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2022年4月

2022年4月29日 (金)

日高育成牧場で実施している研究テーマについて

 日高育成牧場生育成研究室では、強い馬づくりに必要な科学的根拠にもとづいた生産、飼養管理、疾病予防、育成調教技術についての研究を行っています。研究成果は学会や論文で公表しているほか、地域の講習会等を通じてみなさまのお役に立てるよう努めています。今回は、私たちの研究テーマの一部をご紹介したいと思います。

妊娠馬の血中代謝物の解析

 代謝物とは生体反応の結果生成される物質のことです。妊娠馬の血液中に検出されるあらゆる代謝物を測定し、その変動を調べることで妊娠馬の体内で何が起きているのか推定できるのではないか、という研究です。日高育成牧場の妊娠馬を定期的に採血して分析しています(写真1)。妊娠中や分娩前に特異的に変動する代謝物が見つかれば、流産予防や分娩予測の新しい指標となるかもしれません。

流産予防薬の再評価に関する研究

 生産地では流産予防の目的でホルモン剤(プロゲステロン製剤)が用いられることがありますが、馬用として日本国内で安定的に入手できるものばかりではなく、日本の製品でも投与量などに課題があるものが多いのが実情です。そこで、日高育成牧場の研究馬を用いて改めてその効果を検証します。

消化管内寄生虫の実態調査

 日高家畜衛生防疫推進協議会の「生産地疾病等調査研究」の一環として実施する調査です。馬の代表的な寄生虫である円虫、回虫、条虫の日高地区における寄生状況と、駆虫薬の使用状況を把握し、より適切な駆虫薬の使用法を検討するための調査です。世界的に駆虫薬が効かない寄生虫が増えてきたと言われていますが、日高地区では実際どうなのだろうか、ということも調査します。みなさまのかかりつけ獣医師にも協力していただき、駆虫薬投与前後の糞便検査とアンケート調査、さらに条虫が検出された場合には血液検査のための採血を行いますのでご理解とご協力をお願いします。

放牧地のクローバーに関する研究

 放牧地は経年変化でクローバーが増えますが、クローバーは馬の嗜好性が高く、タンパク質およびカルシウム含量が多いため、過剰に摂取すると骨代謝やミネラル代謝異常の原因となる可能性があると考えられます。そこで、放牧地でクローバーがどの程度まで増えても問題ないのかを確かめるため、日高育成牧場の研究馬をあえてクローバーの多い放牧地で採食させて発育への影響を調べます(写真2)。いっぽう、放牧地のクローバーの割合がそのままクローバーの採食量を左右するのか、つまり、多ければたくさん食べて、少なければ食べる量も少ないのか、あるいは少ない放牧地でもクローバーばかり選んで食べてしまうのかを調べるため、クローバーの草生割合が異なるさまざまな放牧地で馬の糞を採取して、クローバーをどれくらい食べているかを分析します。こちらはたくさんの放牧地が必要なため、民間牧場のみなさまのご協力をいただき、みなさまの馬をいつもどおりに放牧したうえで、我々が糞を拾わせていただこうと考えています。

その他の検査や調査

 研究室で行っている業務は、予め決められた研究テーマに沿ったものばかりではなく、日頃のデータ収集や、牧場や獣医師のみなさまの日頃の疑問や困りごとにお応えするための検査や調査なども行っています。そのような活動を通じて少しでもみなさまのお力になりたいと考えていますし、特に重要と思われる項目については独立したテーマとして本格的に研究を開始することもあります。みなさまからの情報が貴重な研究資源となりますので、何かありましたらどうぞ遠慮なくお寄せください。よろしくお願いいたします。

日高育成牧場 生産育成研究室長 関 一洋

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写真1 妊娠馬の血液分析

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写真2 クローバーの採食量調査にご協力ください

輸入した繫殖牝馬の管理

 JRAでは、2009年生まれの産駒から自家生産馬をJRAホームブレッドと名付け、生産から一貫した研究業務を行っています。今まで母馬として用いてきたのは基本的にブリーズアップセールを疾患により欠場した未出走の牝馬ばかりでしたが、このたび競走実績のある馬を導入するため、海外から繁殖牝馬を購買することとしました。具体的には、2018年および2019年に米国キーンランド協会のノベンバーセールにて各年2頭、計4頭の繁殖牝馬を購買し、輸入しました。今回は、輸入した繁殖牝馬に対し当時行った管理についてご紹介したいと思います。

