馬事通信 Feed

2019年1月 4日 (金)

早生まれ子馬の管理

No.26 (2011年2月15日号)

サラブレッド出生月日の推移
 北半球にいる野生の馬は、早くても3月以降に出産するように4月まで排卵が起こらないような季節繁殖性を持っています。北海道でも、つい10数年前までは、桜の咲く頃にあがり馬の種付けを行っていました。過去10-15年の間に日本のサラブレッド生産はどのように変わってきているでしょうか?北海道のある牧場で生産されたサラブレッドの出生月日をグラフに示しました(下グラフ参照)。生まれ月が全体的に2月にシフトしていることがわかります。競走馬生産になぜこのようなシフトが起こったのかを考えると、1)セリに上場されるときに見栄えがよく、市場価格が有利に働く、2)種牡馬との交配予約が混む前に早めに希望の種牡馬と交配する、などの理由が考えられます。また、ライトコントロール法の普及により、安価で簡便に早期の交配が行えるようになったことも大きな要因であると考えられます。

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意外と少ない1,2月産まれのGⅠ馬?
 人間の世界では、同じ学年の中でも4月生まれの子供のほうがスポーツ選手として活躍する割合が高いことが知られており、Jリーグ所属選手や甲子園出場校の選手割合を棒グラフにすると一目瞭然の結果が得られます。この法則に沿うとすれば、馬でも数ヶ月産まれが早いことが有利に働くものと考えらます。
 しかし、その思いとは裏腹に、クラッシックレースの第一戦となる桜花賞、皐月賞では「早生まれ」の成績が極端に悪く、過去10年間の勝ち馬の生まれ月をまとめてみますと1月から順に(0-0-5-10-4-1)と3~5月が多く、1、2月生まれの勝ち馬はいませんでした。同様にダービー、オークスでも(2-0-7-6-5-1)と、決して早生まれが競走成績も良いとは言い難い結果が出ています。

子馬にとっての冬場とは?
 繰り返しになりますが、北海道の自然環境下では、1、2月に出産するということは子馬にとって自然な環境ではないと言えます。では、子馬にとって具体的にどのような違いが考えられるでしょうか。利点としては土壌菌であるロドコッカス肺炎感染やロタウイルスをはじめとする下痢の発症率が低いことなどが挙げられます。
 しかし、生後1,2週齢の子馬は体温調節を司る自律神経系が十分発達していないとも言われており、寒さは成馬以上にストレスとなっていると考えられます。ストレスの指標である血中コルチゾール値を調べてみると、早生まれは遅生まれよりも明らかに高い値を示しており、何らかのストレスがかかっていることが分かります(下図参照)。また寒さのみならず、放牧地が積雪や凍結によって十分な運動や休養が制限されてしまいます。

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 成長ホルモンの一種であるプロラクチンというホルモンの分泌量をみますと、冬は春に比べて少ないことが知られています。すべての子馬に言えることではないかもませんが、青い草が生えるころに産まれた馬のほうが骨や靭帯が丈夫に発育する周辺要素も持っていることが容易に想像されます。しがたって、国際的に強い日本産の馬を作るには、ほとんどが馬房内で過ごす冬場の子馬の管理に様々な工夫が必要ではないかと考えられます。
 

インドアパドックと外パドックにおける子馬の行動の違い
 これまでに日高育成牧場で行っている研究のひとつに、積雪や風雪を避けることができるロール倉庫内にパドックを作成し、カメラで一定時間監視する子馬の行動比較があります。この研究から判ったことは、厳冬期の野外放牧では母乳を飲む時間に違いはないものの、横臥および伏臥時間が短く、子馬の休息行動が妨げられている可能性が考えられました(下グラフ)。また、早生まれと遅生まれの行動を比較すると、早生まれではほぼ静止状態の時間が長いのに対し、遅生まれでは速い速度の(活発な)移動距離が長く、横臥する時間も圧倒的に多い結果となりました。また、いずれにおいてもパドックでは放牧時間中均等に動いているわけではなく、活発に動いているのは最初の1時間もしくはそれ以内ということが分かりました。
 幼齢期の動物にとって横臥休息行動は成長ホルモンを分泌するために重要であるため、健全な馬の発育には「活発に運動し、よく寝ること」が重要です。残念ながら、北海道における厳冬期の環境は、子馬にとって運動も休息も制限していると考えられました。

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まとめ
 以上のことから1,2月に生まれる子馬のためにしてやれることとして
・ 体温を保つ(馬服の着用、特に寒い日は放牧を控えるなど)
・ パドックで休息できる(横になれる)環境を作る(寝藁や風除けを設置するなど)
・ 日中ずっと放牧するのではなく、運動しない時間帯は馬房に戻して休ませる(十分な休息後、再び放すとなお良いと考えられます)
などが考えられます。
 早生まれの子馬の潜在能力を発揮させてやるためには厳冬期における管理上の工夫が必要と言えそうです。子馬を健やかに成長させる生産技術を調査研究することは、世界に通用する日本産の強い馬づくりにつながるものと考えられます。

(日高育成牧場 生産育成研究室 村瀬晴崇)

2019年1月 2日 (水)

育成馬の胃潰瘍

No.25 (2011年2月1日号)

 今回は、日高および宮崎育成牧場で育成し昨年売却したJRA育成馬に対して行った胃潰瘍に関する調査について紹介したいと思います。

馬の胃潰瘍について
 馬の胃はヒトとは異なり、ヒトの食道と胃が一緒になった構造をしています。ヒトの食道にあたる部位が「無腺部」、ヒトの胃にあたる部位が「腺部」で、その間にのこぎりの歯のような形をした「ヒダ状縁」という境目があります。「腺部」で作られた胃酸が「無線部」や「ヒダ状縁」の粘膜に傷害を与えることで潰瘍になると言われており、ヒトの「逆流性食道炎」に近い病態と言えます。馬は本来放牧地でほぼ一日中草を食べているのが自然な状態ですが、競走馬として狭い馬房内に閉じ込められ濃厚飼料を与えられていると、胃酸分泌が増加し潰瘍ができるとされています。胃潰瘍の症状は多様で、炎症のみで上皮は正常な状態から、壊死を伴う深部潰瘍まで認められます。穿孔(せんこう:あなが開くこと)すると死に至ることもあります。
 競走馬の70~90%が胃潰瘍にかかっていることが知られていますが、育成馬についての研究はあまり進んでいませんでした。近年、施設の改良や技術の向上により、育成期においても競走期に近い運動が負荷されるようになり、育成期でもある程度の馬は胃潰瘍を発症している可能性が疑われるため、今回調査を行うことにしました。
 一方、競走馬の胃潰瘍の治療や予防に使われる薬剤には、胃酸を中和する制酸剤、粘膜を保護するスクラルファート、人体薬の「ガスター10」で有名なH2ブロッカーなどがありますが、海外では主にオメプラゾールという薬剤(商品名ガストロガード®、図1)が使用され効果が高いことが知られています。
 そこで、我々は2008年に生まれ、2009年7月から2010年の4月までJRA日高および宮崎育成牧場で育成された育成馬および研究馬85頭(雄42頭・雌43頭)を使って3つの調査を実施しました。

