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2018年12月11日 (火)

離乳に向けて

No.15 (2010年8月15日号)

日本と欧米との離乳に対する考え方の違い
 この紙面をご覧の皆様方は、日高地方の晩夏から早秋の風物詩といえば“子馬の離乳”を想像されるものと思われます。離乳は悲しい離別の儀式と捉えられ、離乳直後の子馬が母馬を呼ぶ「いななき」を耳にすると、胸を締め付けられる思いになります。実際、離乳後には明らかにストレスを受けているように見えることも少なくなく、食欲が落ち、体重が減ることもあります。そのため無事に離乳が行われることを願い、「大安」の日を選んで行う牧場も少なくありません。
 一方、欧米では日本ほど離乳を特別なものとは考えていません。広大な敷地面積を有する欧米の牧場では、子馬と母馬を完全に隔離することが可能であり、24時間放牧などを実施しているために、母馬を想うストレスを最小限に止められることが、その一因となっているのかもしれません。また、それ以外にも文化の相違、すなわち人の親子を例にとっても、1歳の幼児でさえ母親と別々の寝室で寝ることが珍しくはない欧米と、5歳頃までは添い寝を続ける日本との意識の相違でもあるようにも思われます。


離乳の方法
 離乳の方法として、以前は母馬の飼育環境は変更せずに、子馬を離れた厩舎に移動させることが主流であったようですが、この方法では離乳直後に子馬の体重が大きく減少し、離乳後1週間程度は体重が回復しないということも少なくありませんでした。
 近年は、子馬のストレスを最小限にとどめることを目的として、子馬の飼育環境は変更せずに、母馬を移動させる牧場も増えてきています。すなわち、複数組(一般的には5~6組)の親子の群れから同時に全ての母馬を引き離すことはせずに、半数ずつの母馬を1~2週間間隔で2度に分けて引き離す「間引き方法」が普及してきました。この場合には、他の子馬に対しても寛容である気性の穏やかな母馬を残すことによって、先に母馬から離れた子馬が安心して群れの中で過ごすことができるようになります。また、離乳後は、昼夜放牧の実施や1つの馬房に仲の良い子馬を2頭で収容し、子馬が馬房で1頭になる時間を可能な限り少なくすることで、離乳によるストレスが軽減されます。
 母馬と別れることは、子馬にとって非常に不安であることは間違いありません。しかし、群れで行動する馬という動物の性質を考えた場合には、離乳後すぐに群れの中で安心して過ごさせることが最も重要なポイントになると考えられます。


離乳の時期
 離乳の時期については、「精神面」と「肉体面」の両方を考慮する必要があります。すなわち、「母馬から精神的に独立できる時期」および「母乳からの栄養供給に頼らずに成長することができる時期」を理解しなければなりません。
 複数組の親子それぞれにGPSを装着し、親子間および子馬同士間の距離を調査した結果、親子間の距離は週齢とともに徐々に広がり、反対に、子馬同士の距離は週齢とともに徐々に近づき、それぞれの距離はおよそ15~16週齢で一定になることが明らかとなっています。この調査結果から「精神的な離乳」は、16週齢以降と推測されました。一方、「肉体的な離乳」は離乳後の発育に必要な1~1.5kgの飼料を摂取できる4ヶ月齢以降と考えられています。このように「精神的な離乳」と「肉体的な離乳」の両方を考えた場合には、離乳の時期は早くても4ヶ月齢以降と考えるべきではないかと思われます。

まとめ
 離乳は「早からず、遅からず」が理想ですが、当歳セールへの上場時には、セリ前に離乳を終えておく場合もあり、また1歳セール後にならなければ馬房が空かないために、秋以降となってしまう場合もあり、各牧場の事情によって異なっているのが現状です。
 一般的な離乳の条件は、体重が220㎏以上、最低でも1kgの飼料の摂取が可能であることが目安となっており、これらを考えると離乳は5~6ヶ月齢が適期であると考えられます。さらに、7月中旬から8月中旬までの気温が高く、吸血昆虫が多い時期の離乳は、ストレスが多いために、避けた方が良いかもしれません。

(日高育成牧場 専門役 頃末 憲治)

離乳時期の目安
① 5~6ヶ月齢
② 体重220kg以上
③ 1~1.5㎏の飼料摂取


離乳による子馬へのストレス回避のために
① 子馬の飼育環境は変更せず、放牧群の母馬を約2週間間隔で2回に分けて間引く
② 馬房で1頭になる時間を可能な限り少なくする⇒ 昼夜放牧の実施や2頭を同一馬房に収容
③ 7月中旬から8月中旬までの気温が高く、吸血昆虫が多い時期の離乳は避ける

Fig1 残った母馬(右端)を取り囲む離乳直後の子馬達

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