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2021年1月22日 (金)

装蹄師の養成について2

ちょうど1年前、この馬事通信で、『装蹄師になるためにはどうしたら良いのか?』についてお話させていただきました。今回はその続編ということでお話させていただきたいと思います。まず前回のお話を少し振り返ります。
現在、装蹄師になるためには、栃木県宇都宮市にある装蹄教育センターにて1年間、全寮制のもと、専門的な知識と技術を学び、装蹄師認定試験(2級認定試験)に合格して装蹄師の資格(※1)を習得する必要があります。募集定員は16名。まずはこの講習会に入講することが条件です。この認定講習会での講習内容については前回、お話させていただきましたので、今回は卒業後の進路についてお話させていただきます。
認定講習会や認定試験を無事通過し、晴れてスタートラインに立った後は、競走馬・乗馬・生産地のいずれかの世界で働くことになります。ここでは、生産地を進路に選んだ場合を例に、その仕事内容を紹介させていただきます。
装蹄師の仕事は、伸びたヒヅメを切って蹄鉄を装着することだけではありません。
生産地では主に、育成馬、繁殖牝馬、子馬の肢元のケアをすることとなります。
育成馬では馴致を開始し、調教が進んでくると肢元にも様々な変化が起きます。馬が産まれて初めて蹄鉄を装着するのも、ほとんどがこの段階です。繁殖牝馬も運動をしないからと、肢元のケアを疎かにすると、産まれてくる子馬にも大きな悪影響を与えます。繁殖牝馬は子馬を作る道具ではありませんからね・・・。子馬はヒヅメの伸びがとても早く、肢の成長も早いため、少しでもヒヅメのバランスが崩れると肢が曲がってしまう(肢軸異常)こともあります。つまり、生産地の装蹄師は、牧場の馬管理者や獣医師と連携を取りながら、これら一つ一つの問題に的確に対応しているのです。もちろん競走馬や、乗馬の装蹄師も生産地の装蹄師同様、様々な問題を解決しているのです。装蹄の仕事は奥が深いのです!!
以前もお話したとおり、この装蹄師という資格を取得しても、すぐにプロとして仕事を依頼されることは皆無です。しかし将来、多くの経験を積み、様々な馬の肢元をケアできるようになった頃には、多くの喜びを味わうことが出来るに違いありません。
いかがでしょう?装蹄教育センターで1年間、しっかり基本的な知識と技術を学び、一緒に競馬サークルを盛り上げ、強い馬づくりに参加しようじゃありませんか!
もし、少しでも興味をお持ちの方は、日本装削蹄協会のホームページを検索してみてください。ブログや公式フェイスブックで1年間の講習会の様子もわかりますし、入講に関わる情報入手や資料請求などもできます。さらに装蹄教育センターでは装蹄の一部工程や蹄鉄造りや、講習中のカリキュラム内容を体験できる『オープンキャンパス』や馬管理者・ライダーの方に、蹄の管理方法を学んでいただく『フットケアセミナー』なども行われています。
もちろん、これら以外に個人的に講習会の見学もできます。
馬が好き、競馬が好き、馬にかかわる仕事につきたい人、それ以外でも理由はなんでも構いません。ぜひ一度、体験してみませんか?? 同じ装蹄師として、夢を追う仲間が増えるのを心からお待ちしています。

          

(※1)2級認定資格を取得後4年以上経過したら1級試験の試験を、さらに1級取得後9年以上経過したら指導級の試験をそれぞれ受験できます。その昇格試験に合格すると上級の資格に昇給します。

※来年度に関しては定員に満たないため、H30年1月16日(火)に2次試験を行います。
出願受付 H29年12月17日(日)まで
受験資格 H30年4月1日の時点で満18歳以上の者

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日高育成牧場 専門役 竹田和正

前肢における著しいコンフォメーション異常が市場および競走成績等に及ぼす影響

はじめに
コンフォメーションとは、馬の外貌から判断できる骨格構造、パーツの形状や大きさ、バランス、角度等のことをいいます。コンフォメーションに異常のない馬はスムーズに走行できると考えられます。一方、オフセットニーやクラブフットなどのコンフォメーション異常(Abnormal Conformation:以下AC)は競走成績に悪影響を及ぼすと考えられており、市場では敬遠される場合があります。しかし、わが国のサラブレッドにおけるACに関する報告はなく、市場成績や競走成績に及ぼすACの影響は明らかにされていません。
今回は、サラブレッド1歳市場における馬体検査で著しいACを認めた馬について、市場成績や競走成績、競走期の運動器疾患発症率に関する調査を実施しましたのでご紹介させていただきます。


