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2021年2月

2021年2月 1日 (月)

馬の放牧地における電気牧柵の利活用

はじめに

昨今、ハンターの減少や高齢化に伴ってシカの個体数の増加を実感できるようになりましたが、シカによる放牧地や採草地の食害に悩まされている方々も少なくないのではないかと思います。放牧地へのシカの侵入は放牧草の食害だけでなく、放牧中の馬がシカに驚いて狂奔したり雄シカの角に突かれたりした際に負傷する原因になることも珍しくはありません。また、シカによって持ち込まれた病原菌やダニなどが馬の感染ルートになることもあるため、シカの侵入に対して何らかの対抗措置をとる必要があります。

シカの放牧地への侵入防除には、ワイヤーメッシュ等の物理的な柵の設置が最も有効です。一定以上の面積を有する放牧地や採草地を整備する場合には、必要経費の一部についての助成事業「軽種馬生産基盤整備対策事業(放牧地整備事業)」を利用する方法もありますが、もう少し手軽に電気牧柵を利用するという方法もあります。今回は、JRA日高育成牧場における電気牧柵の利活用についてご紹介します。

 

シカ対策

一般的な電気牧柵は、物理的に動物の侵入・脱柵を防除できるような堅牢な構造ではなく、電気ショックを与えて対象動物を心理的バリアによってコントロールすることを目的としています。この電気牧柵装置には様々な種類がありますが、一般的なの動物防除用としては9,000Vのものが選択されます。電源はバッテリーから供給されますが、昼間のうちにソーラーパネルから充電されるため、電池切れの心配はありません。JRA日高育成牧場では、通常の牧柵の下方の間隙に電気牧柵を設置することで、シカの侵入防除効果を上げています(図1)

また、この電気牧柵は放牧地をぐるりと一周にわたって囲む必要は無く、一部のみの敷設(開始端と終止端を繋いで輪にする必要がない)でも有効です。シカなどの害獣が電気牧柵に触れることで、電流が高圧線から生体を伝って地中のアースに向かって流れる仕組みですが、高電圧でも電流は一瞬だけ微量が流れる仕組みなので、パチンと軽い痛みを感じるだけで感電することはありません。シカは、放牧地に侵入する際に(通常、牧柵の下の隙間を潜って侵入します)この電気牧柵に触れて痛みを覚えますが、何度か繰り返すうちに「柵に触れると痛い」ということを学習し、遂には放牧地に侵入しないようになるという訳です。

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(図1)シカ対策として設置している電気牧柵

 

生後間もない子馬の放牧地順化

広い放牧地で生後間もない子馬が勢いよく走る母馬の後を一生懸命追いかける姿は、生産地ではよく見かける微笑ましい光景です(図2)。しかし、最近の研究では、生後間もない子馬の骨軟骨は幼弱で激しい運動には耐えることができず、症状に表れないような軽微な軟骨損傷を発症している例もあることが明らかとなりました。(図3)。このような子馬の軟骨損傷を予防するためには、子馬が過度に走れないように小さな放牧地から徐々に大きな放牧地へと慣らしていくことが有効と考えられますが、JRA日高育成牧場では放牧地内の「間仕切り」に電気牧柵を利用することで、実際に子馬の種子骨損傷を予防できるかについて検証しました(図3)。

その結果、生後直ぐに広い放牧地へ放牧した子馬に比較し、電気牧柵を利用して段階的に放牧地の広さを制限した子馬では、この軟骨損傷の発症頻度が大幅に減少することが確認できました(表1)。

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(図2)広い放牧地で一生懸命母馬の後を追う生後間もない子馬

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(図3)生後1か月齢の子馬に認められた種子骨の離断骨片

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(図4)電気牧柵で仕切られた放牧地

乾電池式の電源装置と視認性が高い幅4cmの帯状の柵を使用

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(表1)治癒までに10週間以上を要した軟骨損傷の発生状況

 

