後期育成 Feed

2021年2月 1日 (月)

米国の競走馬の調教

これまで繁殖、セールスプレップと米国事情をご紹介してきましたが、今回のテーマは競走馬の調教についてです。今回のお話の大前提として、米国では馬場などの施設の相違から育成牧場と競馬場では調教の方法も全く異なりますのでご承知おきください。

 

育成牧場での調教

我が国同様、米国においてもブレーキング(騎乗馴致)は育成牧場が担っています。私の研修先であるウインスターファームでは9月頃からブレーキングを開始していましたが、最初の1週間、馬房内で騎乗してひたすら回転を繰り返すことで、背中に人が乗って負重した状態に馴らすことに専念していました。次の1週間はラウンドペン(円馬場)、続く2週間は角馬場で騎乗し、脚の扶助や開き手綱によるコーナリングを教えることで最初の1ヶ月間を終えます。次の1ヶ月間は、普段の放牧で使用されているパドックで騎乗しますが、これは整地された調教コースでなくあえて不整地で騎乗することで捻挫などの疾患を発症しないようなバランス感覚および筋肉の鍛錬を期待しているとのことでした(図1)。さらに次の1ヶ月間は、放牧地間の傾斜地を天然の芝坂路コースとして利用し、馬に後躯の踏み込みを教えてセルフキャリッジした(起きた)状態での走行フォームを教えることに専念します。ここまでブレーキング開始から3ヶ月間、基礎的な部分に重点を置いた調教を行い、12月になって初めて周回コースでの騎乗に移行します。

米国の一般的な育成牧場は、競馬場と同じ1周1,600mもしくは一回り小さい1周1,200mのダートコース(所有もしくは共有)を調教に利用しています。私の次の研修先であるマーゴーファームも1周1,500mのオールウェザー馬場の勾配付き周回コースで通常調教を行い、全長1,700mのオールウェザー馬場の直線坂路コースで追切りを行っていました。マーゴーファームには、この他により大きな1周2,000mの芝コースもありました。米国の育成牧場は、調教コースの他に広い放牧地を所有していて放牧を行いながら調教を進めることも特徴の一つですが、マーゴーファームでも馬の状況に応じて放牧時間が調整されており、2歳の新馬や休養馬でも肢下に問題がない馬は17時間の昼夜放牧、脚部不安で運動量と採食量を制限したい馬は12時間の夜間放牧、骨折手術後などリハビリ中や競馬場入厩が間近な馬は3時間の昼放牧というように細かな放牧メニューが組まれていました。

1_2

図1.あえて不整地で騎乗することでバランス感覚および筋肉を鍛える

 

競馬場での調教

内厩制を採用している米国では、競走馬は基本的に競馬場で調教されています(一部には主催者から認定された外厩で調教されているものもあります)。競馬場の調教馬場や本馬場は、多数の調教師が一斉に利用するため、常歩・速歩は外埒沿いに右回り、駈歩は内側を左回りと厳格なルールが決められています。ゴール板はコース正面の直線の終わりに設置されているので、調教する馬は入場してまずは外埒沿いを右回りに速歩でスタート位置(走りたい距離をゴール板から逆算した地点)に向かいます。スタート位置に到達したら内側に反転し、左回りにゴール板まで駈歩調教を行います。この調教を毎日繰り返すことにより、馬に「内側に反転したらスタート」「ゴール板までしっかりと駈歩する」ことを教えることができるとのことでした。

また、日本と比較して米国の調教師は調教での走行タイムを重視しますが、その理由を尋ねると「実際にレースで走る馬場、すなわち競馬場で調教を行っているから」というシンプルな返答が返ってきました。一般的な米国の追切りは、4~5ハロンといった長めの距離を本番のレースに近いタイム(50-51秒/4Fもしくは61-62秒/5F)で走らせますが、調教師は「実際のレースで想定される勝ち時計に近いタイムで走れるようになったら仕上がった」という考え方を基準に出走を決めているようです。

他にもレース経験の少ない2歳馬は前進気勢を促すために2頭併せ、古馬は単走で調教されるという点も特徴的です(図2)。これは先行抜け出しという展開が多い米国の競馬で、最後の直線で1頭になっても“ソラ”を使わないでゴールまで走り切れるようにというのが目的なのだそうです。

2_2

図2.直線で“ソラ”を使わないでゴールまで走り切れるように単走で追切られる

 

 以上、今回は米国の調教についてご紹介しました。少しでも日頃の調教の参考になれば幸いです。

 

JRA日高育成牧場 専門役 遠藤祥郎

V200から見るJRA育成馬の調教状況についての考察

はじめに

V200とはVelocity at heart rate of 200 beats/minの略称であり、”1分間あたりの心拍数が200拍に達した時点の馬の走行速度”を意味します。V200は、持久力に関係するとされる「有酸素運動能力」の指標として用いられており、日々トレーニングを重ねることで上昇する、言い換えると、同じ心拍数でより速く走れるようになることが分かっています。裏を返せば、同じスピードで走行した時の心拍数が低くなる、つまり馬体の負担が少なくなるともいえます。また、V200は比較的簡単に測定することができるため、定期的に測定することで容易にトレーニング効果を判定することが可能となります。既に一部の競走馬の体力評価にも利用されていますが、JRA日高育成牧場では2歳時の2月と4月に測定し、JRA育成馬の有酸素運動能力の評価に活用しています。

