双子の減胎処置について
No.54 (2012年5月1日号)
双子が維持されると87%が流産・死産・虚弱子となる!
サラブレッド生産で双子妊娠が継続することは大きな損失となります。Pascoeら(1987)によれば、結果的に双子であった130頭の妊娠馬から、たった17頭(13%)しか生子を得ることができなかった、と報告しています。さらに、翌年の生産状況を加味しても、2年間で年23%という低い生産率となり、妊娠中に双子が継続することが馬の生産性の損耗に大きく影響することを示唆しています。
妊娠馬6頭に1頭は双子になる!
最近は交配の前に排卵誘発剤を使用することが多くなってきました。排卵誘発剤は、正しく使用すれば適期に一回の交配で高率に受胎させることが証明されている優れた薬剤ですが、唯一の問題は、双子妊娠率が高まることにあります。英国のNewcombeら(2005)の調査では、排卵誘発剤の使用が常在化しているサラブレッドの生産現場において2排卵率は30%を超え、妊娠馬6頭に1頭(16%)は初回の検査で双子と診断されています。日高地方での調査でも、初回の妊娠鑑定の際に10%を超える双子が確認されることが報告されています。もちろん、これら双子と診断された妊娠馬は、用手法により一方の胚をつぶして正しく減胎処置が執り行われていますが、双子による損耗の大きさを考えるといかに初回妊娠鑑定による双子の診断が重要かわかります。
適切な減胎処置は、「排卵日」から14-16日、その後28-35日に妊娠再確認を
生産地の馬診療所での妊娠鑑定の際に、「17日目」、「18日目」という言葉が聞こえてきます。新馬戦がかつて「明け3歳馬」のレースであった頃と同じく、物事の初めを0ではなく1と数える習慣から、交配日を1日と数えたときの「17日目」「18日目」を示し、生産地で広く理解されている数え方です。したがって日本の「17日目」は、海外の標準的な数えではDay 16 (交配後16日)を表しています。
多くの研究結果から、減胎処置を適切に実施するためには、交配日ではなく、排卵日(=受精日)を0日として排卵後16日以内に実施することが推奨されています。これは、排卵後17日を過ぎると子宮の緊縮力が高まり、2つの胚が重なったまま子宮に強く接着するという、馬特有の妊娠生理現象に起因しています。したがって、排卵日が確認できたときは、それを基に妊娠鑑定の日を決定することが推奨されます。胚の大きさを見た際に、「排卵後13日=胚直径13mm」「1日あたり直径3mm増加」と覚えると便利な指標になります。排卵日が分からないときは、当該馬の卵巣や子宮内シストの状態を診た獣医師に相談して妊娠鑑定日を決めるとよいでしょう。妊娠鑑定の際には、胚の有無だけではなく、卵巣内の黄体の数を調べてもらうと、双子の可能性を側面的に推察することができます。また、馬は超音波エコーによる妊娠鑑定が早くから可能な動物で、排卵後12日には検査が可能です。「17日目(交配後16日)」よりも前に初回の妊娠鑑定を実施することが双子の減胎処置に有効に働き、生産性の向上につながります。
用手法以外の新しい減胎法
軽種馬の双子を適切に処置するには、何よりも妊娠16日よりも前に片方の胚を破砕することが最も成功率の高い方法となっています。その後は以下の表に示すように、減胎処置による成功率が低下します。妊娠25日以内では用手法によりまずますの成功率を示しているようですが、それを超えると成功率が急激に低下します。破砕した尿水がもう一方の胚に触れることや、処置を行う刺激が子宮からの炎症物質の分泌を促進するなど悪影響によるものと考えられています。妊娠37日を過ぎると、たとえ人工流産処置を施したとしても良好な発情が回帰せず、そのシーズンに受胎させることが難しくなります。したがって、超音波エコーを用いた28-35日の妊娠再鑑定(いわゆる5週目の鑑定)は、双子や胚死滅を確認するうえでとても重要ですので必ず受診してください。その後、やむを得ず双子妊娠が継続している状況に出くわした場合は、以下の表に紹介されている方法が検討されています。いずれも決して満足のいく成果とは言えませんが、この中で、米国のWorfsdorfらが報告している、マウス大に成長した胎子(60-90日齢)の頸椎を脱臼させる方法が紹介されています。この方法は特別な施設や機械が必要ない方法として有用性が期待されています。
終わりに
最近は交配前に排卵誘発剤を使用することが普及し、適期に排卵するようになった反面、2排卵率も上昇しています。2排卵は馬生産の中では、受胎率を2倍にするよい機会になりますし、現代ではむしろ推奨される方法です。それゆえ、妊娠鑑定の時期には今まで以上に注意を払い、適切に減胎処置を実施する必要があります。
(日高育成牧場 生産育成研究室 室長 南保泰雄)
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