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2019年11月 9日 (土)

当歳馬の肢勢変化

No.109(2014年9月15日号)

 前々回の本記事において、下肢部のコンフォメーションについて紹介しましたが、関連記事として今回は、当歳馬の肢勢の変化について紹介します。

 日高育成牧場では、生産馬「JRAホームブレッド」を対象として毎月日高育成牧場の複数の獣医師と装蹄師により、発育状況、肢勢の変化や跛行の有無などを検査しています。その検査結果から、JRAホームブレッド15頭(2013年:7頭、2014年:8頭)の2年間に渡る検査結果を基にして、当歳馬の成長に伴う肢勢の変化について紹介します。コンフォメーション異常に関する説明や写真は、前々回の記事(8月15日号)を参考にしながらお読みいただければ幸いです。

1ヶ月齢まで
 出生直後から1ヶ月齢までのコンフォメーション検査結果から、前肢については外向肢勢が6頭、X状肢勢が3頭、内向肢勢が2頭、弯膝が3頭に認められました(重複あり)。また、後肢については球節以下の内反が4頭、浮尖(写真1)が4頭、川流れ(飛節以下が左右同方向に反ったもの)が1頭に認められました。さらに四肢もしくは前後肢どちらかの起繋が10頭に認められました。これらのコンフォメーション異常の多くは、先天的あるいは母体内の体勢が影響したものと考えられます。頭数を列記するとずいぶん多く感じますが、これらはいずれも症状が軽かったので、外科的治療や装蹄療法を必要とした馬はいませんでした。産まれて間もないこの時期の子馬は、体のバランスが悪く歩様も安定しないため、正確に肢勢を判断することは難しいのですが、日々の肢勢の変化には注意を払う必要があります。

1 写真1 矢印が示す3肢が浮尖の症状を示している。蹄尖が浮き、蹄球が地面についてしまっている。

2~3ヶ月齢
 その後、2~3ヶ月齢になると放牧地での運動量が増えることで筋肉や腱が成長し、歩様もしっかりしてきます。この時期の骨や腱の発達は旺盛であり、放牧地からの物理的な過度の刺激や痛みに対する反応などの影響によっては、クラブフット(写真2)の発症が認められる時期でもあります。今回の調査では2頭がクラブフットの症状を示しました。この2頭は早期に発見できたため速やかに対処したところ、1頭は削蹄のみで、もう1頭は装蹄寮法(ヒールアップによる疼痛緩和)と運動制限を施すことで良化しました。また、先に述べた誕生から1ヶ月齢の肢勢異常について、川流れ(1頭)と浮尖(4頭)は成長とともに自然に治癒し、消失していました。また、その他の肢勢異常はこの時期に大きく変化することはありませんでした。

2 写真2 蹄冠部(矢印部分)が前方に破折し、蹄尖で立つような姿勢となっており、クラブフットの典型的な症状を示している。

4~6ヶ月齢
 この時期、各馬の肢勢に大きな変化はないものの、球節部の骨端炎を発症する馬が散見されるようになりました。これらの馬の中で、内反や外反(写真3)を起こした馬に対しては成長板にかかる圧力を均等化するなどの適切な削蹄を施したことにより、骨端炎を原因とした極度の支軸破折を起こすことはありませんでした。

3 写真3 右前の球節以下内反、左前の球節以下外反の症状を示している。

7ヶ月齢以降
 7~10ヶ月齢の検査では、軽度の後肢球節の沈下不良などはみられたものの、肢勢は殆ど変化しませんでした。

 以上の調査結果から、当歳馬の肢勢が大きく変化する時期は出生直後から3ヶ月齢までの早い段階であるように感じられます。また、発見してすぐに処置を行った多くの馬が重症化せずに改善したことから、肢勢矯正を行う時期はできるだけ早いほうがよいと言えそうです。
 肢勢異常の中には子馬が成長するにつれて自然に良化する場合があり、矯正を行う必要性を判断するのは非常に難しいと思います。この判断を行うのは生産者と獣医師、装蹄師であり、3者の経験に委ねられます。その馬の競走馬としての未来を切り拓くためには、3者の相互理解と協力が必要不可欠だと言えるのではないでしょうか。

                     (日高育成牧場 業務課 福藤 豪)

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