日高育成牧場が実践する人材育成
No.100(2014年5月1日号)
平成22年1月に始まった本連載も今回の記事でちょうど第100回を数えることとなりました。今後とも読者の「強い馬づくり」に役立つよう連載を続けて生きたいと考えていますので、ご支援よろしくお願いいたします。本稿では、日高育成牧場ならではの活動ともいえる教育支援や人材養成について紹介いたします。
馬を学びたい学生のために
今年最初の子馬が誕生した3月末、日高育成牧場では将来の獣医師の卵6名を対象に「スプリングキャンプ」なるものが開催されていました。これは全国の獣医学部の学生を対象に広く参加者を募り、馬の分娩や種付けを経験してもらいながら、サラブレッドの生産や飼養管理について学び、馬に対する興味と知識を深めてもらうための研修です。日本の大学は、欧米に比べて産業動物の臨床実習をするための環境や施設が整っていないのが現状です。特に馬に関しては教えることができる教員も多くはありません。しかし、全国には、馬に携わる仕事がしたい、実習などを通じて馬と触れ合ってみたいという学生は結構いるものです。日高育成牧場では数年前から、そのような獣医畜産系の大学生を対象に夏休み期間を利用して「日高サマースクール」と称した研修を実施しています。更に今年度は、「春休み期間を利用して分娩が見たい!」という多くの学生の声を反映して、この「スプリングキャンプ」を企画・実施しました。実習では、まず馬を引くことから始め、手入れや収放牧を通じて馬に触れ、寝藁上げ作業を手伝うことで現場の雰囲気を学び、馬の繁殖学、栄養学、画像診断などの専門知識についても講義と実習で学びます。さらに、昼は種馬場で種付けを見学し、夜は分娩が近い繁殖牝馬の監視をすることで、実際の交配や分娩を体験します(写真1)。研修終了後、学生たちは大学では学べないサラブレッドの生産について少なからず理解し、貴重な体験をして帰途に付きました。今までに多くの研修生が日高育成牧場での実習、研修をとおして学びましたが、すでに、日高育成牧場で研修を受けた研修生の中から馬関係の仕事に携わる獣医師が大勢、誕生してきています。今回のスプリングキャンプの受講生の中からも、また日高に戻って来てくる者がいるかもしれません。
(写真1)日高育成牧場スプリングキャンプ
子馬の誕生に感動する獣医大学の学生
育成馬の騎乗から観光客向け展示まで
日高育成牧場では、JRA育成馬を用いた調教技術・騎乗者養成に関する研修(写真2)や生産育成技術者研修などの専門的な研修も行っています。また、一時、凍結されていた本会新人職員の日高での研修も再開されました(写真3)。さらに、馬に触れたこともない小・中・高等学校生に対して「乗馬教室」、「職場体験学習」、「馬文化出前教室」や「日高の自然授業」などの馬に関する授業を担当したり(写真4)、幼稚園の見学を積極的に受け入れたりしています。また、一般の観光客向けの「場内バスツアー」を企画し、馬に親しんでもらう機会を設けています(写真5)。この様な研修を実施することで、日高育成牧場で実践している新しい飼養管理方法や調教技術の公開、調査研究成果の普及に努め、将来馬に携わる人材を育成しています(表1)。
世界に通用する強い馬づくりを目指すには、広く馬に関心を持つ人を増やすこと、さらに馬に携わる人の意識と生産育成技術の向上が不可欠です。すなわち「強い馬づくりは人づくりから」と言えるのではないでしょうか。
JRA育成馬を用いて、ブレーキングから高度な騎乗技術まで習得する
雑草抜きもしながらサラブレッドの生産について学ぶ
日高振興局の要請により随時、小学校へ出向く(えりも町立笛舞小学校:2011年12月)
馬の親子とのふれあいの様子
(日高育成牧場 生産育成研究室 研究役 佐藤 文夫)
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