調査方法
調査対象馬は2009~2013年に開催されたサラブレッド1歳市場(セレクトセール・セレクションセール・サマーセール)の上場馬6,768頭としました。2名以上のJRA獣医師およびJRA装蹄師が馬の外貌や歩様を確認して、一般的な購買者が忌避するような、程度の著しいACを認めた馬(AC群)のみを抽出し、それ以外を対照群としました。ACの抽出項目は全て前肢におけるもので、オフセットニー、凹膝、起繋、X脚、外向、クラブフットの6項目(図1)としました。各群における市場成績(売却率および中間価格)と競走成績(3歳末までの出走率および初出走までに要した日数)を調査しました。また、最初の競走馬登録が中央競馬であった4,574頭を対象として、ACを認めた肢の競走期における浅屈腱炎、繋靭帯炎、前肢骨折、腕節構成骨々折の発症率を調査しました。

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(図1)

結果
調査の結果、200頭がAC群として抽出されました。その内訳は、オフセットニー102頭(1.49%)、凹膝40頭(0.58%)、起繋16頭(0.23%)、X脚16頭(0.23%)、外向15頭(0.22%)、クラブフット11頭(0.16%)でした。市場成績に関して、サマーセールでは対照群と比較してAC群の売却率が有意に低く(グラフ1)、項目別ではオフセットニーの売却率が有意に低くなりました(グラフ2)。競走成績に関して、対照群と比較してAC群の出走率、初出走までに要した日数(グラフ3)および運動器疾患発症率(グラフ4)には有意差を認めませんでした。項目別では、クラブフットの出走率が対照群と比較して有意に低かったものの、初出走までに要した日数および運動器疾患発症率について有意な差はありませんでした。その他のAC項目については、出走率、初出走までに要した日数および運動器疾患発症率について有意な差はありませんでした。

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(グラフ1)

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(グラフ2)

4_8(グラフ3)

5_2(グラフ4)

最後に
本調査では、ACの影響をより明確にするために著しい異常のみを抽出したため、軽度の異常まで抽出した過去の報告(オフセットニー:12.9%、凹膝:4.2%、〔Love 2006〕)と比較してACの出現率が低かったものと思われます。市場成績調査の結果から、ACは馬の市場評価に負の影響を及ぼすことが示されました。しかし競走成績調査の結果をみると、対照群と比較して有意な差を認めた項目はクラブフットの出走率のみであり、他にはACの影響は認められませんでした。
これらのことから、ACが競走期の下肢部に及ぼす影響は、我々関係者が認識しているほど重大ではなく限定的であると考えられました。ただし、本調査においては抽出頭数が少なく統計学的結論が得られなかった項目も複数認められており、更なるデータ蓄積が必要であると考えられました。

馬事公苑・専門役 宮田健二(前・日高育成牧場業務課)

2020年5月28日 (木)

装蹄師の養成について

No.159(2016年11月15日号)

             

 

『装蹄師になるためには、いったいどうしたらよいのでしょうか?』

 日本で唯一、装蹄師の養成教育を行っている装蹄教育センターで、昨年まで技術指導を担当させていただいていた私、竹田和正がこの疑問にお答えします。

 結論から申しますと、公益社団法人 日本装削蹄協会が約1年間にわたり全寮制で行っている装蹄師認定講習会で専門的な学科と実技を学んだ後、装蹄師認定試験(2級認定試験)に合格して、装蹄師の資格(※1)を取得することでスタートラインに立つことになります。そのためには、まずは募集定員16名という狭き門を突破し、この認定講習会に入講する必要があるのです。

 装蹄師認定講習会が行われる装蹄教育センターは、栃木県宇都宮市にあり、設立されてから22年の間で、延べ316名の認定装蹄師を現場に輩出しています。(※2)装蹄師の「学校」と聞くと、馬の取り扱いや乗馬の経験がないとだめなのかと思うかもしれませんが、全くそのようなことはありません。認定講習会の中で、馬との接し方や騎乗、装蹄師になるために不可欠な解剖学や運動学などの学科、1本の鉄の棒から蹄鉄を作る鍛冶技術、そして、実際に馬の蹄を削ったり、蹄鉄を装着したりする装蹄技術を学ぶことができるのです。また、様々な分野の専門講師による特別講義、馬産地北海道での研修、競馬場やトレセンの見学などもカリキュラムの中に組み込まれているので、とても内容の濃い講習会となっております。

 センター卒業後は、JRA、トレーニングセンターや全国の競馬場、乗馬クラブ、生産地などで装蹄師として働くことになります。その求人は全国から装蹄教育センターに集まっており、現在、修了者の就職率は100%です! しかし昔から、「1人前の装蹄師として信頼されるまでには最低でも10年は必要だ!」と言われているように、この装蹄師認定講習会を修了し、資格を取得してもすぐにプロとして仕事の依頼をされるのは皆無と言えます。まずは見識豊かな先輩装蹄師の下で働きながら経験を積み、応用技術を蓄積する必要がありますが、その大切な基礎となる部分は装蹄教育センタースタッフが、熱意を持って指導するので十分に作ることが出来るでしょう。

 装蹄師の仕事は決して楽ではありません。しかし馬の足元を支える重要な仕事なので、とてもやりがいがあります。どうでしょう? ほんの少しでも興味が沸いたら、すぐに日本装削蹄協会のホームページ(http://sosakutei.jrao.ne.jp)を検索してみてください。そこには、歴代の講習生の1年間の講習会の様子や寮での生活などがわかる講習生のブログのコーナーもあるので、ぜひ覗いてみてください!!

