JRAブリーズアップセールを振り返って
本年のJRAブリーズアップセール(以下、BUセール)は、他のセリ市場や競馬開催と同じく各種の新型コロナウイルス感染症(コロナ)予防対策を実施しながらの運営となりましたが、購買者をはじめ関係者のご理解とご協力のお陰で無事に終了することができました。各セリ市場においては、2年前より続くコロナの影響でオンラインビッドの併用が急速に普及するなどの変化が起きています。BUセールにおけるオンラインビッドの導入も昨年から開始しているところですが、本年も2割程度の取引を占めており、購買者のオンラインビッドへの慣れも感じられました(図1)。
(図1:過去2年のBUセールにおけるビッド方式比率の推移)
今回はBUセールの運営や本年度の育成馬調教方法の考察について、少しご紹介いたします。
新規馬主限定セッション
「新規馬主限定セッション(中央馬主資格を取得してから3年以内の方のみが参加できるセリ)」は、セリ参加経験が浅い新規馬主の皆さまが安心して購買いただくことを目的として10年前の2012年に開始されました。本年は、新規馬主限定セッションに8頭の上場馬を予定していましたが、1頭は深管骨瘤による跛行のため欠場、さらにもう1頭も新規セッションから除外することになり、最終的には6頭での開催になりました。除外した1頭については、上場番号決定後に飛節に腫れを認めたため大事をとってスピードを出した騎乗供覧を控えたことによるものでした。このような対応は、さまざまな理由により騎乗供覧時にスピードを控えざるを得ないような、いわゆる「調教進度遅れの馬」を除外することで、新規馬主の皆さまに安心して馬を選んでいただくためのものです。もちろん、新規馬主限定セッションから除外した馬も「将来的に競走馬として問題ない馬」との判断をしたうえで上場順を変えて新規馬主も含めた参加者全員がビッドできる一般セッションに上場して売却に至っています。
他の新規馬主に対する取り組みとしては「育成馬を知ろう会」を開催して、BUセール前の4月上旬に新規馬主向けの馬の見方に関する勉強会や調教師と懇談する場を提供しています。また、BUセール当日も「セリに役立つ勉強会」を開催して、馬のセリや体のつくりなどを理解していただけるような講義も実施しています。
これらの取り組みの成果として、昨年までの10年間に新規馬主限定セッションで取引された馬70頭のうち、競走馬としてデビューした馬は69頭(うち地方競馬デビュー2頭)で、中央競馬での勝ち上がり率は31%と比較的高い数字です。なかには、重賞勝ち馬のエイティーンガール(6歳)や先日引退したヨシオ(9歳)などの活躍馬もいます。さらに、新規限定セッションに参加していただいた方には、その後の馬主活動を長く続けておられる方も多く、北海道市場などそのほかのセールにも参加していただいているようです。
(図2:本年の新規限定セッションの結果)
BUセール欠場馬のその後
売却率100%が注目されるBUセールではありますが、毎年10頭前後の欠場馬も存在します。欠場は育成担当者として残念な思いもありますが、セリのクオリティを維持するためには仕方がありません。ただ、全ての欠場馬が競走馬として不適なわけではなく、一時的な跛行や疾病によりBUセールに上場することが叶わなかった馬も、競走馬として問題ないと判断した場合は、適切な立ち上げを行いその後のセール等に上場して競走馬になる道を探します。(もちろん、残念ながら競走馬として不適との判断を下す馬も何頭かおります)
昨年は、オンラインビッドの導入とともに初めて実施したコンソレーションセール(コンソレーションとは慰めや敗者復活の意。以下CSセール)においてオンラインでの売却を行いましたが、本年はBUセールから1か月後に開催された北海道トレーニングセールに上場しました。北海道トレーニングセール終了時点で売却可能な馬がいた場合にはCSセール開催を予定していましたが、北海道トレーニングセールで上場馬全頭が売却できたこともあり、本年のCSセールについては開催することなく育成馬の売却を終えました。
一方、残念ながら売却することなく欠場となった馬は、十分な休養期間を経て本会の乗用馬や繁殖牝馬、BTC(軽種馬育成調教センター)で実施している騎乗者養成事業用の教育用馬等に転用することになります。なかには再調教後に競技馬として全国レベルの成績を収める馬もいます。競走馬としてデビューできなかった馬たちにも、何らかの形で競馬を支えてもらっています。
本年の育成馬の調教について
近年は競走馬の早期デビューの流れも活発となっており、皆さまの育成牧場でも様々な取り組みを行っていることと思います。JRA育成馬も早期デビューが可能な馬を目指して調整していますが、なかには晩成な体質の馬もいます。また、どの育成牧場でも課題や目標をもって取り組んでいることと思いますが、JRAの育成牧場でも毎年育成馬の調整方法について振り返りと反省を行い、馴致・調教方法を少しずつ変更しながら取り組んでいます。近年ではトレッドミルによる強調教の効果について検証してきましたが、馬体の成長面に対する影響への懸念もみられたことから、本年はトレッドミルを利用した調教の頻度や強度を減らして調整するなどの変更を試みました。そのほか、馬混みやキックバックに慣らすための隊列を組んだ調教など本会職員の騎乗技術を生かした調教も行いました。馬の個体差も大きいことから、育成期の馬に対する適正な運動負荷の設定や調教方法の評価は難しい面もありますが、これらの取り組みの成果が競走馬としての成績にどのように表れるのか競走成績や調教師への聞き取りを通してこれから検証していければと考えています。
日高育成牧場業務課長 立野大樹
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