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2022年4月29日 (金)

馬鼻肺炎とその予防について

 3月に入り、生産地では繁殖シーズン真っ只中となりました。たくさんの可愛い子馬が生まれ明るい話題の多い季節ですが、流産など周産期のトラブルに気を付けなければならない季節でもあります。流産の原因はさまざまですが、その中でも特に注意しなければならない伝染性の流産の原因として馬鼻肺炎があります。生産地の馬関係者にはよく知られている疾病ですが、本稿ではあらためてその概要と予防方法について確認したいと思います。

馬鼻肺炎はウイルスが原因

 馬鼻肺炎の原因となるウマヘルペスウイルスには、1型と4型の2種類があります。1型ウイルスによる症状は、主に冬季に起きる発熱や鼻水などの呼吸器症状、流産、まれに後躯麻痺などの神経症状があります。4型では主に育成馬などの若馬で、季節に関係なく呼吸器症状を呈します。流産の原因となるのはほとんどが1型ウイルスで、特に妊娠9か月以降に起こるため、経済的な損失が非常に大きくなってしまいます。

 ウイルスは感染馬の鼻汁や流産した場合の胎子に多く含まれ、ウイルスを含んだ飛沫を直接吸引したり、感染源を触った人や器具を介して伝播します。また、このウイルスのやっかいなところは、一度かかった馬の体内からは生涯ウイルスが排除されることがないことです。症状が治まっても潜伏感染をした状態となり、ストレスによって免疫が落ちると体内のウイルスが再活性化しウイルスを排出し始めるため、周りの馬への感染源となる可能性があります。

予防について

 予防には特に以下の3点を重点的に行います。

  1. ワクチンの接種

 ワクチンを接種することで馬鼻肺炎に対する免疫を増強することができます。以前は不活化ワクチンが使用されていましたが、現在では生ワクチンが用いられています。ワクチンを接種しても完全には感染を防ぐことはできませんが、集団内の接種率を高くすることによって、感染拡大を抑えることができます。

  1. 飼養衛生管理の徹底

 流産のリスクを低くするためには、妊娠馬群を他の馬群と離して飼うことが重要です。特に若い育成馬などでは、免疫が弱いため感染すると大量にウイルスが増殖して排出します。このような若馬と妊娠馬を近い環境で飼うことは、感染リスクを高めてしまいます。また、ウイルスが付着した人の手や衣服、道具などを介してウイルスが伝播するので、妊娠馬厩舎に行く前に消毒をしたり、衣服を着替えるなどの対策を徹底することが必要です。なお、消毒槽などに使用する消毒薬は、北海道の厳冬期の気温では効果が薄れてしまうため、室内に設置したり微温湯やヒーターを使うなど温度が下がらない工夫をしましょう。

  1. ストレスをかけない管理

 一度馬鼻肺炎にかかったことがある馬は、馬群や放牧地の変更や輸送などのストレスがかかると体内にいるウイルスが活性化して再びウイルスを排出する可能性があります。特に妊娠後期にはこのようなストレスがかからない管理を心がけましょう。

それでも発生してしまった時は

 流産が発生してしまった場合には速やかに所管の家畜保健衛生所に連絡し指示を仰ぎましょう。流産胎子からウイルスが拡散しないようにビニール袋などに入れたり、周囲や馬房を消毒するなど、まん延防止が何より大切です。また、流産した母馬はウイルスを排出するため、直ちに他の妊娠馬から隔離する必要があります。

 生産地では古くから怖れられてきた馬鼻肺炎による流産。正しく認識し、正しく対策をすることで、未来ある馬たちが元気に誕生できるような春にしたいものです。

日高育成牧場 業務課 竹部直矢

pastedGraphic.png写真1:予防のため生ワクチンを接種し、馬群全体の免疫を高めます。

pastedGraphic_1.png写真2:消毒槽にヒーターを設置するなど温度が下がらないようにしましょう。

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