アブ
厳しい夏の暑さも去り、人も馬も過ごしやすい季節になってきました。さて、厳しい夏に馬関係者を悩ませるタネの1つとして「アブ」があるかと思います。放牧地などでアブが馬に集ることで馬のストレスは勿論、馬取扱者、装蹄師、獣医師にも二次被害的に危険が及びます。しかし、決定打となるようなアブ対策が確立されていないのが現状であり、日高育成牧場でもアブ対策を現在進行形で試行錯誤中です。今回はアブ対策を考えていくうえでそもそもアブってどんな虫なのかという点を私が勉強した内容からご紹介しようと思います。
分類
分類学的にはアブは昆虫綱、双翅(ハエ)目、短角亜目、アブ科に属しており、日本では約100種類弱のアブが生息しています。北海道ですとニッポンシロフアブ、キンイロアブ、アカウシアブといった種がよく見られます。
形態
アブの成虫は種によって大きさや色彩の変化に富んでいますが、総じて頭部が大きくその大半を複眼が占めています。両複眼の位置関係は雌雄判別に最適で、雄では両複眼がくっついており、雌では離れていています。
生活環
続いてアブの生活環ですが、多くの昆虫と同様にアブも卵、幼虫、蛹、成虫へと発育します。交尾を行った雌アブは100~800個ほどの卵を葉の裏側などに産卵します。卵は1~2週間ほどで幼虫となり、期間が長い種では2~3年幼虫のまま土の中で発育していきます。アブの幼虫の生息的地は種によって異なりますが、湿地帯、林床、草地など多岐にわたり、多種の土壌性昆虫・微生物を捕食します。また、卵寄生性蜂や捕食虫といった天敵の存在、同種の幼虫同士で共食いのため、腐食食性のハエなどの幼虫に比べアブの幼虫の生息密度は著しく低いです。その後1~2週間の蛹期間を経て羽化し、成虫として1か月程度生存します。
吸血
アブはどの個体も吸血していると思う方が多いと思いますが、アブで吸血するのは雌のみです。これは卵巣の発育に必要な栄養を得るため、つまり産卵の準備のために吸血が必要だからです。次世代を残すために吸血へのアブの執着は強く、吸血源の探索のために数kmもの距離を移動することが実験的に確認されています。一方で、一度吸血源となる個体を見つけると、たとえ吸血を中断させられても同一の個体もしくは近くに存在する同じ群の別個体に対して執拗に飛来し吸血を行うので、吸血を受けている個体は常にアブに襲撃され続け多大なストレスとなります。雌は吸血したのちに交尾をし、産卵しますが、一部のアブでは無吸血産卵という厄介な性質をもっており、吸血前に交尾、産卵をしてしまうため成虫の数を抑制しても次世代の抑制につながらない場合もあります。吸血の他は花蜜や樹液を摂取して生活しています。
吸血嗜好部位は一般的に皮膚の柔らかい部位ですが、種によって主な吸血部位が異なります。例えばニッポンシロフアブは腹部や四肢を、アカウシアブは背中を好んで狙います。吸血量はアカウシアブなどの大型種で500mg、ニッポンシロフアブなどの中型種で120mgと虫自身の体重の1~2倍もの量を吸血します。また一般的にアブは青や黒といった草の緑とのコントラストが大きい色に好んで集まる習性があるため毛色が暗い馬は集られやすい傾向があります。
対策
害虫の防除としてはその発生源をなくすことが基本ですが、アブの生息場所が多様で多岐にわたる点、幼虫の生息密度が低く幼虫に対する殺虫剤散布は効果が低い点、さらに数kmもの長距離移動が可能な点から発生源へのアプローチは現実的ではありません。そのため現状では、飛来するアブの成虫をトラップで捕獲していくのが確実な防除法となっており、日高育成牧場でも本年度からアブトラップの利用を始めました。8/6までのサンプリングの結果、13種類、5,100匹のアブが採集されました(図参照)。アブトラップの注意点としてはアブが種類ごとに吸血嗜好部位が異なる習性から、トラップの形状により捕獲しやすいアブとしにくいアブが存在することです。牧場内での優占種を見極めそのアブに適した形状のアブトラップを選択するのが大事なポイントであると考えています。(日高育成牧場の優占種はニッポンシロフアブ)
アブに対する忌避剤も流通はしていますが、長時間有効なものがないのが現状です。アブ忌避剤については現在進行形で帯広畜産大学の菅沼啓輔准教授が中心となり、馬用アブ忌避剤を開発中です。既存薬とは異なる形状のアブ忌避剤開発など、広い視点での開発を考えています。
最後に
アブの生態についてネットなどを調べてみてもなかなか情報が掲載されていないと感じ、今回文献などから得た情報を簡単にまとめてみました。皆様の来年以降のアブ対策の一助になれば幸いです。