寄生虫対策の現状
馬の管理上、内部寄生虫対策は非常に重要であることは言うまでもありませんが、「決まった駆虫薬を投与する」という方法以外に明確な対処法を実施できていないのが現状です。しかし、その駆虫薬ですら万能ではなく、近年駆虫薬が効かない「駆虫薬耐性虫」の増加が世界的な問題となっており、日本国内でも同様の事例は起こっています。今回は、駆虫薬耐性虫が増加してしまった要因とその対策法について改めてまとめてみたいと思います。
複数の牧場に協力していただいたアンケートによると、ほぼ全ての牧場で何らかの駆虫薬を定期的に投与しているという回答が得られました。では、これで万事解決かと言うとそう簡単ではなく、駆虫薬投与にも関わらず十分な効果が得られていない牧場が散見されています。つまり、駆虫薬の効かない駆虫薬耐性虫がすぐそばにいるかもしれない、ということになります。なぜこのような駆虫薬耐性虫が増えてきたのでしょうか?
いわゆる駆虫薬の効かない、もしくは効きにくい虫というのは一定の割合で出現していると考えられています。多くの場合は突然変異などによって発生した少数派であるため、同種間の生存競争を生き残ることができていませんでした。しかし、駆虫薬によって耐性を持っている虫以外が駆虫されると生き残った駆虫薬耐性虫には増加するチャンスが生まれます。生き残った上でうまく馬の体内に入り込んだ駆虫薬耐性虫がそこで多くの虫卵を産生し、次世代が数を増やして耐性虫群を作ることに成功するとその馬の飼育されている牧場では駆虫薬が効かない、という事態が発生してしまうのです。
また、駆虫薬を投与する時期も重要です。寄生虫には発育や生存に適した条件、適していない条件があり、真夏や真冬などの生存環境の厳しい時期には寄生虫の総数が少なくなっています。その時期に駆虫薬を投与して耐性虫が残ってしまうとその数自体が少なくても群の中での相対的な割合が高くなってしまい、より駆虫薬耐性虫が数を増やして耐性虫群を形成する可能性が強まってしまうことになります。
つまり、闇雲に駆虫薬を投与し続けることは駆虫薬耐性虫を選抜し、増加の手助けをしてしまっているとも言えます(図参照)。
このような状況は問題視されており、従来の駆虫薬を使用しつつ駆虫薬耐性虫を増やさないための対策が考えられてきています。その最終的な目標は①栄養失調や消化管の閉塞など寄生虫感染によるリスクを最小限にする、②虫卵排出を減少させる、③駆虫薬耐性虫の出現を抑えて駆虫薬の有効性を保つこととされており、駆虫薬耐性虫を全滅させることではありません。なぜなら馬体外に存在している寄生虫を根絶することは不可能かつ少数の寄生で馬に重篤な症状を引き起こすことは稀だからです。①と②については従来の寄生虫対策とほぼ同様で、寄生虫感染の影響の大きい若馬を中心に計画的に駆虫薬を投与して馬体内の寄生虫を減らしつつ、馬糞拾いや拾った馬糞の確実な堆肥化、放牧地のローテーションやハロー掛けといった牧草地の寄生虫にとって生存しにくい環境の維持に努めることが大切です。そして③が近年重要視されています。
駆虫薬耐性虫をできるだけ出現させないためには計画的な駆虫プログラムにおいて「一年の適切な時期に効果的な駆虫薬を投与すること」と、「駆虫薬耐性虫の出現をいち早く検知すること」が大切になります。前者は先ほど述べた通り、駆虫薬投与の時期次第では駆虫薬耐性虫の増加を助けてしまうためです。一方、後者に関しては、これまでの糞便虫卵検査を応用することで可能となります。これまでは感染している寄生虫の種類及び排出される虫卵の量を調べるために実施していましたが、駆虫薬投与前後の虫卵数を調べる「糞便虫卵数減少試験」により虫卵の減少率を調べることで駆虫薬耐性虫の有無が確認できます。
日本においてもすでに駆虫薬耐性虫の存在が確認されています。これからの寄生虫対策には駆虫薬耐性虫を念頭に置いた対策が不可欠であり、その存在を明らかにするためには糞便虫卵検査の有効活用が現状では最も効果的であると考えられています。まだまだ細かい対策法の策定には調査、分析が必要ですが、今後も新たな対策につながる結果が得られましたら報告していきたいと考えています。
日高育成牧場 生産育成研究室 国井博和