BTC屋内坂路馬場の運動負荷について
No.141 (2016年2月15日号)
『強い馬づくり最前線』バックナンバーにも書いたとおり、調教時の心拍数や血中乳酸濃度から算出する指標で馬の体力評価を行なうことができます。しかし、運動負荷の異なる馬場で測定すると、筋肉や心肺機能への生体負担度の違いで得られる結果が変わってくるため、馬の体力検査を行う際はできるだけ同じ条件で測定する必要があります。一方、違う馬場を利用するグループ間でデータを比較した場合、どちらの馬場が重くどちらが軽いという馬場の特徴を調べることができます。今回は、JRA育成馬で得られたデータを基に、BTC屋内坂路馬場の運動負荷がどれくらいかを考えてみましょう。
血中乳酸濃度を用いたBTC屋内坂路馬場の運動負荷評価
日高育成牧場では1歳12月から2歳3月までJRA育成馬の調教にBTC屋内坂路馬場を利用し、走行後の血中乳酸濃度を測定して体力評価を行っています(写真1)。今回、BTC屋内坂路馬場の運動負荷を評価するために、平成27年3月に測定した牡馬延べ52頭の育成馬データを利用しました。横軸に坂路走行時の平均速度、縦軸に血中乳酸濃度をとると図1のようになり、11m/秒(約F18秒)あたりから速度に比例して乳酸値が増加していることがわかります。これらのデータから体力指標の一つであるOBLA(血中乳酸蓄積開始点:血中乳酸濃度が4mmol/Lになる速度、有酸素性運動と無酸素性運動の分岐点)を計算すると、11.4m/秒(F17.4秒)となりました。
図1 BTC坂路馬場のOBLA
速度の上昇とともに乳酸値が増加している部分(赤丸)で回帰直線を引き、4mmol/Lの時の速度を算出
美浦トレセン坂路馬場のOBLA
比較したのは美浦トレセン坂路馬場で、平成26年1月から6月までに得られた延べ167頭の競走馬データを用いました。トレセンでは年齢・競走クラス・トレーニング状態・馬場状態などが一定ではないため、グラフにプロットすると育成馬よりも広い範囲にデータが分布していました(図2)。また、今回の調査期間中(平成26年4月)に、転圧の効かない新型ハロー車を導入し坂路馬場の管理方法を変更したため、変更前(1~3月)と変更後(4~6月)とで分けてOBLAを計算しました。その結果、OBLAは変更前が11.9m/秒(F16.9秒)、変更後が10.2m/秒(F19.7秒)でした(図3)。
図2 美浦トレセン坂路馬場走行後の血中乳酸濃度
トレセンではさまざまな条件の馬で測定しているため、データが広い範囲に分布している
図3 美浦トレセン坂路馬場におけるOBLA
馬場管理方法変更前(1~3月・赤)と変更後(4~6月・青)のOBLAを算出
BTCと美浦トレセンの運動負荷比較
BTC屋内坂路馬場と美浦トレセン坂路馬場を比較すると、BTCのOBLAは美浦の馬場管理方法変更後よりも大きかったものの変更前よりもやや低値を示しました。馬場の比較にOBLAを利用する場合、値が大きいと馬場が軽く小さいと重いと評価できるため、BTC屋内坂路馬場の運動負荷は馬場管理方法変更後の美浦トレセン坂路馬場よりも軽いものの、変更前と比較すると同等~やや重いと評価できます。
このような比較を行なう際に調査対象馬(育成馬VS競走馬)の体力差を考慮する必要はありますが、BTC坂路では最も調教が進んでおり体力がある時期の育成馬データを利用したことから、競走馬との差は比較的小さいと考えられます。したがって、BTC屋内坂路馬場は馬場管理方法変更前の美浦トレセン坂路馬場と比較して運動負荷が同程度であり、育成調教を行なう上で十分なトレーニングができる馬場であると考えられました。今回の調査結果を参考に、BTC屋内坂路馬場で調教してみてはいかがでしょうか。
(日高育成牧場 生産育成研究室長 羽田哲朗)