばれる石灰岩の地層が存在し、土壌中にカルシウム分が供給され、牧草中のミネラル分が豊富になり、馬の骨が丈夫になると言われています。また、ケンタッキーブルーグラスという馬の放牧地に適した牧草が自生していたことも有名です(図1)。さらに、夏は暑くなり過ぎず、冬は寒くなり過ぎない、馬に適した気候となっています。

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図1.ケンタッキーブルーグラスが中心の放牧地

 

・馬産全体の違い

 日本の生産牧場では牧場が繁殖牝馬を所有する自己所有馬の割合が多いのに対し、米国では馬主が生産牧場に預託料を支払って繁殖牝馬を預ける預託馬の割合が多かったです。私が研修したダービーダンファームでは、約8割の馬が預託馬でした。また、日本の生産牧場では採草地を有し、そこで作った自家製の乾草を馬の食用に使用しているのが一般的ですが、米国では採草地がなく牧場の土地を目一杯使って広い放牧地として利用し、そこで作られた乾草は食用としては使用せず敷料として使用し、麦稈代を節約していました。また、日本の牧場の従業員はほとんどが日本人ですが、米国ではヒスパニックと呼ばれる中南米からの移民がほとんどでした。

 

・繁殖牝馬の飼養管理の違い

分娩前の管理について、日本では分娩前にウォーキングマシンもしくは引き馬による運動を課す牧場が多いのに対し、米国ではそのような特別な運動は課されていませんでした。また、近年日本では分娩時に子馬を引っ張らない“自然分娩”が普及しつつありますが、米国では子馬を引っ張りかつ母馬に鎮痛剤を投与するなど、積極的な分娩介助がなされていました。ヒトの医療で出産する際に“無痛分娩”が普及していることが背景にあるのではないかと考えられました。種付けの際には、日本では牧場のスタッフが母子両方を馬運車に載せて種馬場まで連れて行くのが一般的であるのに対し、米国では牧場のスタッフは立ち会わず、輸送業者が種馬場まで母馬を連れて行く、その際子馬は馬房内に置いて行くというスタイルが普及していました。そのほか、日本では陰部のコンフォメーションが悪い場合など必要な馬のみ陰部縫合いわゆるキャスリックが行われていますが、米国では伝統的に牝馬全頭に対し陰部縫合が行われていました。

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図2.積極的な分娩介助

 

当歳馬の飼養管理の違い

 米国では免疫を高めるため子馬に血漿製剤を、牧場によっては全頭に対し出生翌日に投与していました。この血漿製剤は日本では市販されていないものです。また、日本の日高地方では、特に1~2月は寒いので子馬に馬服を着せるのが一般的で、牧場によってはインドアパドックが利用されていますが、ケンタッキーでは暖かいので子馬に馬服を着せる必要がありませんでした。同様の理由で、日本では2ヵ月齢前後まで大きくなってから、親子での昼夜放牧が開始されるのが一般的ですが、ケンタッキーでは2週齢前後から早くも昼夜放牧が開始されていました。さらに、親子を一人で引く方法が日本と米国では異なり、日本では人が真ん中になり、子馬が右、母馬が左という引き方が一般的ですが、米国では人が1番左に位置し、子馬が真ん中、母馬が右という引き方をしていました。

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図3.新生子馬に対する血漿製剤の投与

 

JRA日高育成牧場業務課診療防疫係長 遠藤祥郎

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