食用油給与の効果
近年、馬への食用油給与は珍しいことではなくなりました。その効果を最大限に発揮させるため、馬への適切な食用油給与についてご紹介いたします。
馬のエネルギーの元となる栄養素は、五大栄養素(図1)のうち、炭水化物、脂質、タンパク質の3つです。タンパク質は血液や筋肉の元となるため、炭水化物と脂質が大きなエネルギー源となります。馬が摂取するエネルギーの大半は、牧草等の粗飼料に含まれる植物繊維と濃厚飼料に含まれるデンプンから得る炭水化物です。一方で、食用油は成分のほとんどが脂質であり、そのままエネルギー源となることが最大の特徴です。食用油給与の効果として、第一に効率的にエネルギーを給与できる点、第二に濃厚飼料と置き換えることでデンプンの給与量を減らすことができる点が期待されています。
効率的なエネルギー給与
脂質のエネルギーは炭水化物やタンパク質の2~3倍です。同じ量の飼葉を食べても太りにくい馬や、食が細く食べる量が少ない馬に効率良くエネルギーを給与する方法として、食用油が利用されます。また厳冬期には寒冷ストレスにより体温が奪われ、エネルギー要求量が増加する場合があります。このようなときのエネルギー補給にも食用油の給与は有効です。
デンプンとの置き換え
濃厚飼料の多給は疝痛や蹄葉炎などの食餌性疾患を引き起こすことは広く知られており、その原因は濃厚飼料に含まれるデンプンと言われています。デンプンは本来小腸にて消化吸収されるべき栄養素です。しかしながら濃厚飼料の多給によって消化吸収されなかったデンプンは盲腸に流入します。盲腸へデンプンが多量に流入すると、後腸アシドーシスや腸内細菌叢の乱れ、疝痛など様々な疾患を引きおこす原因となります。
妊娠末期や泌乳期、運動量の多いときなど、エネルギー要求量が多いときには、どうしても濃厚飼料の給与量が増えてしまいます。そのような場合に穀物などのデンプンを食用油に置き換えることで、デンプンの給与量を抑えることが可能です。例えば、エン麦のエネルギーは3Mcal/kgに対し、食用油は9Mcal/kgとエン麦の3倍にもなります。したがってエン麦1.5kgは食用油0.5kgに置き換えが可能です(図2)。
図2. エン麦1.5㎏と食用油0.5kg(エネルギーは同量)
食用油給与時の注意点
食用油給与時の注意点についていくつかご紹介いたします。食用油は植物性油と動物性油のふたつがあります。馬は草食動物ですので植物油を好み、動物油は嫌います。また馬の基本的な飼料中の脂質は全体の2~5%と少ないため、飼葉の嗜好性低下には注意が必要です。成馬であれば1日あたり1L程度は給与しても構わないとされていますが、過剰給与は嗜好性やパフォーマンスの低下につながりますので、馬の状態を適宜確認しながらの給与を推奨いたします。
最後に
食用油は脂質以外の栄養素を含まず、消化管への負担も軽減するなど、エネルギーの補給源として大変有用です。また、毛艶や皮膚の調子が良くなるなどの効果も認められています。太りづらい馬や妊娠後期のエネルギー要求量が増加しはじめる繁殖牝馬、また市場上場予定馬のコンディション調整のために食用油の利用も選択肢のひとつとして検討してみてはいかがでしょうか。
JRA日高育成牧場 生産育成研究室 根岸菜都子