おわりに

電気牧柵の利点は、通常の牧柵より安価で移設も容易という点です。したがって、子馬の成長に応じて放牧地のサイズを何度でも仕切り直すことが可能です。また、設置によるメリットはシカによる食害を防止して施肥効果を高めるだけに留まらず、シカが持ち込んでいたと思われるダニの寄生も減少させることもできました。 生後間もない子馬の種子骨損傷の予防は電気牧柵の活用法の一例ですが、その他の関節に発生する離断性骨軟骨症の原因となる過度の運動刺激についても同様に防ぐこともできそうです。実際に電気牧柵を運用するには、出産前の母馬を予め電気牧柵を敷設した放牧地に馴致しておくなどの工夫も必要ですが、電気牧柵自体には通常の柵のように物理的に馬の突進に耐える強度がないため、狂奔状態に陥った馬が電気牧柵を突破することは十分に考えられます。したがって、電気牧柵は、あくまでも放牧地内の「間仕切り」としての使用に限定すべきです。

 電気牧柵が有効に、安全に機能するには、適切に資材や機器を設置することだけでなく、漏電を予防するための下草の定期的な刈り取りなど、設置後の環境整備も必要となります。電気牧柵の詳細については、取り扱い販売店にお問い合わせの上、適切にご使用していただきますようお願いします。

 

日高育成牧場 生産育成研究室 室長 佐藤文夫

BTC育成調教技術者養成研修について

はじめに

公益財団法人 軽種馬育成調教センター (以下BTC)は、牧場に就労するために必要な知識と実践的な技術を備えた育成調教技術者の養成を目的に、育成調教技術者養成研修(以下BTC研修)を実施しております。平成4年の開講から500名以上の修了生が牧場へ就労し、軽種馬産業界を支える人材として活躍しています。今回はこのBTC研修について詳しくご紹介いたします。

 

前半の騎乗訓練と厩舎作業

BTC研修の前半は、敷地内の教育エリアで教育用馬を用いた基礎訓練に専念します。基礎訓練では、騎乗訓練と並行して正しい馬の触り方、引き馬、馬体の手入れなど馬の取扱いや、厩舎作業といった牧場に就労する上で欠かせない基本的な内容を学びます。

騎乗訓練は、騎乗経験別のグループに分け、個々の騎乗レベルに応じた訓練を行います。開講から2~3ヵ月間は、教育エリアの小さな角馬場で基本馬術、前傾姿勢等(写真1)を中心とした訓練を行います。その後、走路騎乗でのスピードコントロールに必要な競走姿勢を学び、駈歩で歩度の詰め伸ばしが自由にできるようになると、いよいよ走路騎乗へと進みます。

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写真1 覆馬場で前傾姿勢を学ぶ

BTC研修の最大の特徴は、騎乗訓練中に教官が併走騎乗(写真2)で研修生を指導することです。こうすることで、研修生に騎乗姿勢の見本を示すことができる、その場で的確な指導が行える、リードホースの役割を担える等の利点があるほか、安全面からも突発的な事象に迅速に対応することができます。

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写真2 グラス坂路馬場での教官(左)が併走した騎乗訓練

 

 後半の騎乗訓練と厩舎作業

研修後半は、JRA日高育成牧場の全面協力のもと、実際の育成馬である「JRA育成馬」を用いて「若馬の取扱い」、「若馬が競走馬になるための基礎トレーニング(馴致実習)」、「実践的な騎乗」等を学びます。また、これらに並行して教育用馬での騎乗訓練もレベルアップしていきます。BTC調教場の広大な施設をフル活用した訓練を行うほか、若馬への騎乗準備として、騎乗バランスを習得するための障害飛越訓練を行います。こうした訓練を積み重ね、12月からはJRA育成馬騎乗実習(写真3)を迎えます。この研修では、実際に育成調教中のJRA育成馬に騎乗し、ブリーズアップセールまでの実践的な騎乗訓練を行います。