※ 本稿では、昨年2018年度のJRA育成馬(現3歳世代)の調教状況についてV200を中心に考察しています。

V200の測定結果

2009年以降の10年間のJRA育成馬について、各年の2月と4月に測定したV200の平均値を比較してみると、2018年のJRA育成馬のV200平均値において、2月は623.5±7.3 m/min(19.2秒/F)で過去10年において4番目に高い値、4月は675.0±8.9 m/min(17.8秒/F)で最高値となり(図1)、2月から4月にかけてのV200の増加量の平均値も、過去10年で最高値(64.6 m/min)となりました(図2)。

1

図1.JRA育成馬各世代におけるV200の平均値

※グラフ内○数字は過去10年間における当該年の順位

※対象は2月および4月のどちらもV200を測定した馬

2

図2.JRA育成馬各世代におけるV200増加量の平均値

 

2018年のV200平均値が高水準であったことの考察1:馬場管理方法の変更

2018年のV200が過去10年間で高水準であった要因の1つとして、JRA育成馬が利用していたBTC屋内坂路馬場の管理方法が変更されたことが考えられます。2017年までの屋内坂路馬場は、経年劣化によるウッドチップの細粒化に加えて、頻繁な散水と転圧によって比較的「走り易い」馬場に管理されていました。しかし、2018年以降はウッドチップが更新されるとともに散水と転圧の頻度も減少され、より運動負荷がかかる馬場管理方法に変更されています。実際にこの馬場管理方法の変更によってより運動負荷がかかるようになったかどうかについては、2017年前後にBTC屋内坂路馬場を利用したJRA育成馬の血中乳酸濃度の変化を調査することである程度の推測が可能です。JRA日高育成牧場では、調教時の運動負荷を確認する指標として坂路調教直後の血中乳酸濃度の定期測定も行っていますが、2016年から2018年の3年間の2月における坂路調教2本目の走行速度と直後の血中乳酸濃度の関係性を調査した結果、2018年群の血中乳酸濃度は2016年群および2017年群より全体的に高値を示していました(図3)。2016年から2018年のJRA育成馬における1日あたりの坂路調教メニューに大幅な相違がなかったことから、BTC屋内坂路馬場の管理方法が変更されたことによって2018年群の運動負荷が増加した可能性が考えられます。

3

図3.2016-18年のBTC屋内坂路調教時の走行速度と血中乳酸濃度の関係性

 

2018年のV200平均値が高水準であったことの考察2:シーズン中坂路調教本数の増加

2つ目の要因としては、調教内容について坂路調教の本数を増加した影響が考えられます。2017年春までの調教は800m砂馬場を中心とし、坂路調教の頻度は週に2本程度でした。一方、2017年秋からは週に3本の坂路調教を行っています。その結果、1シーズン(前年11月から4月まで)の期間において、牡の坂路調教本数は2017年群が50本であったのに対し、2018年群は84本、同様に牝は2017年群が45本であったのに対し、2018年群は64本へと増加しています。このことから、平地より運動負荷が高い坂路調教の本数を増加させたことにより、2018年群のV200平均値が高水準となった可能性が考えられます。

※ 牝の坂路調教本数が牡より少ないのは、牝の調教開始時期が牡より1ヵ月程度遅いためです。

 

まとめ

考察1に記したとおり、2018年のBTC屋内坂路馬場は同じ走行速度でもそれまでより血中乳酸濃度が上昇する、運動負荷の高い馬場であった可能性があります。2018年のV200平均値が高水準であったことと併せ、血中乳酸濃度が大きく上昇する坂路調教を高頻度に行うことは、競走馬の有酸素運動能力の向上に効果的であることが示唆されました。JRA日高育成牧場では、今後もより効果的な運動負荷のかけ方(調教強度や強調教の頻度など)について、様々な調教方法を検討しながらデータを分析し、研究成果を皆さまにご披露できるよう努めていきたいと考えています。

日高育成牧場 業務課 胡田 悠作

2021年1月27日 (水)

新たな試みを進めるBTC調教場

 公益財団法人 軽種馬育成調教センター(BTC)が管理運営するBTC調教場(図1)は、皆様の強い馬づくりをサポートする施設として平成5年の開場より今年で26年目を迎えます。これまでに数多くの活躍馬が輩出され、また昨年は、開場からの利用延べ頭数が300万頭に達するなど、多くの皆さまに支えられてまいりました。

令和という新たな時代を迎え、BTC調教場では、さらなる強い馬づくり、そして利用者の皆様の利便性向上を図るため、馬場管理や利用方法について、新たな試みに取り組んでおりますので、その一部についてご紹介します。

1_10

図1.JRA日高育成牧場およびBTC調教場全景

 

1. 馬場管理

 BTC調教場は、夏季には11の調教施設がご利用いただけます。そのうち、屋内1,000m直線ウッドチップ馬場および屋内1,000m坂路ウッドチップ馬場(図2)につきましては、一昨年からウッドチップの管理方法を根本から見直し、従来のものより負荷をかけられる馬場へと改修しております。改修後2年が経過しておりますが、ご利用いただいている皆様からは好評価をいただいています。

 

2_9

図2.より運動負荷がかけられる馬場へ改修された屋内1,000m坂路ウッドチップ馬場。一年を通じ、天候にかかわらずご利用いただけるうえ、馬の前肢の負担を軽減しながら、後躯の鍛錬に有効です。

