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2020年5月28日 (木)

競走馬で利用できる最新の心拍計について

No.155(2016年9月15日号)

これまで、講演会や『強い馬づくり最前線』において調教中の心拍数を利用した競走馬の体力検査法について紹介してきました。そこで今回は、調教時の心拍測定に必須となる最新の心拍計を紹介します。

 

キーワードは『GPS』と『クラウド化』

 JRAで馬の心拍測定に腕時計型心拍計を利用し始めたのは20数年前のことです。当時、人用の心拍計を馬で利用するために、心拍センサーに電極をハンダ付けしていたことを懐かしく思い出します。

 現在、運動中の心拍数を測定できる心拍計は多くのメーカーから販売されています。どれも基本的な構成は20年前と変わっておらず、体に装着する心拍センサーと腕時計型心拍計で構成されています(写真1)。一方、大きく変わったのは『GPS』と『クラウド化』です。GPSは、皆さんご存知の通り衛生電波から位置情報を受信する装置で、同時に走行軌跡や距離、速度などを記録することができます。この機能により、以前は走行速度をストップウォッチで計測していたのですが、屋外ではその必要がなくなりました。もう一つの特徴が、『クラウド化』です。クラウドとは“cloud=雲”から派生した“クラウドコンピューティング”の略で、データをインターネット上に保存する方法を意味しています。つまり、これまでは測定したデータを自分のパソコンにダウンロードしていたものが、クラウドではUSB経由で接続したパソコンからインターネット上のホストコンピュータに保存し、インターネット経由でデータを利用することになります。クラウドには、インターネットに接続できる環境があればどこでも利用できるという利点がある反面、接続できなければ全く利用できないという弱点もあります。1_2 写真1 腕時計型心拍計(右:Polar RC3-GPS)と心拍センサー(左)

Polar M400

 現在多くの心拍計が販売されていますが、その中で日高育成牧場ではPolar社製“M400”という製品を利用しています(写真2)。その理由として、Polar社は心拍測定時に使用する馬用の電極を販売しており、センサーを加工することなく馬に装着できることが大きなポイントです(写真3)。また、Microsoft Excelなどでデータ解析する場合には心拍数や速度の生データ(数値のデータ)が必要になるのですが、私が知る限りクラウド化された心拍計の中で生データをダウンロードできるのはPolarだけで、十分な性能を有し比較的安価なのがM400です。

 使用方法はこれまでの心拍計と変わらず、測定終了後はUSBケーブルでパソコンに繋ぐだけで自動的にホストコンピュータにデータを保存され、インターネット上で測定結果を確認することができます(写真5)。実際に使用した感想としては、データ保存に少し時間がかかり、改めて解析用の生データをダウンロードするのは面倒な感じがしますが、それ以外は非常に簡便で使いやすくなったと感じています。

2 写真2 Polar M400

 3 写真3 馬用の電極(上:電極型、下:ベルト型)

 4 写真4 ベルト型電極装着方法

ベルト装着時に電極部分2箇所(矢印)をお湯で濡らし、この上に通常の装鞍を行います。

 5 写真5 インターネット上に表示される測定結果

心拍数と速度だけではなく、走行軌跡や総距離が表示されます。

 

次世代の心拍計

 ここで、Polar Team Proという製品を紹介します(写真6)。これは人のプロスポーツ選手用に開発された製品で、Jリーグなどのプロチームで利用されています。最大の特徴は、心拍センサー内にGPSとデータ記録装置が組み込まれており、腕時計を持つことなく心拍数と走行速度を測定できることです。先日メーカーの方にご協力いただき競走馬でデモンストレーションを行ったのですが、腕時計が不要な分M400よりさらに利用しやすくになっていると感じました。現在は競走馬用のソフトウエアが無く馬での応用はまだ先な感じはしますが、開発が進みハロンタイムや体力指標を簡単に解析できるようになれば、競走馬の体力や体調を知るための便利なツールになるのではないかと期待しているところです。6

写真6 Polar Team Pro

Team Pro本体(上・中)およびデータ転送・充電用ドック(下)

  

おわりに

 心拍数を用いた競走馬の体力検査は最初は難しいかもしれませんが、『虎穴に入らずんば虎子を得ず』という言葉にもあるように、愛馬の状態をより詳しく知るために心拍測定にトライしてみてはいかがでしょうか?

  

(日高育成牧場 生産育成研究室長 羽田哲朗)

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