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2020年1月

2020年1月 6日 (月)

サラブレッドの「ウォブラー症候群」について

No.131(2015年9月1日号)

はじめに
 サラブレッドは、三百年以上に渡る歴史の中で、より速く走るために進化してきた動物です。体を大きくし、肢や頸を長く細く変化させるだけでなく、成長のスピードまでも早く変化させてきました。そのため、成長著しい若馬のころに、発育のバランスが崩れることで発生する病気(発育期整形外科的疾患)も多く見られるようになりました。今回は、この発育期整形外科的疾患の1つである「ウォブラー症候群」について紹介します。

ウォブラー症候群とは
 「ウォブラー症候群」とは、いわゆる「腰フラ」や「腰痿(ようい)」と呼ばれる後躯の運動失調を主症状とする病態のことです。生後12~24ヶ月齢の牡の若馬に多く発症し、その発症率は1.3~2.0%であることが知られていることから、国内での発症も年間100頭近くに昇ることが推測されます。
本疾患の原因は、急激な成長によって生じた頸椎の配列の不整、頚椎関節部の肥厚や骨棘、離断骨片などによる狭窄であり(図1)、脊髄が圧迫されることで生じる神経の損傷です(図2)。生前診断は、臨床症状と頸椎のレントゲン検査による脊柱管の狭窄を確認することになりますが、狭窄は上下方向からとは限らず、狭窄部位を特定するのは容易ではありません。発症馬の予後は悪いことが知られ、病状の進行により安楽死処分されるケースが多い疾患です。しかし、一方で跛行が軽度な場合には、温存療法により約30%の馬がレースに出走したとの報告もあり、予後判断に苦慮することも多く、更なる客観的な生前診断法の開発が望まれています。

1_5 (図1) ウォブラー症候群発症馬の脊髄造影レントゲン写真
丸囲み内には、頸椎関節の肥大と離断性骨片(OCD)が認められ、脊髄が圧迫されている様子(矢印)が観察されるが、診断には熟練を要する。

2_5 (図2)狭窄部位の病理組織標本
白く抜けて見える小さな点は、神経線維が損傷を受けている所見

CTによる診断の試み
 CTとはコンピューター断層画像撮影装置のことです。CTを用いて、患部を撮影しコンピューター上で再構築することで、見たい部位を、見たい方向や角度から観察したり、計測したりすることができるのです(図3)。現在、我々は帯広畜産大学臨床獣医学研究部門にあるCT装置を利用して、サラブレッドの頸椎における狭窄部位の撮影および解析方法について検討を重ねているところです(図4)。

3_5 (図3)ウォブラー症候群発症馬の頚椎矢状断CT検査画像
狭窄部位が明瞭に確認できるため診断への応用が期待される。

4_4 (図4)CT検査の様子
静脈麻酔後、検査台に仰臥位で保定し頸部の撮影を行う。撮影時間は30秒程度である。

予防と治療について
 サラブレッドのウォブラー症候群に対する有効な治療方法は、今のところありません。頸椎の狭窄部位に対する外科的手術は、競走馬を目指すサラブレッドにとっては現実的ではなく、痛みや狭窄の進行を抑えるための対症療法を実施し様子を見るだけなのが現状です。したがって、発症馬を出さないよう、適切な飼養管理を心掛けたり、遺伝的に極端に近親交配が高くならないよう配慮したりすることが重要となります。

最後に
 レントゲン検査だけでは判断しづらい頸椎の狭窄状況を観察する上でCT装置は有用です。しかしながら、CT装置の撮影可能な対象馬は、体重300kg未満の当歳馬に限られてしまいます。今後は、より大型のCT装置の導入により、撮影可能対象は拡大される予定です。さらに、MRI(磁気共鳴画像)やPET(陽電子放射断層撮影)などを用いた検査方法と組み合わせた調査研究が実施されることで、ウォブラー症候群の病態が解明され、より的確な予後判断が可能になることと思われます。軽種馬の生産性の向上のため、強い馬づくりのため、今後も本症の早期診断や予防法の開発に勤めていきたいと考えています。