 

 また、その他の屋内施設として、屋内600mトラック砂馬場もご利用いただけます。一般的に砂場馬は砂粒の細粒化等によって除々にクッション性が失われるとされていますが、BTCでは、2年周期で砂の全面入替えを行い、良好な馬場の維持管理に努めています。

 

 さらに、屋外馬場は、早期からの除雪作業等により3月下旬には1,600mトラック砂馬場(図3)をいち早く開場しております。続いて、4月上旬までに1,200m・1,600m直線砂馬場(図4)、800mトラック砂馬場を順次開場しております。

これらは適時レベルハローで砂厚を測定し、適正な砂厚調整や砂の補充等の馬場管理に努めています。

 

3_7

図3.1,600mトラック砂馬場は、競馬場に匹敵する大きさの馬場で、より実践的なトレーニングが行えます。

 

4_5


図4. 1,200m・1,600m直線砂馬場は、馬の直進走行性を養い、インターバルトレーニングに適した馬場です。また、発馬機も設置していますので、ゲート練習も可能です。

 

 

グラス馬場(図5)は、芝が凍上により隆起するため、馬場全面にローラーによる転圧作業を行うなど安全面に考慮し、開場時期を5月中旬からとさせていただいております。

なお、競馬場に準じた整備を行っております直線2,000m芝馬場は、今年も無料開放しております(馬場利用料以外の追加料は不要です)。ぜひ一度ご利用ください。

 

5_5

図5.グラス馬場は、広々とした平坦な草原馬場です。柵に頼らず走らせることで、馬本来の自然な走りを助長します。また、2,000mの直線芝馬場は、 実際の競馬場に準じた整備を行っており、入厩前の最終調整や芝適性の判断にご活用いただけます。

 

 

2. 1歳馬の利用時期の変更

 近年、2歳戦の開始時期の早期化に伴い1歳馬の馴致時期も早まり、7月セリ終了後から育成牧場へ移動する馬が増加しています。このことに対応するため、BTCでは1歳馬の利用開始時期を1歳9月から1歳7月へと早めることとしました。さらに一昨年には、滞在馬房利用馬用にラウンドペン(丸馬場)を竣工し、初期馴致にも対応できるようになりました。加えてウォーキングマシーン(図6)も設置し、ウォーミングアップやクーリングダウン、休日の馬体調整等、ご利用の皆さまからは好評をいただいております。

 

6

図6.ウォーキングマシーンは1基で同時に6頭の運動が可能です。BTCでは、南地区に3基、北地区に2基の計5基を設置しています。また、ラウンドペンは南地区に2基、北地区に1基を設置しています。

 

 

3. 滞在期間の延長

 ご利用される方々の利便性向上のため、滞在馬房の利用期間を従来の4ヵ月から6ヵ月に延長しました。また、遠方(静内およびえりも以遠)からご来場される場合は、上記に限らず長期利用が可能ですのでご相談ください。

 

4. お試し期間の導入

 BTC調教場のご利用をご検討中の方を対象に、お試し期間も設けております(ご利用歴のない方限定、ご利用される際の調教責任者申請は不要です)。馬運車による日帰り利用はもちろん、滞在馬房・宿舎(1週間程度)もご利用いただけますので、ぜひ一度、バラエティーに富んだBTC調教場をご体感いただければ幸いです。

 

詳細(施設使用料等)についてのお問い合わせは、下記までご連絡ください。

 公益財団法人 軽種馬育成調教センター

 業務部業務第1係 南詰所 0146-28-1788  

公益財団法人 軽種馬育成調教センター 業務部 業務課長 小山 広

若馬における骨軟骨症の発生

はじめに

近年、国内サラブレッド市場における医療情報開示が一般的となったことにより、四肢関節のX線画像でよく認められる離断性骨軟骨症(OCD)や軟骨下骨嚢胞(SBC)が注目されるようになってきました。このOCDやSBCと呼ばれる病変には、骨の成長過程における軟骨下骨の損傷(骨軟骨症)が深く関わっていることが知られています。今回はこのOCDやSBCの発生原因となる骨軟骨症についてご紹介したいと思います。

 

骨の成長

四肢を構成する長管骨は、骨端部と骨幹部の間にある骨端線の軟骨細胞が増殖して骨化することで長軸方向に伸張すると同時に、骨端部の関節軟骨の軟骨細胞と骨幹部の骨膜の骨芽細胞も同様に骨化することで直径も増していきます(図1-A)。

これら骨端線や関節軟骨で軟骨細胞が増殖して次第に骨小柱を形成していく過程は、「軟骨内骨化」と呼ばれています(図1-B)。サラブレッドでは、離乳時期にあたる6ヶ月齢ぐらいまでの時期がこの軟骨内骨化が最も盛んに行われている時期になります。その後、中手骨(管骨)遠位の骨端線は7ヵ月齢ごろ、橈骨および脛骨遠位(腕節および飛節の上部)の骨端線は25ヶ月齢ごろまでに閉鎖し、その役割を終えます。このことから、四肢の骨は出生直後から2歳頃まで成長を続けていることが分かります。

1_7

(図1)若馬の骨の成長

A:長管骨における骨の成長の模式図、B:関節軟骨における軟骨内骨化の様子

若馬の骨の成長は、骨端線だけでなく関節軟骨の軟骨細胞の増殖による軟骨内化骨によって起こる。

 