 また、教育センターでは、装蹄や造鉄が体験できるオープンキャンパスやフットケアセミナーなども行われておりますし、実際に講習生の実習を見学することや現役装蹄師のお話を聞くことも可能です。最初に狭き門といいましたが、近年は、受験者数が減少傾向にあるので、まさに今が装蹄師になるチャンスといえます。

 さあ!!あとはあなた次第です。ぜひこの技術を身につけ、一緒に馬サークルを盛り上げて行こうではありませんか? 同じ装蹄師として仲間が増えるのを楽しみにしています。1_6

 

(※1)2級認定資格を取得後4年以上経過したら1級資格の試験を、さらに1級取得後9年以上経過したら指導級の試験を、それぞれ受験できます。その昇格試験に合格すると上級の資格に昇給します。

 

(※2)装蹄教育センターが設立される以前は、東京世田谷の駒場学園高等学校装蹄畜産科装蹄コース(3年間)、長期講習会(6ヶ月)、短期講習会(2週間)などがありました。

 

 

                      (JRA日高育成牧場・専門役 竹田 和正)

 

蹄充填剤の応用

No.156(2016年10月1日号)

 

蹄充填剤とは

 馬の蹄は1ヶ月に約10mm程度の生長をします。しかし、運動をすることで蹄は磨り減ります。蹄の伸びる量よりも減る量が多くなると、知覚部まで達し疼痛を伴います。そのため、蹄鉄は蹄の保護を最も大きな目的として装着します。

 一般的に蹄鉄は蹄釘(ていちょう)といわれる釘を使って装着します。しかしながら、蹄壁欠損などにより蹄釘での装着が困難になるケースが多くあります(図1左)。そのような馬の場合には、蹄充填剤が無かった頃には休養を余儀なくされ、蹄が自然と伸びるのを待っていました。

 しかし、蹄充填剤の一つであるエクイロックス(Equilox社製)が開発され、エクイロックスで蹄壁を補修し、そのエクイロックスに蹄釘を打ち込み蹄鉄を装着する技術が普及しました(図1右)。この方法により、多くの馬が休養することなく継続して運動が出来るようになりました。1_3 図1 左:蹄壁がはがれて蹄釘による蹄鉄の装着は不可能

   右:蹄充填剤エクイロックスを蹄に塗り、蹄釘にて蹄鉄を装着

 

蹄充填剤の応用

 蹄充填剤は、蹄壁の補修剤として開発されました。しかしながら、現在ではその用途は多岐にわたります。そのため、用途に合わせた様々な蹄充填剤が開発されています。そこで、蹄充填剤の使用方法について紹介していきたいと思います。

  

・蹄鉄の装着(接着蹄鉄)

 蹄鉄は基本的には蹄釘を使用し装着されますが、蹄釘を使用して装着できない場合には、蹄充填剤を使用して蹄鉄を装着します。この方法で蹄鉄を装着することを接着蹄鉄とよびます(図2)。接着蹄鉄は、蹄壁欠損によって蹄釘での蹄鉄の装着ができない蹄にかぎらず、クラブフットなどの蹄釘による蹄鉄の装着が困難な場合にも選択されます。蹄釘を使わない安全な装着方法ですが、蹄機作用を抑制することもあるため、使用する期間などには注意が必要です。2_2 図2:接着蹄鉄 蹄釘を使用せずにエクイロックスにて装着

 

・肢軸矯正

 子馬のうちに、肢軸を矯正し負担の少ない肢勢にすることは、競走馬としてトレーニングをしていく上で故障のリスクを減らす重要なことです。蹄充填剤が普及するまえは削蹄による矯正のみで対応することがほとんどでしたが、蹄充填剤を使用して、蹄に張り出しをつけることで(図3)、より大きな矯正力を発揮できるようになりました。3_2 図3:肢軸の状態にあわせて蹄に張り出しをつけて改善に努める

 

・蹄底に対する保護やサポート

 蹄充填剤の中には蹄底に充填するタイプもあります。蹄底は地面からの圧力を受けるため、エクイロックスなどの硬い蹄充填剤は使用できません。そこで、蹄底に使用できるように柔らかいエクイパックなどの蹄充填剤が開発されました。蹄底への充填は蹄底が薄く痛みがあるときに保護のために使用します。また、蹄葉炎などの蹄骨が沈み込んでくる症状があるときに地面側から支えるサポートとして使用します(図4)。この方法が普及したことにより以前よりも完治する蹄葉炎の馬が多くなりました。4_2 図4:アドバンス・クッションサポートによる蹄底の充填

