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2019年12月 2日 (月)

クラブフットの対処方法

No.119(2015年3月1日号)

はじめに
 馬の発育期における蹄疾患のひとつにクラブフット(以下CF)があります。CFとは深屈腱の拘縮が原因で蹄骨が牽引されることにより、蹄尖壁が引っ張られて極度に肢軸が前方破折してしまう症例です(図1,2)。CFを放置して重篤化してしまうと競走馬として活躍することなく淘汰されてしまうこともあります。そのため、CFを発症してしまった時には早期に発見し、対処する事が非常に重要になります。今回は、CFの対処方法等について紹介いたします。

1_13 図1 重度なクラブフット

2_11 図2 クラブフットの発症機序

クラブフットの原因と症状
 CFの治療は軽症のうちに適切な処置を施すことが何よりも重要であり、そのためには早期発見がポイントとなります。しかし、早期発見をするためには正しい蹄形を理解した上で、CFの原因や症状を知らなければ判断することは困難です。まずは、CFの原因について説明したいと思います。CFは遺伝による先天性のものと生後1.5ヶ月~8ヶ月齢の子馬に発症する後天性のものがあります。後天性の原因として、栄養の不足や過多、馬体の発育異常による骨格と筋肉・腱のバランス異常、放牧地の硬さなどに起因する物理的な衝撃などが考えられています。特に注意すべきは上腕や肩などの痛みであり、これによって筋肉が緊張し関節が屈曲することにより深屈腱支持靭帯が弛緩し、蹄の形状異常を引き起こします。すなわち、支持靭帯は弛緩し短縮した状態になると再び元の長さには戻らず短い状態で固まってしまうので、深屈腱は拘縮し、CFを発症してしまいます(図2)。そのため、普段からこまめに歩様チェックを行い早期に痛みを取り除く事でCFの発症リスクを軽減することができます。

 次に症状について説明します。CF発症馬の蹄は、蹄尖壁は凹弯し、通常は蹄尖と蹄踵が等間隔である蹄輪が、蹄尖部が狭くなり、蹄踵部は広くなる不正蹄輪(蹄の年輪のような線が歪む)となります。発育期の若馬を手入れする時には、このような症状が出ていないかを十分に観察する必要があります。

クラブフットへの対応
 CFを発症してしまった時には獣医師・装蹄師と相談し、原因を取り除く必要があります。獣医師と相談し、歩様に違和感がある場合には運動を制限し鎮痛剤を使用し、痛みを取り除きます。また、筋肉の緊張が原因で発症するため、筋弛緩剤などの投与も有効です。
 装蹄療法としては、軽度な場合には蹄踵を多削し蹄の形状を整えますが、蹄踵が地面から浮いてしまっているような重度な症例では、蹄踵を多削してしまうと深屈腱の緊張が上昇し、蹄骨の牽引を助長してしまうため、蹄踵が地面に接地するまでは厚尾状のパット装着や充填剤によるヒールアップ(図3)を実施し深屈腱の緊張を緩和させる事が有効です。さらに重度な症例で装蹄療法だけでは治療が困難な場合には深屈腱支持靭帯の切除術を検討する必要があります。切除術を実施することで深屈腱の緊張が緩和され、CFの進行を抑制することができるため、競走馬として活躍するためには実施しなければならない症例もあります。

3_10 図3 充填剤(スーパーファスト)でヒールアップを実施した蹄

終わりに
 CFは競走馬としての将来を大きく左右する重要な蹄疾患です。発育期の若馬は特に蹄を注意深く観察し、その変化を早期に発見し素早く対応する事が求められます。そのため、発見した時にはすぐに獣医師・装蹄師に連絡を取り、早期に治療を行うことが最も重要です。

(日高育成牧場 業務課装蹄係 諫山太朗)

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