骨軟骨症

成長期の子馬の骨の成長に重要な役割を果たしている骨端軟骨や関節軟骨の軟骨組織は骨組織に比べて柔らかいため、物理的な外力の影響を受けやすく容易に障害を発症します。特に、軟骨組織が骨組織へと移行する境目の部位は弱いため、突発的な大きな外力や小さくても継続的に外力が加わることで損傷しやすい部位となります。特に損傷が起こり易い部位として、種子骨の先端や指節関節の関節面などが挙げられます。これらの部位は体重を支えるために負荷が加わるため、頻繁に骨軟骨症が発生します(図2)。こうして発生した骨軟骨症は、臨床症状を示すことなく自然に治癒してしまうものが大半であるため、実際にはそう問題になることはありません。しかし、中には治癒に至らず、OCDやSBCへと発展して跛行などの臨床症状を呈する例もあるのです(図3)。

2_7

(図2)生後2週齢の子馬の種子骨尖端部に発生した骨軟骨症

X線検査で認められた骨透亮像(左図矢印)の組織学的観察により、軟骨基質と骨基質の間で離開損傷していることが確認された(右図矢印・破線部)。成長中の軟骨と石灰化した骨基質との間の軟骨基質の部分は、物理的な外力に最も弱い部分である。

 

3_5

(図3)骨軟骨症病変の軟骨下骨嚢胞への変化

生後1ヶ月齢の子馬の近位指節間関節に認められた骨透亮像(左図矢印)は、4ヵ月後に軟骨下骨嚢胞になり跛行を呈した。

 

最後に

これまでOCDやSBCの発生原因は、軟骨下骨の剥離や栄養血管の壊死、あるいは軟骨の隙間から関節液が浸潤することによるものと考えられていました。しかし最近の研究から、原因は成長過程の幼弱な軟骨基質の物理的な外力による損傷であることが明らかになってきています。我々の調査結果もこのことを裏付けるものであり、生後4ヶ月齢未満の子馬の時期から初期病変が認められる例が多く存在することが明らかになっています。前述したように、骨軟骨症の大半は気付かないうちに自然に治癒してしまいますが、中にはOCDやSBCに発展して跛行の原因となるもの、さらに重症化することで競走馬への道が閉ざされてしまうこともあり、侮れない疾患です。予防には、幼駒の飼養管理や取り扱い方法について、改めて再確認することが重要です。

 

日高育成牧場 生産育成研究室 室長 佐藤 文夫

コンフォメーション~馬の見方のヒント~ 「馬のサイズ」

コンフォメーション

コンフォメーション(conformation)という単語は、直訳すると「構造」、馬について言えば「馬体の構造」ということになります。大雑把かつ乱暴な物言いになるかもしれませんが、「コンフォメーションが良い馬は故障が少なく、効率的に走ることができる」と言えます。例えば下肢部のコンフォメーションに関して例をあげると、起繋たちつなぎ(横から見た時の地面との角度が大きい繋)の馬は下肢部の衝撃緩和能が低いために球節炎などの発症リスクが高まり、反対に臥繋ねつなぎ(地面との角度が小さい繋)のものは、特に繋が長い場合で屈腱や靭帯に関連する疾患発症リスクが高まると教科書に記載されています。

 

コンフォメーションの科学的根拠

しかし、実際に馬を取り扱っていると、上記のような「下肢部のコンフォメーション異常=疾患発症リスクが高い」との考え方を実感できる時がある一方で、コンフォメーションに問題があるにもかかわらず、何事もなく競走馬を続けている馬に遭遇することも少なくありません。

実は、このようなコンフォメーションに関連する教科書的な記載の中には、科学的な根拠がないまま経験則のみで記載されているものも散見されます。古くは紀元前の哲学者クセノフォンが著書の中でコンフォメーションの見方について言及しており、若干の違いはあるかもしれませんが、長きに亘って古今東西のホースマンが同じ考え方で馬を見ているとも言えます。

もちろん2,000年以上の時を経ても廃れずに受け継がれた経験則を否定するわけではありませんが、科学的な根拠も併せて参考にすることで、より客観的に馬を見ることができ、評価精度の向上が見込めるようになるかもしれません。

 

馬は大きい方が良いか?

では、具体的な話をしていきましょう。コンフォメーションと言うと、体型バランスや下肢部などの各パーツごとの構造が注目されがちですが、より単純な論点である「馬のサイズ」、すなわち馬体の大きさについてはどのように考えればよいのでしょうか?

前々回(2019年3月1日発行)の当欄「強い馬づくり最前線~競走馬の体重に影響をおよぼす潜在的な要因」では、競走馬は馬体が大きいほど競走成績も良いことが統計的に明らかとなり、その理由を大きい馬ほど相対的に軽い荷物(斤量)を背負って走るためではないかと推察しています。この結論からすると、競走馬を購入する側も生産育成する側も馬体は大きければ大きいほど良しと考え、前者はなるべく大きな馬を選択する、後者は馬をなるべく大きく育てるような飼養管理を目指すことになります。しかし、一方で若馬への過剰な栄養供給が成長期における骨疾患リスクを高めるという指摘もあり、必ずしも馬体を大きく育てることが良いこととは言えなさそうです。もちろん、馬体の大きさには母馬の産次や出産年齢、遺伝などの要因も複雑に関与するため、単に「食べさせる」だけで馬体の大きさをコントロールすることは困難であることは言うまでもありませんが。

1_6

馬は大きい方が良いのか?

