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2019年1月11日 (金)

交配・妊娠期の注意点

No.29 (2011年4月1日号)

本格的な繁殖シーズン
 馬の生産地は非常に忙しい季節に突入しています。分娩の監視や対応、新生子馬の管理などで十分な睡眠が取れない中、繁殖牝馬の検査や交配などが絶え間なく行われています。このような時こそ、できる事であれば一回の交配で効率的に受胎させたいものです。今回は、妊娠成立のメカニズムから見た交配前後の管理法について考えてみましょう。

養分要求量を満たす栄養補給
 一般の哺乳動物は、泌乳している時期には妊娠しないような生理機能が働きますが、馬は「お乳を出しながら妊娠することができる」という特徴があります。私たちがこの馬特有のメカニズムを利用して生産していることには、意外と気がつかないものです。繁殖牝馬も泌乳期は乳の合成分泌に養分を必要とし、1年1産を目指すためには分娩後2ヶ月間に1日当たり30メガカロリーの養分を摂取させる必要があります(図1)。繁殖牝馬の泌乳量が最大となる時期に、泌乳と妊娠のために必要な養分を外からしっかりと補給するように管理することが、サラブレッドの効率的な生産を実現する最大のポイントです。妊娠期にボディコンディションスコアを6.0-6.5に維持し、分娩後にも肋骨が見えるようなことがないように管理することが有効となります。

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図1 分娩後の繁殖牝馬の養分要求量は交配を行う時期に最大となる


分娩後初回発情の交配はできる限り見送る
 2004-2006年に実施された生産地疾病等調査研究によれば、日高地方では79%の馬が分娩後初回発情で交配され、その受胎率は46%であり、13歳以上に限れば受胎率37%とさらに低下します。一方、ケンタッキー州のサラブレッド生産の一回交配当たりの受胎率が約60%という高い数字となる背景には、分娩後初回発情での交配が20%以下に限られ、ほとんどが2回目以降の発情で交配されていることに関係しています。また、分娩後の子宮洗浄はわずか数%の実施率であり、日本のように分娩後8日目から検査、子宮洗浄、治療を数回繰り返し行うことはせず、交配を見送り、その間の自浄作用によって子宮を生理的に回復させることが費用対効果からみても有益であると考えられています。その他にも、分娩後初回発情での交配では、1)妊娠期の損耗率(胚死滅、流産など)が2倍以上高く、5頭に1頭は出産に至らないという結果が示されていること、2)出生後10日頃の体力の弱い子馬にウイルスや細菌が感染する温床となること、3)交配に関わる費用や労働力(3,4回の検査診療費、輸送費、人件費など)が大きいこと、4)種牡馬の交配回数が増加し、結果として受胎率の低下を招くこと、などの問題があります。分娩後初回発情での交配はできる限り見送り、削減された経費を馬の養分の補給に当てることがトータルで有効となります。また、2回目以降の発情の発見に力を注ぐことが重要となります。

排卵誘発剤の使用
 排卵誘発剤(促進剤)は適切な時期に交配を行う上で有効な薬剤であるといえます。馬の排卵誘発剤にはいくつか種類がありますが、hCGというヒト由来のホルモン剤は、安価で汎用性の高い薬剤であり、馬の排卵時期をコントロールする上で有用です。hCG投与により双子と診断される割合も増加しますが、適切な処置を行えばむしろ黄体機能が増強され受胎にプラスとなります。hCG投与群は、非投与群と比べて、統計的に有意に受胎率が向上するという研究結果が多数報告されており、排卵誘発剤の使用は馬の効率的な繁殖管理に有効です。1シーズンに3回以上使用すると、投与効果が減弱するといわれており、獣医師と相談しながら使用することが推奨されます。

エコー検査による5週目妊娠鑑定
 受精後16日までの胚は子宮の中を移動する不安定な状態にあり、馬の着床が始まるのは受精後38日頃です。2006-2009年の生産地疾病等調査研究成績では、日高地方で35日以内に早期胚死滅と診断される率は6%であることが報告されました。また、その後流産などの原因により出生まで至らなかった率は、約15%にも達することが報告されました。したがって、軽種馬生産では妊娠期の損耗を軽減することが生産性向上への近道であると考えられます。早期胚死滅を予防するためには、上述の3項目を実施することが非常に有効です。しかし、様々な要因による早期胚死滅を完全にゼロに抑えることは困難であると結論づけられており、再交配が可能な時期に胚死滅を見つけ出すことが重要であると考えられます。妊娠4週以降には、エコーを用いて胚の大きさ、形、心拍などを見ることにより、正確に胚の発育状態を判断することができます。胚死滅と診断されても、その後高い確率で再妊娠することが可能であることから、5週目のエコー再検査を実施することが強く推奨されます。

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(日高育成牧場 生産育成研究室 室長 南保泰雄)

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