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2020年5月28日 (木)

当歳馬の放牧草の採食量

No.157(2016年10月15日号)

  

 発育中の若馬は、放牧により様々な恩恵を得ることができます。放牧地での自発的な運動は、基礎体力の向上、心肺機能および骨や腱の発達に有用です。また、集団で放牧することにより、母馬以外の他個体に接し、社会の一員となることは、将来、競走馬として競っていくためには重要な役割を果たしていると考えられます。

  

放牧草はウマ本来の飼料

 放牧地の牧草は、栄養がバランスよく含まれており、若馬にとって非常に優れた飼料であるといえます。馬が24時間放牧されているとき、平均で12.5時間採食することが報告されており、季節によっては、放牧草を16-17時間採食している場合もあります。このように、日中のほとんどの時間を採食に費やしていることから、ウマは”不断食の動物”と呼ばれます。ウマの胃は体のわりに非常に小さく、一度にたくさん食べることができません。したがって、少しずつの量を、途切れなく食べるのが、ウマ本来の食べ方であるといえます。

  

子馬にとっての放牧草

 生まれた直後に、子馬が栄養として摂取するのは母乳のみです。生後すぐから母馬の真似をして牧草を食べだす場合もありますが、ほとんどは栄養としては利用できていないようです。ウマが牧草の繊維成分を栄養として利用するには、盲腸および結腸内の繊維分解性の微生物が必要となります。生まれたての子馬の消化器官には、この微生物がほとんど存在しておらず、成長の過程において経口で取り込んでいくとされています。

 微生物を取り込むための顕著な行動が、母馬の糞を食べることです。食糞行動は、生後1週間くらいにみられますが、全ての子馬が実際に食糞をしているのかよく分かっていません。仮に食糞していなくても、子馬が口をつける可能性のある、牧草や敷料に糞由来の微生物が付着しているため、いずれは消化管内に繊維分解性の微生物を獲得することが可能です。

  

子馬の哺乳量

 子馬の乳の摂取量は、約2ヵ月齢から減少していきます(図1)。生後すぐの時期は、15~20分おきに哺乳しますが、この時期になると、哺乳回数は1時間に1回もしくは2回程度になっています。成長に伴う哺乳量の減少は、哺乳回数が減ることによります。子馬の成長に伴い必要となるエネルギー量は、増加していきます。2ヵ月齢以降、哺乳量が減る一方で、放牧草の採食量は増加していきます。子馬はいったいどれくらいの量の放牧草を採食しているのでしょうか?1_4図1

 

放牧草の採食量を調べる方法

 『放牧草の採食量はどうしたら分かるの?』という疑問に、少し触れておきましょう。牧草には、ウマがほとんど消化することのできないリグニンと呼ばれる繊維が含まれています。放牧草から摂取したリグニンは、消化できないため全て糞とともに排泄されます。糞中にどれだけリグニンが含まれているのかを調べると、リグニンの摂取量が分かります。

 ウマが食べている個所の牧草を中心にサンプリングし、牧草中のリグニン濃度を調べます。そして、(リグニン摂取量)÷(牧草中のリグニン濃度)を計算することで、放牧草の摂取量が推定できます(図2)。ただし、1日の放牧草の採食量を知るためには、1日に排泄する全糞を採取することが必要となります。2_3図2

 

子馬の放牧草の採食量

 図3に、放牧草の採食量を示しました。5週齢(約1ヵ月齢)までは、放牧草の乾物摂取量は0.5kg以下であり、ほとんど採食していないと言えます。乾物とは、水分を除いた固形成分のことです。例えば、放牧草の場合、季節や草種により変化はありますが、水分含量が4分の3、固形分含量が4分の1程度であり、原物の放牧草を1kg摂取したとき、乾物としては0.25kg摂取したことになります。7から10週齢までの放牧草の乾物摂取量は1kgであり、10週齢以降から採食量は増加していきます。17週齢(約3.5ヵ月齢)で放牧草の乾物摂取量は、2kgに達します。

 図3は10時間放牧したときの採食量ですが、この時期の子馬は、成馬に比べて睡眠時間が長く、昼夜放牧の場合でも採食量はあまり増えないことが予想されます。この時期の乳と放牧草から摂取するカロリー量は、必要量を満たしていますが、銅や亜鉛などの微量ミネラルは必要量を満たしていません。したがって、この時期より以前(理想としては2ヵ月齢)から、クリープフィードにより、これらのミネラルを補給する必要があります。3_3図3


 

(日高育成牧場 生産育成研究室 研究役 松井朗)

競走馬で利用できる最新の心拍計について

No.155(2016年9月15日号)

