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2021年1月22日 (金)

JRA育成馬のゲート馴致について

JRA育成馬は、日高・宮崎の両育成牧場で競走馬を目指したトレーニングを受けた後、JRAブリーズアップセールで売却されます。これらの馬が日々のトレーニングと並行して必ず行うのがゲート練習で、育成馬は毎日ルーティンとしてゲート通過を実施します。競走馬として能力を発揮するために「ゲート」と上手につきあうことは必須です。高い走能力をもっていても、ゲート難があると十分なパフォーマンスを発揮できなくなってしまいます。今回は、JRA育成馬が育成牧場に在厩している間に行うゲート練習について紹介させていただきます。

 

練習用ゲート

日高・宮崎育成牧場にはそれぞれ練習用ゲートがあります。ご存知の方も多いと思いますが、練習用ゲートは枠幅が異なります。1枠と2枠は競走用ゲートと同じ幅ですが、3枠と4枠はこれより幅が広く、4枠の幅は1枠の約2倍あります(写真1)。通過する際に馬体が触れない枠幅がある4枠から慣らし、徐々に狭い枠に入れるように工夫・設計されています。

1_15 写真1

 

この練習用ゲートは毎日の運動で利用する身近な場所(日高:屋内角馬場、宮崎:500mトラック馬場内)に設置しています。普段使う場所に設置することで、若馬にゲートが「特別な場所」ではないことを刷り込む目的です。通過することを日課にしている育成馬にとって、ゲート通過は外を歩くのと同じくらい当たり前のことになっています。

 

ゲート馴致の開始時期

JRA育成馬は騎乗馴致より早くゲート馴致を開始します。最初は引き馬でゲートを見せ、慣れたら大人しい馬の後について通過します。騎乗馴致の過程では、ドライビングでのゲート通過に十分な時間を割きます。狭いゲートのドライビング通過は一見難しそうですが、人馬の信頼関係が構築されていればさほど難しくありません(写真2)。ゲートに限った事ではありませんが、馴致は馬にあわせて納得させながら進めていくことが大切です。

2_13写真2

 

騎乗前の段階でゲート馴致をはじめる理由は多くの時間をかけたいから、というだけではありません。騎乗後のゲート練習開始は騎乗者の微妙な心理状況(心配・恐怖)が馬に余計な不安感を与えるため、適切ではないと考えます。経験豊かな騎乗者が行うときでも、ドライビングでのゲート馴致ができていればより安心・安全に進める事ができます。

 

育成期のゲート目標

JRA育成馬には牧場在籍中の達成目標があります。レース用のゲート(写真1の1枠)で、①前扉の閉まったゲートに常歩で入り、②後扉を閉め、大人しく10秒程駐立し、③前扉を開け、騎乗者の扶助により常歩で発進する、というものです(写真3)。ここで重要視しているのは、「騎乗者の扶助」による発進です。騎乗者の指示を待たずに馬が勝手に出た場合や、指示を出しても発進できない場合には目標達成と認めていません。

3_7 写真3

 

目標の達成状況は年2回(1歳の12月と2歳の3月)確認します。この時に限らず、騎乗者は鐙を短く詰めて履いて必ずネックストラップをもちます。若馬の場合、普段は問題ない馬でも一瞬の油断でゲートを怖がってしまう場合があるため、常に細心の注意を払い実施することが必要です。

 

「ジャンプアウト」の実施

JRAでは育成段階にゲートが開いたら駆歩で発進する、いわゆる「ジャンプアウト」を実施しません。これは育成場にいる期間はゲートを「落ち着いて通過する場所」と理解させたいことと、ジャンプアウトで悪癖がつくと修正に時間がかかることが理由です。ジャンプアウトは競馬が近くなってから騎手に教えてもらいたい、と考えています。

さて、育成段階にジャンプアウトを教えないと競走馬デビューが遅れるのでは?と聞かれることもあるので、JRA育成馬のゲート試験合格状況(過去5年)を調査しました。調査対象は2歳JRA育成馬のうち、メイクデビュー競走開幕直前(6月1週目)の金曜日に両トレセンに在厩していた馬です。この馬たちのゲート試験受験頭数と合格頭数の調査結果が表1です(表1)。これを見ると、受験馬の概ね9割が競馬開幕週までに合格していることがわかります。2016年売却馬の成績を掘り下げてみると、1回目のゲート試験で合格した馬は49頭中37頭、2回以上の受験で合格した馬は8頭、未合格の馬が4頭です(この4頭もその後間もなく合格しています)。不合格となった理由で多かったのは「出遅れ」で、次が「ダッシュ不足」でした。全馬合格ではないため何とも言えませんが、育成段階のジャンプアウトが絶対条件ではないという考え方はご理解いただけると思います。

4_5 表1

 

おわりに

ここまでJRA育成馬のゲート馴致について紹介させていただきました。ゲート馴致に限らず、若馬の馴致・調教のプロセスは人によって考え方が違い、やり方も様々です。私が大切だと思うことは、①時間をかけて馬に納得させながら進めること、②焦らず段階的に教えること、③常に細心の注意を払い実施すること、の3点です。今回ご紹介した内容が少しでもお役に立てば幸いです。

 

馬事部生産育成対策室 専門役  秋山健太郎

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