(日高育成牧場 生産育成研究室 研究役 佐藤 文夫)

2020年1月 3日 (金)

繁殖牝馬と子馬の蹄管理

No.130(2015年8月15日号)

はじめに
 繁殖牝馬や子馬は放牧地で管理される時間が長く、仲間とともに良質な青草を探して歩き回るため、子馬は肢蹄が健全であれば運動量が増えて基礎体力が向上します。しかし、下肢部、特に蹄に疾患があり歩行を嫌う場合には、運動量が減少して健全な馬体の成長が妨げられてしまいます。そのため、日頃から蹄を注意深く観察し、触れることにより、蹄病の発症を早期に発見し、悪化を防止することが重要です。そこで今回は繁殖牝馬と子馬の蹄管理のうち、日常心がけるべき基本について紹介したいと思います。

日常の管理
 蹄に汚物や糞尿(アンモニア、酸やアルカリ)、泥土が詰まった不潔な状態で放置すると、蹄質が悪化し、蹄叉腐爛などの蹄病の発症誘因となり、跛行の原因となることがあります。常に清潔な状態に保つためには、こまめな裏堀りが重要です(図1)。裏掘りの際には、蹄壁に触れることにより蹄の異常サインである帯熱を感知できます。また、子馬には蹄を軽く叩いて音を出し、衝撃を与えることでその後に実施する装削蹄の馴致となります。

1_4 図1 裏堀り

蹄油の利用
 冬季は蹄が乾燥して硬くなることにより、蹄機作用(体重負荷による蹄の変形によって着地時の衝撃を緩和したり蹄内部の血液循環を助ける生理作用)が妨げられ、蹄踵の狭窄や裂蹄などが発症しやすくなります。また、手入れに湯を使用すると必要以上に蹄の水分を蒸発させることから、蹄洗後は直ちに蹄油を塗布して乾燥を防止する必要があります。逆に夏季は、蹄の過度な湿潤により蹄質が軟化し、蹄叉腐爛や蹄壁欠損を発症しやすくなります。蹄油は、過剰な蹄の水分発散(乾燥)や湿潤を防止することを目的として蹄壁や蹄底に塗布します。その他、成長基点である蹄冠に、蹄クリームや単軟膏などを刷り込むことも蹄を保護するうえで有効です。

定期的な削蹄
 子馬の蹄は柔らかく成長が早いため、異常摩滅などにより、蹄形が変形してしまうと歩様、肢勢、蹄形に大きな影響を与えます。そのため、定期的な装削蹄が不可欠です。子馬も繁殖牝馬と同様に、3~4 週間隔で装削蹄を実施しますが、状態によっては時期を早める場合もあります。日頃から蹄を注意深く観察し、不正摩滅や蹄形異常の早期発見に努めることが重要です。日高育成牧場では出生時から離乳まで、装蹄師および獣医師が毎日、肢勢および歩様をチェックしています。また、過度の摩滅や蹄壁欠損が生じた場合は、成長期の軟らかい角質への負担を軽減させるため、充填剤の使用や蹄の生長を阻害しないためにポリウレタン製蹄鉄(図2)を用いて保護します。

2_4 図2 ポリウレタン製蹄鉄

牧場でもできる蹄管理
 蹄の縁が尖っていると蹄壁欠損や裂蹄を起こしやすくなります。そのため、端蹄廻し(はづめまわし)を実施し蹄壁欠損などを予防します。端蹄廻しとは、蹄壁の厚さ2 分の1 を目安として、ヤスリで外縁を削り、蹄壁に対して45度の丸みをつけます(図3)。軽度の蹄壁欠損を発見した時は、欠損部の拡大を防ぐために、蹄用のヤスリを常備して欠損部のヤスリがけを行いましょう。

3_4 図3 端蹄廻し

最後に
 健全な馬を育てるには装蹄師による定期的な装削蹄だけでは限度があり、牧場での日常の蹄管理が必要不可欠です。また、蹄の異常など発見した場合は速やかに担当の獣医師または装蹄師に相談しましょう。

(日高育成牧場 業務課 山口 智史)