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育成馬の胃潰瘍発症状況
 2010年2月に内視鏡で胃の中を検査した結果、27.1%(85頭中23頭)の馬が胃潰瘍を発症していました。胃潰瘍の程度(0~3で数字が大きいほど程度が悪い:図2)は、スコア2が13%(23頭中3頭)、スコア1が87%(23頭中20頭)で、胃潰瘍の発生に雌雄差はありませんでした。
 競走馬について行われた同様の調査では、76.9%の馬が胃潰瘍を発症しており、程度はスコア3が44%、スコア2が32%、スコア1が24%であったと報告されています。
 今回の調査から、競走馬ほどではないが、育成馬も3割程度が胃潰瘍を発症していることが明らかとなりました。また、競走馬と比較して、胃潰瘍の程度は軽いことがわかりました(図3)。

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オメプラゾールの胃潰瘍予防効果
 2月の内視鏡検査で胃潰瘍を発症していなかった馬を投薬群および対照群の2群に分け、投薬群にはオメプラゾール製剤のガストロガード®1/4本を28日間投与しました。これらの馬に対して通常どおり調教を実施し(F16まで)、3月~4月に再度内視鏡検査を実施したところ、胃潰瘍発症率が投薬群では3.6%(28頭中1頭)であったのに対し、対照群では38.7%(31頭中12頭)と胃潰瘍の発症を10分の1に抑えることができました。
 競走馬について行われた同様の調査では、胃潰瘍発症率が投薬群では21%であったのに対し、対照群では84%であり胃潰瘍の発症を4分の1に抑えることができたと報告されています。
 今回の調査から、競走馬と同等かそれ以上に、オメプラゾールの投与は育成馬の胃潰瘍の予防に効果があることが明らかとなりました(図4)。

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オメプラゾールの胃潰瘍治療効果
 2月の内視鏡検査で胃潰瘍を発症していた馬18頭を治療群として、オメプラゾール製剤のガストロガード®1本を28日間投与しました。通常どおり調教を実施し(F16まで)、3月に再度内視鏡検査を実施したところ、18頭の馬の胃潰瘍はすべて治癒していました。
競走馬について行われた同様の調査では、胃潰瘍を発症している75頭について治療を行ったところ、治療後の内視鏡検査において58頭が治癒し、残りの17頭もスコアが改善されたと報告されています。
 今回の調査から、競走馬と同等かそれ以上に、オメプラゾールの投与は育成馬の胃潰瘍の治療に効果があることが確認されました(図5)。

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 最近の研究では、胃潰瘍を発症していない馬と発症している馬をトレッドミル上で運動させた場合、発症していない馬の方が最大酸素摂取量が有意に高かったという報告もあります。あくまでもトレッドミル上の運動でのデータですが、実際のトレーニングでも胃潰瘍が発症していない状態で調教を行った方が効果が上がる可能性が示されています。今後、競走馬だけでなく、育成馬についても胃潰瘍対策を考えていかなくてはならないのかもしれません。

®ガストロガードはアストラゼネカ社の所有登録商標

(日高育成牧場 業務係長 遠藤 祥郎)

2018年12月30日 (日)

馬鼻肺炎(ERV)の予防

No.24 (2011年1月1・15日号)

 今回は妊娠後期の流産の代表である馬鼻肺炎について、お話させていただきます。
馬鼻肺炎ウイルスは非妊娠馬では免疫のない(過去に感染した事がない)馬に軽い発熱を引き起こします。一方、妊娠後期(9ヶ月以降)の馬に感染すると流産を起こす場合があり、日高管内においては毎年10~20頭が報告されています。馬鼻肺炎による流産は悪露や乳房の腫脹といった前駆症状もなく突然起こるため、予知や治療は非常に困難です。

感染・発症様式
 感染・発症様式は大きく2つに分けられます。1つはウイルスを含む感染馬の鼻汁や流産胎子・悪露・羊水に直接、あるいは間接的(人間の衣服や靴、鼻捻子などを介して)に接触して感染・発症するケース。もう1つは、過去に感染したウイルスが体内に潜んでいて、ストレスで免疫力が下がったときに再活性化して発症するパターンです。これはヘルペスウイルスの特徴でもあります。

続発と育成馬の関係
 馬鼻肺炎ウイルスによる流産で恐ろしいのは、牧場内で流産が続発することです。グラフをご覧下さい。同居の育成馬にウイルスが感染しなかった牧場で流産が続発した割合が35.7%であったのに対し、育成馬に感染が起きた牧場で流産が続発した割合は85.7%と高い割合を示すことが知られています。このことから流産を予防するためには、繁殖馬だけではなく育成馬の予防も重要であることが分かります。また、最初に発生した流産馬を隔離した場合には続発率33.3%であるのに対し、隔離しなかった場合には53.3%、そして育成厩舎に隔離した場合は80.0%でした(グラフ2参照)。これは感染馬を他の繁殖馬から離そうとするあまり、育成厩舎に移すと、免疫のない育成馬の間でウイルスが増幅し、結果として高い確率で流産が続発してしまうことを示しています。

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もし流産が起きたら
 流産が発生したら、まずは獣医師を呼びましょう。獣医師が家畜保健衛生所に連絡を取り、検査を依頼します。検査結果が出るまでの間は、馬鼻肺炎だと仮定して対応する事が重要です。胎子は外見上大きな異常はありませんが、胎子、胎盤、羊水には大量のウイルスが含まれています。ウイルスは野外環境で2週間以上も生存する事が報告されています。消毒は母体、胎子や胎盤はもちろんのこと、それらが付着した寝藁、馬房の壁、またスタッフの衣服、タオル、靴などにも行います。流産馬はなるべく他の繁殖牝馬と隔離した方がよいですが、前述の通り育成厩舎へ入れないようにしましょう。

予防法

 育成馬との隔離:過去に感染したことのない育成馬は容易に感染し、ウイルスを増幅します。そのため厩舎を分けるだけではなく、育成厩舎と繁殖厩舎間の移動の際には踏込み槽による消毒、上着や手袋の交換を心がけましょう。