 

大きい馬のリスク

では、競走成績が良いとされる「大きい馬」にはリスクはないのでしょうか?

過去にJRA競走馬総合研究所で行われた調査では、出走時の馬体重が重い馬は、軽い馬に比較して浅屈腱炎の発症リスクが高いことが確認されています。発症馬の馬体重が重かった理由として、いわゆる「太目の馬体」で出走したことも要因の1つであったかもしれませんが、馬体そのものが大きい大型馬であったことも否定できません。

また、昨年アイルランドの研究者から発表された研究によると、喉頭片麻痺(いわゆる喉なりの原因となる疾病)のリスクファクターとして性別、体高、年齢、体重、頸の長さと太さ、顎の幅などとの関連性を調べたところ、体高が喉頭片麻痺と関連する主要因であったという興味深い結果が報告されています。

このような科学的根拠に基づいて考えると、大きい馬は小さい馬に比較して競走成績が良い傾向にある一方で、浅屈腱炎や喉頭片麻痺の発症リスクが高いとも言えそうです。読者の皆さんの中には、既に経験則で同様の傾向を感じている方もおられるかもしれませんね。

 

馬の体高の推定法

最後に馬の体高を目視で推定する方法についてご紹介します。馬の体高は、正式には体高測定器を用いて地面からき甲までの高さを測りますが、測定器がない場合には自身の体で代替することができます。例えば身長178cmの筆者の場合、予め首のつけ根が150cm、顎が160cm、目が170cmと知っておくことで、対象とする馬のおおよその体高を測定することができます。しかし、あくまで推定値しか測定できませんので、セリ上場のために測定する場合には必ず測定器を用いてください。

2_6

体高を目視で推定する方法。自身の体の部位を測定器で代替する。

JRA日高育成牧場 業務課 冨成 雅尚 

競走馬の体重に影響を及ぼす潜在的な要因 ~親馬からの影響~

現在に比べて数十年前の競走馬市場では、洋の東西を問わず、大きい馬がより好まれる傾向がありました。馬を大きく育てるため、若馬に過剰に飼料を給与する生産牧場もあったようです。しかし、過剰な栄養摂取は馬を過肥にするだけであり、骨発育と不均衡な増体重は、成長期特有の骨疾患(DOD)発症のリスクを高めます。 現在は、技術普及の成果もあり、ほとんどの生産馬牧場で、若馬の馬格や成長に合わせた栄養管理がおこなわれていると感じています。

 

馬の大きさは競走成績に影響するの?

 ところで、馬の大きさは競走成績に全く関係がないのでしょうか? 一般的に競走馬は、ほとんど余分な脂肪が体についていない状態に調整されて競馬に出走します。したがって、競馬の出走時体重は、馬の大きさとおおむね比例していると考えて良いでしょう。

1983年から2014年生まれの中央競馬所属馬約13万頭を、性別に出走時体重(生涯平均)が大きい順に5グループに分割し、各グループの獲得総賞金を比較しました。牡牝とも出走時体重が上位20%のグループの獲得賞金が最も大きく、このように多くの頭数の平均でみたとき、競走馬は大きいほど競走成績はよいといえます。

例えば、歴史的な名馬であるディープインパクトやアメリカのシービスケットなどはご存知のように小さな競走馬でした。彼らは、小さな馬体にパワーのある筋肉、心肺機能を持ち、大袈裟に言い換えれば、軽自動車の車体にF1のエンジンを積んだような馬だったのかもしれません。しかし、全ての競走馬を平均してみれば、筋肉、心臓および肺の大きさも馬格に応じたサイズであると考えることができます。 性別にみれば競走馬が背負う斤量の生涯平均はほとんど同じであり、馬格の大きい馬ほど、エンジンの馬力に対して相対的に軽い荷物を運ぶことになります。このことが大きい馬(出走時体重が大きい馬)の獲得賞金が、小さい馬を上回った理由であろうと推察できます。

1_4

図1 出走時体重を大きい順に5グループに分割したときの総獲得賞金

1983年から2014年の期間に生まれた競走馬を、性別に出走時体重が大きい順から5つの均等数のグループになるよう分けて、それぞれのグループの獲得総賞金を比較した。

グループは以下のように分けた。

group ①・・・体重が大きい順の上位20%

group ②・・・上位20%より体重が下回り上位40%まで

group ③・・・上位40%より体重が下回り上位60%まで

group ④・・・上位60%より体重が下回り上位80%まで

group ⑤・・・体重が小さい順の下位20%

 

馬の大きさ(出走時体重)に影響する様々な要因

 繁殖牝馬の要因や種牡馬が、産駒の初出走時体重に及ぼす影響について調べました。サラブレッドの2から3歳の初出走時期は成長の過程にあるため、初出走時の月齢が体重に影響しないような統計的な処理をおこない解析しました。

 1990年から2012年の期間において出産履歴があるサラブレッド繁殖牝馬の全産駒の初出走時の体重に及ぼす、繁殖牝馬の産次、出産年齢、現役時の出走時体重、種牡馬の影響について調べました(図2)。統計解析の結果、初出走時体重には、繁殖牝馬の産次、出産年齢、現役時の出走時体重、種牡馬の全てが影響していることが分かりました。

