繁殖牝馬と子馬の蹄管理
No.13 (2010年7月15日号)
蹄なければ馬なし
蹄は馬体を支える土台であり、蹄の良し悪しは競走能力にまで影響を及ぼします。放牧管理が主となる若馬の蹄が健全であれば、放牧地での運動量が豊富になり、基礎体力が向上します。また、繁殖牝馬の蹄に問題があると、運動不足による難産や分娩後の子馬の運動量低下の原因にもなります。そこで今回は、繁殖牝馬と子馬の蹄管理の基本について紹介いたします。
蹄の構造としくみ
適切な蹄管理を施すために、蹄の構造としくみについて知っておく必要があります。なぜなら、蹄病は、蹄表面に発症する場合もありますが、歩様違和や跛行の多くは、蹄内部の異常に起因しているからです。蹄は、前方より蹄尖部(ていせんぶ)、蹄側部(ていそくぶ)、蹄踵部(ていしょうぶ)に分けられ、蹄尖部と蹄側部は蹄壁(ていへき)が厚く、内部も蹄骨が葉状層によって強固に蹄壁と結合しているため、比較的硬い構造をしています。一方、蹄踵部は蹄壁が薄く、内部は蹄軟骨や蹠枕(せきちん)などの軟らかい組織からなります(図1)。歩行、運動時には、これらの軟らかい組織が緩衝装置として重要な働きをするとともに、その収縮により、蹄内の血液循環を促進するポンプのような役割りも果たしています。蹄が「第2の心臓」と言われる由縁でもあります。
繁殖牝馬の蹄管理
競走馬や育成馬のような激しい運動をしないからといって、繁殖牝馬の蹄管理を軽視することは、先に述べた理由のみならず、蹄病の進行によって生命の危機に陥ることもあるので危険です。分娩前には体重が通常時より80~100kg重くなることを繰り返しているうちに、繁殖牝馬の蹄は凹湾(しゃくれ状態)しやすくなり、二枚蹄や裂蹄(れってい)、蟻洞(ぎどう:蹄壁の深い部分が空洞化する状態で、蟻の巣に例えられる)へと進行します。これらを予防するためには、凹湾による蹄尖部の延長を防ぎ、歩行時の蹄の反回をよくする(蹄の先端部分へのストレスを軽減する)必要があり、こまめな端蹄廻し(はづめまわし:ヤスリで先端部分を修正する)が効果的です。これは、生産牧場の方でも少し習得すれば実践可能な技術ですので、是非挑戦してみてください。
先に述べた「第2の心臓」が、歩行困難や負重困難などの理由により十分機能しなくなると、蹄への血液循環が悪化し、蹄壁と蹄骨が分離する蹄葉炎に至ることがあります。これは、穀類などの炭水化物を多く含む飼料を過剰に摂取することが引金になることもあります。蹄葉炎は、安楽死の原因ともなる重要な疾病であり、繁殖牝馬の発症例も少なくありません。蹄葉炎から競走馬生産の根源である繁殖牝馬を守るためにも、日常の蹄の裏掘りや馬房内の清潔さを保持することなど、適切なケアに心がける必要があります。
子馬の蹄管理
子馬の蹄は、蹄質が軟らかく、肢勢や歩様などによる影響を受けやすくなっています。また、肢勢も急速な成長に伴い、大きく変化します。このため、日頃から蹄を注意深く観察し、不正摩滅や蹄形異常の早期発見に努める必要があります。子馬の最初の削蹄は、生後2~3週あたりに姿勢チェックを兼ねてバランスを整える程度とします。削蹄などの蹄管理は、馬が生きていく限り継続されるものであるため、子馬に恐怖心を与えないよう、かつ人馬の安全確保のためにおとなしく駐立できるよう慎重に行ないます。たとえば、前肢を処置する際には子馬の尻部を馬房のコーナーに向ける、逆に後肢を処置する際には子馬の頭部をコーナーに向けるようにすると、馴致効果も得られます。
子馬の蹄に過度の摩滅を認めた場合には、軟らかい蹄角質への負担を軽減することを目的とした装削蹄療法が施される場合もあります。
子馬の趾軸矯正
子馬には先天性、後天性を含め、さまざまな趾軸異常が認められます。これらは、成長とともに改善するものもありますが、放置すると進行し、市場価値を低め運動機能の低下や運動器疾患の発症要因となる症例もあります。子馬の肢勢や趾軸の特徴とその変化をよく観察し、異常があれば手遅れになる前に、装蹄師や獣医師に相談することが重要です。適切な器具を利用した装蹄療法、薬物投与や外科的な治療などさまざまな療法がありますが、最大限の効果を得るためには治療を始めるタイミングが決め手となるので、早めに相談しましょう。
(日高育成牧場 専門役 粠田 洋平)
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