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2020年5月28日 (木)

蹄充填剤の応用

No.156(2016年10月1日号)

 

蹄充填剤とは

 馬の蹄は1ヶ月に約10mm程度の生長をします。しかし、運動をすることで蹄は磨り減ります。蹄の伸びる量よりも減る量が多くなると、知覚部まで達し疼痛を伴います。そのため、蹄鉄は蹄の保護を最も大きな目的として装着します。

 一般的に蹄鉄は蹄釘(ていちょう)といわれる釘を使って装着します。しかしながら、蹄壁欠損などにより蹄釘での装着が困難になるケースが多くあります(図1左)。そのような馬の場合には、蹄充填剤が無かった頃には休養を余儀なくされ、蹄が自然と伸びるのを待っていました。

 しかし、蹄充填剤の一つであるエクイロックス(Equilox社製)が開発され、エクイロックスで蹄壁を補修し、そのエクイロックスに蹄釘を打ち込み蹄鉄を装着する技術が普及しました(図1右)。この方法により、多くの馬が休養することなく継続して運動が出来るようになりました。1_3 図1 左:蹄壁がはがれて蹄釘による蹄鉄の装着は不可能

   右:蹄充填剤エクイロックスを蹄に塗り、蹄釘にて蹄鉄を装着

 

蹄充填剤の応用

 蹄充填剤は、蹄壁の補修剤として開発されました。しかしながら、現在ではその用途は多岐にわたります。そのため、用途に合わせた様々な蹄充填剤が開発されています。そこで、蹄充填剤の使用方法について紹介していきたいと思います。

  

・蹄鉄の装着(接着蹄鉄)

 蹄鉄は基本的には蹄釘を使用し装着されますが、蹄釘を使用して装着できない場合には、蹄充填剤を使用して蹄鉄を装着します。この方法で蹄鉄を装着することを接着蹄鉄とよびます(図2)。接着蹄鉄は、蹄壁欠損によって蹄釘での蹄鉄の装着ができない蹄にかぎらず、クラブフットなどの蹄釘による蹄鉄の装着が困難な場合にも選択されます。蹄釘を使わない安全な装着方法ですが、蹄機作用を抑制することもあるため、使用する期間などには注意が必要です。2_2 図2:接着蹄鉄 蹄釘を使用せずにエクイロックスにて装着

 

・肢軸矯正

 子馬のうちに、肢軸を矯正し負担の少ない肢勢にすることは、競走馬としてトレーニングをしていく上で故障のリスクを減らす重要なことです。蹄充填剤が普及するまえは削蹄による矯正のみで対応することがほとんどでしたが、蹄充填剤を使用して、蹄に張り出しをつけることで(図3)、より大きな矯正力を発揮できるようになりました。3_2 図3:肢軸の状態にあわせて蹄に張り出しをつけて改善に努める

 

・蹄底に対する保護やサポート

 蹄充填剤の中には蹄底に充填するタイプもあります。蹄底は地面からの圧力を受けるため、エクイロックスなどの硬い蹄充填剤は使用できません。そこで、蹄底に使用できるように柔らかいエクイパックなどの蹄充填剤が開発されました。蹄底への充填は蹄底が薄く痛みがあるときに保護のために使用します。また、蹄葉炎などの蹄骨が沈み込んでくる症状があるときに地面側から支えるサポートとして使用します(図4)。この方法が普及したことにより以前よりも完治する蹄葉炎の馬が多くなりました。4_2 図4:アドバンス・クッションサポートによる蹄底の充填

 

まとめ

 蹄充填剤は用途に応じて硬さや接着力の違う様々な製品が開発されています。馬の症状にあった蹄充填剤を正しく使用することで、様々な蹄病や肢勢に対応することが可能です。また、現在も新しい蹄充填剤が開発されています。それらの特徴・性質を十分に理解して使用する事で、より多くの症例に対して、今よりも適切な処置を施せるようになるかもしれません。

(日高育成牧場 業務課装蹄係  諫山太朗)

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