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2024年1月

2024年1月15日 (月)

2023年「英・愛」種牡馬リーディングと各国の血統の融合

馬事通信「強い馬づくり最前線」第323号

 

 2023年の日本競馬は、非常に盛り上がりを見せた一年でした。特にドバイシーマクラシックを制して、レーティング世界一に輝いたイクイノックスを筆頭に、ドバイワールドカップではウシュバテソーロが、そしてサウジカップではパンサラッサが勝利するなど、日本産馬が海外G1競走で活躍しました。

 日本の種牡馬リーディングについて見てみると、昨年は激戦となりました。2022年まで11年連続で首位に君臨していたディープインパクトがついに陥落し、ドゥラメンテが最終週に逆転で初のリーディングを獲得しました。2位はロードカナロアで、キングカメハメハ産駒種牡馬の1・2フィニッシュとなりました。しかし、ドゥラメンテは2021年に早逝し、上位種牡馬の獲得賞金も拮抗していることから、今年以降も種牡馬の覇権争いは激しくなるかもしれません。

 その一方で、上位種牡馬の系統に着目すると、皆様もご存じの通り、現在の日本の活躍種牡馬の系統は、サンデーサイレンスやロベルトから広がるヘイルトゥリーズン系と、キングカメハメハをはじめとしたミスタープロスペクター系が多くを占めています。2023年の種牡馬ランキングトップ10(図1左)を見ると、ヘイルトゥリーズン系が6頭、ミスタープロスペクター系(全馬キングカメハメハ直仔)が3頭を占めています。これはサンデーサイレンス~ディープインパクトの親子やキングカメハメハの活躍により、特定の血統に偏った結果であると考えられます。

 それでは欧州の最近の種牡馬事情はどうなっているのでしょうか。2023年の英・愛種牡馬ランキングトップ10(図1右)を見ると、3位のドバウィ(Dubawi:ミスタープロスペクター系)を除いた9頭がノーザンダンサー系となっており、日本以上の偏りが確認できます。これは、クールモアグループを代表する大種牡馬サドラーズウェルズ(Sadler‘s Wells、英・愛リーディング14回:1990年、1992年~2004年)とその子ガリレオ(Galileo、英・愛リーディング12回:2008年、2010年~2020年)、そして、豪州でも長年トップサイアーとして君臨したデインヒル(Danehill、英・愛リーディング3回:2005年~2007年)というノーザンダンサー系の大種牡馬が長きに渡って英・愛競馬をリードしてきた歴史に起因しています。

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図1 日本の種牡馬ランキング(左) 英・愛の種牡馬ランキング(右)

青:ミスタープロスペクター系、桃:ヘイルトゥリーズン系、黄:ノーザンダンサー系

 さらに、2023年のチャンピオンサイアーも同系統のフランケル(Frankel)となりました。2021年に続き自身2度目の英・愛リーディング獲得で、欧州全体のランキングでは3年連続の戴冠となりました。現役時代には「史上最強」と称されたフランケルですが、種牡馬としてもすでに記録的な成績を残しています。昨年は英インターナショナルSなどG1競走を2勝したモスターダフ(Mostahdaf)など、産駒が英・愛のG1競走を9勝と大活躍しました。フランケルの父はガリレオ、母の父はデインヒルと、まさに欧州競馬の結晶と言える配合で、同配合からは数々のG1馬が誕生しています。昨年の素晴らしい活躍から、2024年度の種付け料は、ドバウィと並ぶ欧州最高価格の£350,000(約6,300万円)に設定されました。また、後継種牡馬としても昨年の凱旋門賞を勝ったエースインパクト(Ace Impact)の父クラックスマン(Cracksman)などがおり、この血統がさらに繁栄していくことは疑いようがありません。日本におけるフランケル産駒の種牡馬は、モズアスコットなど既に3頭がおり、グレナディアガーズも今年から新たに繋養される予定です。さらにアダイヤーとウエストオーバーの大物2頭も輸入され、日本競馬への広がりは加速してきています。

 昨年の欧州では、ディープインパクト産駒のオーギュストロダン(Auguste Rodin)の活躍が話題となりました。その母の父はガリレオですので、欧州で飽和している血統に日本の血統が融合して結果を出した好例と言えるでしょう。過去には欧州血統のナスルーラが米国で大成功し、近年では、米国で活躍したノーザンダンサーが欧州で、米国で活躍したサンデーサイレンスが日本で大成功を収めたように、血統の拡散がさらなる競馬の発展に寄与するとともに、それが各国の競馬をよりエキサイティングなものにすると推測されます。

 このように、現代競馬はそれぞれの開催国のスタイルが確立されていることから、各国の競馬はその国の競馬スタイルに適した馬の選抜レースという側面が強くなっています。そのため、その国に適した種牡馬や血統というものが固定される傾向、すなわち血統の飽和状態に陥ることが危惧されているともいわれています。

 日本では今後、多くの割合を占めているサンデーサイレンス系やキングカメハメハ直仔の母馬に欧州や米国の血統が融合することでどのような反応を示すのか、特にアウトブリード配合が注目されます。昨年導入されたカラヴァッジオ(JBBA静内種馬場:写真)の母Mekko Hokteは、父Holly Bull、母の父Relaunchはもちろん、4代までの8頭全ての父系がサンデーサイレンス系・ノーザンダンサー系・ミスタープロスペクター系ではない非主流のアウトブリード血統構成となっています。さらに父Scat Daddyも4代までの8頭のうち4頭の父系が同様に非主流の血統構成となっています(図2)。また、日本で活躍しているアグリをはじめ、海外でG1競走を勝利している3頭の馬はいずれも4代までにインブリードを保有していないことからも、日本でのアウトブリード血統としてゲームチェンジャーになることが期待されます。

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写真 母系がアウトブリード血統のカラヴァッジオ(JBBA静内種馬場)

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図2 カラヴァッジオの血統構成:血統表(上)とサイアーライン(下)

 

JRA日高育成牧場 業務課 竹部直矢(現在、英・愛国にて研修中)

厳冬期における当歳馬の管理

馬事通信「強い馬づくり最前線」第322号

 季節が移り変わり、寒さが本格化してきました。本稿では、世界的に見ても稀な積雪が継続する馬産地である北海道の厳冬期において、当歳馬を管理する上での課題となる点、および日高育成牧場におけるその対策について概説します。

  

厳冬期における飼養管理の課題

①運動量の減少

 1つ目の課題は「運動量の減少」です。昼夜放牧(放牧時間17時間)を行っていたとしても、冬期の放牧地における移動距離は、秋期の「8~10km」から「4~6km」にまで減少することが明らかになっています。運動は筋骨格系や心肺機能を発達させる上で重要となることから、運動量の減少は、健常な発育に影響を及ぼします。