これまで、講演会や『強い馬づくり最前線』において調教中の心拍数を利用した競走馬の体力検査法について紹介してきました。そこで今回は、調教時の心拍測定に必須となる最新の心拍計を紹介します。

 

キーワードは『GPS』と『クラウド化』

 JRAで馬の心拍測定に腕時計型心拍計を利用し始めたのは20数年前のことです。当時、人用の心拍計を馬で利用するために、心拍センサーに電極をハンダ付けしていたことを懐かしく思い出します。

 現在、運動中の心拍数を測定できる心拍計は多くのメーカーから販売されています。どれも基本的な構成は20年前と変わっておらず、体に装着する心拍センサーと腕時計型心拍計で構成されています(写真1)。一方、大きく変わったのは『GPS』と『クラウド化』です。GPSは、皆さんご存知の通り衛生電波から位置情報を受信する装置で、同時に走行軌跡や距離、速度などを記録することができます。この機能により、以前は走行速度をストップウォッチで計測していたのですが、屋外ではその必要がなくなりました。もう一つの特徴が、『クラウド化』です。クラウドとは“cloud=雲”から派生した“クラウドコンピューティング”の略で、データをインターネット上に保存する方法を意味しています。つまり、これまでは測定したデータを自分のパソコンにダウンロードしていたものが、クラウドではUSB経由で接続したパソコンからインターネット上のホストコンピュータに保存し、インターネット経由でデータを利用することになります。クラウドには、インターネットに接続できる環境があればどこでも利用できるという利点がある反面、接続できなければ全く利用できないという弱点もあります。1_2 写真1 腕時計型心拍計(右:Polar RC3-GPS)と心拍センサー(左)

Polar M400

 現在多くの心拍計が販売されていますが、その中で日高育成牧場ではPolar社製“M400”という製品を利用しています(写真2)。その理由として、Polar社は心拍測定時に使用する馬用の電極を販売しており、センサーを加工することなく馬に装着できることが大きなポイントです(写真3)。また、Microsoft Excelなどでデータ解析する場合には心拍数や速度の生データ(数値のデータ)が必要になるのですが、私が知る限りクラウド化された心拍計の中で生データをダウンロードできるのはPolarだけで、十分な性能を有し比較的安価なのがM400です。

 使用方法はこれまでの心拍計と変わらず、測定終了後はUSBケーブルでパソコンに繋ぐだけで自動的にホストコンピュータにデータを保存され、インターネット上で測定結果を確認することができます(写真5)。実際に使用した感想としては、データ保存に少し時間がかかり、改めて解析用の生データをダウンロードするのは面倒な感じがしますが、それ以外は非常に簡便で使いやすくなったと感じています。

2 写真2 Polar M400

 3 写真3 馬用の電極(上:電極型、下:ベルト型)

 4 写真4 ベルト型電極装着方法

ベルト装着時に電極部分2箇所(矢印)をお湯で濡らし、この上に通常の装鞍を行います。

 5 写真5 インターネット上に表示される測定結果

心拍数と速度だけではなく、走行軌跡や総距離が表示されます。

 

次世代の心拍計

 ここで、Polar Team Proという製品を紹介します(写真6)。これは人のプロスポーツ選手用に開発された製品で、Jリーグなどのプロチームで利用されています。最大の特徴は、心拍センサー内にGPSとデータ記録装置が組み込まれており、腕時計を持つことなく心拍数と走行速度を測定できることです。先日メーカーの方にご協力いただき競走馬でデモンストレーションを行ったのですが、腕時計が不要な分M400よりさらに利用しやすくになっていると感じました。現在は競走馬用のソフトウエアが無く馬での応用はまだ先な感じはしますが、開発が進みハロンタイムや体力指標を簡単に解析できるようになれば、競走馬の体力や体調を知るための便利なツールになるのではないかと期待しているところです。6

写真6 Polar Team Pro

Team Pro本体(上・中)およびデータ転送・充電用ドック(下)

  

おわりに

 心拍数を用いた競走馬の体力検査は最初は難しいかもしれませんが、『虎穴に入らずんば虎子を得ず』という言葉にもあるように、愛馬の状態をより詳しく知るために心拍測定にトライしてみてはいかがでしょうか?