ワクチン:ワクチンでは流産を完全に予防する事はできませんが、表を見ると接種後45日以内では続発発生が大きく抑えられていることが分かります。現行の不活化ワクチンは抗体持続時間が短いため、妊娠9ヶ月をむかえるまでに基礎接種(約4週間隔で2回)を完了し、その後も1~2か月間隔で補強接種を行う事が推奨されています。JRAでは不活化ワクチンよりも強い免疫力の付与を期待するべく、現在新たに生ワクチンの開発を行っています。

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消毒:パコマやクリアキルといった逆性石鹸、クレンテやアンテックビルコンSといった塩素系消毒薬が有効です。野外であれば消石灰も有効です。

ストレス軽減:繁殖馬の多くにウイルスが潜伏しており、ストレスがかかると再活性化し、発症する恐れがあります。そのため、妊娠後期には群の入れ替えや放牧地の移動などストレスを与えることは避けましょう。

神経疾患
 馬鼻肺炎の症状として発熱と流産がよく知られていますが、その他に神経疾患が認められる場合があります。近年、欧米では神経病原性の強いウイルス株による馬鼻肺炎の流行が増加傾向で、大きな問題となっています。この株の流行では、比較的多くの罹患馬が起立不能といった重度の神経症状を示し、致死率が高くなることが報告されています。すでに、道内においてもこの株の発生例が報告されており、十分な警戒が必要と考えられます。

まとめ
 BSE、口蹄疫、鳥インフルエンザなど、畜産における伝染病の怖さは皆さん十分にご存知かと思います。馬鼻肺炎ウイルスはこれらに比べると病原性あるいは感染力が低いウイルスですが、体内に潜伏する性質を持つため、現時点では撲滅することはほぼ不可能と考えられています。この対策としてはストレスを与えない管理やワクチン接種、また普段のこまめな消毒などが大切です。伝染病の予防は自分の牧場のためだけでなく、周辺の牧場を含めた生産地全体の問題と捉え、牧場、獣医師が一致団結して予防するという防疫意識を持っていただけたらと思います。

(日高育成牧場 生産育成研究室  村瀬 晴崇)

2018年12月28日 (金)

育成馬へのライトコントロール

No.23 (2010年12月15日号)

 ライトコントロールというと、皆様は何を思い浮かべるでしょうか?人では睡眠障害の治療などにも用いられている技術ですが、近年、生産地では牝馬の繁殖シーズンにおける発情誘起のための有用な管理技術として広く普及されています。そして、育成馬においても同法が応用されるようになってきており、冬の飼養管理の一部として定着しつつあるようです。今回は、育成馬へのライトコントロール法(図1)の効果や方法などについて説明したいと思います。

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図1:ライトコントロール法を行っている育成馬房

ライトコントロール法って何?
 まず、ライトコントロール法とはどのようなものでしょうか?これは馬が長日性季節繁殖動物であり、春になると卵巣機能が活発となり、発情期が回帰するようになることを利用した飼養管理技術です。春になると・・・と書きましたが、馬は何によって春が来たことを感じるのでしょう?実は、馬は“光”によって季節を感じているのです。冬から春になるにつれ、昼間の時間が長くなりますが、馬はこの日照時間が長くなることを“目”から感じて季節を判断しています。そこで考え出されたのが、この「ライトコントロール法」です。まだ日照時間の短い冬期(12月末~3月初旬)の夕方と朝に、春と同様の日照時間になるようにライトを点灯します。そうすることで、「視床下部」という神経器官からのホルモン分泌が徐々に促進され、さらに下垂体から分泌される黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を促進することにより、卵胞発育や排卵が起こるようになります。発情周期が回帰すると、卵巣から分泌されるホルモンによる抑制が適切に働き、約3週間の周期的な発情を繰り返すようになります。実際に、馬の卵巣機能がもっとも活発になるのは、夏至を中心とする5~7月ごろといわれますが、現在はこの方法を用いることで、早くから繁殖シーズンを迎え、効率的な繁殖雌馬の管理をすることが可能となっています。


育成馬へのライトコントロール、その効果は?
 さて、育成馬ではどのような効果があるのでしょうか?馬が発情するとき、体の中では色々なホルモン変化が起きています。雄であれば男性ホルモン(テストステロン)、雌であれば女性ホルモン(エストラジオール)濃度が上昇し、雄は雄らしく、雌は雌らしくなります(どちらのホルモンも成長を促す効果があります)。また、成長ホルモン様の作用を有するプロラクチンの濃度も上昇します。そこで我々は育成馬にライトコントロール法を行うことで、これらのホルモン濃度を早期に上昇させ、体の成熟を促すことができるのではないかと考え、JRA育成馬を用いて冬から春(12月20日:冬至~4月中旬)にかけて実験を致しました。
 実験の結果、ライトコントロールを行った馬は・・・
① 安全性:疾病や異常な行動は認められず、本法の安全性は問題ありませんでした。
② 雄群のホルモン濃度:テストステロン濃度は対照群に比べて早期に上昇しました。
③ 雌群のホルモン濃度:エストラジオール濃度が高く、初回排卵時期も対照群に比べて早期でした。
④ プロラクチン濃度:雄雌とも対照群と比較して高いホルモン濃度を示しました。
⑤ 毛艶:4 月時点で対照群の馬より明らかに毛艶が良化しました(図2)。
 このように、雌雄とも、早期に性ホルモン濃度が上昇するとともに、毛艶については明瞭な良化作用が認められました。

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図2:ライトコントロール(LC)群と対照群の毛艶の違い(4月時点)

育成馬へのライトコンロールのメリットは?
 近年、競走馬の流通形態において、騎乗供覧を行うトレーニングセールの需要が高まっています。そのような状況の中、ライトコントロール法を実施することで、発育が遅れている馬にも早期から十分な調教を実施できる可能性が有ります。また、セリにおいては馬の印象が良いことで購買意欲を高められることから、毛艶を良化させるライトコントロール法を実施することで、印象も大幅に変わり良好な売却結果につながるかもしれません。このようにライトコントロール法は馬房の天井にタイマー式の電球をセットするという簡単な方法ですが、そのメリットは大きいと思われます。皆さんも一度試してみてはいかがでしょうか?