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写真3 JRAブリーズアップセールに向けたJRA育成馬騎乗実習

 

学科・実技&課外研修

また学科では、教官、BTC獣医師のほか、外部講師を招いて、馬に関する基本的な知識から専門的な知識までを幅広く学習します。学科の多くは、1時限目の座学で受けた講習内容について2時限目に実習を行い、3時限目の試験で学習状況を確認します。実技講習では、バンテージの巻き方からセリ市場での馬の展示方法等、日常の取扱いに必要な技術はもちろん、草刈り機実習、厩舎内外の維持管理、用具の取扱い等、環境整備や牧場管理の重要性についても学びます。

課外研修では、種馬場、民間牧場、セリ市場および競馬場(写真4)などの軽種馬関連施設の見学だけでなく、 レクリエーション的に楽しめる研修や、防災訓練、普通救命講習といった研修も行います。このほか、BTCの研修だからこそ実現できる課外研修を数多く実施しています。

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写真4 JRA札幌競馬場開催見学

 

おわりに

  BTCでは、ホースマンとしての技術はもちろん、社会性や協調性についても養えるような研修の実施に取り組んでおります。また、今後の研修がより良いものとなるよう、修了生や研修生の就労先へのアンケート調査を行い、結果やご意見を次回の研修内容にフィードバックするよう努めています。今後とも皆様からのご協力をお願いいたします。

 

🏇育成調教技術者養成研修 体験入学会 & 第38期生募集のお知らせ🏇

〇BTC研修体験入学会を令和元年7月26日(金)・8月27日(火)に北海道・浦河で開催します。

   ※8月の体験会はBOKUJOB事務局で受付を行います。

〇令和2年4月からの研修生(第38期生)を募集しています。応募条件は以下のとおりです。

・研修修了後、必ず軽種馬の生産・育成に3年以上携わることのできる者       

・入講時、中学校卒業以上の学歴を有する者

・厩舎作業および騎乗訓練を行うのに支障がない者   

※乗馬経験は問いません。   

第38期生受講願書等の受付は「9月6日(金)必着」です。

 

<お問い合わせ>  詳しくは下記にお問い合わせいただくかHP(「BTC 研修」で検索)をご覧ください。

教育課 教育係 TEL 0146-28-1001  9:00~17:00(土日祝休)

メールでのお問い合わせは kyoiku@b-t-c.or.jpまでお願いします。

 

軽種馬育成調教センター 業務部 教育課 小守智志

米国の競走馬の調教

これまで繁殖、セールスプレップと米国事情をご紹介してきましたが、今回のテーマは競走馬の調教についてです。今回のお話の大前提として、米国では馬場などの施設の相違から育成牧場と競馬場では調教の方法も全く異なりますのでご承知おきください。

 

育成牧場での調教

我が国同様、米国においてもブレーキング(騎乗馴致)は育成牧場が担っています。私の研修先であるウインスターファームでは9月頃からブレーキングを開始していましたが、最初の1週間、馬房内で騎乗してひたすら回転を繰り返すことで、背中に人が乗って負重した状態に馴らすことに専念していました。次の1週間はラウンドペン(円馬場)、続く2週間は角馬場で騎乗し、脚の扶助や開き手綱によるコーナリングを教えることで最初の1ヶ月間を終えます。次の1ヶ月間は、普段の放牧で使用されているパドックで騎乗しますが、これは整地された調教コースでなくあえて不整地で騎乗することで捻挫などの疾患を発症しないようなバランス感覚および筋肉の鍛錬を期待しているとのことでした(図1)。さらに次の1ヶ月間は、放牧地間の傾斜地を天然の芝坂路コースとして利用し、馬に後躯の踏み込みを教えてセルフキャリッジした(起きた)状態での走行フォームを教えることに専念します。ここまでブレーキング開始から3ヶ月間、基礎的な部分に重点を置いた調教を行い、12月になって初めて周回コースでの騎乗に移行します。