 

2_4

図2 繁殖牝馬の産次、出産年齢、現役時の出走時体重、種牡馬が産駒の初出走時体重に及ぼす要因を統計にて解析した

繁殖牝馬の産次が初出走体重に及ぼす影響

初出走時体重に影響があった親の様々な潜在的素因のうち、繁殖牝馬の産次の影響について詳しくみてみます。初産から7産目までと8産目以上の8つのグループに分け初出走体重を比較したとき、牡牝とも初産の産駒が最も小さいことが分かりました(図3)。牛など他の家畜において、出生時の体重が、成時の体重に影響することが知られており、サラブレッドにおいても出走時の体重が小さい馬は、出生時の体重も小さかったことが予想されます。初産の場合、子宮の拡張がしにくいことや、初産の馬は胎盤の重量が小さいことが知られており、胎子期の胎盤からの栄養補給が少ないことが、出生体重からその後の出走時体重にまで影響したのかもしれません。

 初産から5産目にかけて産駒の初出走時体重が増加していき、牡は5産目の産駒の初出走時体重が、7産目の産駒以外に比べて有意に大きく、牝は5産目産駒が初産、2産目、3産目、7産目、8産目以上の産駒に比べて大きいことがわかりました。

3_3

図3 繁殖牝馬の産次とその産駒の初出走体重の関係

初産から7産目までと8産目以上の8つのグループに分け初出走体重を比較したとき、牡牝とも初産の産駒が最も小さかった。牡は5産目の産駒の初出走時体重が、7産目の産駒以外に比べて有意に大きく、牝は5産目産駒が初産、2産目、3産目、7産目、8産目以上の産駒に比べて大きかった。

 

おわりに

 出走時体重をすなわち馬の大きさとすると、馬の大きさには、繁殖牝馬の産次など様々な潜在的な要因に影響されることが分かります。その馬が本来の成長をするためには、適正な栄養供給は不可欠ですが、過度の栄養を与えても馬は大きくなりません。馬の大きさが競走成績に影響する可能性を前述しましたが、これは長期間の莫大な頭数を平均してみたときの傾向でしかありません。1頭のサラブレッドが持つ可能性は、体重計やメジャーで測ることはできないことを付け加えておきます。

 

 

   

日高育成牧場 主任研究役 松井 朗 

2021年1月25日 (月)

大腿骨遠位内側顆における軟骨下骨嚢胞について

軟骨下骨嚢胞(subchondral bone cyst、いわゆる「ボーンシスト」、以下SBC)は関節軟骨の下の骨が骨化不良を起こし発生する病変であり、遺伝、栄養や増体率などの要因により、1~2歳の若馬の様々な骨に生じます。このうち競走馬の育成に問題となるものとして、大腿骨遠位内側顆のSBCがあげられます。日高・宮崎両育成牧場では研究の一環として、毎年秋と春に育成馬の膝関節のX線検査を行い、この病変の発生状況を調査しています。

馬の膝関節は図1の骨標本に示す位置にあり、SBCはX線写真では透亮像(黒く抜けた所見)として認められます(図1)。

1_26

図1.馬の膝関節の位置

 

 

この病変は図2のとおり大きさと形状によって4つのグレードに分けられます。

2_26

図2.SBCグレードごとの形状と大きさ(出典:Santschi et.al, 2015, Veterinary surgery, 44(3), pp281-8 )

グレード1: 極わずかな軟骨下骨の窪み

グレード2: ドーム状の軟骨下骨の窪み

グレード3: ドーム状のX線透過部位を有する嚢胞

グレード4: 円形・釣鐘状のX線透過部位を有する嚢胞

 

  SBCグレードは数値が高くなるに従い、予後が悪くなる傾向にありますが、X線検査で大型(直径10mm以上)のSBCが確認された1歳馬において、跛行を示したのは2割以下であり、SBCを確認した馬が必ずしも跛行を呈するわけではないとの報告もあります(妙中ら, 2017, 北獣会誌, 61, 207-211)。

症状を伴わない場合は治療を行う必要はなく、調教を進めることができますが、跛行が続く場合には治療が必要となる場合もあります。治療の方法にはいくつか選択肢がありますが、近年では螺子挿入術による治療法が特に注目されています。螺子挿入術とはSBCを跨ぐようにして螺子を挿入することで周囲の骨を固定・補強する治療法です。この治療法では2ヶ月の休養が必要とされますが、3ヵ月後には多くの馬が通常運動を行えるようになるまで回復すると報告されています(Santschi et al, 2015, Veterinary surgery, 44(3), pp281-288 )。

3_21

図3.螺子挿入術

 

しかしながら、SBC自体には未解明の部分が多いため、確実な方法としては確立している治療法はありません。そのため、日高・宮崎両育成牧場では、発症時期、原因、跛行との関連性および病変と競走成績の関連性を明らかにするとともに、治療を含めた管理方法の確立を目指して研究を継続します。

日高育成牧場 業務課 胡田悠作

育成期の運動器疾患(軟骨下骨嚢胞)

例年より降雪が遅いものの日々の最低気温が氷点下に届きはじめ、日高育成牧場にも冬が到来しつつあります。騎乗馴致も終わり、1歳馬たちの調教も来年の競走馬デビューに向けて徐々に本格化する時期でもあります。とはいえ、この時期の1歳馬たちは未だ成長途上にあり、運動強度が増すにつれさまざまな運動器疾患が認められるようになります。今回は、それらの疾患のうち「軟骨下骨嚢胞」について紹介します。

