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2019年8月12日 (月)

卵巣腫瘍の新しい検査方法

No.98(2014年4月1日号)

馬の卵巣腫瘍
 馬の卵巣腫瘍と言っても、多くの生産者は聞いたことが無いかもしれません。しかしながら、繁殖牝馬ではしばしば生じる疾病であり、発情サイクルが止まってしまう場合もあるため重要な疾病です。
簡単に腫瘍とは何かを説明いたします。腫瘍とは「組織が過剰に増殖した結果できた組織塊」であり、○○癌や○○肉腫と言われる悪性(転移する)のものと○○腫と言われる良性(転移しない)のものを総称した言葉です。また腫瘍ではないものの、卵巣が大きくなって腫瘍と区別がつけにくい卵巣血腫や卵巣嚢腫といったものもあります(図1)。直検でこのような大きな卵巣が分かった場合に重要なことは、発情や排卵がくるのかどうかということです。正確な診断には卵巣の組織を調べる必要がありますが、実際にはそこまでできませんので、大きさ、触感、超音波画像、反対側の卵巣の状態、発情の具合などから推定することになります(図2)。しかしながらこのような珍しい症例は、個々の獣医師が経験できる数も限られる上に、正確な診断ができないこともあり、獣医師によって診断が異なってしまう場合もあります。

1_7 図1 腫瘤の分類

2_7 図2 卵巣のエコー画像(左:正常な卵巣、右:顆粒膜細胞腫)

卵巣摘出後の発情は?
 卵巣腫瘍は直接死に至るわけではありませんが、発情が止まる場合もあるため、繁殖牝馬にとっては致命的な病気とも言えます。馬の卵巣腫瘍のうち最も頻度が高いものは顆粒膜細胞腫と言われる良性腫瘍です。良性ではありますが、顆粒膜細胞はホルモン産生を行う細胞であるため、これらのホルモンが異常産生され、卵巣静止や持続発情といった徴候を示し、交配不能となります。このような場合には手術で卵巣摘出しなくてはなりません。顆粒膜細胞腫は片側性であるため、その卵巣を摘出しても反対側の卵巣が正常に機能し、発情は問題なく行われますので心配ありません。しかしながら、ある報告によると、手術後に発情が戻るまで平均7ヶ月かかると言われており、1シーズンでも早く交配するためには早期の診断、そして早期に手術をすることが重要となります。

類似症例にご注意!
 そこで問題となるのが、「本当に卵巣を摘出しなければいけない顆粒膜細胞腫なのか、一時的に大きいだけの卵巣血腫や嚢腫ではないのか」という鑑別です。これらの鑑別には残念ながらエコー検査だけでは不十分です。さらに詳しい検査としてテストステロンやエストラジオール、インヒビンといったホルモン測定が行われることもありますが、このようなホルモンは特別な検査施設へ依頼する必要がありますし、個体差が大きいため正常と異常の境界が曖昧であるため、なかなか現実的な検査方法ではありません。

いつでもご相談を
 近年、日高育成牧場ではAMH(抗ミューラー管ホルモン)と言われるホルモンに着目し、1度の血液検査によって正確に顆粒膜細胞腫の診断を行えることをさまざまな学会で報告してきました。AMHは顆粒層細胞からのみ分泌されるため、正常な牝馬では低値であるのに対して、顆粒膜細胞腫では明らかに高い値を示します(図3)。また、比較的簡単な検査であるため、最も頻度の高い顆粒膜細胞腫に対する科学的な診断根拠として非常に有効な検査方法と言えます。
 日高育成牧場ではAMHの調査研究を実施していますので、疑わしい症例がありましたら担当獣医師を通してお声かけ下さい。

3_4 図3 繁殖牝馬における血中AMH濃度

(日高育成牧場 生産育成研究室 村瀬晴崇)

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