  

(日高育成牧場 生産育成研究室長 羽田哲朗)

2019年8月 2日 (金)

ホルモン検査によるサラブレッドの流産・早産兆候の診断

No.94(2014年2月1日号)

はじめに
 日高地方の繁殖牝馬は、妊娠5週以降分娩までに8.7%で流産、早産が起こることが大規模調査で判明しています。流産の中には、細菌感染による胎盤の炎症や、胎盤の機能不全あるいは奇形などの理由により胎子のストレスが徐々に増した結果、流産に至るケースも少なくありません。このような場合、生産者や獣医師は、外陰部に悪露が付着する、あるいは分娩1ヶ月以上前から乳房が腫脹すること(図1)により異常に気が付きますが、外部に兆候が現れた頃には手遅れになっていることも少なくありません。妊娠後期における胎子の健康や胎盤状態は、海外では超音波検査が広く実施されています。本稿では、母体血中プロジェステロンおよびエストラジオール濃度の測定を実施することによって流産が起こりやい状態を見極める新しい診断の有用性について紹介いたします。

1_2 図1:流産早産前の典型的な兆候として、外陰部の悪露付着(左)や分娩1ヶ月以上前からの乳房腫脹、漏乳(右)が知られている。

早期の診断が鍵
 分娩予定日よりも2週間以上前に分娩した母馬は、翌年以降も同様の経過をたどることがあり、健康で丈夫な子馬の生産を願うオーナーにとって非常に大きな不安材料となります。このような馬は、胎盤の感染や形成不全を伴うことが多く、できるだけ早期に異常を発見して流産予防のための投薬を実施する必要がありますが、これまでの生産管理では、妊娠経過をモニターして万全を図るというヒト医療のような十分な経過観察体制にないのが現状です。その理由のひとつに有効な検査方法が確立されていなかったことが挙げられます。

血液でわかる流産早産前の状態 
 平成22-24年にJRAと日高家畜衛生防疫推進協議会が協力して「繁殖牝馬の胎子診断および流産予知に関する研究」が実施されました。これまで日本のサラブレッド生産に導入されていなかった超音波検査やホルモン検査について検討し、妊娠異常の診断や流産の予知判定への有用性を明らかにして参りました。とくにホルモン検査は、世界に先駆けて研究されたオリジナリティの高い研究となり、ニュージーランドで行われる国際ウマ繁殖シンポジウムでの口頭発表演題として認められました。その研究の結果から、図2に示すように、流産、早産、虚弱などの理由により子馬が得られなかった損耗群では、妊娠後期(240日~)の血中のプロジェステロンおよびエストラジオール濃度が、正常(生存群)と比較してそれぞれ有意に高い値、低い値となることが明らかとなりました。このような値の違いは、外部の流産兆候よりも早く出現することから、早期治療が可能となります。

2_2  
図2:妊娠後期における生存群と損耗群の母体血中プロジェステロン値(左)とエストラジオール値(右)の動態(※は統計的な有意差を示すp<0.001)

 これら調査研究の成果の詳細は、第41回生産地における軽種馬の疾病に関するシンポジウム講演抄録http://keibokyo.com/wp-content/themes/keibokyo/images/learning/rally/symposium41.pdfをご覧下さい。

まずは獣医師に相談を!
 理想的には、大切な繁殖牝馬は妊娠240日以降1ヶ月に1度、流産早産の履歴のある馬は2週間に1度、血液検査を受けることをお薦めします。血中プロジェステロンおよびエストラジオール値による流産早産の予知に関する研究成果は、これまで流産により日の目を見なかった子馬たちの損耗を減少させ、生産性を向上させる有用なツールとなります。この成果を受けて、ホルモン検査は日高育成牧場生産育成研究室での調査研究から競走馬理化学研究所での検査業務に移行しました。競走馬理化学研究所ホームページ内の妊娠馬ホルモン検査http://www.lrc.or.jp/hormone1.phpから検査依頼様式をダウンロードして検体とともに送付すると到着後5日以内に測定結果が得られます(有料)ので、ぜひ掛かり付けの獣医さんにご相談ください。大切な愛馬が無事に分娩を迎えることができるよう、妊娠馬の血液ホルモン検査が推奨されます。

(日高育成牧場 生産育成研究室 室長 南保泰雄)

2019年3月29日 (金)

当歳馬の種子骨骨折について

No.59 (2012年7月15日号)

 出産から種付けにいたる繁殖に関わる仕事もひと段落したかと思えば、乾草収穫や1歳馬のせりが始まり、あわただしいイベントが続く時期となりました。今回は、日高育成牧場の生産馬(以下ホームブレッド)を使って調査している「当歳馬の近位種子骨骨折の発症に関する調査」の概要について紹介いたします。