 

馬の大腿骨内側顆軟骨下骨嚢胞

ボーンシストとも呼ばれ、栄養摂取や成長速度のアンバランスなどの素因や関節内の骨の一部に過度のストレスがかかることが一因となって関節の軟骨の下にある骨の発育不良がおこることにより発生するとされています。X線検査でのドーム状の透過像(黒っぽくみえる領域)が特徴で(図1)、大腿骨の内側顆が好発部位です(図2)。発生時期も1歳春から秋まで様々で、調教が始まるまで殆ど跛行しないため、セリのレポジトリー(上場馬の医療情報)用のX線検査で初めて発見されることもあります。

1_25

              図1

2_25

              図2

嚢胞があったら長期休養または手術?

この嚢胞には炎症産物が含まれており、運動を継続すると病巣が広がってしまうため、一度跛行が認められたら運動や放牧を中止し休養させなければいけません。調教への復帰を早めるため手術(嚢胞部分の掻爬や螺子挿入)されることもありますが100%改善するとは限りません(図3)。しかし、この病気の発症馬43頭とその「きょうだい」207頭を比較した調査では、①発症・発見が早いほど出走率は高く、②平均出走回数は「きょうだい」と発症馬との間に差がなく、③手術した14頭の出走率は71%、しなかった29頭は52頭であったことが報告されており、早期診断・適切な治療・管理をすれば競走馬としての可能性が十分に期待できることがわかっています。

※出展:馬大腿骨遠位内側顆軟骨下骨嚢胞罹患馬の追跡調査(NOSAI加藤ら)

 

3_20

          図3

また、掻爬による手術を実施した150頭の軟骨下骨嚢胞発症馬に関する調査では、①損傷していた関節表面の大きさが15mm以下であれば出走率が70%、②対して損傷部が15mm以上であれば出走率が30%、③たとえ症状を示していない1歳馬でも嚢胞の直径が15mm以上のものは高い確率で後々跛行することが報告されています。従って、関節表面損傷部の大きさを指標に発症馬の予後判定ができます。

※出展:馬獣医のよもやま話46「後膝におけるボーンシストについて」(HBA柴田ら)

一方、まだ跛行していない1歳馬1,203頭が大腿骨内側顆軟骨下嚢胞を持っていた確率と、それらの馬のうちどの程度が跛行したのかに関する調査では、①10mm未満の嚢胞を持っていたのは84頭(7%)、②10mm以上の嚢胞を持っていたのは33頭(2.7%)、③後に跛行したのは嚢胞を持っていなかった馬のうちの1頭と10mm以上の嚢胞を認めた馬のうちの6頭だったことが報告されています。このことから、比較的大きな嚢胞が認められた馬の殆どが後に症状無く出走することが可能だということがわかります。

※出展:サラブレッド1歳馬の大腿骨遠位内側顆X線スクリーニング検査における有所見率とその後の跛行発症との相関(ノーザンF妙中ら)

 

最後に

 いずれにしても重要なのは症状を悪化させないための早期発見・早期治療です。そのためには、普段からのチェックやケアの徹底により愛馬の状態を確認しておくことはもちろん、「歩様(騎乗した感じ)がいつもと違う」などの前兆を見逃さないことが重要となります。今回の内容について不明なことなどありましたら、是非日高育成牧場までお問い合わせいただければ幸いです。

日高育成牧場 専門役 琴寄泰光

飼養管理が馬の胃潰瘍発症にもたらす影響

はじめに

免許証のない人(車を運転しない人)に比べて、免許証の保持者のほうが胃潰瘍を発症している割合が多いそうです。私たちは、自覚のないストレスでも簡単に胃潰瘍を発症しているのかもしれません。胃潰瘍を発症する競走馬が多いことから、ストレスが原因であるかのような記事もみられますが、馬にストレスが原因となる胃潰瘍があるのかどうかはよく分かっていません。人は胃内のピロリ菌が胃粘膜を傷つけ、そこが胃酸に侵されることによって胃潰瘍が発症することがよく知られています。馬の胃内にはピロリ菌がいませんが、胃潰瘍を発症している馬が非常に多いことが知られています。

 

馬の胃潰瘍

馬の胃は、構造的に有腺部と無腺部の二つの部位に区別することができます(図1)。胃の下部3分の2を占める有腺部には、塩化水素、ペプシン(酵素)、重炭酸塩と粘液を分泌する腺があり、その表面の粘膜は酸に浸食されない構造になっています。一方、胃の上部3分の1を占める無腺部の粘膜は強い酸により浸食されます。この無腺部の粘膜が胃酸(塩化水素など)に侵され、炎症をおこすことにより胃潰瘍が発症します。有腺部と無腺部は大弯部ヒダ状縁(タイワンブヒダジョウエン)といわれる組織により仕切られていますが、胃潰瘍はこの境界部位に沿った無腺部側に多く発症します。