【参考:ライトコントロールの実施方法】
 繁殖牝馬に実施するライトコントロール法と同じく12月20日(冬至付近)から3月初旬まで、昼14.5時間、夜9.5時間の環境を作成します。一般的な飼養環境においては、たとえば朝5時半から7時30分頃まで馬房内で点灯し、昼間は適当な明るさが確保できるよう、扉を開けるなどして管理し、続いて夕方の収牧後夜20時まで点灯します。照明は60~100ワットの白色電球(図3)を馬房の中央天井付近、または高さ2.5-3.0m付近に設置(蛍光灯でもOKです)。点灯・消灯はタイマー(図4:接続については電化製品店と要相談)で作動させ開始終了時間を設定すると非常に管理が楽になります。実施に当たって、2点注意事項があります。①効果を得るには暗い時間帯も必要です。ライトがついていない時間はできるだけ真っ暗にするのが理想的です。②また、厳冬期に冬毛が抜けますので、馬服を着せるなどのケアが必要になります。

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図3:白色電球100W          

4_2 図4:タイマー(自動でON・OFFされます)


(日高育成牧場 業務課 土屋 武)

2018年12月27日 (木)

育成後期における蹄管理

No.22 (2010年12月1日号)

始めに
 蹄壁が薄い若馬の蹄は、体型、肢勢、歩様、運動、地質、日常の蹄管理など様々な要因により、蹄質は硬化あるいは軟化し、場合によっては蹄が脆弱化するなど、成馬の蹄に比べ環境による影響が反映されやすいとされています。一方、このことは、この時期の変形蹄であれば的確な矯正を行うことにより、良好な蹄形に改善できる可能性が高いとも考えられます。当歳時ほどではないものの、育成期にある若馬も細かに蹄質が変化するため、その変化に対応した削蹄修正を迅速に行い、馬体に伴った蹄の健全な成長を図り、安定した肢勢を維持することで蹄の異常な変形は予防され、結果的にその馬の価値あるいは能力は一段と向上すると言えるのではないでしょうか。

蹄管理の重要性
 1歳馬の蹄成長量は、月平均12mmで、成馬の9mmと比べても成長速度が速いことが分かっています。また、この期間は馬体の成長や調教に伴って、蹄角度はやや減少するものの、蹄下面の面積や蹄壁の長さは増加していきます(図1)。蹄成長の盛んなこの時期に、蹄への負荷が増加する調教が行われるため、定期的な蹄の検査や細かな蹄管理を怠ると、蹄壁の過剰摩滅や蹄が内向する仮性内向蹄、あるいは様々な疾病と深い関わりが示唆される変形蹄「ロングトゥアンダーランヒール」になるリスクが高くなると考えられます。

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図1 育成期における蹄鞘の変化と体重の推移

ロングトゥアンダーランヒール(以下LU)
 LUとは、外見上蹄尖壁は前方に伸びすぎ、蹄踵壁が潰れた蹄の状態(図2)の名称です。競走馬でも一般的に見られる変形蹄のひとつで、その発生原因は肢勢の欠陥、調教・競走時の蹄踵への過剰負荷、遺伝的な欠陥、蹄の過剰な水分含有など様々な要因が考えられています。そしてLUがファクターの1つとなる疾患には、挫踵(蹄踵壁と蹄支の間あたりに発生する挫跖の一種)、蹄血斑、白線裂、蹄側・蹄踵部裂蹄、ナビキュラー病(蹄内部の緩衝作用を持った軟部組織の病気)などの蹄疾患、あるいは反回ストレスの増加や球節の過剰沈下に伴う腱・靭帯組織の損傷などが挙げられます。LU蹄を良好なバランスに戻すためには、まず凹湾している蹄尖壁を十分に鑢削し、次に潰れてしまった蹄踵部を削切して、蹄踵部に健全で真直ぐな角細管(蹄壁の強靭性を保つ角質組織)の成長を促すことが重要となります。この削蹄により、蹄の負重中心軸は後方へと移動するため、負重バランスの適正化が図れます。ただし注意することとして、思い切った蹄尖壁の鑢削を行った際は、蹄角質硬化剤などを塗布して蹄の堅牢性を保つように心掛けます。

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図2 ロングトゥーアンダーランヒール(LU)


 また他の削蹄手法として、ケンタッキー州のリック・レドン獣医学博士によって普及された4ポイント・トリムも、LUに適した削蹄手法の一つです。この手法は、蹄負面の内・外側と蹄尖部分を多めに削り、削り残った内・外蹄尖部と内・外蹄踵部の4点が接地するように配慮する削蹄で、蹄反回時の支点を後方へ移行するとともに、蹄角度と繋角度を揃えることを目的とします。結果、力学的に効率の良い蹄反回が可能となり、反回時に蹄骨にかかる力学的ストレスが緩和されるとともに、蹄負面が減少した分を蹄底・蹄叉にて負重することで、蹄壁の成長を妨げる障害を取り除くことができると考えられています。

育成期における装蹄
 近年、蹄鉄を初装着するタイミングは、世界的に見ると遅くなる傾向にあり、トレーニングセールの数週間前に初めて装蹄を行うパターンが最も多いとされています。少し極端な例を挙げると、競走馬になっても蹄の状態が良ければ、前肢は跣蹄で管理する厩舎が豪州、米国、英国などで増加しているそうです。一方、日本では、ほぼ全ての競走馬が調教、レースともに蹄鉄を装着して行われています。JRA日高育成牧場の育成馬においては、平均気温の低下により蹄の成長量が減少するものの、トレーニングセールに向けた調教が強まる明け2歳時ぐらいから、過剰な蹄の摩滅予防と肢蹄の保護を目的とし、四肢に蹄鉄を装着します。しかし、例外もあります。例えば、削蹄のみではLUの矯正が期待できない場合などに、蹄鉄の装着を検討します。現在市販されている蹄鉄には、反回ポイントの後方移動を目的とした様々なアルミ製蹄鉄(図3)があるため、蹄負面の成長が悪く十分な削蹄ができない場合などは、そのような蹄鉄を装着します。また、正常な蹄であっても蹄の成長量と調教による蹄の摩滅量が吊りあわない場合や異常歩様による偏った摩滅を防止する場合(図4)、また裂蹄・蹄壁欠損などの蹄疾患を発症した蹄などにも、早期に蹄鉄を装着します。

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図3 ワールドレーシングプレート(サラブレッド社製)

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図4 蹄尖壁の過剰摩滅蹄

終わりに
 変化に富む育成期の蹄を的確に管理することは、後の蹄形成に対して非常に重要であり、その馬の生涯のキャリアを高めることに繋がると考えられます。常日頃から蹄を観察する中で、違和感や不均衡が生じた際には速やかに装蹄師に依頼し、修正あるいは補強などにより蹄が本来持つバランスを取り戻すことが、護蹄管理、肢蹄保護の観点から大切なのではないでしょうか。

(日高育成牧場 専門役 粠田洋平、業務課 大塚尚人)

2018年12月26日 (水)

当歳馬の冬期の管理について

No.21 (2010年11月15日号)

 厳しい冬が目前にやってきました。冬は、放牧草の消失と放牧地での運動量低下による飼養管理方法の変更が余儀なくされます。特に、成長期にある当歳にとって、この変化は大きな意味を持ちます。今回は、当歳馬の冬期の飼養管理の課題とその対策について紹介します。


