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2019年6月14日 (金)

栄養管理コンサルタントの実際

No.85 (2013年9月1日号)

軽種馬生産界におけるコンサルタント
 「コンサルタント」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「コンサルタント」とは企業経営や管理技術などについて指導、助言をすることにより、顧客が抱える問題を解決する方策を示してくれる専門家のことを指します。「経営コンサルタント」「ビジネスコンサルタント」「ITコンサルタント」などさまざまな業種で広く認知されています。軽種馬生産においても「栄養管理コンサルタント」が存在しますが、日本においてはまだそれほど一般的にはなってはいません。
 コンサルタントの内容はその専門家によって、また契約によってさまざまですが、最も重要なのは「発育状況と栄養状態(BCS・体重・体高・歩様・蹄や肢軸など)」「栄養補給(飼料の選択と栄養バランス、放牧地の評価)」についての指導です。コンサルタントに馴染みのない方にとっては、一生懸命育てた馬を気安く他人に評価されることを快く思わないかもしれません。しかし、自己流の解釈と方法に陥りがちな軽種馬生産において、深い知識と広い視野を持つ専門家の意見を得ることは非常に重要です。またコンサルタントに馬を見せること自体が日常業務における目標になるといったメリットもあります。その他の指導項目として「放牧地の土壌、牧草成分分析と管理方法」「繁殖成績(受胎率・種付け回数)向上のための対策」「問題点に対するディスカッション」などが挙げられます。
 実際にコンサルタントを受けている牧場の声を聞くと「客観的な評価を得ること」や「コンディションの安定化」「飼養管理に対する理解」さらには「スタッフのスキル向上」「スタッフ間の認識の統一」といった点に大きなメリットを感じているようです。

国内のコンサルタント活動
 牧場コンサルタントというと、外国人をイメージされる方もいると思いますが、平成17年から21年にかけてJBBAによる軽種馬経営高度化指導研修で日本人コンサルタントを養成する事業が行われました。これはKER(Kentucky Equine Research)の代表者Pagan博士とそのスタッフを定期的に日高に招聘し、実際に生産牧場の巡回指導を通じて、海外飼養管理技術を習得し、国内の技術指導者(カウンターパート)を養成するものです。KERはアメリカの飼料会社であり、研究所であり、コンサルタント業務も行っている有名な企業です。この事業によって獣医師や飼料会社関係者など7名のカウンターパートと3名のカウンターパート補佐が養成されました。
 この時のモデル牧場における主な改善点は、サプリメントの利用や栄養バランスの改善を伴う「飼料配合のシンプル化」、コンプリート型飼料とサプリメント型飼料の混同を適正とすることによる「飼料特性に基づく給与」、「昼夜放牧の励行」、「分娩前後の繁殖牝馬のBCSの適正化」、「適切な蹄管理」、「セール上場予定馬の準備」、「当歳馬へのクリープフィーディング」など多岐に渡ります。そして彼らが常に口にしていたのは「More exercise, more feeds!(もっと運動を、もっと飼料(栄養)を!)」でした。
 実際に指導を受けた牧場からは「受胎率や産駒の発育が向上した」という目に見える結果の他に、「客観的な評価を知ることができた」「牧場スタッフの意識が変わった」「普段抱いていた飼養管理上の疑問が解決できた」「蹄管理の重要性が認識できた」「独自の方法を見直すことができた」といった前向きなコメントが寄せられました。
 この事業で直接指導を受けた牧場は限られたものではありますが、養成されたカウンターパートらの活動が、わが国における「ボディコンディションスコア」「分娩前後の繁殖牝馬の栄養補給」「運動の重要性」「昼夜放牧」などの普及に一役かったと考えられます。
 養成されたカウンターパートらは、現在ファームコンサルタントとして、飼料会社のサービスの一環として、また診療業務の傍らとしてコンサルタントを継続しています。
 コンサルタントに興味はあるけど、誰に頼めば良いのか分からないという牧場は多いと思われます。JBBAでは国内でのコンサルタントをさらに普及させるべく、事業を継続することになりました。現在、効果的な普及方法について検討を重ねているところではありますが、今後も事業を活用いただければ幸いです。詳細な事業案内につきましてはJBBAニュース8月号を参照下さい。

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(日高育成牧場 生産育成研究室 村瀬 晴崇)

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