 

まとめ

 蹄充填剤は用途に応じて硬さや接着力の違う様々な製品が開発されています。馬の症状にあった蹄充填剤を正しく使用することで、様々な蹄病や肢勢に対応することが可能です。また、現在も新しい蹄充填剤が開発されています。それらの特徴・性質を十分に理解して使用する事で、より多くの症例に対して、今よりも適切な処置を施せるようになるかもしれません。

(日高育成牧場 業務課装蹄係  諫山太朗)

2020年5月13日 (水)

子馬の蹄管理と異常肢勢

No.144 (2016年4月1日号)

 

 

はじめに

 出産シーズンが始まるとどんな可愛い子馬と出会えるのかとワクワクします。しかし、いざ出産が始まると肢軸異常の子馬など、私たち装蹄師を悩ませる問題児たちが出てきます。子馬の頃から健全な蹄や肢の発育を維持することは、『強い馬づくり』にとって非常に重要で、肢軸異常がある場合には、十分な運動を実施できず競走成績にも影響します。そこで今回の強い馬づくり最前線は子馬の蹄管理と子馬に多い肢勢の異常について紹介したいと思います。

 

子馬の蹄管理

 子馬の蹄は柔らかく成長が早いため、異常摩滅などにより、蹄形が変形してしまうと歩様、肢勢、蹄形は大きな影響を受けます。そのため、定期的な装削蹄が不可欠です。子馬は、3~4 週間隔で装削蹄を実施しますが、状態によっては時期を早める場合もあります。また、削蹄などの蹄管理は、馬が生きていく限り継続されるものであるため、子馬に恐怖心を与えないよう慎重に実施します。

 

子馬の異常肢勢

 子馬の肢勢は発育、負重、歩様など、様々な要因によって変化します。異常肢勢は成長とともに治癒する場合もありますが、重度の異常肢勢を矯正することなく放置した場合は、運動器疾患の発症要因になることもあります。このため、日頃から蹄を注意深く観察し、異常肢勢や蹄形異常を早期発見することが重要です。また、異常が認められた場合は、早めに対処することが必要です。

 

【X脚】

 X脚は、左右の腕節の間隔が肩幅より狭く、それ以下が広いもの(図1)で、軽度の場合は自然に治ることもありますが、重度な場合は症状が長期化し、成馬になっても異常肢勢が残存することがあります。対処としては、削蹄による矯正ですが、削蹄のみによる矯正が困難な場合は、充填剤などを使用して蹄の内側に張り出しを付けるなど、腕節に均等に力がかかるようにサポートします。1_6  図1 X脚

 

【弯膝】

 生後間もない子馬の多くは弯膝(図2)で、後天性の場合は筋肉痛や疲労が原因といわれています。軽度な場合は、通常の放牧管理による筋力強化によっても改善されます。また、弯膝の特徴として蹄の前半部への体重負担が大きくなるため、蹄が不均等に生長するということもあります。そのため蹄のバランスを頻繁に整えることも大切です。2_4 図2 弯膝

 

【クラブフット】

 クラブフットの原因は、深屈腱の拘縮や腱と骨の成長速度のアンバランスと言われていますが、いまだ発症機序は明らかにされておらず、予防法も確立されていません。発症時期は生後3~6ヶ月の間が最も多く、その進行はきわめて速いのが特徴です。矯正削蹄や充填剤を使用(図3)して、深屈腱の緊張を緩和する事により、ある程度の進行は抑制できますが、処置が遅れ重度なクラブフットになると、成馬になってからでは蹄形の完全治癒は望めません。そのため、異常を早期に発見し重度になる前に処置を実施する事が重要です。3_4 図3 クラブフットの充填剤使用

 

さいごに

 肢勢異常の中には子馬が成長するにつれて自然に良化する場合があり、矯正を行う必要性を判断するのは非常に難しい事です。この判断を行うのは生産者と獣医師、装蹄師です。この3者の協力で肢軸、蹄の異常を早めに対処することにより、競走馬としての明るい未来を護る事ができます。

 

    

 

(日高育成牧場 業務課 山口 智史)

2020年1月 3日 (金)

繁殖牝馬と子馬の蹄管理

No.130(2015年8月15日号)

はじめに
 繁殖牝馬や子馬は放牧地で管理される時間が長く、仲間とともに良質な青草を探して歩き回るため、子馬は肢蹄が健全であれば運動量が増えて基礎体力が向上します。しかし、下肢部、特に蹄に疾患があり歩行を嫌う場合には、運動量が減少して健全な馬体の成長が妨げられてしまいます。そのため、日頃から蹄を注意深く観察し、触れることにより、蹄病の発症を早期に発見し、悪化を防止することが重要です。そこで今回は繁殖牝馬と子馬の蹄管理のうち、日常心がけるべき基本について紹介したいと思います。