②発育停滞

 もう1つの課題は「発育停滞」です。米国ケンタッキーやアイルランド等の他国の馬産地で飼育されている馬と日高地方で飼育されている馬との冬期における増体量を比較すると、日高地方の馬は、体重の増加が停滞するということが明らかになっています。このような発育停滞後には、代償性に急成長することがあり、この急成長がDOD(発育期整形外科疾患)などの発症要因となることが問題となっています。

 つまり、この2つの課題を克服することが、寒い北海道において他国に負けない強い馬づくりを行う上での重要なポイントになります。JRA日高育成牧場では、当歳から明け1歳における厳冬期においても、「運動量の減少」と「発育停滞」への対策について、試行錯誤しながら、昼夜放牧を実施しています。その中でも、特に注意している点を以下に示します。

 

「運動量の減少」への対策

①ウォーキングマシンの利用

 運動量の減少を補うためには、「ウォーキングマシン」の使用が最も容易にその目的を達成できます(写真1)。ウォーキングマシンは運動時間のみならず、速度も人為的にコントロールできることから、計画的に運動量を確保することが可能となります。

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写真1  厳冬期の運動量確保のために実施しているウォーキングマシン

②複数箇所への乾草の配置

 しかしながら、当場においても、ウォーキングマシンを利用できない環境下においては、運動量の減少を補うための対策として、馬が同じ場所に滞留しない環境、つまり移動しやすい環境を整備することを心掛けています。例えば、放牧地にロール乾草を1箇所だけに置いた場合、馬は移動することなく、その場所に留まることで「エサ」を確保できるため、結果的に、馬の運動を抑制してしまうことになってしまいます。一方、乾草を放牧地の複数箇所に置き、さらにそれぞれの場所の距離を離すことによって、馬は1箇所目の乾草を完食した後には、「エサ」を確保するために、離れたもう1箇所の乾草が置かれた場所まで移動しなければならなくなります。つまり、放牧地の複数箇所に乾草を置くことによって、自発的な運動を促進させることが可能になります(写真2)。この際に注意すべきことは、乾草を置く場所を変えると、馬が気付かないことがあるため、毎日同じ場所に乾草を置くことが推奨されます。このように毎日、複数箇所に乾草を置くことは、多大な労力が必要となりますが、一方でロール乾草を設置するよりも、「乾草の消費」という側面では、節約が可能になるというメリットもあることから、試していただく価値はあると感じています。

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写真2  放牧地の複数箇所に置かれた乾草を摂取する馬たち

③除雪等による移動通路の確保

 その他、運動量の減少を補うための対策として、放牧地内の移動を容易にすることを目的として、除雪を実施しています。除雪によって通路が確保された放牧地内の馬を観察していると、除雪された通路を好んで歩く姿を見ることができます。さらに、除雪によって地面に現れた牧草を食する姿も見ることができます(写真3)。一方で、除雪後に思わぬ降雨に見舞われると、路面が凍ってしまうというデメリットも生じるため注意が必要です。この対策としては、完全に除雪することなく、少し圧雪するだけでも馬の移動を容易にすることが可能となりますので、状況に応じた対応が不可欠となります。

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写真3  除雪された通路の牧草を食する馬たち

 

 

「発育停滞」への対策

 発育停滞への対策は、「エネルギー摂取量」と基礎代謝や発育のための「エネルギー消費量」を適切に維持することといえます。つまり、発育に必要なエネルギー蓄積量を不足させないように、心掛けなければなりません。そのためには、「冬毛」と「十分量の乾草給餌」がポイントとなります。

①「冬毛」の効果

 まずは「冬毛」の効果について触れてみます。寒冷環境下では、体温を維持するための基礎代謝エネルギー消費が高まります。体温は外気温よりも高いため、常に熱エネルギーは体の外へ失われています。そのため、体は代謝熱として、熱を産生し続け、熱産生が高まることによって、エネルギー不足となり、発育停滞、削痩、さらには免疫低下といった弊害が起こることが考えられます。この寒冷環境に対する動物の適応方法の最たるものが「冬毛への換毛」です。冬毛は毛が立っているため、「セーター」のように空気の層を形成することが可能となり、これによって体温が保持されます。このため、冬毛の上に雪が積もっても、馬はそれほど寒さを感じることはありません。つまり、冬毛は基礎代謝エネルギー消費量を減少させて、発育に必要なエネルギー蓄積量を不足させないためには、必要不可欠であると考えられます。一方、冬毛の状態の馬は、雨によって皮膚まで濡れてしまった際には、乾燥するまでに時間を要するため、雨に濡れた後に、気温が低下した場合には、タオルで乾かすなどの対応が必要となります。

 このように、冬毛への換毛は、寒冷環境に対する動物の生理的な反応であるため、厳冬期にも昼夜放牧を継続している当場では、冬毛への換毛は不可欠であると考えています。一方、春を迎えると早々に行われるセリやクラブ会員に向けた「写真撮影」が控えている馬に対しては、冬毛は極力伸ばしたくないという事情があることも理解できます。それらの馬に対しては、厳冬期の放牧時に防水性の馬服の着用が不可欠であり、馬服の着用は、冬毛と同様に保温効果を有しており、基礎代謝エネルギー消費量を減少させる効果があるのみならず、馬体を綺麗に維持することも可能になります。しかしながら、馬服に起因する不慮の事故が起こることもあるため、注意が必要です。

②「十分量の乾草給餌」の効果

 続いては「十分量の乾草給餌」の効果について触れてみます。馬は、摂取した「エサ」を腸内で発酵し、さらに分解・吸収しています。その際に、大きな発酵熱を産生しており、これを体温維持に利用しています。「牧草」は「濃厚飼料」よりも熱産生量が多いため、厳冬期の体温維持には、十分量の乾草を摂取させることが重要と言えます。一方、当歳馬は乾草だけでは十分な微量栄養素を摂取できないため、配合飼料も給与しなければなりませんが、厳冬期には可能な限り「十分量の乾草給餌」を心掛けなければなりません。また、飲水量が減少すると、特に乾草の採食量が低下すると言われています。特に厳冬期は、飲水量が減少しやすい時期であることから、十分量の乾草の摂取を促すためにも、十分量の飲水を確保できる環境を用意することが極めて重要となります。そのためにも、電熱線入りのウォーターカップを設置するなど、水桶の凍結防止措置が不可欠です。

③その他の対策

 その他、睡眠中に成長ホルモンの分泌を促進することを目的として、放牧地内に「シェルター(写真4)」や「風除け」を設置し、夜中に快適に眠れるような環境を整備することによって、発育停滞の改善に効果が期待されます。

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写真4 シェルターで休息する馬たち

 

●さいごに

 JRA日高育成牧場では、厳冬期における昼夜放牧管理で大きなトラブルは、今までありませんでしたが、本稿で概説したように、冬期においては夏期よりも、細やかな管理が必要となりますので、皆様方の飼育管理の参考にしていただければ幸いです。

 

 

 