米国の一般的な育成牧場は、競馬場と同じ1周1,600mもしくは一回り小さい1周1,200mのダートコース(所有もしくは共有)を調教に利用しています。私の次の研修先であるマーゴーファームも1周1,500mのオールウェザー馬場の勾配付き周回コースで通常調教を行い、全長1,700mのオールウェザー馬場の直線坂路コースで追切りを行っていました。マーゴーファームには、この他により大きな1周2,000mの芝コースもありました。米国の育成牧場は、調教コースの他に広い放牧地を所有していて放牧を行いながら調教を進めることも特徴の一つですが、マーゴーファームでも馬の状況に応じて放牧時間が調整されており、2歳の新馬や休養馬でも肢下に問題がない馬は17時間の昼夜放牧、脚部不安で運動量と採食量を制限したい馬は12時間の夜間放牧、骨折手術後などリハビリ中や競馬場入厩が間近な馬は3時間の昼放牧というように細かな放牧メニューが組まれていました。

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図1.あえて不整地で騎乗することでバランス感覚および筋肉を鍛える

 

競馬場での調教

内厩制を採用している米国では、競走馬は基本的に競馬場で調教されています(一部には主催者から認定された外厩で調教されているものもあります)。競馬場の調教馬場や本馬場は、多数の調教師が一斉に利用するため、常歩・速歩は外埒沿いに右回り、駈歩は内側を左回りと厳格なルールが決められています。ゴール板はコース正面の直線の終わりに設置されているので、調教する馬は入場してまずは外埒沿いを右回りに速歩でスタート位置(走りたい距離をゴール板から逆算した地点)に向かいます。スタート位置に到達したら内側に反転し、左回りにゴール板まで駈歩調教を行います。この調教を毎日繰り返すことにより、馬に「内側に反転したらスタート」「ゴール板までしっかりと駈歩する」ことを教えることができるとのことでした。

また、日本と比較して米国の調教師は調教での走行タイムを重視しますが、その理由を尋ねると「実際にレースで走る馬場、すなわち競馬場で調教を行っているから」というシンプルな返答が返ってきました。一般的な米国の追切りは、4~5ハロンといった長めの距離を本番のレースに近いタイム(50-51秒/4Fもしくは61-62秒/5F)で走らせますが、調教師は「実際のレースで想定される勝ち時計に近いタイムで走れるようになったら仕上がった」という考え方を基準に出走を決めているようです。

他にもレース経験の少ない2歳馬は前進気勢を促すために2頭併せ、古馬は単走で調教されるという点も特徴的です(図2)。これは先行抜け出しという展開が多い米国の競馬で、最後の直線で1頭になっても“ソラ”を使わないでゴールまで走り切れるようにというのが目的なのだそうです。

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図2.直線で“ソラ”を使わないでゴールまで走り切れるように単走で追切られる

 

 以上、今回は米国の調教についてご紹介しました。少しでも日頃の調教の参考になれば幸いです。

 

JRA日高育成牧場 専門役 遠藤祥郎

V200から見るJRA育成馬の調教状況についての考察

はじめに

V200とはVelocity at heart rate of 200 beats/minの略称であり、”1分間あたりの心拍数が200拍に達した時点の馬の走行速度”を意味します。V200は、持久力に関係するとされる「有酸素運動能力」の指標として用いられており、日々トレーニングを重ねることで上昇する、言い換えると、同じ心拍数でより速く走れるようになることが分かっています。裏を返せば、同じスピードで走行した時の心拍数が低くなる、つまり馬体の負担が少なくなるともいえます。また、V200は比較的簡単に測定することができるため、定期的に測定することで容易にトレーニング効果を判定することが可能となります。既に一部の競走馬の体力評価にも利用されていますが、JRA日高育成牧場では2歳時の2月と4月に測定し、JRA育成馬の有酸素運動能力の評価に活用しています。