冬期には維持エネルギー要求量が増大
 馬は、気温の低下に対しては、ある程度の適応力を有しているといわれています。家畜化された馬が屋外で快適に過ごせる限界温度は、‐1から‐9℃まで幅広い範囲の報告があり、また、北海道の気候に似たカナダで実施された研究では、‐15℃までは馬服やシェルターがなくても、夜間も屋外で問題なく過ごすことができると報告されています。
 馬は、氷点下を下回るような冬期の寒冷に対しては、耐寒のための維持エネルギー要求量が増加します。この増加分を乾草の採食量を増加させることによって、補うことが推奨されています。これは、乾草などに多く含まれる繊維は、微生物によって盲腸と結腸で分解され、この分解時に熱が発生し体内を温める効果があるからです。気温が0℃から5℃ずつ低下するごとに、1kgの乾草の増給が必要であるとされています。
 帯広畜産大学で実施された研究では、気温の低下に対して、北海道和種や半血種では安静時の代謝量を増加させずに、皮下脂肪を蓄えることによって適応するのに対して、サラブレッド種は皮下脂肪が少なく、安静時の代謝量を増加させることによって適応すると報告されています。つまり、耐寒のための維持エネルギー要求量の増加を補うために、OCDなどの発症を誘発する恐れのある濃厚飼料を過剰給与するのではなく、良質な乾草などの粗飼料を給与することが非常に重要になると考えられます。

冬期の当歳馬の成長
 日高地方の当歳~1歳馬の12月~2月までの増体量は、その前後と比較して、停滞することが分かっています(図1)。日高育成牧場と宮崎育成牧場における1歳~2歳にかけての冬期の発育の比較において、日高では当歳馬と同様に発育の停滞が認められますが、温暖な宮崎では認められません。しかし、競走馬になってからの体重に差異は認められないことから、日高地方における厳冬期の一時的な発育の停滞は、長期的には問題となることはないと考えられます。すなわち、冬期における発育の停滞は、生理的なものであり、むしろ、この冬期の停滞を改善しようとする濃厚飼料の過剰なエネルギー給与は、OCDなどの発症を誘発する可能性があるので注意が必要といえます。また、冬期の発育の停滞以上に、青草が生え始める春期になってからの、成長のリバウンド(代償的成長)が大きくなりすぎないような注意も必要です。

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図1.生まれ月別の子馬の増体曲線


冬期の当歳馬への乾草の給与
 前述のとおり、冬期の当歳馬への給餌は、穀類主体の濃厚飼料よりも牧草のような繊維質が豊富な粗飼料の給餌が非常に重要です。当然、良質な乾草の給与は不可欠であり、さらにミネラルバランスを考慮すると、チモシーなどのイネ科の乾草に加え、マメ科のルーサンも給与することが推奨されます。一方、冬期には、低水分ラップサイレージの給餌も可能となります。冬期の昼夜放牧時に、ラップサイレージとロール乾草とを2つ並べて設置し、どちらを好んで食するかを試したところ、圧倒的にラップサイレージを好んで食べました(写真1)。また、ラップサイレージとロール乾草を交代で、どちらかを1ロールずつ設置したところ、ラップサイレージでは1ロールが5日間で食べ尽されたのに対して、ロール乾草は食べ尽されるのに7日間を要し、ラップサイレージを給餌することによって、採食量は約1.5倍に増加しました。しかしながら、ラップサイレージは、ヒートダメージ(発酵過程で空気と接触することにより好気発酵、品温上昇がすすみ、その結果、品質が低下する現象)や、下痢や呼吸器症状を引き起こす可能性もあるので、注意が必要です。

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写真1 同時期に設置したラップサイレージ(左)とロール乾草(右)。
圧倒的にラップサイレージが好まれる。

ビートパルプの給餌
 ビートパルプは、甜菜から砂糖を抽出したあとに残る副産物です。非常に消化の良い、高繊維質、低炭水化物飼料であり、さらに単位重量あたりで比較すると、エンバクと同程度の可消化エネルギーを含有するため「スーパー繊維飼料」と呼ばれています。また、馬の嗜好性は良く、カルシウムやマグネシウム含量は比較的高くタンパク含量も乾草と同程度であるが、リンやビタミン類は低くなっています。そのために、耐寒のための維持エネルギー量要求量の増加を補うための飼料として強く推奨されます。ただし、乾燥したままで摂取させると胃内で膨張するため、安全を考慮し半日前から水分を含ませておいて給与しなければなりません。


冬期の運動について
 日高地方では、冬期には、放牧地の地面が雪で覆われさらに凍結するために、十分な運動ができなくなります。そのために、この冬期間に、どのようにして運動をさせるか、という点が課題となっています。
 厳冬期に昼夜放牧を実施した時の放牧地での移動距離は、日中が2.5km、夜間が4.5km、合計7kmであり、夏~秋期と比較して半分程度に減少しました。しかし、自発的な運動を促すために、放牧地の隅にルーサン乾草を1日に2回置くことによって、移動距離は10 kmにまで増えることが観察されました(写真2)。
 一方、ウォーキングマシンの使用も、冬期に運動を課するには、非常に有効な方法であり、6km/hで1時間実施することによって、6kmもの常歩運動を課することができます。しかし、半日かけて移動する距離を1時間で強制的に運動させるべきなのか、また、成長過程にある当歳馬にとって、ウォーキングマシンでの強制運動は問題がないのか、などの課題も残っています。

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写真2 放牧地の隅にルーサン乾草を置くと、馬はルーサンを探して放牧地を歩き回ります。

最後に
 今後も、「強い馬づくり」に役立つように、これらの日高地方における冬期の管理の課題について、さらに調査・研究を行っていきたいと思っています。

(日高育成牧場 専門役 頃末 憲治)

2018年12月25日 (火)

馬づくりは人づくりから

No.20 (2010年11月1日号)

 確かな生産育成技術を駆使し、世界に通用する馬づくりを実践していくためには、その技術を理解しさまざまな馬に応用できる人材が必要となることはいうまでもありません。すなわち、「強い馬づくりは人づくりから」といえます。
 しかし、残念ながら、馬の世界に飛び込む新規参入者は近年減少しているのが現状です。とくに、馬産地日高における騎乗技術者や牧場就労者、獣医師や飼養管理者の不足は深刻な問題です。こうした問題解決を支援するため、日高育成牧場では、馬に関心がある人から馬に触れたこともない馬初心者にいたる幅広い人々に対し、馬に関する基礎から専門的な知識や技術を学んだり、馬に親しんでもらう機会を設けるなど、さまざまな面から人材育成に関する取り組みを行っています。

