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2018年12月 6日 (木)

胎子の発育と発達

No.12 (2010年7月1日号)

初回妊娠鑑定のあと・・・
 獣医師から「とまってますね。」の言葉を聞けたときの喜びはひとしおです。しかし、その後の妊娠馬の検査は獣医師によって様々で、検診の時期や回数といった要素まで加えると、繁殖牝馬と腹の中の胎子の検査体制は千差万別です。そのうえ、全ての胎子の発育や発達が当たり前の順序で進んでいくとは限りません。双胎、奇形、臍帯や胎盤の異常、感染症など様々な要因で流産してしまったり、生まれても競走馬になれなかったり悔しい思いをすることもあります。今回は、そのような事態を予防したり早期に診断するために知っておきたい、胎子の発育過程について紹介します。

胎子への発達過程
 図1のとおり、受精卵から胎子へと短期間に大きく変化しながら発達していきます。この発達過程では、子宮内環境やホルモンの影響を受けやすく、早期の胚死滅はこの時期に発生します。また、遺伝的な奇形はこの時期から認められることがあります。

双胎(双子)の予防
 ほとんどの場合、馬の双子は二卵性です。これは卵巣で二つの卵胞がほぼ同時期に排卵した際に種付けをすると起こります。排卵後12日くらいから超音波画像診断(エコー)で観察できる胎胞と呼ばれる卵が2つあることで診断します(図2)。この後2つの卵は別々に子宮の中を移動しながら成長し、排卵後16日に子宮内で育つ場所を見つけて動かなくなります。このまま成長してしまうと、流産や何かと不利な双子が生まれてしまうことになります。
 これを予防するために、排卵後14日前後にエコー検査で双胎が見つかったら「減胎処置」を行います。この処置は、片方の胎胞を子宮の端に誘導して、圧力をかけて破砕します。「減胎処置をすると流産しやすい」なんて話を聞いたことがあるかもしれませんが、適切な時期に減退処置を行い、子宮の炎症を防ぐフルニキシンメグルミンを投与すれば、その確率は低くなります。

奇形の診断
 奇形の原因には、遺伝的因子の他、子宮の狭さや子宮内での胎勢といった環境因子があります。後者については妊娠期間に繁殖牝馬を太らせすぎないとか、適度な運動を課すといった予防方法が知られているものの、肝心な奇形の有無は出産してから分かるのが現状です。それでは、定期的なエコー検査で早期診断ができるかというと、今までのエコーでは非常に難しいものでした。
 JRAでは、ヒト医療で実用化されている3Dエコーを導入し、妊娠6カ月までの胎子を観察することに成功しています(図3:成績の一部は、今夏にケンタッキー州で開催される国際馬繁殖学学会で報告予定)。3Dエコーのメリットは、これまでのエコーで困難とされていた胎子表面の細部にわたる観察が、理解しやすい画像で簡単にできることであり、周辺牧場や近隣獣医師にご協力いただき、精力的に研究をすすめているところです。今後3Dエコーの普及が進むと、奇形胎子の早期発見が容易になってくると考えられます。

早期胚死滅の予防と予測
 排卵から50日前後までに胎子が消えてしまう早期胚死滅に関する研究から、繁殖牝馬のボディ・コンディション・スコアを適切に保ち、子宮の回復を待つために初回発情での種付けを見送る、などは、ある程度の予防効果があると考えられています。早期診断には、客観的かつ正確に子宮内部の観察ができるエコー検査が役立ちます。例えば、排卵後21日の胎胞の直径が平均より小さいとか、カラードプラー機能で確認できる胎子心拍数の急激な増加といったエコー検査で得られる様々な情報から、胚の死滅や胎子の死を予知するという研究も進みつつあります。

臍帯の異常
 臍帯にも様々な異常が観察されます。主として胎子が位置方向を変えることができる妊娠中期に起こり、臍帯捻転による胎子の酸欠や、臍帯が四肢に絡んで関節など骨格・肢勢異常の原因となることもあるようです。こういった臍帯や四肢に起こる変化も、研究段階ではありますが、前述した3Dエコーによって早期に発見できるようになると考えられます。

胎盤炎の早期診断
 妊娠後期に発生する流死産の原因の3割強を占めるとされるのが、胎盤炎です。主な原因は、細菌や真菌の感染であり、その結果、胎子と母馬の間の酸素や栄養の受け渡しを行う胎盤が機能しなくなります。外見的な診断では乳房の早期の腫れや漏乳があり、血液検査ではホルモンの異常な増減がみられます。エコー検査では、このような状態の胎盤の厚さは正常時の1.5倍になっていることが確認されているようです。こういった診断を組み合わせることで、迅速な治療を施せるようになってきています。

強い生産者・強い馬づくり
 妊娠中の繁殖牝馬へのエコー検査は不可欠な診断法として、世界でもその重要性が認識され、研究が続けられています。これからも、生産者と獣医師が一丸となって双胎や早期胚死滅を防ぎ、「強い馬づくり」、「安定した生産」のための研究が必要であると考えています。

(日高育成牧場 生産育成研究室 琴寄 泰光)

Fig1

Fig2

Fig3

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