日高育成牧場 業務課  久米紘一

さく癖と濃厚飼料摂取および消化器の障害との関係

馬事通信「強い馬づくり最前線」第321号

≪はじめに≫

  馬の「ゆう癖」、「旋回癖」および「さく癖」などの習慣的な行動は、馬が健康で精神的に健常であれば発現しないであろうと考えられており、好ましくない悪癖として認識されています。これらの悪癖は異常行動であり、様々なストレスが原因となり発現すると考えられています。しかし、馬が何に対してストレスを感じているかを我々が察知することは困難であり、その原因を取り除くことは容易ではありません。一方で、飼養管理方法が原因となって、悪癖が発現する場合があり、その原因を正しく理解できれば、それを改善することにより悪癖の馬を減らすことができるかもしれません。

 さく癖(グイッポ)は、馬が前歯を柵などの固定物に引っ掛けて頭頸部を屈曲させ、独特のうねり声を出しながら食道に空気を吸い込む悪癖です(写真)。さく癖の馬は、消化器官の障害を発症しやすいと言われてきました。しかし現在は、さく癖が胃潰瘍や疝痛の発症原因なのではなく、そのような疾病を発症しやすい飼養管理が、さく癖を発現する大きな要因になっていると考えられています。

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写真 さく癖の馬:前歯を柵などの固定物に引っ掛けて頭頸部を屈曲させ、独特のうねり声を出しながら食道に空気を吸い込む

 

 

≪濃厚飼料の過剰摂取は胃潰瘍の原因≫

 さく癖と胃潰瘍の関係の前に、濃厚飼料の摂取と胃潰瘍との関係について解説します。

 海外の調査で、胃潰瘍を発症した馬は、濃厚飼料の摂取量が多い傾向にあることが報告されています。胃潰瘍は、胃の無腺部が胃酸を多く含むpHの低い胃内容液に長時間、曝されることにより発症します。一方、唾液は採食時の咀嚼により分泌が促進されますが、アルカリ性であるため胃内のpHを上昇させ、胃粘膜が酸によって浸食されることを予防する作用があります。馬が粗飼料のみを摂取している場合、採食時間が長くなるため、唾液が胃内に流入する時間帯が多くなります。一方で、家畜として飼養管理されている馬、特にサラブレッドには1日に数回、エネルギー濃度の高い濃厚飼料が給与されますが、必要なエネルギーを短時間で獲得できるので採食に要する時間も短くなります。その結果、胃内に唾液が流入する時間帯は限定されるため、胃内のpHは低下しやすく、胃潰瘍を発症するリスクは高くなります。また、唾液の分泌量は咀嚼回数に従い増加しますが、濃厚飼料を嚥下するまでの咀嚼回数は、同量の粗飼料を摂取した場合に比べて少ないため、唾液の分泌量も少なくなります。さらに、濃厚飼料を摂取したとき、胃酸の分泌を刺激するガストリンというホルモンの血中濃度が粗飼料を摂取したときに比べて上昇するため、胃酸の分泌量が増加するとされています。このように、濃厚飼料の摂取は、粗飼料のみを摂取する場合に比べて、胃内のpHが低くなる要素が多いことが分かります(図1)。さらに、濃厚飼料の摂取量が増加するにつれ、胃内のpHを下げる要素の影響が大きくなることから、胃潰瘍発症のリスクがさらに高まることは容易に想像できます。

 

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図1 摂取飼料が胃内溶液のpHに及ぼす影響(乾草のみと濃厚飼料+乾草を給与した馬の24時間中の胃内容液のpH中央値を比較)

 

 

≪胃潰瘍とさく癖の関係≫

 海外の調査において、さく癖の馬はさく癖の無い馬に比べて胃潰瘍を発症している割合が多いことが報告されています。それでは、胃潰瘍とさく癖にどのような関係あるとされているのでしょうか? 正確には相互に関連があるのではなく、胃潰瘍が発症しやすい胃内のpH低下が、さく癖の発現と関係があるとされています。あくまでも仮説ではありますが、さく癖は胃内のpHを低下させないための適応行動であると考えられています。具体的には、胃内のpHが低下することは馬にとっては不快であり、さく癖は唾液の分泌を促して少しでもその不快感を解消しようとするための行動ではないかと推測されています。さく癖を行う馬に、自由にさく癖を許したときと、人為的に5分間さく癖を制止したときの唾液の分泌量を比較した場合、さく癖を許した馬の分泌量は変化が無かったのに対して、制止した馬の分泌量は有意に減少しました(図2)。この研究結果からは、さく癖は唾液の分泌を促す効果があることが示されています。また、さく癖の子馬に胃酸を緩衝させる効果のある制酸性サプリメントを給与したとき、さく癖の頻度が減少したことが報告されており、さく癖は胃のpH低下を抑制するための行動であるという仮説を裏付ける成績であると考えられています。

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図2 さく癖馬にさく癖を制止させたときの唾液分泌量の変化(プレの採材から5分間、さく癖を制止して唾液分泌量の変化を調査)

 

 

≪疝痛とさく癖の関係については不明≫

 さく癖により吸い込んだ空気が、食道を通過して消化器官に流入するため、“さく癖の馬は風気疝などを発症しやすい”とされていたことがありましたが、さく癖による吸気が大腸にまで達することはないようです。近年は、さく癖の馬に疝痛が多いのもまた、濃厚飼料が影響しているのではないかと推察されています。濃厚飼料を多く摂取すると、デンプン等の易消化性炭水化物が盲結腸内に流入し、腸内細菌により乳酸発酵されることで大腸内のpHが低下します。ちなみに、濃厚飼料の過剰摂取により疝痛が発症するのは、大腸内における過度な乳酸発酵が原因であると考えられています。大腸内のpHが過度に低下したとき、腸粘膜が侵され炎症(潰瘍)が発症します。腸に潰瘍が発症した馬は、歯ぎしりなどの行動を示すことがあり、これは大腸に不快感があるためであると考えられています。仮説としては、この不快感を緩和するための手段の一つがさく癖であり、さく癖の馬に疝痛が多くみられる理由ではないかと推察されています。しかし、このことを証明する情報は乏しく、さく癖と疝痛を結び付けるには更なる研究が必要なようです。

 

≪おわりに≫

 馬が行うさく癖などの悪癖は、身体や精神の健康にとって好ましくない状況にあることを伝えるためのサインとして捉えることができます。悪癖の発現を予防することは重要ですが、サインを受け取ったとき、飼養管理において改善すべき問題がないかを見直すこともまた重要であると考えています。

 

 

日高育成牧場 首席調査役 松井朗

2023年 英・愛競馬を振り返る

馬事通信「強い馬づくり最前線」第320号

 現在、日本競馬では秋のG1シリーズ真っ只中であり、これまでに三冠牝馬の誕生や、天皇賞での世界レコード勝利など印象的なレースが多く、大変な盛り上がりをみせています。一方、筆者が滞在している英国・愛国では、11月5日をもって芝の平地競走シーズンが終了しました。翌年3月のシーズン再開まで、平地競走はオールウェザー競走のみが行われ、主に障害競走が行われる季節になります。本稿では話題満載となった2023年の英・愛平地競馬を振り返ります。