日常の管理
 蹄に汚物や糞尿(アンモニア、酸やアルカリ)、泥土が詰まった不潔な状態で放置すると、蹄質が悪化し、蹄叉腐爛などの蹄病の発症誘因となり、跛行の原因となることがあります。常に清潔な状態に保つためには、こまめな裏堀りが重要です(図1)。裏掘りの際には、蹄壁に触れることにより蹄の異常サインである帯熱を感知できます。また、子馬には蹄を軽く叩いて音を出し、衝撃を与えることでその後に実施する装削蹄の馴致となります。

1_4 図1 裏堀り

蹄油の利用
 冬季は蹄が乾燥して硬くなることにより、蹄機作用(体重負荷による蹄の変形によって着地時の衝撃を緩和したり蹄内部の血液循環を助ける生理作用)が妨げられ、蹄踵の狭窄や裂蹄などが発症しやすくなります。また、手入れに湯を使用すると必要以上に蹄の水分を蒸発させることから、蹄洗後は直ちに蹄油を塗布して乾燥を防止する必要があります。逆に夏季は、蹄の過度な湿潤により蹄質が軟化し、蹄叉腐爛や蹄壁欠損を発症しやすくなります。蹄油は、過剰な蹄の水分発散(乾燥)や湿潤を防止することを目的として蹄壁や蹄底に塗布します。その他、成長基点である蹄冠に、蹄クリームや単軟膏などを刷り込むことも蹄を保護するうえで有効です。

定期的な削蹄
 子馬の蹄は柔らかく成長が早いため、異常摩滅などにより、蹄形が変形してしまうと歩様、肢勢、蹄形に大きな影響を与えます。そのため、定期的な装削蹄が不可欠です。子馬も繁殖牝馬と同様に、3~4 週間隔で装削蹄を実施しますが、状態によっては時期を早める場合もあります。日頃から蹄を注意深く観察し、不正摩滅や蹄形異常の早期発見に努めることが重要です。日高育成牧場では出生時から離乳まで、装蹄師および獣医師が毎日、肢勢および歩様をチェックしています。また、過度の摩滅や蹄壁欠損が生じた場合は、成長期の軟らかい角質への負担を軽減させるため、充填剤の使用や蹄の生長を阻害しないためにポリウレタン製蹄鉄(図2)を用いて保護します。

2_4 図2 ポリウレタン製蹄鉄

牧場でもできる蹄管理
 蹄の縁が尖っていると蹄壁欠損や裂蹄を起こしやすくなります。そのため、端蹄廻し(はづめまわし)を実施し蹄壁欠損などを予防します。端蹄廻しとは、蹄壁の厚さ2 分の1 を目安として、ヤスリで外縁を削り、蹄壁に対して45度の丸みをつけます(図3)。軽度の蹄壁欠損を発見した時は、欠損部の拡大を防ぐために、蹄用のヤスリを常備して欠損部のヤスリがけを行いましょう。

3_4 図3 端蹄廻し

最後に
 健全な馬を育てるには装蹄師による定期的な装削蹄だけでは限度があり、牧場での日常の蹄管理が必要不可欠です。また、蹄の異常など発見した場合は速やかに担当の獣医師または装蹄師に相談しましょう。

(日高育成牧場 業務課 山口 智史)

2019年12月16日 (月)

米国装蹄競技大会に参加して

No.125(2015年6月1日号)

装蹄競技大会とは
 皆様は装蹄師に技術の高さを競う大会があるのをご存知でしょうか?日本では昭和16年から年に1回のペースで全国装蹄競技大会(最優秀選手には農林水産大臣賞が授与される)が開催されており、全国各地での予選を勝ち抜いた30名程が装蹄の技術を競います。そこで優勝すると、翌年米国で行われる世界規模の装蹄競技大会に派遣されます。私は昨年度の67回大会で優勝し、今年の2月に行われた米国の装蹄競技大会に参加しましたので、そこで経験したことを紹介したいと思います。

米国の装蹄学校
 大会に先立ち、昨年度に来日され日本の装蹄師に米国流の造鉄方法を指導して頂いたChris Gregory氏が指導をしているハートランド装蹄学校(図1)という装蹄師の学校で、他の生徒達と一緒に練習をする時間をいただきました。この学校では、年齢・装蹄経験を問わずたくさんの生徒が在籍しており、1から装蹄の勉強をしたい人やこれまでも装蹄師として仕事をしていて、更なるレベルアップを希望している人など多くが指導を受けています。また、それぞれのレベルに合わせて授業のコースも分かれています。日本の装蹄業界の場合には、なかなか仕事を始めた後に学校に通って勉強をやり直すのは難しいですが、このような機会があることは非常に有益だと感じました。