※ 本稿では、昨年2018年度のJRA育成馬(現3歳世代)の調教状況についてV200を中心に考察しています。

V200の測定結果

2009年以降の10年間のJRA育成馬について、各年の2月と4月に測定したV200の平均値を比較してみると、2018年のJRA育成馬のV200平均値において、2月は623.5±7.3 m/min(19.2秒/F)で過去10年において4番目に高い値、4月は675.0±8.9 m/min(17.8秒/F)で最高値となり(図1)、2月から4月にかけてのV200の増加量の平均値も、過去10年で最高値(64.6 m/min)となりました(図2)。

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図1.JRA育成馬各世代におけるV200の平均値

※グラフ内○数字は過去10年間における当該年の順位

※対象は2月および4月のどちらもV200を測定した馬

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図2.JRA育成馬各世代におけるV200増加量の平均値

 

2018年のV200平均値が高水準であったことの考察1:馬場管理方法の変更

2018年のV200が過去10年間で高水準であった要因の1つとして、JRA育成馬が利用していたBTC屋内坂路馬場の管理方法が変更されたことが考えられます。2017年までの屋内坂路馬場は、経年劣化によるウッドチップの細粒化に加えて、頻繁な散水と転圧によって比較的「走り易い」馬場に管理されていました。しかし、2018年以降はウッドチップが更新されるとともに散水と転圧の頻度も減少され、より運動負荷がかかる馬場管理方法に変更されています。実際にこの馬場管理方法の変更によってより運動負荷がかかるようになったかどうかについては、2017年前後にBTC屋内坂路馬場を利用したJRA育成馬の血中乳酸濃度の変化を調査することである程度の推測が可能です。JRA日高育成牧場では、調教時の運動負荷を確認する指標として坂路調教直後の血中乳酸濃度の定期測定も行っていますが、2016年から2018年の3年間の2月における坂路調教2本目の走行速度と直後の血中乳酸濃度の関係性を調査した結果、2018年群の血中乳酸濃度は2016年群および2017年群より全体的に高値を示していました(図3)。2016年から2018年のJRA育成馬における1日あたりの坂路調教メニューに大幅な相違がなかったことから、BTC屋内坂路馬場の管理方法が変更されたことによって2018年群の運動負荷が増加した可能性が考えられます。

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図3.2016-18年のBTC屋内坂路調教時の走行速度と血中乳酸濃度の関係性

 

2018年のV200平均値が高水準であったことの考察2:シーズン中坂路調教本数の増加

2つ目の要因としては、調教内容について坂路調教の本数を増加した影響が考えられます。2017年春までの調教は800m砂馬場を中心とし、坂路調教の頻度は週に2本程度でした。一方、2017年秋からは週に3本の坂路調教を行っています。その結果、1シーズン(前年11月から4月まで)の期間において、牡の坂路調教本数は2017年群が50本であったのに対し、2018年群は84本、同様に牝は2017年群が45本であったのに対し、2018年群は64本へと増加しています。このことから、平地より運動負荷が高い坂路調教の本数を増加させたことにより、2018年群のV200平均値が高水準となった可能性が考えられます。

※ 牝の坂路調教本数が牡より少ないのは、牝の調教開始時期が牡より1ヵ月程度遅いためです。

 

まとめ

考察1に記したとおり、2018年のBTC屋内坂路馬場は同じ走行速度でもそれまでより血中乳酸濃度が上昇する、運動負荷の高い馬場であった可能性があります。2018年のV200平均値が高水準であったことと併せ、血中乳酸濃度が大きく上昇する坂路調教を高頻度に行うことは、競走馬の有酸素運動能力の向上に効果的であることが示唆されました。JRA日高育成牧場では、今後もより効果的な運動負荷のかけ方(調教強度や強調教の頻度など)について、様々な調教方法を検討しながらデータを分析し、研究成果を皆さまにご披露できるよう努めていきたいと考えています。

日高育成牧場 業務課 胡田 悠作