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2021年1月25日 (月)

モンゴル在来馬の調教中心拍数について ①

 日本でも海外馬券が買える時代になり外国の近代競馬が身近に感じられる時代になりましたが、他にも競馬が行われている国があります。その一つがモンゴルです。モンゴルは“チンギスハーン”に代表されるように歴史的な騎馬民族であり、在来馬を大自然の中で飼育しながら草競馬を実施しています。特に、毎年7月11日の独立記念日から3日間実施される“ナーダム”という国民的祭典では、モンゴル相撲・弓射競技とともに数百頭規模の草競馬が実施され、モンゴル3大スポーツの一つとして親しまれています。

 今回は、国際協力機構(JICA)のプロジェクトにおいてモンゴルを訪問し、競馬に出走するモンゴル在来馬の調教中心拍数を測定する機会を得たので紹介します。

 

モンゴル競馬について

 モンゴル競馬はトラックではなく草原の中を走る競馬で、レース距離は10kmから25km、7歳から12歳の子供たちが騎乗して行われます(写真1)。賞金は出るのですが名誉を得ることの方が重要で、馬も子供たちも着飾ってレースに挑みます。競馬に出走するモンゴル在来馬は絶滅危惧種の“モウコノウマ”ではないのですが、昔からモンゴルで飼育されている在来種で、体高的にはポニーに属する小さな馬です(写真2)。以前はハイブリッド(雑種)も出走可能だったそうですが現在は在来種のみが出走でき、それらは体高などで区別するそうです。また、レース距離は馬の年齢で分けられており、年齢は歯で判断します。

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写真1 モンゴル競馬の様子

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写真2 モンゴル在来馬と騎乗者

 モンゴル在来馬の体高はおそらく130~140cm。

 

モンゴル在来馬の調教中心拍数測定

 今回の訪問は、ナーダム直後の昨年7月後半。ちょうど夏休みの時期で、ウランバートル市街はお祭り気分覚めやらぬ感じでした。JICAはモンゴル生命科学大学と共同で獣医・畜産分野の能力強化プロジェクトを行っており、今回はその一環として獣医学部の教授・准教授とともにモンゴル在来馬の調査を行いました。伺ったのはウランバートル南約80kmの草原地帯で遊牧生活をしているDavaakhoo氏のところです(写真3)。Davaakhoo氏はモンゴルで一番有名な調教師で、牛・羊・山羊とともに約600頭の馬を所有しており、ゲルと呼ばれる大型テントで遊牧しながら所有馬の調教を行っています。今回は、草競馬出走予定の在来馬において調教中心拍数を測定しました。

 心拍数の測定は日本のサラブレッドでも使用しているPolar社製心拍計(M400)と馬用電極を用いて行いました。ポニーのような小さな馬で測定した経験がなかったのでうまくできるか分からなかったのですが、実際にやってみるとサラブレッドと同じように電極を装着し心拍数を測定することができました(写真4)。調教は自然の地形を活かしたコースを往復する形式で実施され、車またはバイクでチェイスしながら監視していました(写真5)。興味深かったのは、子供たちの騎乗技術の高さです。調教は裸馬でも実施されたのですが、彼らは鞍の有無に関わらず見事な技術で調教を行っており、この子供たちが将来サラブレッド競馬の世界に入ったとしたらとんでもないジョッキーになるかもしれないと感じました。

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写真3 左からNyam-Osor教授、私、Davaakhoo調教師、Khorolmaa准教授

 

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写真4 モンゴル在来馬への心拍数測定用電極の装着

 装鞍する場合(左)は専用の鞍下ゼッケンとPolar Equine Electrodeを、裸馬(右)の場合はPolar Equine Beltを使用。

 

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写真5 調教は車またはバイクでチェイスしながら実施

今回は、モンゴル在来馬の調教と心拍数測定の様子を紹介しました。次回は、測定したデータを解説いたします。

日高育成牧場生産育成研究室 室長 羽田哲朗(現・美浦トレーニングセンター 主任臨床獣医役)

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