育成馬の騎乗者養成
 ㈶軽種馬育成調教センター(BTC)が実施している育成調教技術者養成研修(現在、第28期生)では、「軽種馬の生産・育成に関する体系的な実用技術および知識の習得を目的」に1年間の研修を行っています。前半の6カ月で基礎的な騎乗技術を身に付けた研修生は、日高育成牧場で育成馬のブレーキングが始まる9月から参加し、その後も4月まで実践的な育成場の騎乗技術を身につけていきます。ここ数年の傾向としては、一度他の業界に就職しながらも、馬と接する職業に魅力を覚え転職ののち、高い志と情熱を持って受講する研修生が多いようです。

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写真1 育成馬のブレーキングから高度な騎乗技術まで習得するBTC研修生

生産牧場就労者養成
 ㈳日本軽種馬協会(JBBA)が実施する生産育成技術者研修(現在、第32期生)は「軽種馬生産、育成関連の仕事に就業するための知識、技術を1年間で習得することを目的」とする研修制度で、静内種馬場内にある研修所で馬学全般、騎乗訓練や馴致調教などの研修を行っています。日高育成牧場には、分娩や離乳など、馬を生産育成する上で重要な節目に合わせて来場し、実習体験するとともに、子馬の発育やその時々の飼養管理法について専門的な講義も用意して受講してもらいっています。また、同じくJBBAが実施する軽種馬後継者研修にも講師派遣などにより協力しています。

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写真2 分娩後の後産(あとざん)の確認法について学ぶJBBA研修生

獣医畜産系学生への教育支援
 日本の大学は、欧米に比べて産業動物の臨床実習をするための環境や施設が整っていないのが現状です。しかしながら、全国の学生の中には、馬に関する実践的な教育を受講したいと考えている人や、実習などを通じて馬と触れ合ってみたいという学生は大勢いるものです。日高育成牧場ではこのような獣医畜産系の大学生を対象に、個別に夏休みの実習を受け入れてきましたが、一昨年前から「日高サマースクール」と称して、10日間程度の研修期間を4クール設けています。今年も全国から24名の学生が当場に来場しました。実習では、馬の手入れや引くことはもとより、さまざまな検査や調査に立ち会うことにより、馬の繁殖学、栄養学、画像診断技術などのカリキュラムをこなしました。また、乗馬体験は馬をさらによく知るうえで大きな収穫となったようです。彼らの中から未来のホースマンや優秀な技術者が誕生することを期待しています。

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写真3 サマースクールでは手入れや収放牧、放牧地での雑草抜きなども体験する。

小中学生への馬事振興
 サラブレッド生産が全国の80%を占める日高地域において、地域特有の馬文化をより地域に根ざしたもの、誇れるものとして子どもたちに定着させるために、日高振興局や浦河町が主催している「馬文化 出前教室」や「巡回乗馬教室」、「中学校道徳授業」などに講師や馬を派遣し協力しています。子どもたちの馬に対する興味は大きいようで、毎回盛況を博しています。地元の子どもたちには国内のどこの子どもたちよりも馬のことを良く知ってもらいたいものです。

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写真4 浦河町内小学校での「馬文化出前教室」では、授業後に激しい質問攻めに会う。

一般の方々を対象としたツアー
 日高育成牧場では、7~10月に一般の方々を対象とした場内の施設見学に加え、子馬とのふれ合いや乗馬体験、初期馴致見学などを行う「日高育成牧場バスツアー」を企画しています。参加者は道外からの旅行者が多く、親子での参加される方も多く、馬をはじめて触って感動したことや、普段見ることのできない調教の様子を見学することにより馬に対する理解が深まったとの感想が多く寄せられています。なかには、これからは競馬を楽しもうと思う、との感想をいただいた方もいます。

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写真5 日高育成牧場バスツアーでは、初めて馬に触れる人も多い。

 このような人材養成活動が、将来馬に関わる人にとって最初の一歩になってもらえれば幸いです。


(日高育成牧場 生産育成研究室 研究役 佐藤 文夫)

2018年12月18日 (火)

1歳馬の騎乗馴致 -その②-

No.19 (2010年10月15日号)

 前回に引き続き、1歳馬の騎乗馴致についての続編を紹介します。

基本装具

 騎乗馴致においては、まず、ブレーキングビット(写真1)とよばれるハミとキャブソン(写真2)を装着します。ブレーキングビットは、初めてハミを装着する馬が、口の中の正しい位置(舌の上)で受けることを覚えやすいよう、ハミの中央部にキーがついています。また、ハミは、まっすぐ走ることを教えるため枝のついたものを使用します。キャブソンは鼻革部分にリングがついており、最初はここからランジングレーン(調馬索)をとることで、馬の敏感な口を傷つけずに、ラウンドペン(丸馬場)で周回することを教えます。

1写真1 ブレーキングビット       

2 写真2 ブレーキングビットとキャブソン

馴致の流れ

1)1本レーンでのランジング(調馬索)

 最初はラウンドペンで馬を左手前で2-3周引き馬を行い、環境に慣らすとともに壁に沿って運動することを教えます。多くの馬は左手前が得意であり、右手前は苦手です。このため最初は得意な左手前を中心に実施します。時間をかけて苦手な右手前の運動時間を徐々に増加することにより、両手前をスムーズに実施できるようにします。

 ランジングは、壁に沿って運動させることが重要です。「人から離れて前に進め」という人のプレッシャー、「これ以上は外にいけない」という壁のプレッシャーのバランスにより、馬は自然に壁に沿って運動します。この最初のステップでは音声コマンドによって、「常歩」、「速歩」、「停止」を両方の手前でできるよう、馬とのコミュニケーションの確立を行います。馬に停止を要求する場合、必ず壁沿いの蹄跡で馬が動かないよう音声コマンドで停止させた後、人が馬に優しい声をかけてあげながら近づき、初めてプレッシャーを解除します。そのようにすることで、馬が人の合図を待たずに内に入って自ら運動を中断することを防止します。

2)ローラー装着

 馬がラウンドペン内で落ち着いてランジングができるようになったら、ローラー(腹帯:写真3)を装着します。まず、馬を左手前蹄跡上に駐立させた後、胸ガイを先に装着しローラーのベルトを締めます。このとき、馬を保持する者、追いムチで推進する者の役割分担を二人で行うことが重要です。馬がローラーの圧迫を嫌って、背を丸めてかぶったり、立ち上がろうとしたりする場合、瞬時に追いムチや声を用いて馬を推進し前に出します。馬は前方に動くことにより、やがてローラーの圧迫に慣れ、落ち着いたランジングが可能になります。装着したローラーは、すぐにはずさず、慣らすため30分~1時間程度装着を継続します。なお、ローラー装着に対する拒否反応が強い馬は半日~1日程度装着を継続することもあります。

