PGによるショートサイクル法
PG(PGF2α)を投与することにより黄体期を短縮させ、排卵(交配)を早めることをショートサイクルと呼びます。特段新しい手法ではありませんが、近年我が国では分娩後初回発情での交配を見送ることが増え、本法が活用されているようですので、本稿では2019年の日本獣医師会北海道獣地区学会で報告されたデータを示しながらおさらいいたします。
分娩後初回交配日に及ぼす影響
図1は2002-16年の国内サラブレッド生産における分娩後初回交配日を示しています。10日前後に大きな山があり、我が国では分娩後初回発情で多くの牝馬が交配していることが分かります。今回はこのデータから便宜上7-13日後をFoal Heat(FH)群、その21日後(1発情後)の28-34日後を2nd Heat( 2ndH)群、その1週間前の21-27日後をPG投与により交配を早めたShort Cycle(SC)群と定義します。この3群の内訳の推移を示したグラフが図2です。FH群が減少し、代わりにSC群が増えていることが分かります。年次の他に牝馬の年齢、分娩月、地区、牧場規模といった要因も分娩後初回交配日に影響を及ぼしていました。牝馬が若いほどFHが多く、1-2月の早生まれではFHが少なく、シーズン終わりに向けてFHが増えます。北海道は本州や九州よりSCが多く、牧場規模が大きくなるにつれて、FHが減少、SCが増加しました。
繁殖成績への影響は?
では、これら3群の受胎率はどう違うのでしょうか?上述の要因を調整した多重ロジスティック解析の結果を表1に示します。2ndH群の受胎率を1とした場合のFH群、SC群のオッズ比は0.568、0.979であり、FH群は2ndH群に比べて受胎率が低いことが分かりました(p値が0.05未満の場合に統計的有意差があると判定します)。一方で、シーズン受胎率においては2ndH群に対してFH群、SC群で有意に良い成績でした。これはFH群では交配機会が1回多いため累積受胎率が向上することを意味しています。以上のことから、SC群はFH群よりも初回交配受胎率が高く、かつシーズン受胎率は2ndH群より高いという良いとこ取りをしていると言えます。
PG投与の注意点
PGを投与する際の注意点を幾つか記します。PGは黄体形成期には効かないため、排卵後5日目以降に投与することが推奨されています。また、PG投与から次の排卵までの日数はPG投与時の卵胞サイズに依存しますので、投与時に卵胞サイズを確認することで次の排卵日のおおよその目途を立てることができます。ただ、大きな卵胞があった場合には注意が必要です。35mm以上の馬に投与すると1-2日で排卵することもあれば(この際、子宮の浮腫や頸管の弛緩が十分ではなく、適切に交配できないこともある)、その卵胞は排卵に至らず次の小さな卵胞が発育するため時間を要することもあります。また、稀にPGに反応しない場合があります。この原因は分かっていませんが、PGを投与した馬が必ず黄体退行するわけではないということも覚えておきましょう。
まとめ
本稿ではショートサイクル法の利点を解説しました。わずか1週間の短縮であっても、繁殖シーズンが限られる軽種馬生産においては重要な手技と言えます。もちろん、何でもショートサイクルすれば良いというわけではありません。初回発情で受胎を期待できる馬もいるでしょうし、1-2月であれば交配を遅らせたい場合もあるかもしれません。それぞれの状況においてより効率的な管理を検討するための参考にしていただければ幸いです。
図1.我が国における分娩後初回交配日の分布(2002-2016年)
図2.分娩後初回交配日の推移
表1 初回交配受胎率、シーズン受胎率の多重ロジスティック回帰分析によるオッズ比
FH群 |
SC群 |
2ndH群 |
|
初回交配受胎率 |
0.568 (p<0.0001) |
0.979 (p=0.4113) |
1 |
シーズン受胎率 |
1.099 (p=0.0004) |
1.074 (p=0.0274) |
1 |
日高育成牧場 生産育成研究室 村瀬晴崇
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