当歳馬の近位種子骨発症状況
 日高育成牧場では、生産馬を活用して、発育に伴う各所見の変化が競走期でのパフォーマンスに及ぼす影響等について調査しています。そのなかで、クラブフット等のDOD(発育期整形外科的疾患)の原因を調査するため、X線による肢軸の定期検査を行っていたところ(写真1)、生後4週齢前後の子馬に、しばしば臨床症状を伴わずに前肢の近位種子骨の骨折が発症していることを発見しました。そこで、子馬におけるこのような近位種子骨々折の発症状況について明らかにするため、飼養環境の異なる複数の生産牧場における本疾患の発症率およびその治癒経過について調査しました。また、ホームブレッドについては、発症時期を特定するため、X線検査の結果を詳細に分析しました。
 まず、日高育成牧場および日高管内の4件の生産牧場の当歳馬42頭を対象として、両前肢の近位種子骨のX線検査を実施し、骨折の発症率、発症部位および発症時期について解析しました。骨折を発症していた馬については、治癒を確認するまで追跡調査を実施しました。次に、ホームブレッド8頭については、両前肢のX線肢軸検査を生後1日目から4週齢までは毎週、その後は隔週実施し、近位種子骨々折の発症時期について検討しました。

1_4 写真1 当歳馬のレントゲン撮影風景

種子骨骨折の発症率と特徴
 調査の結果、近位種子骨々折の発症は35.7%の当歳馬(15/42)に認められました。全てApical型と呼ばれる尖端部の骨折でした(写真2)。骨折の発症部位については、左右差は認められませんでした。また、近位種子骨は内側と外側に2つありますが、外側の種子骨に発症が多い傾向がありました。しかし、統計学的な有意差は認められませんでした。
/ 世界的に見ても、当歳馬の近位種子骨々折に関する過去の報告は非常に少なく、5週齢までの子馬に臨床症状を伴わない近位種子骨々折が高率に発症していることが今回の調査で初めて明らかとなりました。また、今回の調査では、全てApical型と呼ばれる尖端部の骨折でした。成馬においてもApical型の骨折が最も多く、繋靱帯脚から過剰な負荷を受けることによって骨の上部に障害が生じることが原因とされています。我々は別の調査で、生後5ヶ月までの子馬の腱および靱帯は成馬とは異なるバランスであることを見出しました。現在のところ、この子馬特有の腱および靱帯のバランスが種子骨尖端部のみに力がかかりやすい状態なのではないかと考えています。

2_5 写真2 5週齢の子馬に認められた近位種子骨骨折(左:正面から、右:横から、丸印が骨折部位)

発症と放牧地との関連
 牧場別の発症率は、0%(0/6)から71.4%(5/7)と大きく異なっていました(表1)。興味深いことに、放牧地が「傾斜地」の牧場では発症がありませんでした。また、発症時期については、発症馬の約8割は5週齢までに骨折が確認されました。ホームブレッドの骨折発症馬3頭についてX線検査の結果の詳細な解析を行ったところ、骨折は3~4週齢で発症していました。
 牧場ごとに発症率が大きく異なっており、特に放牧地が「傾斜地」の牧場では発症がなかったこと、また、ホームブレッド3頭の骨折発症時期は、広い放牧地への放牧を開始した時期と重なっており、この時期、母馬に追随して走り回っている様子が観察されたことから、子馬の近位種子骨々折の発症には、子馬の走り回る行動が要因となっていると考えられました。今後は、特に3ヶ月齢未満の新生子馬の放牧管理をどのようにするのがベストかを検討していきたいと思います。

3_4表1 牧場別の発症率

予後
 ほとんどの症例は骨折の発症を確認してから4週間後の追跡調査で骨折線の消失を確認できました。しかし、運動制限を実施していない場合は治癒が遅れる傾向があり、種子骨辺縁の粗造感が残存する例や、別の部位で骨折を発症する例も認められました。
 今回の調査では、全ての症例で骨折の癒合が確認でき予後は良かったと言えますが、疼痛による負重の変化も考えられるため、今後は、クラブフットなど他のDODとの関連について検討したいと思います。

まとめと今後の展開
 5週齢までの幼駒に臨床症状を伴わない尖端型の近位種子骨々折が高率に発症していることが今回初めて明らかになりました。広い放牧地で母馬に追随して走ることが発症要因のひとつとして考えられました。今後は、今回の調査で認められた骨折がなぜこのように高率に発症しているのか、成馬の病態と異なっているのかどうか、などを調べるため、さらに詳細な検査を実施するとともに、今回調査しなかった後肢についてもデータを集めていく予定です。

(日高育成牧場業務課 診療防疫係長 遠藤祥郎)

2018年12月25日 (火)

馬づくりは人づくりから

No.20 (2010年11月1日号)