1_6 図1 米国の装蹄学校 
様々な年齢の生徒が実習してスキルアップに励む

米国の装蹄競技大会
 ハートランド装蹄学校で練習をしたのち、いよいよ装蹄競技大会です。今回の大会には86名のエントリーがありました(図2)。競技内容は基本的な蹄鉄を作る競技や装蹄療法に使用する特殊な蹄鉄を作る競技、馬車馬用の大きな蹄鉄を作る競技など様々です。日本では、蹄鉄を作る競技は大体の大きさを合わせた左右対称の蹄鉄を作ります。鑢を掛けて蹄鉄の角を落とす作業は、蹄鉄を作る時点ではありません。しかし、米国では蹄鉄が出来た時には実際に馬に装着できる状態でなくてはいけません。そのため、鉄尾(テツビ)と呼ばれるヒールの部分を丸く作り、安全のために蹄鉄の角を落とします。また、鉄唇(テッシン)と呼ばれるズレ防止も作らなくてはなりません(図3)。米国の大会では蹄鉄作りの上位20位に入らなければ実際に装蹄することはできません。しかしながら、私は残念ながら予選で敗退となりました。反省点として蹄鉄の見た目ではなく、安全性や機能性にしっかりと重点を置いて競技に臨むべきであったと感じています。予選の翌日は上位20名による装蹄競技(図4)が行われました。残念ながら参加できなかった私ですが世界最高峰の技術をみて大いに勉強になりました。またいつの日かリベンジをしたいと思います。

2_5 図2 米国装蹄競技大会の様子 
選手各自が炉を持ち込み、広いフロアーで同時に競技する

3_4 図3 左が米国 右が日本の標準蹄鉄 
米国の蹄鉄はそのまま装着できるように鉄尾などが処理されている

4_3 図4 上位20名による装蹄競技
馬繋場などはなくゴムマットの上で装蹄する

最後に
 今回の米国研修を通して感じたことは、蹄鉄の形状や造鉄方法・装蹄方法など日本と米国では違いが多々ありますが、馬に対していかに安全で快適な装蹄が出来るのかが一番重要であるということを再確認しました。私が今回体験したような高度な技術が日本で普及して装蹄業界全体がレベルアップできれば嬉しく思います。

(日高育成牧場 業務課装蹄係  諫山太朗)

2019年12月 6日 (金)

競走馬の装蹄について

No.121(2015年4月1日号)

 競走馬の護蹄や装蹄の重要性は、馬に携わる人であれば誰でもご存知のことだと思います。一方、近年は育成後期の運動量も強くなり、現役競走馬に近い蹄管理が求められるようになってきました。そこで今回は競走馬の装蹄や蹄疾患について解説したいと思います。

蹄の管理について
 一般に成馬の蹄は1ヶ月で約1cm伸び、約1年で全体が更新されます。しかし、蹄は体重を支えたり、地面を蹴ったりすることで常に磨耗するため、走行スピードが速く運動量も多い競走馬では蹄の磨耗が著しく、装蹄により保護する必要があります。また、蹄鉄を装着することでグリップ力を高めたり、蹄を治療(装蹄療法)することも可能となります。

装蹄の歴史について
 装蹄には約2000年の歴史があり、蹄鉄もそれぞれの時代において進化してきました。始めは、蹄を保護する目的で藁沓(わらぐつ)を履かせて管理していましたが、耐久性不足の問題からその後鉄製のサンダル状の物へ移行し、その後鉄製の蹄鉄を釘付けによって固定する方法へ進化していきます。それから競馬だけで使用する競走蹄鉄への打ち替えを行うようになりますが、人馬の安全確保や蹄壁欠損と言われる釘付けによる蹄壁の損傷が問題となり調教も競馬でも使用可能な兼用蹄鉄の開発が急がれました。そして昭和56年から、アルミニウム合金製で3週間の耐久性があり重さ約100グラムの兼用蹄鉄が使用されるようになっています。
 一方、乗用馬での装蹄は競走馬とは異なる歴史を歩んできました。なぜなら、装蹄に求められる目的が異なり、乗用馬では耐久性に加え滑らないことが最も重要なポイントとなるからです。乗用馬では蹄鉄に特に規制はないので、多くは鉄製の蹄鉄を装着し競技によってはクランポンと呼ばれるスパイク(図1)を使用することもあります。

1_2 図1 クランポン付き蹄鉄

競走馬に多く認められる蹄疾患
 競走馬はスピードが増すことによって骨折や屈腱炎などの運動器疾患や挫跖や裂蹄などの蹄疾患を発症する確率が増加します。その中で競走馬に特に多く見られる蹄疾患として弱踵蹄と呼ばれるものがあります。蹄踵部と言われる蹄の後半部が健常な蹄踵部(図2)に比べて酷く潰れたものです(図3)。側望でも健常蹄と弱踵蹄では明らかな違いが見られます(図4、5)。蹄尖壁が長くなり蹄踵壁の角度が低くなっています。走行時、1トンとも言われる衝撃を受ける蹄踵が潰れると蹄内の柔らかい組織が損傷を受けて慢性的な疼痛にさらされ、跛行することが多く見受けられます。弱踵蹄の原因として考えられるのは運動量の増加、坂路調教のような蹄後半部に多く負重が掛かることや改装遅延による過長蹄と言われる蹄が伸びすぎた状態になることなどです。さらに、左右で蹄の角度や大きさが異なる不同蹄は、蹄が大きく蹄角度が低い蹄で発症が多く認められます。弱踵蹄には多くのリスクがあり、屈腱炎は最も重要なリスクのひとつです。弱踵蹄の低い蹄踵が蹄の反回に悪影響を及ぼすことが屈腱炎の発症率を増加させると考えられます。