 

【エイダン・オブライエン調教師とクールモアがG1戦線を席捲】

 今年も愛国のトップトレーナー、エイダン・オブライエン調教師とクールモアが英・愛G1を計14勝と圧倒的な結果を残しました。ディープインパクト産駒で英愛ダービーを勝ったオーギュストロダン(写真1)が日本でも話題となりましたが、負けず劣らずの成績を収めたのが同じ3歳馬のパディントン(父Siyouni)です。昨年10月にデビュー2戦目で勝ち上がってから、1,600~2,000mの距離で7連勝を記録しました。特に5月の愛2,000ギニーから8月のサセックスSまでのG1・4連勝は圧巻でした。さらに同厩舎からは2歳馬のシティオブトロイ(父 Justify)という新星も誕生しました。同馬はデビューから3連勝でデューハーストS(G1)を快勝しました。陣営が「Our Frankel(私たちにとってのフランケル)」と歴史的名馬になぞらえた発言をするほど期待されており、来年以降の活躍にも目が離せません。

 本年はシャドウェルの馬達の活躍も目立ちました。同グループは、2021年にオーナーであるシェイク・ハムダン殿下が亡くなったことで、競馬事業を縮小することを発表していました。しかしその翌年、バーイード(父 Sea The Stars)がマイル路線を中心に歴史的な結果を残して年度代表馬に輝き、今年もプリンスオブウェールズS(G1)とインターナショナルS(G1)の2大タイトルを制したモスターダフ(父 Frankel)や“キングジョージ”(G1)を制したフクム(父 Sea The Stars)などの大物が出現しました。今後の同グループの動向に注目が集まっています。

 

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写真1.英・愛で3つのG1を制したディープインパクト産駒、オーギュストロダン

 

 

【種牡馬部門はフランケルがリーディングを独走】

 種牡馬部門をみてみると、フランケル(父 Galileo)が自身2度目2年ぶりの首位を独走しています。前述のモスターダフをはじめ、産駒8頭でG1レースを9勝しました。さらに仏国では、後継種牡馬のクラックスマンが凱旋門賞を無敗で制したエースインパクトを輩出しました。同馬は今シーズンでの引退と仏国での種牡馬入りが決定しており、フランケルの血脈がさらに繁栄していくことが期待されています。フランケルの後継種牡馬といえば、日本には現在モズアスコットなど3頭がいますが、2021年英ダービーなどを制したアダイヤーと、2022年愛ダービーと本年のサンクルー大賞を制し、ドバイシーマクラシックでイクイノックスの2着となったウエストオーバーが来シーズンから国内で供用されることが発表されています。欧州の最強馬の血脈が、今後、日本にもどんどん広がっていくのかもしれません。

 

【日本種牡馬産駒の活躍】

 2023年は日本産種牡馬産駒の活躍が非常に話題となりました。前述のディープインパクト産駒オーギュストロダンは、英・愛ダービーに加えて愛チャンピオンSと3つのG1勝利を挙げた後、11月5日に行われたブリーダーズカップターフでも勝利を収めました。ディープインパクトのラストクロップということもあり、当初は引退して種牡馬入りする予定でしたが、オーナーサイドは「来年も現役続行を視野に入れている」とコメントしているようです。もし、現役続行するようなら、非常に楽しみです。

 エイダン・オブライエン厩舎からさらにもう一頭、ハーツクライ産駒のコンティニュアスも活躍しています。今年の英セントレジャー(G1)を勝利して、クラシックウイナーとなりました。同馬は凱旋門賞5着の後、ジャパンカップに出走予定となっています。父の母国、日本でどのような走りをするか、要注目です。

 

【“フランキー”・デットーリ騎手の欧州ラストシーズン】

 最後にトップジョッキーの去就について触れさせていただきます。長年にわたり欧州を拠点に世界の競馬をリードしてきたデットーリ騎手が欧州を後にすることとなりました。当初は今シーズン限りでの引退を表明していましたが、その後、米国に拠点を移して現役を続行することを発表。まだその一流の騎乗を見る機会が残されたことは喜ばしいのですが、欧州では10月21日のチャンピオンズデーが最後の騎乗機会となりました。

 この日はまさに有終の美という言葉が相応しい、記憶に残る一日となりました。第1レースのロングディスタンスカップ(G2)を制しただけでなく、最終騎乗となった英チャンピオンS(G1)では、キングオブスティールで道中最後方から猛然と差し切り、最後のG1制覇を成し遂げました。これ以上ないドラマティックな結末に、アスコット競馬場は大歓声に包まれました。欧州で「フライング・ディスマウント(写真2)」を見る機会はこれが最後になるかもしれませんが、ブリーダーズカップでは早速2つのG1を制した同騎手。米国でもさらなる活躍を見せてくれることを期待せずにはいられません。

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写真2.英チャンピオンSで欧州での有終の美を飾ったデットーリ騎手の「フライング・ディスマウント」

 

JRA日高育成牧場 業務課 竹部直矢(現在、英・愛国にて研修中)

育成期の運動器疾患とリハビリテーション

馬事通信「強い馬づくり最前線」第319号

 日高育成牧場に入厩した1歳馬たちは順調に初期調教を終え、騎乗調教をメインとした基礎トレーニング期に移行しました。この時期の1歳馬の身体はまだまだ未成熟であり、運動強度が増すにつれ、様々な運動器疾患を発症します。運動器疾患を発症した際に、どの程度休養すべきなのか、いつ立ち上げればよいのか、リハビリテーション(以下リハビリ)の際には頭を抱えることかと思います。皆さまと同様試行錯誤の中ではありますが、当場にて育成期の運動器疾患のリハビリにあたり気を付けているポイントを本稿ではご紹介させていただきます。

 1)正確な診断

 リハビリを開始するにあたり、何よりもその馬の病態の正確な診断が重要になります。疾患には骨・腱・靭帯など、発症した組織によって、それぞれ異なった修復過程が存在し、個体差も大きいとされています。歩様検査、触診はもちろんのこと、必要に応じて、診断麻酔検査やレントゲン検査、エコー検査などを実施し、損傷部位の特定に努めています。また、初期の症状の程度(跛行の重症度、触診所見の有無)やその後所見(跛行・患部の腫脹など)が消失するまでに要する日数なども見逃せません。疾病の重症度を総合的に判断し、短期的もしくは中・長期的なリハビリ計画を決定することがリハビリの第一歩になります(図1)。