 確かな生産育成技術を駆使し、世界に通用する馬づくりを実践していくためには、その技術を理解しさまざまな馬に応用できる人材が必要となることはいうまでもありません。すなわち、「強い馬づくりは人づくりから」といえます。
 しかし、残念ながら、馬の世界に飛び込む新規参入者は近年減少しているのが現状です。とくに、馬産地日高における騎乗技術者や牧場就労者、獣医師や飼養管理者の不足は深刻な問題です。こうした問題解決を支援するため、日高育成牧場では、馬に関心がある人から馬に触れたこともない馬初心者にいたる幅広い人々に対し、馬に関する基礎から専門的な知識や技術を学んだり、馬に親しんでもらう機会を設けるなど、さまざまな面から人材育成に関する取り組みを行っています。

育成馬の騎乗者養成
 ㈶軽種馬育成調教センター(BTC)が実施している育成調教技術者養成研修(現在、第28期生)では、「軽種馬の生産・育成に関する体系的な実用技術および知識の習得を目的」に1年間の研修を行っています。前半の6カ月で基礎的な騎乗技術を身に付けた研修生は、日高育成牧場で育成馬のブレーキングが始まる9月から参加し、その後も4月まで実践的な育成場の騎乗技術を身につけていきます。ここ数年の傾向としては、一度他の業界に就職しながらも、馬と接する職業に魅力を覚え転職ののち、高い志と情熱を持って受講する研修生が多いようです。

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写真1 育成馬のブレーキングから高度な騎乗技術まで習得するBTC研修生

生産牧場就労者養成
 ㈳日本軽種馬協会(JBBA)が実施する生産育成技術者研修(現在、第32期生)は「軽種馬生産、育成関連の仕事に就業するための知識、技術を1年間で習得することを目的」とする研修制度で、静内種馬場内にある研修所で馬学全般、騎乗訓練や馴致調教などの研修を行っています。日高育成牧場には、分娩や離乳など、馬を生産育成する上で重要な節目に合わせて来場し、実習体験するとともに、子馬の発育やその時々の飼養管理法について専門的な講義も用意して受講してもらいっています。また、同じくJBBAが実施する軽種馬後継者研修にも講師派遣などにより協力しています。

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写真2 分娩後の後産(あとざん)の確認法について学ぶJBBA研修生

獣医畜産系学生への教育支援
 日本の大学は、欧米に比べて産業動物の臨床実習をするための環境や施設が整っていないのが現状です。しかしながら、全国の学生の中には、馬に関する実践的な教育を受講したいと考えている人や、実習などを通じて馬と触れ合ってみたいという学生は大勢いるものです。日高育成牧場ではこのような獣医畜産系の大学生を対象に、個別に夏休みの実習を受け入れてきましたが、一昨年前から「日高サマースクール」と称して、10日間程度の研修期間を4クール設けています。今年も全国から24名の学生が当場に来場しました。実習では、馬の手入れや引くことはもとより、さまざまな検査や調査に立ち会うことにより、馬の繁殖学、栄養学、画像診断技術などのカリキュラムをこなしました。また、乗馬体験は馬をさらによく知るうえで大きな収穫となったようです。彼らの中から未来のホースマンや優秀な技術者が誕生することを期待しています。

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写真3 サマースクールでは手入れや収放牧、放牧地での雑草抜きなども体験する。

小中学生への馬事振興
 サラブレッド生産が全国の80%を占める日高地域において、地域特有の馬文化をより地域に根ざしたもの、誇れるものとして子どもたちに定着させるために、日高振興局や浦河町が主催している「馬文化 出前教室」や「巡回乗馬教室」、「中学校道徳授業」などに講師や馬を派遣し協力しています。子どもたちの馬に対する興味は大きいようで、毎回盛況を博しています。地元の子どもたちには国内のどこの子どもたちよりも馬のことを良く知ってもらいたいものです。

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写真4 浦河町内小学校での「馬文化出前教室」では、授業後に激しい質問攻めに会う。

一般の方々を対象としたツアー
 日高育成牧場では、7~10月に一般の方々を対象とした場内の施設見学に加え、子馬とのふれ合いや乗馬体験、初期馴致見学などを行う「日高育成牧場バスツアー」を企画しています。参加者は道外からの旅行者が多く、親子での参加される方も多く、馬をはじめて触って感動したことや、普段見ることのできない調教の様子を見学することにより馬に対する理解が深まったとの感想が多く寄せられています。なかには、これからは競馬を楽しもうと思う、との感想をいただいた方もいます。

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写真5 日高育成牧場バスツアーでは、初めて馬に触れる人も多い。

 このような人材養成活動が、将来馬に関わる人にとって最初の一歩になってもらえれば幸いです。


(日高育成牧場 生産育成研究室 研究役 佐藤 文夫)