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2020年2月17日 (月)

日高における流産原因の内訳

No.133(2015年10月1日号)

 軽種馬生産の現場では交配4-6週後に早期胚死滅の有無の確認を終えると、多くの場合次の妊娠検査は8-9月に行われます。過去に行われた生産地疾病等調査研究によると、2週目の受胎確認から5、6週の妊娠鑑定までの間にはおよそ6%が早期胚死滅し、その後出産までに7%が胎子喪失すると報告されています。では、そのような流産にいたる原因とはどのようなものがあるのでしょうか。

●流産の実態
 静内にある日高家畜保健衛生所(日高家保)には、日高管内から毎年約200頭もの流産胎子が搬入されており、流産の原因調査が行われています。これまで、平成8年から5年間における流産原因について報告されていますが、本年新たに、平成16-25年における10年間、2,002頭の流産胎子における分析結果が発表されました。
 平成16-25年におけるサラブレッド生産延頭数73,338頭に対し、前年受胎延頭数は81,800頭であり、その間には8,462頭(受胎頭数に対し10.3%)もの早期胚死滅、胎子喪失もしくは死産や生後直死が生じていることになります。H25年の国内における日高地区の生産頭数割合は79.4%ですから、日高管内における上記流死産頭数(早期胚死滅+胎子喪失+死産+生後直死)は8,462×0.794=6,719頭と推定されます。早期胚死滅や初期の胎子喪失は気が付かないうちに生じている場合がほとんどですので、家保に搬入される流産胎子は必然的に妊娠中期以降のものとなります。そのため、2,002頭という搬入率(29.8%)は極めて高いと言え、このような流産胎子のデータは獣医学的にも非常に重要です。以下にこのデータの一部をご紹介いたします。

●流産原因の大別
 流産原因は大きく感染性と非感染性に大別されます。調査の結果から、感染性よりも非感染性が多いことが分かります(図1)。これは欧米における同様の報告と同じ傾向です。

1_2図1 流産原因の内訳

●感染性
 感染性原因としては細菌・真菌による胎盤炎や伝染力の強い馬鼻肺炎ウイルスなどが挙げられます(図2)。ここで言うウイルスとは全て馬鼻肺炎ウイルス(ERV)です。伝播力が強いことから、生産地では特に注意して予防接種や防疫措置を講じられていますが、残念ながら未だに毎年発生が認められます。一方、細菌・真菌にはさまざまな病原体が含まれますが、いずれも珍しいものではなく一般の牧場環境中に存在するものです。このような環境中に存在する微生物が特定の馬だけに流産を引き起こす理由は、飼育環境と母体側の免疫力の低下(気膣・尿膣、子宮頚管裂傷、陰部の形態といった解剖学的な要因や体調、ストレスなど)が考えられます。実際、真菌性流産における原因真菌がその馬房の寝藁からも検出されることが報告されています。細菌・真菌による感染のほとんどは外陰部から侵入し、膣、子宮頚管を介して胎盤そして胎子を侵します。これらは感染性胎盤炎として近年注目されており、さまざまな検査法や治療法が報告されつつあります。伝播力はそれほど強くないので、胎盤炎が同一牧場で続発することはマレです。

2_2 図2 感染性原因の内訳

●非感染性
 非感染性の原因としては循環障害や双胎、奇形、胎盤異常などが挙げられます。最も多い循環障害については、未だその原因がはっきりしておらず有効な予防法、検査法がありません。しかし、双胎についてはご存知の通り対応可能です。今日では多くの生産者が双胎は胚死滅や流産に至りやすいことを認識し、妊娠鑑定を2回受けることが一般的となっていると思いますが、それでもこれほどの割合を占めているのです。改めて、交配18日後までに妊娠鑑定を2回行うことの重要性がお分かりいただけると思います。

3_2 図3 非感染性原因の内訳

●流産の予防
 残念ながら流産原因の最も多くを占める循環障害については今のところ有効な手立てはありません。現時点で予防策を講じうる対象は感染性原因と双胎になります。特に双胎については、確実に防げるものですので避けたいものです。鼻肺炎ウイルスに対してはワクチンや消毒薬といった防疫対応に加え、ストレスのない飼養管理がポイントとなります。また感染性胎盤炎に対しては厩舎の衛生管理に加えて、妊娠馬のモニタリングが有効です。胎盤炎は別の馬に伝播するケースは少ない一方で、上述のように馬の解剖学的な要因による場合流産を繰り返してしまう場合があります。このような馬はハイリスクメアと呼ばれ、定期的なモニタリング(ホルモン測定やエコー検査)で異常を早期発見、治療することが推奨されます。

 欧米の同様の調査では原因特定率が60%以上であるのに対し、今回の報告では残念ながら57%もの症例が原因不明となっています。この主な原因は、家保に搬入された際に時間が経過していたり、検体が損傷していたり、胎盤が搬入されないことにより、十分な検査ができなかったためのようです。多くの牧場にとって流産はマレなことであり、流産原因検査は馬鼻肺炎であるか否かを知ることが最も大きなポイントかと思いますが、家保では馬鼻肺炎以外にもさまざまな検査が行われています。細菌性の場合にはどのような菌種が多いのか、臍帯捻転を起こす胎子の臍帯の長さはどうなのか等、今後の予防・治療に関する研究発展のためにこのような情報は非常に有益です。各生産者におかれましては、万が一流産が起きてしまった際には、馬産界全体のためにも、迅速かつ適切な搬入にご協力くださるようお願いいたします。

(日高育成牧場 生産育成研究室 主査 村瀬晴崇)

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