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図1:深管骨瘤のリハビリ計画の一例

 2)完全休養の期間をつくる

 先に述べたように、骨・腱・靭帯といった各運動器にはそれぞれ異なる修復過程が存在します。修復に要する期間は決まっており、決して短縮されることはない点に留意が必要です。疾病は運動器の損傷の比率が、馬に備わっている修復・適応能力の比率を上回った際に生じます(図2)。例えば、骨の場合、損傷に対して修復が間に合わず、骨の細胞が死んでしまうと、死んだ骨の細胞が置き換わるのに約2~3週間かかることが知られています。この死んだ細胞が置き換わるまでの時期を十分に休養させることができれば、骨の質が変化し、損傷が周囲に波及しない様に損傷周囲の骨構造が修復されるとされています。(ちなみに、骨の質の修復には3ヶ月を要します。)育成期によくみられる疾患である、「深管骨瘤」、「内側管骨瘤」、および「管骨々膜炎」は、運動負荷に対する骨の適応の結果であると同時に、跛行などを伴う場合は、修復が間に合わず骨に

 損傷が蓄積した状態であると考えられます。動かしながら様子を見たいと頭はよぎりますが、疾病発症直後に、一定期間馬房内での完全休養を取り、損傷が周囲に波及しないよう備えることが再発を予防する意味でも重要であると考えています。

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図2:トレーニングによる負荷と組織修復の関係性の概念図

 3)休養明け調教の負荷調整

 一定期間の休養を挟んだ馬はどうしても筋肉量をはじめコンディションが低下しており、調教負荷の急な上昇はせっかく休養によって修復された損傷部を再び悪化させかねません。当場では、舎飼いでの休養期間後にウォーキングマシン(以下WM)での運動を再開し、1回あたりの時間を30分、60分と約1週間を目安に段階を分けて負荷を上げています。パドック放牧は、馬が予期せぬ動きをしてしまい、こちらが想定している以上の負荷がかかる恐れがあるため、馬の性格にもよりますが、WMを開始し、

ある程度馬の精神状態が落ち着いてから再開するようにしています。WMでの運動を再開しても患部の悪化がないことが確認できれば、トレッドミル(以下TM)での調教に移行します。TMの利点は、走行速度や傾斜を変更することで、リハビリの時期にあった運動量を調整できることです。この時期が最も気を遣い、速歩・駈歩の時間を調整しながら騎乗運動への移行時期を探ります。TM調教前後での患部の触診所見(腫脹・帯熱など)に悪化がないことが確認できれば、晴れて騎乗運動を再開します。騎乗運動再開後も、急ピッチな立ち上げにならないよう、TM+騎乗常歩運動からはじめ、騎乗速歩、ハロン30秒程度のハッキングと徐々に騎乗時間・強度を上げていくようにしています。運動再開後の馬の反応は様々で、患部に所見を再発することなく順調に強度を上げていける馬もいますし、どこかのステージで経過が安定せず再び休養させる馬もいます。馬をよく観察し、違和感が少しでもあるのであれば一度負荷を上げるのを辞め、目には見えないミクロな損傷部の修復程度を想像しながら、調教負荷を調整してやることが、最終的には患部の損傷が後に再発しづらいリハビリにつながると考えています。

 

 現在、患部の修復の一助になるのではと、野球選手の靱帯損傷等の治療に用いられるPRP療法や骨修復効果を期待できる低出力超音波パルス療法を完全休養期に併用し、その効果を検証中です。完全休養期により充実した損傷部の修復が可能になるよう、研究成果を今後報告できれば幸いです。

 

日高育成牧場 業務課 瀬川晶子

当歳馬に対するグランドワーク

馬事通信「強い馬づくり最前線」第318号

 

はじめに

 当歳馬の離乳もすでに終えられている牧場も多く、当歳馬を個別に管理し、個々の馬の個性に向き合われている時期ではないかと思います。当歳馬の体重は300㎏を超える個体も認められ、放牧地へ向かう引き馬の際に、制御するのが困難な状況を経験されている方も少なくないものと想像いたします。今回は、当歳馬の取り扱いを容易にすることを目的としたグランドワーク(写真1)の実施について概説します。

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写真1.グランドワークの基本となる引き馬はセリ馴致時にも役に立ちます

 

グランドワーク

 近年、ナチュラルホースマンシップの手法を基にした「グランドワーク」は、競走馬や育成馬のみならず、離乳後からセリ上場までの中期育成期に取り入れられることも少なくありません。グランドワークとはその名のとおり、馬に乗ることなく地上(グラウンド)において、馬に向き合って意思疎通を図る方法です。これにより、馬とのコミュニケーションを構築し、普段の取り扱いのみならず、騎乗時の信頼関係をも高めることが目的といえます。

 つまり、「人の指示に従うように導く」ことが最終目標であり、無理やり従わせるというより、馬が「自発的に行動を起こす」ことが重要となります。馬だけでなく、人も含めた動物全般の自発行動は、「オペラント条件づけ理論」に基づいて、学習させることによって、その頻度を増加させることが可能になると考えられています。

 

オペラント条件づけ理論

 「オペラント条件づけ理論」においては、行動を起こす頻度を上げることを「強化」、行動を起こす頻度を下げることを「弱化」と定義し、行動の直後に刺激を与えること「正」、行動の直後に刺激を取り除くことを「負」と定義しています。これらの「強化」および「弱化」、「正」および「負」という定義によって、1)「正の強化」、2)「負の強化」、3)「正の弱化」、4)「負の弱化」の4つに分類されます(図1)。馬に自発行動を促すには、行動を起こす頻度を上げる「強化」にフォーカスする必要があります。つまり、「正の強化」あるいは「負の強化」の理論に基づいて、自発行動を増加させるように誘導しなければなりません。

 「オペラント条件づけ理論」に基づいて考えると、捕食者である犬は獲物を得ることに満足感を得るため、何かを得ることにより、行動を起こす頻度が増加する「正の強化」によって行動が支配されている傾向が強いと考えられています。つまり、「正の強化」とは「お座り」をしたら「エサ」という好きなものがもらえるので、自発的に「お座り」する行動が増加するというイメージになります。
 一方、被捕食動物である馬では、肉食動物に狙われるという危険な状態から逃げることによって安全で快適な状態、つまり満足感を得るため、嫌なものが取り除かれることにより、行動を起こす頻度が増加する「負の強化」によって行動が支配されている傾向が強いと考えられています。つまり、「負の強化」とは、我々の身近な例で例えると、シートベルトを装着しなければ、不快なアラーム音が鳴り続ける(シートベルトを装着すると不快なアラーム音という嫌なものが取り除かれる)ので、自発的にシートベルトをする行動が増加するというイメージになります。

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図1.「オペラント条件づけ理論」の図解

 

「オペラント条件づけ理論」の馬への応用

 馬に対して「正の強化」および「負の強化」の手法に則って、自発行動を促進した例についてはQR①およびQR②をご参照ください。前者は障害飛越後に必ず「エサ」を与えるという行為を繰り返す「正の強化」によって、最終的には自発的に障害を飛越するようになるという例になります。後者は人に付いていくことによって「プレッシャー」が解除されるという行為を繰り返し理解させる「負の強化」によって、最終的には自発的に人の傍に位置するようになるという例になります。

                   

