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2024年9月25日 (水)

レポジトリーに関する調査

先日、本年最初の1歳せりである九州1歳市場が開催されました。道内でも、今月のセレクトセール、セレクションセールを皮切りに本格的なせりシーズンが始まります。そこで今回は、市場で公開されるレポジトリーの所見に関する調査について、昨年末開催された講習会「レポジトリーに関する異常所見や調査研究」(主催:静内軽種馬生産振興会、講師:JRA久米紘一 獣医師)の内容から抜粋してご紹介します。

 調査は、2017~2023年に行われた北海道市場(セレクション、サマー、セプテンバー)に上場された12977頭のうち、レポジトリーを確認した4815頭を対象としました。気になるレポジトリー所見として喉頭片麻痺(LH)グレードⅢa以上、大腿骨軟骨下骨嚢胞(SBC)グレード3以上、球節部以下SBCを取り上げ、それら有所見馬の売却率、売却金額、出走率、初出走日、獲得賞金を調査しました。

 

喉頭片麻痺(LH)

 LHは、披裂軟骨(左側90%以上)の開きが悪くなることにより気道が狭くなり、状態次第では異常呼吸音(ヒューヒュー音)や運動不耐性(プアパフォーマンス)を呈します。披裂軟骨の外転の程度によりグレードⅠ(正常)~Ⅳに分類され(図1)、グレードⅢ以上でプアパフォーマンスの可能性が高くなることが知られています。

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図1 喉頭片麻痺グレード

 

軟骨下骨嚢胞(SBC)

 SBCでは、関節に面した骨に体重負荷がかかることで軟骨が損傷し、骨内部の空洞化が認められます。無症状のままレポジトリーで初めて見つかることも多いかと思います。ほとんどの関節で発生することが報告されていますが、レポジトリーでは後膝(大腿骨)(図2)や球節以下(第3中手骨、第1~2指/趾骨)(図3)で見られることが一般的です。大腿骨SBCはグレード1~4に分類され、過去の調査ではグレード3以上で跛行のリスクが高いことが報告されています。

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図2 大腿骨軟骨下骨嚢胞およびグレード

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図3 第3中手骨SBC(左・中)第2指骨SBC(右)

 

 調査結果を表1に示します。いずれの所見を認めた場合でも、売却率は8割近くであり、売却金額とともにせり全体の結果との差は認めませんでした。また、中央および地方競馬の出走率はいずれの所見も9割以上と高く、初出走日、獲得賞金の結果(2017~2021年上場馬を対象)においても、所見を認めない対照群と比較して差はありませんでした。これらの結果より、一般的にリスクが高いとされている上記レポジトリー所見ですが、市場成績、競走成績への影響は限定的と言えます。ただし、本調査では症状(跛行や喘鳴音)の有無や、手術を含む治療の有無について個別には言及していないため、中には後期育成期以降にスムーズさを欠いた症例もいたかと思います。

 

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表1(中央値)

 

レポジトリーは購買時の重要な指標の一つですが、全く所見を認めない場合でも疾患のリスクがゼロになることはありません。最も大切なことはコンフォメーションや血統、予算、その他公表事項などを含めて総合的に判断することであり、購買者本人が納得した状態で取引に参加することです。JRAはブリーズアップセールでは運営・販売者側、1歳市場では購買者側であり、両方の経験を持つ私たちだからこそ、今後も新しい知見を発信していきたいと思います。

 

JRA日高育成牧場 業務課主査 原田大地