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2024年1月 5日 (金)

2023BUセールを振り返って ~今シーズンに新たに実施した調教~

馬事通信「強い馬づくり最前線」第310号

 おかげさまをもちまして、今年もJRAブリーズアップセール(以下、BUセール)に上場した馬について、全頭完売することができました。ご購買いただきました方々には、この場をお借りして、改めてお礼申し上げます。今回は、JRA育成馬を調教していく上で、今シーズンに新たに意識して取り組んだ調教方針についてご紹介したいと思います。

 

〇速歩でのドライビング

 JRAではこれまでも、騎乗調教に先立ってヨーロッパ式のランジングおよび常歩でのドライビングを取り入れた「ブレーキング」を行ってきました。今シーズンに新たに取り組んだことは、常歩だけでなく「速歩でのドライビング」です(写真1・QR1)。速歩でのドライビングの利点は、常歩よりも速いスピードでの運動が可能となることによって、馬の真直性の程度や、開き手綱の扶助をどの程度理解しているかがより明確になることです。本年、速歩ドライビングを実施したことで、騎乗調教開始後にまっすぐ走行できる馬が例年よりも増加したという効果が得られました。例をあげるなら、自転車を運転する際に、ゆっくりのスピードであれば、フラフラして安定しませんが、ある程度のスピードを出し続けることでまっすぐな状態を維持できるというのと同じ原理です。

 一方、速歩ドライビングの唯一のデメリットを挙げるとするなら、それはレーンを操作する者が速歩で進む馬と同じ速さで移動しなくてはならない点です。その点について、スタッフたちには多大な苦労をかけてしまいました。しかしながら、その甲斐あって、例年以上に騎乗調教へとスムーズに移行することが可能となりました。また、速歩ドライビングでは「左!」「まっすぐ!」「右!」「まっすぐ!」「左!」「まっすぐ!」「右!」・・・という様に、短時間で多くのコマンドを馬に出し続けることとなるため、馬が人にフォーカスし、人から出される指示にすぐに応えようと従順になる効果もあると感じました。その結果、昨シーズンより騎乗時のみならず、普段の取り扱いに関しても人の指示に従順な馬が増加した印象です。

Photo

写真1.速歩でのドライビング(9月中旬:動画はQR1を参照)

Qr1

QR1

 

〇調教パターンのルーティーン化

 次に新たに意識して取り組んだことは、調教パターンのルーティーン化です。馬は「予測できる環境」に馴化、つまり落ち着くという性質があります。この性質を利用して、馬が落ち着いた状態での調教が可能となるように、本年は調教パターンのルーティーン化を実践しました。

 その方法は、調教開始時にウォーミングアップとして角馬場での速歩の後、800m屋内馬場での最初の1周を「コーナー速歩-直線ハッキング」とパターン化して、毎日繰り返して実施するというものです(QR2)。例年、スピード調教を開始した頃から馬のテンションが上がり、徐々に人の指示に従わなくなる傾向がありました。しかしながら、このルーティーン化した調教を繰り返すことによって、馬が騎乗者のコマンドを待つ状態、つまり興奮せずに冷静さを保つことが可能となり、スピード調教を開始した後も、昨年より従順であった馬が多かった印象です。

Qr2

QR2:調教パターンのルーティーン化(コーナー速歩-直線ハッキングで800m屋内馬場を1周)

 

〇坂路コースでの3列縦隊での調教

 本年は「集団調教」にも意識して取り組みました。坂路コースでの集団調教時において、昨年までは1列縦隊あるいは2列縦隊で走行していましたが、前述のように興奮せずに冷静さを保つことが可能となり、さらに騎乗スタッフのレベルも上がったことから、2列縦隊での集団調教が例年よりも容易に実施できるようになりました。そのため、今シーズンは3列縦隊での集団調教を実践し、隊列の質にもこだわりました(QR3)。

 また、調教のタイム指示については「ステディキャンター(馬が落ち着く速度で安定した駈歩を続ける)」に設定することで、馬が常に落ち着いた状態で調教を実施することが可能となりました。さらに、スピード調教時においても、2頭だけでなく3頭併走での走行を積極的に行いました(写真2)。

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写真2.坂路コースにおける3頭併走での調教(1月下旬)

Qr3

QR3:坂路コースにおける3列縦隊での集団調教

 

〇1600m馬場における3列縦隊での調教

 3月下旬にBTCの1600m周回ダートコースが開場してからは、同馬場でも3列縦隊の調教を行いました。直線だけの坂路とは異なり、隊列を維持したままコーナーを曲がらなくてはいけないため、騎乗者にはより高度な技術が要求されます。これまで馬が騎乗者の指示に従順となるように調教が進んでいたため、競馬に類似した馬群を想定した調教が可能となりました(QR4および5)。

 このように、今シーズンの最終目標として、実際の競馬に類似した状況下での調教を実施することによって、競馬出走時においても、前後左右を他馬によって囲まれてもひるまずに走行できる馬、つまり群れに慣れる馬を作ることを目指しました。

1600


写真3.1600m馬場における3列縦隊での調教(3月下旬:動画はQR4・5を参照)

Qr45

QR4(左)およびQR5(右:騎乗者カメラで撮影した映像)

 

〇おわりに

 今回は、今シーズン新たに取り組んだ調教内容をご紹介いたしました。今シーズンは当場の騎乗スタッフおよび騎乗研修を実施していたBTC生徒たちが本当に良く頑張ってくれたため、シーズンを通してレベルの高い調教を行うことができました。

 JRA日高育成牧場では、BUセール後に競走馬として順調にデビューできる馬、さらには勝つことのできる馬を目指して日々調教に取り組んでいます。その過程で得られた知見は、各種講演会や出版物で発信しております。今回の記事が普段育成牧場で馬を調教されている皆さんの少しでもお役に立てば幸いです。

 

JRA日高育成牧場 業務課長 遠藤祥郎

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