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2024年5月14日 (火)

ファームコンサルト養成研修について

月となり生産牧場では多くの子馬が誕生して忙しい時期となりました。強い馬づくりのためには、適切な飼養管理が重要であることは周知の事実であります。しかしながら、日本のサラブレッド産業においては、飼養管理技術を学ぶ機会が少なく、各生産牧場がそれぞれ独自の手法で試行錯誤をしているのが現状です。このような現状を改善するために、サラブレッドの飼養管理(栄養管理)技術の向上と専門家の養成を目的とした研修として、ファームコンサルタント養成研修(以下FC研修)が実施されてきました。今回はFC研修の概要についてご紹介していきます。

 

FC研修とは

 FC研修は、競馬法附則第8条に基づいて特別振興資金を活用して実施される地方競馬全国協会「競走馬生産地振興事業」の中の「軽種馬経営高度化指導研修事業」の1つとして実施されています。日本軽種馬協会が実施主体であり、JRA日高育成牧場や各種軽種馬関連団体も協力して開催されています。その目的は、文字通りファームコンサルタントを養成することであり、日本の軽種馬産業に飼養管理技術の専門家を輩出することにあります。ファームコンサルタントとは、アメリカを中心とした欧米のサラブレッド生産国で活躍する牧場アドバイザーのことであり、大学において馬栄養学や馬管理学といった専門教育を受けた人材が多く含まれます。そのため、FC研修においても、高度な専門知識が得られるようなカリキュラムが設定されています。講義内容は、「馬の見方(コンフォメーション)」、「ボディーコンディションスコアの見方」、「馬の飼料」、「栄養学」といった飼養管理にとって重要な内容を馬の各ステージ(離乳前子馬、中期育成、後期育成、繁殖牝馬など)ごとに解説することに加え、「繁殖学」、「獣医学」、「装蹄学」、「草地管理学」といった軽種馬生産にかかわる多種多様な内容も広く網羅しています。また、講師陣もJRA日高育成牧場の職員だけでなく、大学教授や飼料会社職員といった専門家が行うことで、質の高い内容となっています。

 研修期間は毎月一回の実習と講義が2年間という長期にわたって行われます。これまでに2015~2017年の第1期、2018~2020年の第2期、2021~2023年の第3期が実施されました。当初の参加者は牧場アドバイザーを志す飼料会社職員や軽種馬関連団体職員が中心でしたが、近年では飼養管理技術を学びたい牧場関係者の参加者も増えています(表1)。研修の流れは、まずはJRA日高育成牧場にて繋養されている当歳馬または1歳馬を用いた実習から行われます(写真1)。参加者がファームコンサルタントとして各馬の馬体を確認し、生産牧場へのアドバイスをするための知識と技術を身につけます。研修の後半では、実際に生産牧場への報告書を作成することも行い、知識だけでなく実務も学べる形になっています(図1)。その後の講義では、先ほど述べた内容が行われますが、予習として内容に沿った海外の論文や文献の和訳が課題として課されます。課題は講義内容を理解するだけでなく、英語の文献を読むことで参加者が自身で海外の文献を読む際の練習にもなるようにしています。その結果、講義の後に行われる総合討論では、各参加者が自身の経験も踏まえた活発な議論が行われることになりました。

Photo_4 表1 FC研修修了者内訳

 

Photo_2 写真1 FC研修の実習の様子

Photo_3 図1 FC研修の報告書例

 

FC研修の今後

 表1に示したように、これまで29名の方がFC研修を修了しています。これらの方の中には、実際にファームコンサルタントとして活動されている方やこの研修で得た知識を本業で活かしている方もいらっしゃいます。一方で、第2期からは牧場関係者の参加が増加してきており、実際に牧場に勤務している方の間で飼養管理技術に関する研修の需要が高まっているという状況にあります。しかしながら、牧場関係者は繁殖シーズンやセリシーズンはなかなか牧場を離れることが難しいことから、本研修の途中で参加を断念する方もいらっしゃいました。

 そこで、2024年からは「担い手飼養管理研修(仮)」という名称で、牧場関係者のニーズに沿った形式での開催が計画されております。詳細については、主催する日本軽種馬協会から発表されますので、興味のある方はそちらをご確認ください。