« アスタキサンチンの「こずみ」予防効果 | メイン | レポジトリーの普及と今後の課題 »

2019年3月23日 (土)

最近の妊娠超音波(エコー)検査

No.56 (2012年6月1日号)

 診療でしばしば利用される超音波(エコー)検査。この診断装置は、動物の診療の中で「馬」にはじめて使用されました。1980年代から、馬の妊娠鑑定に利用され始め、とくに双子の診断に威力を発揮し、現在に至っています。本稿では、馬の生産で利用されるエコーによる診断技術や機能の進化について紹介します。

 

胎子の心拍数をエコー診断する

 妊娠5週の妊娠鑑定で、実際は胚死滅となっているにも関わらず、胚胞や胚がエコー画面に映る場合があります。このような状況は、数回の検査の結果、ようやく判明するものですが、一度の検査で胚が死滅しているかどうかを血流を診ることにより確実に診断することができます。ヒトの産科医療では、卵巣や子宮、胎児の血液の流れをカラー表示することができるカラードプラエコーによる検査が広く普及しています。馬の生産においても、直腸検査用探触子を胎子にあてると、血液の流れがある部位を赤と青のカラー画像で描出することができます。また、胎子の心臓付近にカーソルを当てると、心拍数が計測されます。1cmにも満たない5週齢胎子の心臓の心拍数が安定して測定できます。胎子の心拍数は5週齢頃には165回と高く、その後胎齢とともに減少し、出生する頃には70回前後に低下します(図1)。標準値よりも心拍が亢進するとストレスを受けている状態であること、低下していると低酸素や中枢神経に障害がある状態であると報告されていることから、胎子の健康状態を客観的に知る簡便な診断法として利用できます。

1 図1 妊娠5週目のカラードプラエコー検査。胚の心拍数の計測が容易であり、胚の健康状態を客観的に知ることができる。 

胎子の性別をエコー診断する

 海外では妊娠9週(60日頃)に胎子の性別をエコーで診断する獣医療が確立されています。妊娠9週での胎子診断は、Ginther(1989)によって初めて報告され、以後応用方法が紹介されてきました(図2)。しかし、エコーによるウマ胎子の性別診断は、解剖学的構造の詳細な観察を行うために熟練の技術と経験を必要とし、また病気を診断する獣医療ではないことから、我が国の馬の診療には現在のところ取り入れられていません。一方、米国では、教育の現場でも胎子の性別判定が紹介されており、サラブレッド繁殖牝馬セールの情報公開に使用されています。日本においても今後実りある技術の有効利用が望まれています。

2図2 胎齢60日のエコー像。雄生殖結節が左右大腿骨の間に描出されている。エコーの角度や判定には熟練の技術を必要とする。

 日高育成牧場では、数年前から、ヒト医療において臨床応用されている3Dエコーの馬への応用について研究を進めてまいりました。その結果、これまで性別診断の適期と言われていた妊娠60日頃ばかりでなく、妊娠120-150日頃に胎子が尾位(お尻が子宮頸管近くにある状態)である場合、性別判定が容易であることがわかりました(図3)。現在のところ、ポータブルエコーではこの機能は使用できませんが、将来的には生産牧場のきゅう舎で3D胎子診断が可能になるものと思われます。

3図3 妊娠5ヵ月での3Dエコーによる胎子尾部の描出。雌の外部生殖器(矢印)が3D映像としてよくわかる。 

胎盤の炎症をエコー診断する

 流産にはいくつかの原因が知られています。その中で細菌や真菌(カビ)などが膣から子宮頸管を通じて感染した場合、胎盤炎となることが知られています。胎盤炎は妊娠後期に起こる流産の原因の20%を占めていると報告されており、主要な原因となります。以前は流産が起こりそうな状態をエコー検査で知ることができませんでしたが、最近ではエコーで胎盤と子宮の混合厚を測定すると胎盤の炎症状態を診断することができることが明らかとなりました(図4)。この検査は、生産牧場のきゅう舎でポータブルエコーを使って簡単に実施することができます。今シーズン受胎した大切な繁殖牝馬や、これまで流産経験のある牝馬の妊娠中の管理に、超音波診断技術を利用してみてはいかがでしょうか?

4_3図4 胎盤炎の馬の胎盤厚のエコー像。胎盤厚が10mmを超えてくると胎盤炎である可能性が高い。

 (日高育成牧場 生産育成研究室 室長 南保泰雄)

コメント

この記事へのコメントは終了しました。