・着地検査

 農林水産省動物検疫所(動検)で実施される輸入検疫が終了し、解放された後、各都道府県が主導で行う検査のことです。牧場到着時から3ヵ月、牧場内に元からいる馬とは隔離しなくてはなりません。JRA日高育成牧場では、飼付厩舎と呼んでいる主に7月のセリで購買した1歳馬を昼夜放牧している際に使用している厩舎を用いて着地検査を行いました(図1)。

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図1. 着地検査を行った場所

 牧場到着時には家畜防疫員に指定されている獣医師の検査を受けます。検査の内容は、臨床検査(検温や聴診など)、馬インフルエンザの簡易検査、採血です。馬インフルエンザ検査は鼻腔スワブを採材しクイックチェイサーという簡易キットを用いますが、15℃未満の低温環境で使用するとA型陽性の線が出ることがわかっており、冬の北海道では屋外で検査しないなどの注意が必要です(図2)。採血は10mlのプレーン管1本を採取し、家畜保健衛生所(家保)で馬伝染性貧血、馬パラチフス、馬ウイルス性動脈炎、馬鼻肺炎の検査が行われます。この血液と、動検から送付されてくる輸入検疫証明書、そして家畜防疫員が記載した輸入馬着地検査名簿を家保に提出します。到着1ヶ月後にも同様の検査が必要ですが、馬インフルエンザの簡易検査および輸入検疫証明書の提出は不要になります。また、これとは別に繁殖牝馬の場合は種付けを行う前に伝染性子宮炎の検査が必要です。陰核スワブを競走馬理化学研究所に送り、検査してもらいます。到着1ヶ月後の検査の結果が全て陰性であれば、着地検査中でも種付けは可能です。

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図2 15℃未満の低温環境ではA型陽性の線(矢印)が出るので注意

・発情誘起と繁殖成績(1年目)

 2018年のノベンバーセールでは、アーツィハーツ号(父Candy Ride、2015年生まれ、1勝2着4回3着1回)およびブレシッドサイレンス号(父Siyouni、2013年生まれ、3勝2着3回3着2回)の2頭を購買しました。この2頭は動検成田支所で輸入検疫を受けた後、12月26日に当場に到着し、直ちにライトコントロールを開始しました(図3)。アーツィハーツ号については、翌年3月27日にシーズン初回排卵が観察され、4月12日に種付けし、受胎が確認されました。しかしながら、ブレシッドサイレンス号は、3月13日にシーズン初回排卵が確認できたにもかかわらず、3月30日、4月14日、5月1日の3回種付けしたものの、不受胎に終わりました。この時は、プロスタグランジン(PG)製剤を使用しなかったにもかかわらず、通常3週間の発情周期が2週間になるなど不安定な性周期となる現象が見られました。これは、一般的にシーズン初期の「春季繁殖移行期」に認められる現象であり、ホルモンの分泌異常が関連していると思われました。

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図3 牧場到着後直ちにライトコントロールを開始

・発情誘起と繁殖成績(2年目)

 2019年のノベンバーセールでは、ラキュストル号(父Dansili、2015年生まれ、1勝2着2回3着2回)およびミスミズ号(父Mizzen Mast、2016年生まれ、3勝2着1回3着1回)の2頭を購買しました。この2頭は動検胆振分室で輸入検疫を受けたのですが、動検と事前調整し許可を得た上で輸入検疫中の12月6日からライトマスク(EquilumeTM)を着用し(図4)、ライトコントロールを開始させてもらいました。このマスクは右目のブリンカーにブルーライトが付いている構造で、1日7時間点灯するように設定することができます。我々は16時から23時まで点灯するように設定し使用しました。その結果、ラキュストル号は2月19日にシーズン初回排卵が観察され、3月25日に種付けを行い受胎。ミスミズ号は3月11日に排卵が観察され、3月24日に種付けし受胎が確認されました。