1_24

競走馬など強い運動が負荷されている馬や子馬は、胃潰瘍が発症しやすいとされています。競走馬の場合、強い運動により胃内部が攪拌され、無腺部が胃酸に晒されることによって発症する場合が多いとされています。一方、子馬の胃潰瘍の発症は、濃厚飼料の過剰摂取に起因するとされています。胃内において、濃厚飼料由来の炭水化物(主にデンプン)が微生物によって発酵されることにより揮発性脂肪酸が生成されます。多量に揮発性脂肪酸が生成された場合、無腺部の粘膜の保護作用が弱まり、胃酸に侵されやすくなると考えられています。

胃潰瘍が発症しても臨床症状を示さない場合も多いようですが、成馬の場合、食欲の減退、体重減少、被毛の劣化、虚脱、歯ぎしりなどの症状を示すとされています。子馬の場合、上記の他に、下痢、哺乳欲減退、流涎症(涎の多量流出)などの症状が知られています。

 

舎飼いと胃潰瘍の関係

唾液はアルカリ性であり、食塊と一緒に胃内に入ることにより胃酸を緩衝(酸を弱める)します。馬が一日中野外にいるとき、24時間中14~16時間は草を食べ続けます。これは、馬本来の自然な行動であり、馬は“不断食の動物”とも言われます。一日中草を食べ続けるということは、胃の中にも常に唾液が入り続けていることになります(図2)。

2_24

馬が家畜として飼養管理されている場合、燕麦など高カロリーの飼料が給与されるため、常に草を食べ続けなくても、必要なカロリーを摂取することが可能となります。その一方で、食べている時間が短くなるということは、唾液によって胃酸が緩衝されない時間帯も多くなってしまします。そのため、放牧を中心に管理されている馬に比べて、舎飼い時間の長い馬は、胃潰瘍を発症しやすくなります。飼養管理において、胃潰瘍の発症リスクをなるべく減らすためには、採食時により多く咀嚼させ、多くの唾液を分泌させることが望ましいと考えられています。同じ量の乾草を摂取する場合でも、切草よりも長いままの乾草のほうが飲み込むまでに、より多く咀嚼する必要があります。この点において、馬房において、長いままの乾草を馬に与えることが推奨されます。

タンパク質も胃酸に対して緩衝的に働くとされており、その給与が推奨されています。穀類は胃内の微生物によって揮発性脂肪酸を発生させ、胃粘膜の保護作用を弱らすことが懸念されることから、タンパク質が多く含まれたアルファルファの給与を推奨する報告がいくつかあります。

日高育成牧場・主任研究役 松井 朗

ファームコンサルタント養成研修

「コンサルタント」と聞いて皆さんが最初に思い浮かべるのは、いわゆる「企業コンサルタント」ではないでしょうか。その業務内容は多岐に亘るようですが、一般的にはクライアント企業の経営的な課題を抽出し、それを改善するための助言を与えて業績を向上させる職業というイメージをお持ちかと思います。

本稿で紹介する「ファームコンサルタント」は、「クライアント企業=軽種馬の生産もしくは育成牧場」であり、主に馬の栄養管理に関する課題の抽出およびそれらを改善するためにアドバイスをする「馬の栄養管理技術者」を指しています。

 

ファームコンサルタントの役割

馬の栄養管理技術者であるファームコンサルタントは、その名から想像できるように、個々の馬に対する給餌を中心とした飼養管理に関するアドバイスの提供が主な役割になります。そのためには、馬の栄養学や草地学はもちろんのこと、外科学や繁殖学など馬の栄養状態と関連する幅広い分野に造詣が深いことが求められます。

具体的には、与えている飼料の種類や量、放牧時間、繁殖成績や疾病発症などの課題をクライアントから直接聞き取ったうえで、BCS(ボディコンディションスコア)や馬体重の測定、栄養が関連する子馬のDOD(成長期外科的疾患)の有無などを確認することで個々の馬の栄養状態を把握するとともに、放牧地の状態なども観察します。これらによって牧場全体を俯瞰的かつ客観的に評価したうえで、クライアントと相談しながら課題の解決に導いていきます。

 

ファームコンサルタント養成研修(栄養管理技術指導者養成研修)

JBBA日本軽種馬協会はファームコンサルタントの更なる普及を目的として、平成27年から「ファームコンサルタント養成研修(栄養管理技術指導者養成研修)」を立ち上げました。2年間に亘ってJRA日高育成牧場で行われた「第1期ファームコンサルタント養成研修」では、総合農協、軽種馬農協、飼料会社等の職員が参加しました。

毎月1回、計24回行われた本研修は「実技・講義・ディスカッション」の3本柱で構成されており、実技では「BCSの測定や疾病の有無の確認を目的とした子馬や繁殖牝馬の馬体検査」、講義では「栄養学、各ステージの馬の飼養管理、草地学など幅広い知識の付与」、ディスカッションでは「毎回参加者に与えられた英語の論文要約や馬体検査レポート作成などの提出課題について参加者全員での意見交換」が行われました。第1期ファームコンサルタント研修では9名が修了し、修了者はそれぞれの立場から研修での「学び」を活かして個々の業務に役立てているようです。

本年9月からは、新たなメンバーによる第2期ファームコンサルタント養成研修が開始されており、前回の参加団体・企業に加えて、牧場関係者も参加者に名を連ねています。このように様々な立場から軽種馬生産育成に携わるホースマンが、2年間の長期間に及ぶ研修を通して栄養管理技術者としての能力を身に着けることで、馬産地全体における飼養管理技術の底上げに繋がるのではないかと感じています。

1_22

2_22

3_18


日高育成牧場業務課長 冨成雅尚