Qr1


QR①「正の強化」に基づく障害飛越  

Qr2


QR②「負の強化」に基づくジョインアップ

 

「負の強化」に基づいた当歳馬に対するグランドワーク

 当歳馬に対するグランドワークは、「オペラント条件づけ理論」の「不快な状態から解放されることがご褒美(プレッシャー&リリース)」となる「負の強化」に基づいて実施することが推奨されます。図2に示したとおり、4つの手順に分けて進めていきます。具体例としての動画はQR③をご参照ください。

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図2.当歳馬に対するグランドワークにおける4つの手順

Qr3


QR③ 当歳馬に対するグランドワーク

https://youtu.be/pnMaPDjwkns

 

右脳と左脳のイメージ

 馬を安全に取り扱うためには、グランドワーク等によって人の指示を馬に理解させなければならず、野性の本能でもある「臆病で逃げる」という性質を可能な限り排除する必要があります。一方、競馬では「全速力で走る」という野生の本能を誘起しなければなりません。この相反する2つのことを馬の右脳と左脳にフォーカスを当ててみると以下のように考えることができます(図3)。

 野生の馬は捕食者から逃げるために、反射的に反応できる右脳を優位に働かせていると考えられています。人とのコミュニケーションが不足している馬は右脳が優位であり、自身が経験したことのない全ての新しいことに対して「危険なこと」と認識して、逃げるという行動を取るのは極めて自然なことです。そのため、安全に取り扱うためには、主に思考を司る左脳を優位に働かせなければならず、人が関わることが「危険なことではない」と理解させる必要があります。

 馬が左脳を優位に働かせているような行動を見ると安心する一方で、競走馬として何か足りないのではと感じることがあります。その足りないものとは「反射的な俊敏な反応」であり、取り扱いの難しい競走馬が競馬で好成績を残すことが少なからずあるということと関係があるようにも思われます。理想的には、普段の取り扱いは左脳を優位にさせて扱いやすく、競馬の勝負どころでは右脳を最大限に優位にできるような馬を育成していきたいと考えています。

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図3.馬を用いた競技は馬術競技の馬場馬術を頂点として、調教程度の高い順に木の幹として表されます。「根」は全ての競技に不可欠な基本的な馬の取り扱い(グランドワーク)と捉えられています。競馬は馬を用いた競技の中で最も野生に近い競技であり、最も右脳の優位性が必要な競技と考えられます。

 

日高育成牧場 副場長

頃末 憲治

獣医学生の生産地研修

馬事通信「強い馬づくり最前線」第317号

はじめに

 競走馬の生産地において馬の健康維持や健やかな成長を助け、「強い馬づくり」に貢献している職業の一つに獣医師があります。ところが、馬の獣医師を目指す獣医学生は小動物や他の大動物業界に進む学生に比べて多いとは言えず、大学にもよりますが、一般的に馬を対象とした獣医療を専門的に学ぶ機会が少ないというのが実情です。筆者は、幸いにも馬の生産牧場や臨床獣医師のもとでの研修・実習を通じて学ぶ機会に恵まれましたが、馬業界での実習や就職活動は、当時(20年以上前)の学生(自分)にとっては、まさに暗中模索だったと記憶しています。

 昔話はさておき、現代では学生に対して業界をあげて大きく門戸を開いており、その一つとして、日高育成牧場では学生の長期休暇に合わせて「スプリングキャンプ」および「サマーキャンプ」と銘打ったそれぞれ計5日間の研修を開催しています。

 

日高育成牧場での研修

 この研修では、生産から育成、売却、競馬の仕組みなど馬の獣医師として必要な知識のほか、運動器疾患や内科疾患のみならず、生産地ならではの繁殖学に関する検査手技や診療技術の初歩について、繁殖牝馬、子馬ならびに乗馬を使いながら体験学習することができます(写真1~3)。春と夏の研修ともに分娩やセリの見学などのなかなか経験することができないコンテンツがあり、馬の周産期医療や競走馬売買の実態など大学で触れる機会の少ない「現場」を体験することができるため、毎回多くの学生からの応募を頂いています。

 実際に参加してもらった学生が馬の獣医師を本気で目指すきっかけになることも多いようで、「〇年前に研修でお世話になりました!」と若い獣医師に話しかけられると、非常に嬉しいものです(写真4)。一方、生産地の馬獣医療を担う他の獣医療施設においても、積極的に学生の獣医研修をサポートしていただいています。

 

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写真1:大学では学ぶことができない現場ならではの馬繁殖学の講義の様子

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写真2:緊張感が漂う実馬を用いたX線検査実習。

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写真3:装蹄チームの講義は巧みな話術が人気の秘密。

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写真4:直腸検査実習(指導している獣医師も実は元研修生)




臨床現場での研修

 実際の馬臨床獣医療は、農業共済(NOSAI)、軽種馬農協(HBA)ならびに軽種馬調教センター(BTC)などの団体に所属する獣医師のほか、個人経営の開業獣医師の皆さんが担っていることは、競馬関係者の皆さんは良くご存じだと思います。各団体や開業獣医師の方々は、生産地の獣医療現場(特に繁忙期である分娩シーズンや北海道の生活環境)を学生に体験する機会を提供して、装蹄師や牧場スタッフなど他職種の皆さんとの協力体制の重要性を教え、先輩獣医師の生の声を聞くことができる機会を設けて、獣医学生が生産地の獣医師を志す一助になるようサポートしていただいています。こうした研修は、学生が本格的に獣医療を学ぶことはもちろん、生産地や馬獣医療の厳しさや素晴らしさを知ることができるため、将来を見据えた就職活動の一環として人材確保に大きく貢献していると言えます。

 

【団体の問い合わせ先】

・NOSAI北海道:ホームページの採用情報の家畜診療業務体験研修の募集案内から

・HBA:ホームページの採用情報(獣医師職員)の問い合わせフォームから

 

馬医療の担い手の確保

 前項で人材確保という言葉が登場しましたが、生産地における人材不足は獣医師についても同じ状況で、安定的な獣医療を提供していくにあたり、深刻な障害となりかねない問題であると捉えられています。上述したように、業界全体で人材育成や就職活動のサポートに力を入れていますので、お忙しいとは思いますが研修や実習への協力依頼に応じていただけたら幸いです。また、読者の皆さんの知り合いや親せきに獣医師に興味がある方がいたら、気軽に生産地での研修を紹介していただきますよう、お願いします。これからの強い馬づくりを支える人材確保に、是非ともご協力ください。

 なお、JRAでは、馬の獣医師を志す学生を支援し、日本の馬産業を支える人材を育成することを目的として「競走馬および乗馬の獣医師を志す学生を支援するための奨学金制度」を日本国際教育支援協会(JEES)の協力のもと実施しています。例年、新5年生となる獣医学生(34名程度)を対象に、月額35,000円を24か月間支給しています(2023年9月現在)。詳細については、各大学の学生課または奨学金担当部署へご確認ください。

 

