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2024年1月15日 (月)

2023年「英・愛」種牡馬リーディングと各国の血統の融合

馬事通信「強い馬づくり最前線」第323号

 

 2023年の日本競馬は、非常に盛り上がりを見せた一年でした。特にドバイシーマクラシックを制して、レーティング世界一に輝いたイクイノックスを筆頭に、ドバイワールドカップではウシュバテソーロが、そしてサウジカップではパンサラッサが勝利するなど、日本産馬が海外G1競走で活躍しました。

 日本の種牡馬リーディングについて見てみると、昨年は激戦となりました。2022年まで11年連続で首位に君臨していたディープインパクトがついに陥落し、ドゥラメンテが最終週に逆転で初のリーディングを獲得しました。2位はロードカナロアで、キングカメハメハ産駒種牡馬の1・2フィニッシュとなりました。しかし、ドゥラメンテは2021年に早逝し、上位種牡馬の獲得賞金も拮抗していることから、今年以降も種牡馬の覇権争いは激しくなるかもしれません。

 その一方で、上位種牡馬の系統に着目すると、皆様もご存じの通り、現在の日本の活躍種牡馬の系統は、サンデーサイレンスやロベルトから広がるヘイルトゥリーズン系と、キングカメハメハをはじめとしたミスタープロスペクター系が多くを占めています。2023年の種牡馬ランキングトップ10(図1左)を見ると、ヘイルトゥリーズン系が6頭、ミスタープロスペクター系(全馬キングカメハメハ直仔)が3頭を占めています。これはサンデーサイレンス~ディープインパクトの親子やキングカメハメハの活躍により、特定の血統に偏った結果であると考えられます。

 それでは欧州の最近の種牡馬事情はどうなっているのでしょうか。2023年の英・愛種牡馬ランキングトップ10(図1右)を見ると、3位のドバウィ(Dubawi:ミスタープロスペクター系)を除いた9頭がノーザンダンサー系となっており、日本以上の偏りが確認できます。これは、クールモアグループを代表する大種牡馬サドラーズウェルズ(Sadler‘s Wells、英・愛リーディング14回:1990年、1992年~2004年)とその子ガリレオ(Galileo、英・愛リーディング12回:2008年、2010年~2020年)、そして、豪州でも長年トップサイアーとして君臨したデインヒル(Danehill、英・愛リーディング3回:2005年~2007年)というノーザンダンサー系の大種牡馬が長きに渡って英・愛競馬をリードしてきた歴史に起因しています。

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図1 日本の種牡馬ランキング(左) 英・愛の種牡馬ランキング(右)

青:ミスタープロスペクター系、桃:ヘイルトゥリーズン系、黄:ノーザンダンサー系

 さらに、2023年のチャンピオンサイアーも同系統のフランケル(Frankel)となりました。2021年に続き自身2度目の英・愛リーディング獲得で、欧州全体のランキングでは3年連続の戴冠となりました。現役時代には「史上最強」と称されたフランケルですが、種牡馬としてもすでに記録的な成績を残しています。昨年は英インターナショナルSなどG1競走を2勝したモスターダフ(Mostahdaf)など、産駒が英・愛のG1競走を9勝と大活躍しました。フランケルの父はガリレオ、母の父はデインヒルと、まさに欧州競馬の結晶と言える配合で、同配合からは数々のG1馬が誕生しています。昨年の素晴らしい活躍から、2024年度の種付け料は、ドバウィと並ぶ欧州最高価格の£350,000(約6,300万円)に設定されました。また、後継種牡馬としても昨年の凱旋門賞を勝ったエースインパクト(Ace Impact)の父クラックスマン(Cracksman)などがおり、この血統がさらに繁栄していくことは疑いようがありません。日本におけるフランケル産駒の種牡馬は、モズアスコットなど既に3頭がおり、グレナディアガーズも今年から新たに繋養される予定です。さらにアダイヤーとウエストオーバーの大物2頭も輸入され、日本競馬への広がりは加速してきています。

 昨年の欧州では、ディープインパクト産駒のオーギュストロダン(Auguste Rodin)の活躍が話題となりました。その母の父はガリレオですので、欧州で飽和している血統に日本の血統が融合して結果を出した好例と言えるでしょう。過去には欧州血統のナスルーラが米国で大成功し、近年では、米国で活躍したノーザンダンサーが欧州で、米国で活躍したサンデーサイレンスが日本で大成功を収めたように、血統の拡散がさらなる競馬の発展に寄与するとともに、それが各国の競馬をよりエキサイティングなものにすると推測されます。

 このように、現代競馬はそれぞれの開催国のスタイルが確立されていることから、各国の競馬はその国の競馬スタイルに適した馬の選抜レースという側面が強くなっています。そのため、その国に適した種牡馬や血統というものが固定される傾向、すなわち血統の飽和状態に陥ることが危惧されているともいわれています。

 日本では今後、多くの割合を占めているサンデーサイレンス系やキングカメハメハ直仔の母馬に欧州や米国の血統が融合することでどのような反応を示すのか、特にアウトブリード配合が注目されます。昨年導入されたカラヴァッジオ(JBBA静内種馬場:写真)の母Mekko Hokteは、父Holly Bull、母の父Relaunchはもちろん、4代までの8頭全ての父系がサンデーサイレンス系・ノーザンダンサー系・ミスタープロスペクター系ではない非主流のアウトブリード血統構成となっています。さらに父Scat Daddyも4代までの8頭のうち4頭の父系が同様に非主流の血統構成となっています(図2)。また、日本で活躍しているアグリをはじめ、海外でG1競走を勝利している3頭の馬はいずれも4代までにインブリードを保有していないことからも、日本でのアウトブリード血統としてゲームチェンジャーになることが期待されます。

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写真 母系がアウトブリード血統のカラヴァッジオ(JBBA静内種馬場)

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図2 カラヴァッジオの血統構成:血統表(上)とサイアーライン(下)

 

JRA日高育成牧場 業務課 竹部直矢(現在、英・愛国にて研修中)

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