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2018年11月20日 (火)

セリ馴致と上場馬の魅せ方

No.11 (2010年6月15日号)

 7月にはいると、八戸市場(7/6)、セレクトセール(7/12・13)、セレクションセール(7/20・21)などの1歳および当歳市場が始まります。すでに上場馬も決定し、生産牧場やコンサイナーにとってセリ上場に向けての準備が忙しい季節がやってきました。今回は、「JRA育成牧場管理指針」の中から、バイヤーの目を引きつける馬のセリ展示方法について紹介いたします。

セリ展示方法

 まず、JRA購買関係者が、セリに上場された馬に対する上場者の飼養管理や手入れについて注目している点を述べます。

 一般に、セリにおいて高額で売却される馬は、血統、肢勢や馬格などの先天的要素に加え、適切な運動や飼料給与による飼養管理によって見栄えのいい馬体につくられています。その中でも、よく躾ができており、人の指示に対して従順に駐立や常歩などを実施することができる馬は、その後の調教がスムーズに移行できることから、安心して購買することができます。上場馬のプレゼンテーションとして、きれいに手入れされた展示用の頭絡を装着し、ブラッシングによって被毛がピカピカに磨かれている馬には思わず目がとまります。また、長さを揃えられたてがみをブラシできれいに右に寝かせ、顔のひげ、耳毛や球節部の距毛までもカットされる等の細やかな手入れが行われている馬は、よく手がかけられている印象を購買者に与えます。このように手入れやトリミングによって馬の身だしなみを整えることは、購買者にサラブレッドとしての気品溢れる美しさや肢先の軽い印象を与える効果があります。

 一方、見かけの良さに加えて、常歩において快活で力強い動作を自然にみせる馬には、競走馬としての将来的素質を感じることができます。セリ会場において、購買者から注目される馬は、何回も馬房から引き出され検査を求められます。しかし、馬はどんなに疲れていても元気よく歩かなくてはならず、また、歩くときはいつでも、人の指示に従っていなくてはなりません。このときの常歩の印象が購買者に与える影響は大きいものです。したがって、いつでも力強い大きな常歩ができるよう、引き馬によって馬を躾ける準備期間が必要です。こうした準備には、およそ2-3ヶ月を要するものと考えられます。

チフニービットと引き馬

 JRAが購買後の1歳馬に引き馬を教える際、馬が暴れたときに制御することができるチフニービット(ハートはみ:写真1)を装着して実施します。このハミはハートの形をした金属でできており、上の部分を口の中にいれ、ハートの下部は下あごの周囲に位置し、この下あごの真下の金属部分に1本の引き手が連結しています。馬が暴れた際に、地上にいる御者からハミに強く作用することができることから、引き馬での制御に効果的です。このハミは欧州で使用されることが多いのですが、近年、わが国の競馬場のパドックでも競走用ハミ頭絡の上から装着しているのをよく見かけます。しかし、残念ながらハミの特性が理解されていないのか、下あご部分に引き手を装着せず、頬革に連結するハミの横部分に2本の引き手を装着する馬が多いようです(写真2)。チフニービットを使用してパドックで馬を引く際には、1本の引き手を使用した方が、2本の引き手よりも効果的に馬を制御できるものと考えられます。

 セリ馴致で引き馬を実施する際には、人のポジションが重要になります(写真3)。つまり、牛のように馬を『引っ張るのではなく』、馬の肩の横に位置して『馬と一緒に歩く』ことが重要です。横から見て馬の頭よりも後方に人が位置し、そこから馬に対して『前に歩く指示』を出すことで、馬自らが前に向かって『意欲的に歩く』ことを覚えさせます。また、人が馬の頭の位置よりも前や横にいると、引き手を噛んだり人の腕を噛んだりして遊ぶことを覚えることもあるので注意が必要です。この人馬の位置関係は、騎乗馴致を行う際のダブルレーンを用いたドライビング(写真4)とも似ています。ドライビングでは、馬の後方にいる御者が馬に対して前に出る指示を出し、その前進気勢をハミで受けて制御します。つまり、これは人が馬に騎乗した際の位置関係と同様であり、引き馬で正しく歩かせることができることは、今後、騎乗する際に従順な馬を躾けることにもつながってくるのです。

 なお、馬に体力をつけ速く歩くことを教える上で、引き馬と併用してウォーキングマシンの使用は有効です。ウォーキングマシンの活用によって馬自らが物理的に速く歩くことを覚えさせることができます。JRA育成馬におけるウォーキングマシンのスピードは、最初は5~5.5km/hとし、徐々に6.5km/hくらいまで上げて実施しています。しかし、ウォーキングマシンのみでは人馬の約束事を構築することができませんので、セリ馴致に引き馬は欠かすことができないことを忘れてはなりません。

 今回記載したセリの準備のために必要なトリミング、引き馬および展示方法については、2009年12月に発刊した「JRA育成牧場管理指針」-日常管理と馴致(第3版)-に記載されています。この冊子を必要とされる方はJRA馬事部生産育成対策室までお問い合わせください。

(日高育成牧場 業務課 遠藤 祥郎)

Fig1 写真1) チフニービット(ストレートバー)
引き手は下部のリングに1本装着して使用します。横のリングに引き手をそれぞれ2本装着すると効果は半減します

Fig2_3写真2) 競馬場で2本の引き手をチフニービットの両横から装着し張り馬にしている誤った使用方法

Fig3写真3) 馬の肩の位置に人がポジションした引き馬 

Fig4 写真4) ドライビングはこのように2本のダブルレーンを用いて馬の後方から操作します

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