主任研究役 琴寄泰光

ローソニア感染症

馬事通信「強い馬づくり最前線」第316号

はじめに

 夏の暑さも少し落ち着き、今年も子馬の離乳時期を迎えています。今回は離乳時期の子馬に発症しやすいローソニア感染症について概説します。本疾病はLawsonia intracellularis (Li)という細菌による腸管感染症です。腸管粘膜を著しく肥厚させることから、別名「馬増殖性腸症」とも呼ばれています。腸からの栄養の吸収障害による、下痢や栄養不良が主症状であり、短期間で削痩してしまうことが本疾病の大きな問題となっています。日本では2009年に初めて発症が確認され、生産地に広がりましたが、ここ数年の発症頭数は減少傾向にあります(図1)。 

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図1.日高管内におけるローソニア感染症の発生状況

症状、診断

 本疾病の症状は、下痢や急激な体重減少(削痩)、浮腫、疝痛、発熱など様々です(写真1)。確定診断は糞便や血液を用いたPCR検査および抗体価測定検査によって行われますが、現場では子馬の症状、および本疾病の特徴的な血液検査所見である低タンパク血症(TP:5.0 mg/ml 以下)から獣医師が推定診断します。このように低タンパク血症が本疾病の大きな特徴である理由は、Liの感染により腸粘膜の上皮細胞が病的に増殖することに起因して、タンパク質などの栄養を腸から吸収できなくなるためです。その結果、発症馬の体重は著しく減少し、重篤な症例では死亡することもあります。 

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写真1.著しい削痩を呈したローソニア感染症発症馬(1歳7ヵ月齢)

治療

 治療は、抗生物質(テトラサイクリン系、マクロライド系)が効果的です。治療が遅れると回復に長い時間を要し、減少した体重が元に戻るまでに数ヵ月も要するため、早期診断と早期治療が非常に重要です。

 

予防

 本疾病の感染様式は経口感染です。感染馬は糞中にLiを排出し、その糞便で汚染された飼料、水、環境を介して他馬に感染します。糞中へのLi排出期間は非常に長く、半年以上に及ぶこともあります。本疾病は不顕性感染が多い点、ネズミなどの野生小動物も原因菌を媒介している可能性が高い点を考慮すると、パコマやビルコンといった消毒薬だけで厩舎内へのLiの侵入を防ぐことは非常に困難です。そこで現在では、豚用弱毒生ワクチンの投与が効果的な予防策となっています。

 

ワクチン投与

 豚用弱毒生ワクチンは馬のローソニア感染症においても予防効果が報告されており(Pusterla N et al. 2012)、国内の馬生産現場においても使用されています(写真2)。2019年にはサラブレッド全生産頭数の1/3に当たるおよそ2500頭へ投与がされていると推測されています。一方、本ワクチンは馬では承認されておらず、獣医師が自己責任で使用する適応外使用を余儀なくされているのが現状です。現在、日本軽種馬協会、ワクチンメーカー、JRAなどが一致団結し、馬における本ワクチンの承認に向けて取り組んでいます。 

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写真2.当歳馬への投与の様子(ローソニア感染症ワクチンは直腸から投与)

まとめ

 2009年に国内で初めて確認された馬のローソニア感染症ですが、その発症予防には当歳馬に対するワクチン投与が有効です。また、日々の健康観察を確実に行うことが重要です。病気が発症しやすい秋から冬にかけては体温や飼食い、便の状態などに異常を認めたら、出来るだけ早く獣医師に相談しましょう。

2024年1月 9日 (火)

装蹄師の養成について

馬事通信「強い馬づくり最前線」第314号

 馬は肢先に蹄を持つことで体重を支えて安定した歩行や、長距離移動や時速約70㌔で速く走ることを可能としています。このように、馬の蹄は非常に重要な役割を果たしています。しかし、運動時の衝撃や偏った摩耗により、蹄にかかる負重がアンバランスな状態になると、蹄あるいは関節や靭帯などを痛めてしまい、重症の場合には跛行することがあります。

 そのため、定期的に蹄を管理・メンテナンス(削蹄・改装)して、バランスを調整する必要があります。このメンテナンスを行うのが装蹄師という職種で、日本で唯一装蹄師の養成を行っている施設が「装蹄教育センター」となります。

 本号では、「装蹄教育センター」における装蹄師の養成に関わる制度やその教育過程などを概説いたします(写真1)。 

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写真1.蹄のメンテナンス(削蹄)

装蹄教育

 装蹄師になるためには、日本装削蹄協会の装蹄師養成施設である、栃木県宇都宮市の「装蹄教育センター」において、約1年間全寮制で行っている装蹄師認定講習会を受講しなければなりません。講習会は主に実技(鍛冶技術と装蹄技術)と専門的な学科(運動学や解剖学)を中心に行われますが、馬との接し方を学ぶために騎乗訓練も行われます。

 また、馬に関する豊富な知識を学ぶ目的で、様々な専門分野の講師による特別講義も行われており、JRA馬事公苑やNAR教養センターの現役装蹄師から実践的な技術指導を受けることもできます。その他にも、馬産地日高地方での研修、競馬場や競馬関連施設、トレセンなどの見学もカリキュラムの中に組み込まれています。

 このように1年間という短い期間ですが、装蹄師になるためのとても内容の濃い講習会となっています。装蹄師認定講習会の修了前に、装蹄師認定試験が行われ、2級認定試験(※1)に合格する事によって、晴れて装蹄師のスタートラインに立つことができます(写真2)。

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写真2.装蹄教育センターでの実技の様子

就職先

 講習会修了後の進路は「JRAやNARなどの団体職員となり勤務装蹄師になる」か、「個人で行う開業装蹄師に技術習得や経験を積むために、一定期間弟子入りする」の概ね2種類となります。

 また、就職先の勤務地や業務内容は馬の使用目的で異なり、「①競馬関係施設であれば競走馬の装削蹄」、「②生産地の牧場ならば繁殖牝馬や幼駒の削蹄」、「③各地乗馬クラブなら競技馬や乗馬の装削蹄」に分かれます。その求人情報は全国から装蹄教育センターに集まっており、幸いなことに修了者の就職率は、開設以来29年間100%を誇っています。

 

入講試験

 講習会に入構するには、入構試験に合格しなければなりません。来年度の募集の定員は16名となっています。試験内容は「①筆記試験(高等学校卒業程度の一般教養レベルの試問および作文)」、「②面接」、「③体力試験」が行われます。体力試験では総合的な腕力を測るため、異なる重さのハンマー(1.5㌔・1.75㌔・約3㌔)を順に持ち上げるなど、装蹄師の養成のための特殊な試験が行われます。

 また、男女や乗馬経験の有無は、特に問われることはなく、入講前に馬に触れたことのない者でも、1年間講習によって装蹄師認定試験を受験できるまでに指導して貰えるので、馬に興味があるが触れたことのない者でも安心して入講することができます(写真3)。