 馬がローラーを受け入れ、1本の調馬索で落ち着いてランジングができるようになったら、サイドレーン(写真4)を装着します。最初はキャブソンからサイドレーンをとり、馬が慣れたらハミからとります。また、サイドレーンはき甲部でクロスして使用します。この方法は、ドライビング時に頭を下げて草を食べるなどいたずらを防止するとともに、必要以上に頭を下垂させず、騎乗時の安定した頭頚を教える上で極めて有用です。
   

3 写真3 ローラーを装着してのランジング                 

4 写真4 サイドレーンの装着方法(キャブソン)

3)ドライビング

 ダブルレーンによるランジング(写真5)は、1本目の調馬索をハミの内側からとり内方の手(左手前では左手)で保持し、2本目の調馬索はハミの外側からとり馬の外側を回して飛節の上部に位置し外側の手(左手前では右手)で保持します。馬がレーンによって飛節に触れられることに慣れ、ランジングがスムーズにできるようになったら、御者が徐々に馬の後方に回り込んでドライビング(写真6)の体制を教えます。最初は、ラウンドペンの中で2本の調馬索を保持し、馬の後方から前進気勢を与えることに慣らすとともに、ドライビングによる方向転換を教えます。ドライビングは騎乗する前に基本的なハミ受けを教えることといえ、バイクに例えるならば、ハンドル、ブレーキおよびアクセルなどの制動装置をセットするようなものです。
  

5 写真5 装鞍してのダブルレーンによるランジング      

6 写真6 走路でのドライビング

4)騎乗

 御者の指示によって、自由自在にドライビングが行えるようになれば、騎乗のステージへと進みます。ここでは、馬に人の体重負荷を慣らすとともに、馬にとって死角に当たる真後ろの位置で人が動くことに慣らします。最初の騎乗は馬房の中で実施します。これは、広さの限られた狭い馬房の中であれば、馬が驚いて暴れても、助手が確実に馬の動きを制御することができるからです。最初は横乗り(写真7)の状態で助手が馬を保持して馬房の中を大きく回転します。次に実際にまたがって助手が保持した状態で馬房の中で動かします。馬が落ち着いていればアブミをはいて脚による前進扶助を徐々に教えます。次に、ラウンドペンの中で騎乗することができれば(写真8)、やがて馬場で騎乗することができます。ここまで概ね約3週間をかけて実施します。

7 写真7 馬房内での横乗り

8 写真8 ラウンドペンでの騎乗

最後に

 実際の騎乗馴致では、怖がりで逃避反応が速かったり、我が強くなかなか要求したとおりに行動してくれなかったりと、馬によっては非常に難しいこともあります。しかし、どのような馬に対しても人が気長に構え、馬の行動をよく観察することによって難しくしている原因を見出し、求めたい方向へと導いてあげなければなりません。すなわち、私たちは、①馬に対してその将来を期待すること、②馬に求める目標を明瞭かつ具体的にイメージすること、③その時々の馬の状態・能力を確実に把握・理解すること、および④段階を踏みながら安全かつ無事に目標に導くこと、という4つのビジョンをもって馬の馴致を行うことが大切であると考えています。

 今回記載した騎乗馴致については、2009年12月に発刊した「JRA育成牧場管理指針」-日常管理と馴致(第3版)-に記載されています。この冊子の必要な方はJRA馬事部生産育成対策室までお問い合わせください(JRAホームページの「JRA育成馬サイト」(http://homepage.jra.go.jp/training/index.html)でもご覧になれます。
  

(日高育成牧場 業務課長 石丸 睦樹)

2018年12月17日 (月)

1歳馬の騎乗馴致 -その①-

No.18 (2010年10月1日号)

 一般に、サラブレッドは1歳秋(9~11月)になると、人に乗られることに馴らすための「ブレーキング」とよばれる騎乗馴致を開始します。今回はJRA日高育成牧場で実施している騎乗馴致に対する考え方について述べます。

馴致に対する考え方
 競走馬の世界で一般的に用いられている馴致という言葉は、「乗り慣らし」の意味で多く使われています。しかし、広義では、「競走馬としてデビューするために、必要となる数多くの物事に対する教育」ととらえることができます。例えば、人を乗せて走ることは、競走馬として必須ですが、それのみでは十分とは言えません。手入れ、トレーニング、輸送、装蹄、ゲートなどの数多くの物事を、人とともに落ち着いて実施できるようになって、初めて競走馬としてのデビューが可能になります。また、馬がもつ能力を競馬で100%発揮するためには、人の指示に従うことが必要不可欠です。このように捉えた場合、競走馬の馴致は生まれ落ちたときから、出走という目標に向けて始まっているといえます。つまり、日々の馬への接し方が馴致であるともいえます。このため、馬を取り扱う者は、馬に求める目標を明確に見据え、それぞれの時期に済ましていなければならない躾(しつけ)や作法を、確実に積み重ねていくことが重要です。

Driving
ドライビング:騎乗を教える前に、後方から2本のレーン(調馬索)を用いて馬に前進気勢を与え、左右への回転や停止・発進などが自由自在にできるようにします。

ブレーキング
 騎乗馴致のことをブレーキング(breaking)とよびますが、これは騎乗時に手綱を引いて馬が止まるブレーキ(brake)を馬に装着するのではなく、馬同士の約束事を壊し(break)し、新たに人と馬との約束を構築することを意味します。このbreakは、「殻を破る」と表現することもありますが、決して人の力任せに馬を屈服させることではありません。馴致とは「馴らして目標とする状態に至らしめること」で、その際、馬にそうさせるのではなく、馬がそうするように仕向ける姿勢が重要です。その原理は、人が馬に対して何かを要求する指示(プレッシャー)を与え、そのプレッシャーから馬が逃げる方向が、人が要求するものと一致するよう馬を導きます。達成したとき、持続して与えていたプレッシャーをオフにしてあげることで、馬は楽になれることを理解します。言いかえると、「プレッシャーオフ」とは馬が要求に答えた際、即座に、声をかけたり愛撫をしたりして褒めることともいえます。馬は草食動物であるので、危険なもの(プレッシャー)からは回避すると同時に、同じ場所にとどまって草を食べる安住の場所(プレッシャーオフ)を求めています。馴致では、その馬の習性を上手に利用することが重要です。したがって、馬が疲労困憊するまで反復練習をするよりも、人の要求を理解したときに即座にプレッシャーを解除してあげることのほうが効果的に馬を教育することができます。以下にJRA日高育成牧場で取組んでいる馴致をすすめる際の留意点を述べます。


