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2018年12月12日 (水)

育成馬の運動器疾患について

No.16 (2010年9月1日号)

 来年の競馬デビューに向けて1歳馬の騎乗馴致がそろそろ始まる時期となりました。これから、調教が進むにつれ、様々な問題が出てくる時期だと思います。今号では、育成に携わる方々が様々な場面で悩まされる「育成期の運動器疾患」のうち、ここでは「屈腱炎」やレポジトリーに関係する「種子骨炎」「OCD」を中心に紹介します。

① 屈腱炎:近年の育成段階における調教強度増加によって、症例数も徐々に増えている傾向にあるようです。腱炎といっても様々な症例がありますが、その中でも球節掌側(裏側)の浅屈腱炎が増加しているようです。原因は過度な運動による浅屈腱の過剰緊張や腱線維の高温化などがあり、症状は同部の帯熱・腫脹および触診痛を認めます。診断は主にエコー検査によって行われますが、競走馬総合研究所常磐支所などで実施した調査によると最大損傷部位が20%を超えるレベルでは、競走復帰率が大幅に低下するとされています。最近の治療法では、幹細胞移植(カネヒキリが有名ですね)が良好な結果を挙げ始めていますが、そのような治療を行ったとしても長期間の休養が必要になることは変わりません。


② 種子骨炎:球節の過伸展や捻転が原因とされています。症状としては近位種子骨および繋靭帯(けいじんたい)付着部の熱感および触診痛、また軽~中程度の跛行を示します。診断は臨床症状の他に、主にレントゲン検査によって種子骨辺縁の粗造や線上陰影(図1:いわゆる“ス”が入る、という像)を確認することで判断されます。レポジトリーにおいても、本所見を気にされる購買者の方は多いのではないでしょうか?本会の実施した調査では前肢種子骨所見のグレードの高い馬(グレード0~3で評価されるうちの、グレード2以上)では、競走能力には影響を与えないものの、調教開始後に繋靭帯炎を発症するリスクが高まるとの結果が得られています。しかし、後肢についてはグレードが高くても調教やその後の競走能力に差はありませんでした。治療については、急性期は冷却および運動制限が有効です。また、最近ではショックウェーブ療法も実施され、良好な成績を上げているとの報告もあります。


③ OCD:セリに上場する際はもちろん、その後も非常に悩まされる症例です。OCDは様々な部位に発症しますが、その多くは無症状であることが多いようです。しかし、その保有部位の関節液が増え、腫脹を認めたり、熱感を帯びてくるようであれば、跛行の原因となることもあります(図2)。その場合、ヒアルロン酸やグリコサミノグリカンなどの定期的な投薬という保存的療法もあるのですが、手術が第一の選択肢となります。また、OCDとは区別されますが、DOD(発育期整形外科疾患)の一種として大腿骨の骨嚢胞(図3)があります。育成期に入って後肢の跛行を認め、ある程度休養すると改善するが、調教を再開すると再度跛行するというような馬の中にはこの所見を保有している馬がいるようです。治療としては、外科手術による掻把術が過去には行われてきましたが、最近では嚢胞部へのステロイド注入およびショックウェーブ療法が有効という成績が出てきているようです。一方、保存的療法はあまり有効ではないとされています。
 OCDについては、JRA育成馬購買の際に確認していますが、OCDがあるからといって購買をやめるということはありません。昨年購買した80頭の中の約15%程度である14頭の育成馬が保有しており、ほぼ全馬で育成期間中に症状を認めることはありませんでした。JRAでは今後このような馬について、競走期も含めた継続調査をすることで、購買者の皆様にレポジトリーへの理解が深まるよう努力していきたいと考えています。

最後に
 ここまで、3つの運動器疾患について記載してきましたが、いずれにしても重要なのは“早期発見・早期治療”です。そのためには、普段からのケアおよびチェックをしていくことが重要です。多くの運動器疾患では“歩様が硬くなる”“いつもと騎乗した感じが違う”などの前兆を認めることが多いようです。それらを未然に防ぎ、よりよい育成調教を進められるよう、普段から愛馬をよく触り、よく観察しましょう。


(日高育成牧場 業務課 土屋 武)

Fig1 図1:種子骨グレード2のX線画像
(いわゆる“ス”が入るという所見)

Fig2 図2:飛節OCD所見
(下記に示した馬は育成期間中を通して症状を示さず、
2歳7月に出走致しました)

Fig3 図3:大腿骨骨嚢胞のX線画像

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