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写真3.女性装蹄師も増えています

 

おわりに

装蹄師の仕事は肢元を支える裏方の仕事で、炎天下での装蹄作業や、重い馬の肢を支えての作業など、決して楽な仕事ではありません。しかし、多くの競馬関係者やオーナー、さらにファンの夢を背負って走る競走馬や、乗用馬と騎乗者が大会等で充分な力が発揮できるように、あるいは母馬や子馬が健康に生活して丈夫に成長するために、人馬に寄り添った装蹄を目指す楽しみがあるなど、非常にやりがいのある仕事です。

なお、教育センターでは、オープンキャンパスも実施されており、実際に講習生の実習を見学したり、現役装蹄師でもある教官のお話を聞くことができます。

この記事を読んでいただき、「装蹄師」という職業に、少しでも興味を持っていただけましたら、装蹄師認定講習会の受講内容がより詳しく紹介されている「日本装削蹄協会のホームページ」をご覧いただきたいと思います。

 

※1「装蹄師資格」は昭和45年までは「国家資格」でしたが、現在は、「公益社団法人日本装削蹄協会」による「認定資格」となっています。資格の種類は「2級認定資格」を取得後4年以上経過した後に「1級資格の試験」の受験が可能となり、さらに「1級認定資格」を取得後9年以上経過した後に「指導級の試験」の受験が可能となっており、それぞれの試験に合格すると昇級することができます。

 

JRA日高育成牧場 業務課(装蹄師) 橋本孟佳

当歳の離乳について

馬事通信「強い馬づくり最前線」第313号

 春に生まれた子馬たちはすくすくと成長していますが、夏には越えなければならないイベントである「離乳」が待ち構えています。

 野生環境下では、出産の1~2ヶ月前になると、徐々に母子の距離が離れていき、子馬の哺乳が見られなくなるといわれています。このことは、離乳は母馬が次の出産準備を行うためであり、離乳の目的は、胎子成長のための母体の十分な栄養確保、および乳房の母乳分泌機能の一定期間の休養によって、次の出産に備えることであることを意味していると考えられています。今回は、JRA日高育成牧場で実際に行っている例を踏まえて離乳について概説します。

離乳時期

 一般的な離乳時期は4~6ヶ月齢が目安となりますが、1歳馬の売却状況による放牧地や空き馬房の関係から、牧場によっては7~8ヶ月齢と遅い場合もあるようです。離乳の時期を決めるうえで、子馬の「栄養面」と「精神面」の2点を考慮しなければなりません。

 「栄養面」としては、子馬の多くは離乳に伴うストレスにより、体重の減少や成長停滞が認められます。その後の発育や健康に及ぼす影響はほとんどありませんが、発育停滞後の代償的な急成長がOCD(離断性骨軟骨症)などの骨疾患発症の誘因となるため、前号で概説した子馬が離乳前に固形飼料である「クリープフィード」を一定量(1~1.5kg)摂取できるようになっている必要があります。「クリープフィード」の給与開始時期は、母乳量が低下し始める2~3ヶ月齢が目安とされますが、固形飼料に馴れるまでの時間が必要となります。一般的に養分要求量を満たす量を子馬が摂取できるようになる時期は16~18週齢前後と考えられています。しかしながら、各牧場の飼育環境や個体管理等を考慮した際に、栄養面のみの観点からは、十分なクリープフィードを摂取できていれば、より早期に離乳させることは可能ともいえます。

 「精神面」としては、15~16週齢以降に放牧地で子馬は母馬から適度に離れ、子馬同士の距離が接近していることから、この時期の子馬は群れの中で、精神的に自立し始めていると推測されます(図1)。つまり、精神面の観点からは、16週齢以降に離乳を迎えることが望ましいと考えられます。

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図1.16週齢ごろには母馬から離れ、子馬同士の群れでも精神的に安定する

 

 以上のことから、「精神面」と「肉体面」の両方を考慮した場合には、離乳の時期は早くても「4ヶ月齢以降」が望ましいと考えられます。また、「成長面」を考慮すると、体重が「220kg以上」であることも離乳の条件の一つともいわれており、さらに、動物福祉の観点からも早すぎる離乳に警鐘が鳴らされていることも考慮すると、離乳の適期は「5~6ヶ月齢」と考えられます(図2)。

 なお、「7月中旬から8月中旬まで」は気温が高く、アブなどの吸血昆虫が多いため、離乳後のストレスを考慮すると、この時期を避けることが望ましいかもしれません。
 このように、離乳は子馬の健康状態、成長速度、気候や放牧草の状態などを総合的に判断する必要があり、さらに、離乳は個体毎ではなく群で実施することからも、毎年の離乳時期は適宜判断しなければなりません。

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図2.離乳時期の目安

離乳方法

 JRA日高育成牧場では「間引き法」と呼ばれる「放牧地の母子の群れを一斉に離乳せずに、放牧地から母馬を数頭ずつ複数回に分けて群れから引き離していく」離乳方法を採用しています。また、それに加えて「コンパニオンホース」を導入しています。

 方法としては、離乳に先立ち、母子の放牧群の中に「穏やかな性格の子育て経験豊富かつ今年は出産していない牝馬(穏やかな性格のセン馬でも可能)」を「コンパニオンホース」として、離乳前から母子の群に混ぜて馴らしておきます(図3①)。その後、離乳は段階的に2、3組ずつ複数回に分けて、最終的に子馬とコンパニオンホースだけになる状態まで行います(図3②③、写真1)。子馬の状態が落ち着いたことを確認してから最後にコンパニオンホースを群れから引き離して、離乳を完了します(図3④)。

 このように母馬を段階的に除くことによって、群の中でコンパニオンホースや離乳していない母子、すでに離乳した子馬が平常でいることができるため、離乳直後の子馬がパニックになって興奮状態を長続きさせないことが可能になるなどの効果があります。 

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図3.一斉に離乳せずに母馬を数頭ずつ複数回に分けて群れから引き離していく「間引き法」

 

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写真1.離乳後の当歳馬とコンパニオンホース(矢印)

離乳に伴うリスク

 離乳を実施するうえで考慮しなくてはならないリスクとして、先にあげた発育停滞の他、悪癖の発現、疾病発症(ローソニア感染症など)、放牧地での事故などがあります。

 特に、隣接する放牧地に他の馬がいる場合、母馬を探し求める子馬が柵を飛越するリスクがあるため、牧柵や周辺環境を含めた放牧地の選択、離乳直後の子馬の監視など、事故防止策を講じる必要があります。つまり、離乳を安全に実施するためには、周辺環境のストレス要因の軽減に努めるとともに、あらかじめ危険要因を排除する必要があります。

 最後に、不適切な離乳方法を行った場合には、成長阻害、大きな事故、将来の取扱いに支障をきたすような心傷などが懸念されることから、牧場の放牧地や厩舎などの施設環境に応じた離乳方法の選択が重要です。

日高育成牧場 業務課  久米紘一