①人馬の信頼関係を築くこと
 信頼関係の第一歩は、人と一緒にいることで安心できる関係、雰囲気作りであり、この取り組みは生れて間もない時期から開始します。


②人が馬のリーダーになること
 馬取扱者や騎乗者は、馬に接する際、常にリーダーであるように心がけなければなりません。これは馬に恐れられる存在になることではなく、何かが起こった際に、人の指示が尊重されることを意味します。特に、牡馬は自分がボスと勘違いする傾向を持っていることから、そのような場合、馬に対して毅然とした態度で接し、人への尊敬を教えることが重要となります。一方、牝馬の場合、馬が怖がっているのか、反抗しているのかの判断が大切であり、基本的には優しく接します。


③馬に経験を積ませること
 馬は新しい物事に対して臆病であり、驚きやすい動物です。反面、自分に危害が及ばないことを理解すればかなりの物事に慣れる習性をもちます。したがって、競走馬になるために必要なことは、怖がるから避けて通るのではなく、積極的に馬に体験させて慣れさせることが重要です。


④段階的に進めること
 人の都合で馬が理解していないのに馴致におけるステップのいくつかを省略した場合、トラブルがおこり、馴致の失敗として馬の心に大きな傷が残ります。この失敗は、人間不信や落ち着きの欠如などとして後々まで悪影響を及ぼしますので、先々を見据え段階的に馴致を進めることが重要です。


⑤明確な指示を発すること
馬に対する指示は、態度や言葉を正しく理解してもらわなければ意味がありません。馬は、常にリーダーである人の感情を気にしています。したがって、明快に人の指示を馬に与え、それに対して馬が正しく反応したのかしなかったのか示してあげる必要があります。例えば、馬が正しく指示に従った場合には、「~をやりなさい」というプレッシャーを即座に解除し、優しく声をかけてあげます。一方、正しく反応しない場合には、指示を継続するとともに「アッ!アッ!」というような注意を喚起する声を発し、正しくない行動を取ったことを馬に理解させます。馬は「懲戒」よりも「プレッシャーオフ」に対してモチベーションをもつ動物であることを理解する必要があります。

 次回は馴致の実際について記載したいと思います。


(文責:日高育成牧場 業務課長 石丸 睦樹)

2018年12月12日 (水)

育成馬の運動器疾患について

No.16 (2010年9月1日号)

 来年の競馬デビューに向けて1歳馬の騎乗馴致がそろそろ始まる時期となりました。これから、調教が進むにつれ、様々な問題が出てくる時期だと思います。今号では、育成に携わる方々が様々な場面で悩まされる「育成期の運動器疾患」のうち、ここでは「屈腱炎」やレポジトリーに関係する「種子骨炎」「OCD」を中心に紹介します。

① 屈腱炎:近年の育成段階における調教強度増加によって、症例数も徐々に増えている傾向にあるようです。腱炎といっても様々な症例がありますが、その中でも球節掌側(裏側)の浅屈腱炎が増加しているようです。原因は過度な運動による浅屈腱の過剰緊張や腱線維の高温化などがあり、症状は同部の帯熱・腫脹および触診痛を認めます。診断は主にエコー検査によって行われますが、競走馬総合研究所常磐支所などで実施した調査によると最大損傷部位が20%を超えるレベルでは、競走復帰率が大幅に低下するとされています。最近の治療法では、幹細胞移植(カネヒキリが有名ですね)が良好な結果を挙げ始めていますが、そのような治療を行ったとしても長期間の休養が必要になることは変わりません。


② 種子骨炎:球節の過伸展や捻転が原因とされています。症状としては近位種子骨および繋靭帯(けいじんたい)付着部の熱感および触診痛、また軽~中程度の跛行を示します。診断は臨床症状の他に、主にレントゲン検査によって種子骨辺縁の粗造や線上陰影(図1:いわゆる“ス”が入る、という像)を確認することで判断されます。レポジトリーにおいても、本所見を気にされる購買者の方は多いのではないでしょうか?本会の実施した調査では前肢種子骨所見のグレードの高い馬(グレード0~3で評価されるうちの、グレード2以上)では、競走能力には影響を与えないものの、調教開始後に繋靭帯炎を発症するリスクが高まるとの結果が得られています。しかし、後肢についてはグレードが高くても調教やその後の競走能力に差はありませんでした。治療については、急性期は冷却および運動制限が有効です。また、最近ではショックウェーブ療法も実施され、良好な成績を上げているとの報告もあります。


③ OCD:セリに上場する際はもちろん、その後も非常に悩まされる症例です。OCDは様々な部位に発症しますが、その多くは無症状であることが多いようです。しかし、その保有部位の関節液が増え、腫脹を認めたり、熱感を帯びてくるようであれば、跛行の原因となることもあります(図2)。その場合、ヒアルロン酸やグリコサミノグリカンなどの定期的な投薬という保存的療法もあるのですが、手術が第一の選択肢となります。また、OCDとは区別されますが、DOD(発育期整形外科疾患)の一種として大腿骨の骨嚢胞(図3)があります。育成期に入って後肢の跛行を認め、ある程度休養すると改善するが、調教を再開すると再度跛行するというような馬の中にはこの所見を保有している馬がいるようです。治療としては、外科手術による掻把術が過去には行われてきましたが、最近では嚢胞部へのステロイド注入およびショックウェーブ療法が有効という成績が出てきているようです。一方、保存的療法はあまり有効ではないとされています。
 OCDについては、JRA育成馬購買の際に確認していますが、OCDがあるからといって購買をやめるということはありません。昨年購買した80頭の中の約15%程度である14頭の育成馬が保有しており、ほぼ全馬で育成期間中に症状を認めることはありませんでした。JRAでは今後このような馬について、競走期も含めた継続調査をすることで、購買者の皆様にレポジトリーへの理解が深まるよう努力していきたいと考えています。

最後に
 ここまで、3つの運動器疾患について記載してきましたが、いずれにしても重要なのは“早期発見・早期治療”です。そのためには、普段からのケアおよびチェックをしていくことが重要です。多くの運動器疾患では“歩様が硬くなる”“いつもと騎乗した感じが違う”などの前兆を認めることが多いようです。それらを未然に防ぎ、よりよい育成調教を進められるよう、普段から愛馬をよく触り、よく観察しましょう。


(日高育成牧場 業務課 土屋 武)

Fig1 図1:種子骨グレード2のX線画像
(いわゆる“ス”が入るという所見)

Fig2 図2:飛節OCD所見
(下記に示した馬は育成期間中を通して症状を示さず、
2歳7月に出走致しました)

Fig3 図3:大腿骨骨嚢胞のX線画像