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図4 ライトマスクを着用した馬

・最後に

 早期にライトコントロールを開始したことが繁殖成績を向上させた一因になったと考えられました。当場では以前1月に入厩した繁殖牝馬で3月下旬になっても発情が認められず、ブセレリンという排卵誘発剤を少量ずつ筋肉内投与する方法で発情誘起を行ったこともありました。2020年5月発行の馬事通信886号(強い馬づくり最前線238回)に詳細を記載しておりますので、興味のある方はご一読いただけましたら幸いです。

 今回の記事が、皆さんの愛馬の管理に少しでも参考になりましたら幸いです。

JRA日高育成牧場 専門役 遠藤祥郎

馬鼻肺炎とその予防について

 3月に入り、生産地では繁殖シーズン真っ只中となりました。たくさんの可愛い子馬が生まれ明るい話題の多い季節ですが、流産など周産期のトラブルに気を付けなければならない季節でもあります。流産の原因はさまざまですが、その中でも特に注意しなければならない伝染性の流産の原因として馬鼻肺炎があります。生産地の馬関係者にはよく知られている疾病ですが、本稿ではあらためてその概要と予防方法について確認したいと思います。

馬鼻肺炎はウイルスが原因

 馬鼻肺炎の原因となるウマヘルペスウイルスには、1型と4型の2種類があります。1型ウイルスによる症状は、主に冬季に起きる発熱や鼻水などの呼吸器症状、流産、まれに後躯麻痺などの神経症状があります。4型では主に育成馬などの若馬で、季節に関係なく呼吸器症状を呈します。流産の原因となるのはほとんどが1型ウイルスで、特に妊娠9か月以降に起こるため、経済的な損失が非常に大きくなってしまいます。

 ウイルスは感染馬の鼻汁や流産した場合の胎子に多く含まれ、ウイルスを含んだ飛沫を直接吸引したり、感染源を触った人や器具を介して伝播します。また、このウイルスのやっかいなところは、一度かかった馬の体内からは生涯ウイルスが排除されることがないことです。症状が治まっても潜伏感染をした状態となり、ストレスによって免疫が落ちると体内のウイルスが再活性化しウイルスを排出し始めるため、周りの馬への感染源となる可能性があります。

予防について

 予防には特に以下の3点を重点的に行います。

  1. ワクチンの接種

 ワクチンを接種することで馬鼻肺炎に対する免疫を増強することができます。以前は不活化ワクチンが使用されていましたが、現在では生ワクチンが用いられています。ワクチンを接種しても完全には感染を防ぐことはできませんが、集団内の接種率を高くすることによって、感染拡大を抑えることができます。

  1. 飼養衛生管理の徹底

 流産のリスクを低くするためには、妊娠馬群を他の馬群と離して飼うことが重要です。特に若い育成馬などでは、免疫が弱いため感染すると大量にウイルスが増殖して排出します。このような若馬と妊娠馬を近い環境で飼うことは、感染リスクを高めてしまいます。また、ウイルスが付着した人の手や衣服、道具などを介してウイルスが伝播するので、妊娠馬厩舎に行く前に消毒をしたり、衣服を着替えるなどの対策を徹底することが必要です。なお、消毒槽などに使用する消毒薬は、北海道の厳冬期の気温では効果が薄れてしまうため、室内に設置したり微温湯やヒーターを使うなど温度が下がらない工夫をしましょう。

  1. ストレスをかけない管理

 一度馬鼻肺炎にかかったことがある馬は、馬群や放牧地の変更や輸送などのストレスがかかると体内にいるウイルスが活性化して再びウイルスを排出する可能性があります。特に妊娠後期にはこのようなストレスがかからない管理を心がけましょう。

それでも発生してしまった時は

 流産が発生してしまった場合には速やかに所管の家畜保健衛生所に連絡し指示を仰ぎましょう。流産胎子からウイルスが拡散しないようにビニール袋などに入れたり、周囲や馬房を消毒するなど、まん延防止が何より大切です。また、流産した母馬はウイルスを排出するため、直ちに他の妊娠馬から隔離する必要があります。

 生産地では古くから怖れられてきた馬鼻肺炎による流産。正しく認識し、正しく対策をすることで、未来ある馬たちが元気に誕生できるような春にしたいものです。

日高育成牧場 業務課 竹部直矢