2 図2 健常蹄

3 図3 蹄踵が潰れた弱踵蹄

4 図4 健常蹄(側望)

5 図5 弱踵蹄(側望)

  次に注意を要するのはナビキュラー病です。この病気は、弱踵蹄の状態で馬を運動させ続けることにより不自然で過剰な力が「とう骨」の屈腱面とそれに相対している深屈腱の表面を損傷させることにより発症する病気です(図6)。一度弱踵蹄になると特殊な装蹄機材であるバーウェッジ(図7)やヒールリフト(図8)などを使用して蹄角度を起こして正常な肢軸に修整しなくてはなりません。しかし蹄形や肢軸を正常に戻すにはかなりの時間を要するため、とても厄介な蹄疾患であると言えます。

6 図6 ナビキュラー病の発症部位(線で囲んだ骨が「とう骨」)

7 図7 ㇻバーウェッジ

8 図8 ヒールリフト

最後に
 装削蹄は蹄の角質を削切し、蹄鉄を取り替えるだけではありません。蹄の健康診断も兼ねており、蹄病や変形を早期に発見し対応することで悪化を防ぎ、早期の回復が可能となります。従って、月に1度は装蹄師に削蹄を依頼し、蹄の状況を把握しておくことはとても大切なことであると言えます。

(日高育成牧場 専門役 下村英次)

2019年12月 2日 (月)

クラブフットの対処方法

No.119(2015年3月1日号)

はじめに
 馬の発育期における蹄疾患のひとつにクラブフット(以下CF)があります。CFとは深屈腱の拘縮が原因で蹄骨が牽引されることにより、蹄尖壁が引っ張られて極度に肢軸が前方破折してしまう症例です(図1,2)。CFを放置して重篤化してしまうと競走馬として活躍することなく淘汰されてしまうこともあります。そのため、CFを発症してしまった時には早期に発見し、対処する事が非常に重要になります。今回は、CFの対処方法等について紹介いたします。

1_13 図1 重度なクラブフット

2_11 図2 クラブフットの発症機序

クラブフットの原因と症状
 CFの治療は軽症のうちに適切な処置を施すことが何よりも重要であり、そのためには早期発見がポイントとなります。しかし、早期発見をするためには正しい蹄形を理解した上で、CFの原因や症状を知らなければ判断することは困難です。まずは、CFの原因について説明したいと思います。CFは遺伝による先天性のものと生後1.5ヶ月~8ヶ月齢の子馬に発症する後天性のものがあります。後天性の原因として、栄養の不足や過多、馬体の発育異常による骨格と筋肉・腱のバランス異常、放牧地の硬さなどに起因する物理的な衝撃などが考えられています。特に注意すべきは上腕や肩などの痛みであり、これによって筋肉が緊張し関節が屈曲することにより深屈腱支持靭帯が弛緩し、蹄の形状異常を引き起こします。すなわち、支持靭帯は弛緩し短縮した状態になると再び元の長さには戻らず短い状態で固まってしまうので、深屈腱は拘縮し、CFを発症してしまいます(図2)。そのため、普段からこまめに歩様チェックを行い早期に痛みを取り除く事でCFの発症リスクを軽減することができます。

 次に症状について説明します。CF発症馬の蹄は、蹄尖壁は凹弯し、通常は蹄尖と蹄踵が等間隔である蹄輪が、蹄尖部が狭くなり、蹄踵部は広くなる不正蹄輪(蹄の年輪のような線が歪む)となります。発育期の若馬を手入れする時には、このような症状が出ていないかを十分に観察する必要があります。

クラブフットへの対応
 CFを発症してしまった時には獣医師・装蹄師と相談し、原因を取り除く必要があります。獣医師と相談し、歩様に違和感がある場合には運動を制限し鎮痛剤を使用し、痛みを取り除きます。また、筋肉の緊張が原因で発症するため、筋弛緩剤などの投与も有効です。
 装蹄療法としては、軽度な場合には蹄踵を多削し蹄の形状を整えますが、蹄踵が地面から浮いてしまっているような重度な症例では、蹄踵を多削してしまうと深屈腱の緊張が上昇し、蹄骨の牽引を助長してしまうため、蹄踵が地面に接地するまでは厚尾状のパット装着や充填剤によるヒールアップ(図3)を実施し深屈腱の緊張を緩和させる事が有効です。さらに重度な症例で装蹄療法だけでは治療が困難な場合には深屈腱支持靭帯の切除術を検討する必要があります。切除術を実施することで深屈腱の緊張が緩和され、CFの進行を抑制することができるため、競走馬として活躍するためには実施しなければならない症例もあります。

