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2019年8月14日 (水)

JRAブリーズアップセールで開示される個体情報

No.99(2014年4月15日号)

 JRAブリーズアップセール(BUセール)では、購買者の皆様が安心してセリに参加していただくために、病歴、体測値、飼養管理および調教内容等の個体情報を公開しています。今回はこれら個体情報のうち、病歴とレポジトリー検査所見について紹介いたします。なお、関連した内容の記事が本紙面(平成24年6月15日号No57、平成23年4月15日号No30)にも掲載されていますので、併せてご参考ください。

検査所見をもとにした上場馬選定
 JRA育成馬をBUセールに上場する過程では、怪我や運動器疾患の発症等、順調に行かないことも多いものです。また、調教中の異常呼吸音で悩まされることも少なくありません。私たちは、このような悩みを解決するため、抽選馬の時代から下肢部X線所見や上気道内視鏡所見と競走成績や疾病発症との関連について調査・研究を継続しています。これらの成績をもとに、JRAではセール前の3月に実施した上気道内視鏡検査や下肢部レントゲン検査等のレポジトリー検査所見を評価し、セール売却後の調教および出走に差し支えないと判断した馬を上場することとしています。

上気道内視鏡検査
 上気道内視鏡検査では喉頭片麻痺(LH)、軟口蓋背方変位(DDSP)、喉頭蓋の異常(AE)について、4~5段階のグレード分けをしています。特に、LHのグレード(Ⅰ~Ⅳの4段階)が高い馬では走能力に影響を及ぼす可能性があります。ⅠおよびⅡでは競走パフォーマンスとの関連はありませんが、Ⅲ~Ⅳの馬では競走能力に影響を及ぼすこともあり、手術が必要となる場合もあります(図1)。一方、ⅠおよびⅡについても喘鳴音を聴取することがあり、トレッドミル運動時の内視鏡による評価が必要な場合もあります。

1_8 図1 喉頭片麻痺(LH)のグレード分類(写真はグレードⅠ)

Ⅰ:左右の披裂軟骨の動きが常に同調かつ対称であり、完全外転が獲得・維持されうる

Ⅱ:披裂軟骨の動きが非同調でかつ喉頭が左右不対称な状態を示すこともあるが、披裂軟骨の完全外転は獲得・維持されうる

Ⅲ:披裂軟骨の動きが非同調で、喉頭が左右不対称である。披裂軟骨の完全外転は獲得・維持されない

Ⅳ:披裂軟骨と声帯ヒダは動かない

下肢部レントゲン検査
 レントゲン検査では、両前肢の近位種子骨の評価、腕節の骨端線、その他疾患の画像を提示しています。近位種子骨の画像検査では、骨の形状の不整や線状陰影の本数などからグレード0~3の4段階に分類し評価しています(図2)。これまでの調査結果から、グレードが高くなるにつれて繋靭帯炎の発症率が高くなることがわかっています。また、2歳春においては、腕節の骨端線の状態から化骨の状態がわかります。標準的なサラブレッドでは25ヶ月齢で骨端線が完全に閉鎖するとされており、これを基準に馬体の成長度合いを知ることができます。その他育成期に発見されたOCD(離断性骨軟骨症)や陳旧性骨折などの存在についても全て記載していますが、腫脹や跛行等の臨床症状がない場合、競走成績に影響を及ぼしません。

2_8 図2 種子骨(前肢)のグレード分け(図中の各数値はJRA育成馬310頭中の発症割合を示す)
G0:正常、G1:線状の陰影(赤矢印)が1~2本、G2:線状の陰影が3本以上、G3:線状陰影が多数あり骨の輪郭が不整(黒矢印)もしくは骨嚢胞がある

 BUセールでは、購買者の皆様が情報開示室(レポジトリールーム)においてこれら所見を閲覧することが可能です。また、情報開示室には獣医職員を配置していますので、画像の見方や獣医学的判断についてご相談いただくことができます(図3)。
 私たちは、購買者の皆様にとって「わかりやすく透明性のあるセリ」を目指して参りたいと考えています。
 4月29日(火)、中山競馬場で開催されるJRAブリーズアップセールは、今年で10周年を迎えます。皆様のご来場を心からお待ちしています。

3_5 図3 個体情報開示室で説明する獣医職員

(日高育成牧場 業務課 竹部直矢)

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