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2019年1月15日 (火)

子宮の回復と受胎率、流産率

No.31 (2011年5月1日号)

種付けの現状
 一般的に、哺乳動物は授乳期間中には発情しないものですが、馬は出産直前から卵胞が成長し始め、分娩から1週間で発情を示すという特異な動物です。これまでに行われた生産地疾病等調査によると日高管内では分娩した馬の79%が初回発情で交配されており、その受胎率は46.4%でした(2発情目以降も含めた1発情当たりの受胎率は約60%)。
 一方、欧米のサラブレッド生産に目を向けると、分娩後初回発情ではほとんど交配されないのが一般的です。種牡馬側の観点からすると、産駒数を増やすためには、受胎しにくい馬との交配を避け、受胎しやすい馬と交配するということは非常に納得いくものです。しかしサラブレッド以外の品種においては、欧米においても初回発情で交配することが一般的であり、繁殖効率を考える上で初回発情を避けるか否かということは世界的にも論争の的となっています。

子宮の回復
 初回発情において受胎率が低い原因は、子宮が分娩の損傷から回復していないことに起因しています。損傷の程度、回復の早さは馬によって異なりますが、エコー検査で子宮の大きさ、貯留液の性状や量などをみることによって推察できます。初回発情時に貯留液が残っていると受胎率が低下するという報告もあることから、日本では交配前によく子宮洗浄が行われますが、貯留液=汚い=洗浄と考えるのは必ずしも適切ではありません。子宮内貯留液は子宮内膜組織の残留や感染を示唆するものではなく、修復過程において子宮壁から滲出するものであり、正常であっても分娩後6日頃までは存在すると言われています。このことは、正常に分娩した場合において、子宮洗浄を行っても受胎率を高める事ができないという報告からも裏づけられます。

初回発情v.s.2発情目以降
 初回発情と2発情目以降では生産性にどれほどの違いがあるのでしょうか。初回発情時の交配では受胎率が低いことを述べましたが(46.4%v.s.60%)、受胎した後の流産率が高いことも問題です。具体的には、受胎確認したものの5週目の再鑑定時に胚がいなくなる早期胚死滅率が11.1%v.s.3.8%、さらにそれ以後に流産する胎子喪失率が11.0%v.s.6.2%と、2群に大きな違いがあることが分かりました。初回発情で受胎するか否かの違いは決して運ではなく、さまざまな要因が関与しています。そのため、効率の良い繁殖管理を考える上で受胎する馬としない馬の要因を精査することは重要です。

分娩後初回発情に適した条件
 生産地疾病等調査によると、初回発情で交配した場合、年齢によって交配率、受胎率に差が認められました(図1)。また、交配頭数は分娩9日後にピークに達するものの、受胎率は9日以前は50%未満なのに対し、10日以後で50%を越え(図2)、「9日以前は見送った方が良い」という一つの指標を裏付ける結果となりました。

1 図1 分娩後初回発情における年齢毎の交配率および受胎率

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図2 分娩後初回発情における交配日別受胎率


 その他、受胎率に影響を及ぼす因子を列挙しますと、分娩月日(遅<早)、前年の状況(分娩<非分娩)、胎盤排出時間(60分以内<以上)、胎盤重量(8kg以上<以下)、分娩後日数(短い<長い)が挙げられました。
 前年の状況や胎盤排出時間、胎盤重量は子宮損傷の程度を反映しており、年齢や分娩後日数については子宮の回復度に影響していると考えられます。獣医師はエコー検査で子宮の回復具合を判断しますが、牧場現場においては後産が排出されるまでの時間や後産重量を記録しておくことで、初回発情を見送るか否かの判断材料になると考えられます。

飼養管理の重要性
 牧場の管理によって受胎率を改善できる因子としては飼養管理が挙げられます。出産時のボディコンディションスコア(以下BCS)が5以下であると同シーズンの受胎率が低い事が報告されています。このような馬は分娩後に慌ててBCSを上昇させたとしても受胎率は改善しないため、出産前からBCSを5以上に保つよう管理することが重要です。
 また、BCSと早期胚死滅率との関係も報告されています。初回受胎確認時から5週目の再鑑定時におけるBCSの変化を上昇群、維持群、低下群と区分したところ、早期胚死滅率については上昇群1.9%、維持群5.6%、低下群7.0%と関連性が認められ、胎子喪失率(再鑑定時以降に流産)についても8.0%、7.0%、13%とBCSが低下する群で高い流産率を示しました。(全体の平均は早期胚死滅率5.8%、胎子喪失率8.7%)
 また、運動は子宮回復を促すことが知られているため、初回分娩後発情での受胎率を高めるためには早期に広い放牧地へ放すことも選択肢として考えられます。

 今回は分娩後初回発情における交配について焦点を置いて紹介させていただきました。これらの成績が、多忙な繁殖シーズンにおける効率の良い繁殖管理の一助になれば幸いです。

(日高育成牧場 生産育成研究室 村瀬晴崇)

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