3_10 図3 充填剤(スーパーファスト)でヒールアップを実施した蹄

終わりに
 CFは競走馬としての将来を大きく左右する重要な蹄疾患です。発育期の若馬は特に蹄を注意深く観察し、その変化を早期に発見し素早く対応する事が求められます。そのため、発見した時にはすぐに獣医師・装蹄師に連絡を取り、早期に治療を行うことが最も重要です。

(日高育成牧場 業務課装蹄係 諫山太朗)

2019年11月 9日 (土)

当歳馬の肢勢変化

No.109(2014年9月15日号)

 前々回の本記事において、下肢部のコンフォメーションについて紹介しましたが、関連記事として今回は、当歳馬の肢勢の変化について紹介します。

 日高育成牧場では、生産馬「JRAホームブレッド」を対象として毎月日高育成牧場の複数の獣医師と装蹄師により、発育状況、肢勢の変化や跛行の有無などを検査しています。その検査結果から、JRAホームブレッド15頭(2013年:7頭、2014年:8頭)の2年間に渡る検査結果を基にして、当歳馬の成長に伴う肢勢の変化について紹介します。コンフォメーション異常に関する説明や写真は、前々回の記事(8月15日号)を参考にしながらお読みいただければ幸いです。

1ヶ月齢まで
 出生直後から1ヶ月齢までのコンフォメーション検査結果から、前肢については外向肢勢が6頭、X状肢勢が3頭、内向肢勢が2頭、弯膝が3頭に認められました(重複あり)。また、後肢については球節以下の内反が4頭、浮尖(写真1)が4頭、川流れ(飛節以下が左右同方向に反ったもの)が1頭に認められました。さらに四肢もしくは前後肢どちらかの起繋が10頭に認められました。これらのコンフォメーション異常の多くは、先天的あるいは母体内の体勢が影響したものと考えられます。頭数を列記するとずいぶん多く感じますが、これらはいずれも症状が軽かったので、外科的治療や装蹄療法を必要とした馬はいませんでした。産まれて間もないこの時期の子馬は、体のバランスが悪く歩様も安定しないため、正確に肢勢を判断することは難しいのですが、日々の肢勢の変化には注意を払う必要があります。

1 写真1 矢印が示す3肢が浮尖の症状を示している。蹄尖が浮き、蹄球が地面についてしまっている。

2~3ヶ月齢
 その後、2~3ヶ月齢になると放牧地での運動量が増えることで筋肉や腱が成長し、歩様もしっかりしてきます。この時期の骨や腱の発達は旺盛であり、放牧地からの物理的な過度の刺激や痛みに対する反応などの影響によっては、クラブフット(写真2)の発症が認められる時期でもあります。今回の調査では2頭がクラブフットの症状を示しました。この2頭は早期に発見できたため速やかに対処したところ、1頭は削蹄のみで、もう1頭は装蹄寮法(ヒールアップによる疼痛緩和)と運動制限を施すことで良化しました。また、先に述べた誕生から1ヶ月齢の肢勢異常について、川流れ(1頭)と浮尖(4頭)は成長とともに自然に治癒し、消失していました。また、その他の肢勢異常はこの時期に大きく変化することはありませんでした。

2 写真2 蹄冠部(矢印部分)が前方に破折し、蹄尖で立つような姿勢となっており、クラブフットの典型的な症状を示している。

4~6ヶ月齢
 この時期、各馬の肢勢に大きな変化はないものの、球節部の骨端炎を発症する馬が散見されるようになりました。これらの馬の中で、内反や外反(写真3)を起こした馬に対しては成長板にかかる圧力を均等化するなどの適切な削蹄を施したことにより、骨端炎を原因とした極度の支軸破折を起こすことはありませんでした。

3 写真3 右前の球節以下内反、左前の球節以下外反の症状を示している。

7ヶ月齢以降
 7~10ヶ月齢の検査では、軽度の後肢球節の沈下不良などはみられたものの、肢勢は殆ど変化しませんでした。

 以上の調査結果から、当歳馬の肢勢が大きく変化する時期は出生直後から3ヶ月齢までの早い段階であるように感じられます。また、発見してすぐに処置を行った多くの馬が重症化せずに改善したことから、肢勢矯正を行う時期はできるだけ早いほうがよいと言えそうです。
 肢勢異常の中には子馬が成長するにつれて自然に良化する場合があり、矯正を行う必要性を判断するのは非常に難しいと思います。この判断を行うのは生産者と獣医師、装蹄師であり、3者の経験に委ねられます。その馬の競走馬としての未来を切り拓くためには、3者の相互理解と協力が必要不可欠だと言えるのではないでしょうか。

                     (日高育成牧場 業務課 福藤 豪)